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第21話 落ち着いた行動を心がけましょう
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「おはよう、ヴィヴィアンナ」
知った声が後ろからかけられて、私は足を止めて振り返った。
「おはようございます、殿下」
「おう――っておい! どうした! 目元にクマができて、より凶悪な顔になっているぞ!」
相変わらず失礼な男だ。
「ですから生まれつきの顔ですっ」
「……どうもすみませんでした」
つんと顔を背けて再び歩き出す私に殿下は苦笑いし、私を追うと肩を並べて歩く。
「どうした? 体調が悪いのか」
「いえ。昨夜、なかなか眠れなかったので」
これからどうやって、エミリア嬢への嫌がらせを阻止していくかを考えていたら、寝るのがすっかり遅くなった。けれど、そんな事を露知らないユーナに朝ですよ、起きてくださーいと笑顔で遠慮無く叩き起こされた私は今、ちょっぴり不機嫌だ。
「もしかして何か悩み事か?」
殿下は一歩足を進めると、心配そうに横から私の顔を覗き込んだ。
「――っ」
優しさなど。
優しさなどいらない。嬉しい事や楽しい日々が積み重なる程、反動でより辛くなるはずだから……。
強く唇を噛みしめた。
「殿下には関係ございません」
私が突き放したような言い方をすると、殿下は怒ると言うよりも、少し悲しげな表情を浮かべた。
何となく罪悪感を覚えたので、私は慌てて続けた。
「それよりも殿下は次の試験のことを考えられた方がよろしいのでは?」
「は?」
「わたくしを抑えられない万年二位のルイス殿下!」
「――っ!」
意地悪っぽく笑みを浮かべた私に殿下は今度こそ、むっとしたようだ。
これまでの人生、男性より前に出てはならず控えめにしなくてはと、わざと何カ所か間違えて二位を保ってきた。しかし、今世では我慢などしてやるものかと開き直ったため、現在までずっと一位を維持してきている。
「こ、今度の試験こそ負けないからな! 大差で勝ってやる!」
「あら。そのお言葉、後悔なさらないと良いのですが。まあ、楽しみにしておりますわ」
むきになって指さしてくる殿下に、私はふふんと鼻で笑ってみせた。
今日は、外での授業で皆が出払っている内に、エミリア嬢の教科書が破かれた事件が起こった日だ。
授業をさぼったら誰であれ、犯人として疑われるのは間違いないから、犯行は短い休み時間の間に行われたはず。
授業が終わったらすぐに駆けつけて阻止しなければ。
私は授業など耳に入らず、イライラとしながらひたすらその時を待つ。
――そして。
「それでは本日はここまで」
先生の最後の言葉までぎりぎり耐えると、私はがたりと音を鳴らして勢いよく席を立って飛び出した。
教室に残された先生や学生たちはびっくりしたかもしれないけれど、構ってはいられない。でも、もしトイレに駆け込んだのかもと思われたなら、それはそれで喜ばしい事だ。……いや。その時は、後でちょっとだけ泣こう。
やはりもう少し落ち着いて行動すれば良かった。変な噂を流されないといいのだけれど。確かに誰それを苛めたというよりは平和的な噂には違いないけれど、これは私の矜持の問題である。
少し鬱々たる気持ちを抱えながら廊下を駆け抜けていると、廊下の陰から男子生徒たちの声が聞こえてきた。
構わずにそのまま無視して走って行こうとすると。
「……い変だな、お前も。ローレンス公爵令嬢に脅されているんだろう?」
明らかに卑下た口調で自分の名前が出されるのを耳にして、思わず足を止めた。
知った声が後ろからかけられて、私は足を止めて振り返った。
「おはようございます、殿下」
「おう――っておい! どうした! 目元にクマができて、より凶悪な顔になっているぞ!」
相変わらず失礼な男だ。
「ですから生まれつきの顔ですっ」
「……どうもすみませんでした」
つんと顔を背けて再び歩き出す私に殿下は苦笑いし、私を追うと肩を並べて歩く。
「どうした? 体調が悪いのか」
「いえ。昨夜、なかなか眠れなかったので」
これからどうやって、エミリア嬢への嫌がらせを阻止していくかを考えていたら、寝るのがすっかり遅くなった。けれど、そんな事を露知らないユーナに朝ですよ、起きてくださーいと笑顔で遠慮無く叩き起こされた私は今、ちょっぴり不機嫌だ。
「もしかして何か悩み事か?」
殿下は一歩足を進めると、心配そうに横から私の顔を覗き込んだ。
「――っ」
優しさなど。
優しさなどいらない。嬉しい事や楽しい日々が積み重なる程、反動でより辛くなるはずだから……。
強く唇を噛みしめた。
「殿下には関係ございません」
私が突き放したような言い方をすると、殿下は怒ると言うよりも、少し悲しげな表情を浮かべた。
何となく罪悪感を覚えたので、私は慌てて続けた。
「それよりも殿下は次の試験のことを考えられた方がよろしいのでは?」
「は?」
「わたくしを抑えられない万年二位のルイス殿下!」
「――っ!」
意地悪っぽく笑みを浮かべた私に殿下は今度こそ、むっとしたようだ。
これまでの人生、男性より前に出てはならず控えめにしなくてはと、わざと何カ所か間違えて二位を保ってきた。しかし、今世では我慢などしてやるものかと開き直ったため、現在までずっと一位を維持してきている。
「こ、今度の試験こそ負けないからな! 大差で勝ってやる!」
「あら。そのお言葉、後悔なさらないと良いのですが。まあ、楽しみにしておりますわ」
むきになって指さしてくる殿下に、私はふふんと鼻で笑ってみせた。
今日は、外での授業で皆が出払っている内に、エミリア嬢の教科書が破かれた事件が起こった日だ。
授業をさぼったら誰であれ、犯人として疑われるのは間違いないから、犯行は短い休み時間の間に行われたはず。
授業が終わったらすぐに駆けつけて阻止しなければ。
私は授業など耳に入らず、イライラとしながらひたすらその時を待つ。
――そして。
「それでは本日はここまで」
先生の最後の言葉までぎりぎり耐えると、私はがたりと音を鳴らして勢いよく席を立って飛び出した。
教室に残された先生や学生たちはびっくりしたかもしれないけれど、構ってはいられない。でも、もしトイレに駆け込んだのかもと思われたなら、それはそれで喜ばしい事だ。……いや。その時は、後でちょっとだけ泣こう。
やはりもう少し落ち着いて行動すれば良かった。変な噂を流されないといいのだけれど。確かに誰それを苛めたというよりは平和的な噂には違いないけれど、これは私の矜持の問題である。
少し鬱々たる気持ちを抱えながら廊下を駆け抜けていると、廊下の陰から男子生徒たちの声が聞こえてきた。
構わずにそのまま無視して走って行こうとすると。
「……い変だな、お前も。ローレンス公爵令嬢に脅されているんだろう?」
明らかに卑下た口調で自分の名前が出されるのを耳にして、思わず足を止めた。
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