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第24話 好奇心は猫を殺す
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あの出来事があってから、しばらくはエミリア嬢との接触は極力避けたいところだけれど、彼女の周りで起こる私からの(?)嫌がらせ行為は日々あるはずなので、陰ながら張り付くしかない。
本日は悪質にも程がある『男子生徒に襲われかけた』というものである。たとえ未遂だったとしても、嫁入り前の貴族令嬢としてはひどい醜聞になってしまう。
もっとも殿下にとっては、そんなものは取るに足らないものだったということなのだろうけれど。……いや。今、そんな事を考えている場合ではない。
私は頭を振った。
彼女は昼休み、裏庭の物置場から何かを取ってきてと、先生に頼まれているとの話だったはずだ。
つまり現場から離れさせることが重要となるわけだけれど、彼女をどうやってそこから追い払おう? 先生の頼まれ事で来ているわけだから、何らかの方法で(思いつかないけれども)妨害したところで、それを行わずして戻るとも思わないし。
でも、そうか。先生の言いつけね。
私は件の物置場に先回りして陰で待っていると、彼女がやって来て、中に入ろうとしていたまさにその時に声をかける。
「エミリア! ロバート先生がお呼びよー!」
「え? うーん。ロバート先生って誰だったかな」
私も知りません。適当に言っただけです。
彼女は足を止めると振り返り、首を傾げる様子が見えたので、私はさらに声を上げる。
「先生が急ぎお呼びよ!」
ロバート先生とは誰か結局分からなかったようだけれど、彼女は向きを変えると校舎の中へと走って行った。
よし! やれやれ。これで任務完了ね。
陰から出ると物置場の出入り口まで歩き、彼女の行く道を見守ると満足して腕を組んだ。
ロバート先生という架空の人物を探し回るのはとても大変だろうし、仮に存在したとしてもその先生が彼女を呼んだ事実は全く無い。
悪戯されたことに気付いた頃には昼休みも終わっているだろう。不快な気持ちにはなるかもしれないけれど、襲われるよりはずっといいはず。
彼女にはそれぐらいご了承いただくことにしよう。
それにしても、彼女はここに何を取りに来るように言われたのだろう。
振り返ると、中はわずかに上の方で光を差し込む窓があるだけで薄暗い。
興味本位で少し物置場を覗き込んだ瞬間。
――ドンッ!
力強く背中を押され、よろめきながら中に入ってしまったかと思うと、背後でバタンと扉が勢いよく閉まり、鍵が閉められる音がした。
う、嘘! 間違えられた! 後ろ姿だったから分からなかったんだ。
彼女と背丈も髪の色も似ている私はすぐに思いついた。
ちゃんと相手の顔を確認してからにしなさいよ!
思わず見当違いのことで憤ったけれど、すぐにはっと我に返った。
これはのんきに怒っている事態ではない。今、私は閉じ込められたのだ。それもかなりの悪意を持って。
血の気が引いた私は、拳を作って扉を力強く叩く。
「開けて! 誰か! 開けて! ここを開けて!」
仮に扉の前に私を閉じ込めた人間がいて、素直に開けてくれる可能性はほぼないだろう。それでも私は何度も叫んで叩いた。
しかし案の定、くすくすと女性の笑い声が聞こえてきただけで、開けようという気は毛頭ないらしい。当然と言えば、当然だろうけれど。
「――開けなさいよ!」
私は最後、悔し紛れに拳を一際大きく叩きつけると手を下ろした。
どうする。ここからどうやって脱出する!?
冷たい汗が流れる。
暗闇は少々いただけないにしろ、ただ閉じこめられたというだけでは、ここまでは狼狽えたりしない。遠からず、誰かによって開かれるのだから。けれど、ここは『エミリア嬢が男子生徒に襲われかけた』という現場なのだ。
話し合いで通じる相手か、あるいは……。
じりっと踏みしめる複数の音が背後から聞こえ、私は呼吸を繰り返して息を整えると振り返った。
本日は悪質にも程がある『男子生徒に襲われかけた』というものである。たとえ未遂だったとしても、嫁入り前の貴族令嬢としてはひどい醜聞になってしまう。
もっとも殿下にとっては、そんなものは取るに足らないものだったということなのだろうけれど。……いや。今、そんな事を考えている場合ではない。
私は頭を振った。
彼女は昼休み、裏庭の物置場から何かを取ってきてと、先生に頼まれているとの話だったはずだ。
つまり現場から離れさせることが重要となるわけだけれど、彼女をどうやってそこから追い払おう? 先生の頼まれ事で来ているわけだから、何らかの方法で(思いつかないけれども)妨害したところで、それを行わずして戻るとも思わないし。
でも、そうか。先生の言いつけね。
私は件の物置場に先回りして陰で待っていると、彼女がやって来て、中に入ろうとしていたまさにその時に声をかける。
「エミリア! ロバート先生がお呼びよー!」
「え? うーん。ロバート先生って誰だったかな」
私も知りません。適当に言っただけです。
彼女は足を止めると振り返り、首を傾げる様子が見えたので、私はさらに声を上げる。
「先生が急ぎお呼びよ!」
ロバート先生とは誰か結局分からなかったようだけれど、彼女は向きを変えると校舎の中へと走って行った。
よし! やれやれ。これで任務完了ね。
陰から出ると物置場の出入り口まで歩き、彼女の行く道を見守ると満足して腕を組んだ。
ロバート先生という架空の人物を探し回るのはとても大変だろうし、仮に存在したとしてもその先生が彼女を呼んだ事実は全く無い。
悪戯されたことに気付いた頃には昼休みも終わっているだろう。不快な気持ちにはなるかもしれないけれど、襲われるよりはずっといいはず。
彼女にはそれぐらいご了承いただくことにしよう。
それにしても、彼女はここに何を取りに来るように言われたのだろう。
振り返ると、中はわずかに上の方で光を差し込む窓があるだけで薄暗い。
興味本位で少し物置場を覗き込んだ瞬間。
――ドンッ!
力強く背中を押され、よろめきながら中に入ってしまったかと思うと、背後でバタンと扉が勢いよく閉まり、鍵が閉められる音がした。
う、嘘! 間違えられた! 後ろ姿だったから分からなかったんだ。
彼女と背丈も髪の色も似ている私はすぐに思いついた。
ちゃんと相手の顔を確認してからにしなさいよ!
思わず見当違いのことで憤ったけれど、すぐにはっと我に返った。
これはのんきに怒っている事態ではない。今、私は閉じ込められたのだ。それもかなりの悪意を持って。
血の気が引いた私は、拳を作って扉を力強く叩く。
「開けて! 誰か! 開けて! ここを開けて!」
仮に扉の前に私を閉じ込めた人間がいて、素直に開けてくれる可能性はほぼないだろう。それでも私は何度も叫んで叩いた。
しかし案の定、くすくすと女性の笑い声が聞こえてきただけで、開けようという気は毛頭ないらしい。当然と言えば、当然だろうけれど。
「――開けなさいよ!」
私は最後、悔し紛れに拳を一際大きく叩きつけると手を下ろした。
どうする。ここからどうやって脱出する!?
冷たい汗が流れる。
暗闇は少々いただけないにしろ、ただ閉じこめられたというだけでは、ここまでは狼狽えたりしない。遠からず、誰かによって開かれるのだから。けれど、ここは『エミリア嬢が男子生徒に襲われかけた』という現場なのだ。
話し合いで通じる相手か、あるいは……。
じりっと踏みしめる複数の音が背後から聞こえ、私は呼吸を繰り返して息を整えると振り返った。
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