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第25話 彼らの行動を阻止せよ
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ここはまず、先制攻撃だ。
私はふぅと息を大きく吸い込むと。
「きゃあぁぁ! ユーレー! 出たあぁっ!」
とびっきり大きく高い声で叫んでみせた。
すると。
「ぎゃあぁぁっ!?」
「うおぉぉっ!」
「ひっ……ぐ。ど、どこだ!?」
男のくせに情けない。私よりも大きく野太い悲鳴で返されて、本当の驚き声を上げかけてしまったではないか。
どきどき高鳴る鼓動を呼吸で整えると、薄暗さにも目が慣れてきた私は彼らを見る。
三人いるけれど、特に見覚えのある人たちではない。しかし、卒業パーティーまでこの事件が明るみには出なかったので、それを揉み消すことができるくらいエミリア嬢よりは位が上なのかもしれない。
……うん? となると、彼らは私の嫌がらせ(らしい)の数々に便乗しただけ? いや、そもそもなぜ彼らはエミリア嬢にそんな振る舞いをしたの? 物置場に偶然訪れた彼女にたまたま目をつけただけということ?
目の前の彼らに直接問うてみることは……とても危険だろう。
私は話を方向転換することにして、にっこりと笑ってみせた。
「あら。嫌だわ。何だ人だったのですか。はしたない声を上げて、申し訳ございませんでした」
元々暗い所にいたから目は慣れていた彼らは私を見て、少し狼狽しているようだ。
私が誰かを知っていて動揺しているのか、それともエミリア嬢ではなくて動揺しているのか。
「こんな所でおサボりの最中でしたか?」
未だに言葉に詰まっている彼らに私は話しかける。
すると彼らは困った様に顔を見合わせて、こそこそと話し始めた。
「どうする?」
「そりゃ、中止だろ」
「いや、でもこれは逆にチャンスだ。ここに――だけでも印象――」
そう広くはない物置場なので、彼らの会話がだいたい聞こえてくる。内緒話ならもう少し声を抑えた方がいいと思うのだけれど。
呆れながら彼らの会話に聞き耳を立てる。
標的は私ではなく、エミリア嬢だったようにも思えるけれど、最後の彼の言葉が気になる。誰に対して、何に対してチャンスなのだろう。少なくとも、私にとってはチャンスではないことは確かに違いない。
ただ、彼らにとって想定外のことだったはずだから、交渉の余地はあるかもしれない。すぐに襲ってくる様子ではない今、ここで彼らの行動を阻止しなくては。
私はパンパンと手を打った。
「お話し中、失礼いたします。皆様に急ぎお知らせしたいことがございますの」
主導権を私に取られそうになっている彼らはぎょっとしながら会話を止め、視線を向けてきた。
「わたくしたちは残念なことに、ここに閉じ込められてしまいました。困りましたわね。どういたしましょう?」
私が悩ましい声で言うと、リーダー格の男子生徒が気持ちを立て直したようで、にやっと笑って第一声を発する。
「別に俺たちは困らないぞ?」
それを皮切りに他の男子生徒も次々に言葉を口にした。
「そうそう!」
「その内、誰かここに来るだろうし」
私はため息を一つついてみせる。
「あなた方の言う通り、すぐにここに人はやって来るでしょう。けれど、わたくしはここにいるとまずいのですよ。仮に何も無くても、婚前の娘と男子生徒が密室の部屋にいるとなると世間体が悪いのです。ですから皆で協力して、ここから脱出いたしませんか?」
「さあ? 俺たち男だし、別に困らんよなあ?」
「ああ、困らないねー」
「困るのはアンタだけだろ」
彼らは私を誰か知っているのだろうか。確信した上での所業なのだろうか。
それによっては対応が変わってくるので、私は胸を張って宣言する。
「わたくしが誰かをご存知? わたくしはローレンス公爵家のヴィヴィアンナ・ローレンスですわ」
「ああ。よぉく存じておりますよ。――だから?」
男たちは怯みもせずに嫌味っぽくそう言って、にやにやと笑っている。
なるほど。私と知ってなお、何も動くつもりはないという話らしい。
私は思わずきゅっと唇を噛みしめた。
私はふぅと息を大きく吸い込むと。
「きゃあぁぁ! ユーレー! 出たあぁっ!」
とびっきり大きく高い声で叫んでみせた。
すると。
「ぎゃあぁぁっ!?」
「うおぉぉっ!」
「ひっ……ぐ。ど、どこだ!?」
男のくせに情けない。私よりも大きく野太い悲鳴で返されて、本当の驚き声を上げかけてしまったではないか。
どきどき高鳴る鼓動を呼吸で整えると、薄暗さにも目が慣れてきた私は彼らを見る。
三人いるけれど、特に見覚えのある人たちではない。しかし、卒業パーティーまでこの事件が明るみには出なかったので、それを揉み消すことができるくらいエミリア嬢よりは位が上なのかもしれない。
……うん? となると、彼らは私の嫌がらせ(らしい)の数々に便乗しただけ? いや、そもそもなぜ彼らはエミリア嬢にそんな振る舞いをしたの? 物置場に偶然訪れた彼女にたまたま目をつけただけということ?
目の前の彼らに直接問うてみることは……とても危険だろう。
私は話を方向転換することにして、にっこりと笑ってみせた。
「あら。嫌だわ。何だ人だったのですか。はしたない声を上げて、申し訳ございませんでした」
元々暗い所にいたから目は慣れていた彼らは私を見て、少し狼狽しているようだ。
私が誰かを知っていて動揺しているのか、それともエミリア嬢ではなくて動揺しているのか。
「こんな所でおサボりの最中でしたか?」
未だに言葉に詰まっている彼らに私は話しかける。
すると彼らは困った様に顔を見合わせて、こそこそと話し始めた。
「どうする?」
「そりゃ、中止だろ」
「いや、でもこれは逆にチャンスだ。ここに――だけでも印象――」
そう広くはない物置場なので、彼らの会話がだいたい聞こえてくる。内緒話ならもう少し声を抑えた方がいいと思うのだけれど。
呆れながら彼らの会話に聞き耳を立てる。
標的は私ではなく、エミリア嬢だったようにも思えるけれど、最後の彼の言葉が気になる。誰に対して、何に対してチャンスなのだろう。少なくとも、私にとってはチャンスではないことは確かに違いない。
ただ、彼らにとって想定外のことだったはずだから、交渉の余地はあるかもしれない。すぐに襲ってくる様子ではない今、ここで彼らの行動を阻止しなくては。
私はパンパンと手を打った。
「お話し中、失礼いたします。皆様に急ぎお知らせしたいことがございますの」
主導権を私に取られそうになっている彼らはぎょっとしながら会話を止め、視線を向けてきた。
「わたくしたちは残念なことに、ここに閉じ込められてしまいました。困りましたわね。どういたしましょう?」
私が悩ましい声で言うと、リーダー格の男子生徒が気持ちを立て直したようで、にやっと笑って第一声を発する。
「別に俺たちは困らないぞ?」
それを皮切りに他の男子生徒も次々に言葉を口にした。
「そうそう!」
「その内、誰かここに来るだろうし」
私はため息を一つついてみせる。
「あなた方の言う通り、すぐにここに人はやって来るでしょう。けれど、わたくしはここにいるとまずいのですよ。仮に何も無くても、婚前の娘と男子生徒が密室の部屋にいるとなると世間体が悪いのです。ですから皆で協力して、ここから脱出いたしませんか?」
「さあ? 俺たち男だし、別に困らんよなあ?」
「ああ、困らないねー」
「困るのはアンタだけだろ」
彼らは私を誰か知っているのだろうか。確信した上での所業なのだろうか。
それによっては対応が変わってくるので、私は胸を張って宣言する。
「わたくしが誰かをご存知? わたくしはローレンス公爵家のヴィヴィアンナ・ローレンスですわ」
「ああ。よぉく存じておりますよ。――だから?」
男たちは怯みもせずに嫌味っぽくそう言って、にやにやと笑っている。
なるほど。私と知ってなお、何も動くつもりはないという話らしい。
私は思わずきゅっと唇を噛みしめた。
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