20 / 113
第20話 立派な悪女になるのなら
しおりを挟む
さて。
エミリア嬢に宣戦布告したのはいいのだけれど、これから何をすればいいのだろう。
この世界の悪役だとしても、ただ闇雲に嫌がらせをするのではなく、最後の最後まで一本気の通った気高い悪役でありたい。
「ああ。立派な悪女になりたい……」
「はい?」
ユーナが用意してくれたお茶を前に、ぽつりと呟いたはずの言葉は彼女の耳にもしっかり届いたようで一瞬眉をひそめたが、すぐに表情をぱっと明るくする。
ユーナの傾向と対策を心得ている私は瞬時に彼女を手で押しとどめた。
「あ。殿下の気を引くために悪女になりたいわけではないので、念のため」
「あら。違うのですか」
ほら、来た。やっぱり。
私は苦笑いしてお茶を一口頂くと、息を吐いた。
「ねえ。ユーナ。人に対する意地悪って、どんな事かしら」
「はい?」
「人に意地悪したいのだけれど、思いつかないの」
ユーナはぴんと来たようで、再び表情を明るくする。
はい。嫌な予感がする。
「もう。ヴィヴィアンナ様ってば! 今時、好きな人に意地悪するって流行りませんよ! もっと素直に真っ直ぐぶつかっていかなければ」
やっぱりそう来たか……。
「違うの。相手は殿下じゃないってば」
「そうですね。やはり相手の事を知ることがまず第一でしょうね。殿下の事をちゃんと知って、どこまでの意地悪は許されるか、見極めることが大切ですよ! 意地悪が過ぎると嫌われちゃいますからね」
私にはユーナの明後日思考の暴走を止める術は持たない。
私もまた再び苦笑いしそうになったが、ふとユーナの言葉に引っかかった。
「確かに相手の事をよく知るっていうのは必要よね」
「そうですよ! 相手の事をきちんと理解してあげれば、喜んでくれることも癇に障ることもちゃーんと分かりますから。わたくしはヴィヴィアンナ様の事ならば何でもよく存じておりますよ!」
「そうだったかしら? ……私の話、結構聞いていないよね」
誇らしげに胸を張る彼女にとりあえず突っ込んでおく。
「まあ、ともかく分かったわ。大事なのは相手を理解することね」
「そうですよ!」
頑張ってと発破を掛けてくるユーナに引きつった笑みを向けた後、目を伏せる。彼女はそんな私を気遣って、そっと出て行く気配を感じた。
確か、エミリア・コーラル嬢に対して私が行ったらしい嫌がらせで、『目の前で物を落として拾わせた』や『わざとぶつかって謝罪させた』、『教科書を破いた』などがあった。その他にも『男子生徒に指示して襲わせた』、『植木鉢を上から落とした』や『階段から突き落とした』なども。
前半は直接命の危険にまでは至らない嫌がらせの範囲に収まっているけれど、後半は本気でしゃれにならない。
いくら自分で実行した悪役令嬢として裁かれたいからと言って、前半は馬鹿馬鹿しくもできたとして、後半の犯罪にまで手を染めることなど断じてできない。だからそれ以外で。……以外で?
あ、ああぁっ!?
思わず漏らしそうな声を咄嗟に両手で口を塞ぐ。
幸い外には漏れなかったようで、ユーナが駆けつけてくることはないようだ。
けれどほっとしたのも束の間、大変な事態に気付いて頭を抱え込んでしまった。
私が嫌がろうが、無視しようが、それらは実際に起こる事。
つまり自分のせいにされるのが嫌ならば、それらを全て未然に防がなくてはいけないと言うことだ。
「うそおぉぉ……」
また走り回る日々が始まるのかと思うと、憂鬱のため息すら出てこず、私はソファーに力なく横たわった。
エミリア嬢に宣戦布告したのはいいのだけれど、これから何をすればいいのだろう。
この世界の悪役だとしても、ただ闇雲に嫌がらせをするのではなく、最後の最後まで一本気の通った気高い悪役でありたい。
「ああ。立派な悪女になりたい……」
「はい?」
ユーナが用意してくれたお茶を前に、ぽつりと呟いたはずの言葉は彼女の耳にもしっかり届いたようで一瞬眉をひそめたが、すぐに表情をぱっと明るくする。
ユーナの傾向と対策を心得ている私は瞬時に彼女を手で押しとどめた。
「あ。殿下の気を引くために悪女になりたいわけではないので、念のため」
「あら。違うのですか」
ほら、来た。やっぱり。
私は苦笑いしてお茶を一口頂くと、息を吐いた。
「ねえ。ユーナ。人に対する意地悪って、どんな事かしら」
「はい?」
「人に意地悪したいのだけれど、思いつかないの」
ユーナはぴんと来たようで、再び表情を明るくする。
はい。嫌な予感がする。
「もう。ヴィヴィアンナ様ってば! 今時、好きな人に意地悪するって流行りませんよ! もっと素直に真っ直ぐぶつかっていかなければ」
やっぱりそう来たか……。
「違うの。相手は殿下じゃないってば」
「そうですね。やはり相手の事を知ることがまず第一でしょうね。殿下の事をちゃんと知って、どこまでの意地悪は許されるか、見極めることが大切ですよ! 意地悪が過ぎると嫌われちゃいますからね」
私にはユーナの明後日思考の暴走を止める術は持たない。
私もまた再び苦笑いしそうになったが、ふとユーナの言葉に引っかかった。
「確かに相手の事をよく知るっていうのは必要よね」
「そうですよ! 相手の事をきちんと理解してあげれば、喜んでくれることも癇に障ることもちゃーんと分かりますから。わたくしはヴィヴィアンナ様の事ならば何でもよく存じておりますよ!」
「そうだったかしら? ……私の話、結構聞いていないよね」
誇らしげに胸を張る彼女にとりあえず突っ込んでおく。
「まあ、ともかく分かったわ。大事なのは相手を理解することね」
「そうですよ!」
頑張ってと発破を掛けてくるユーナに引きつった笑みを向けた後、目を伏せる。彼女はそんな私を気遣って、そっと出て行く気配を感じた。
確か、エミリア・コーラル嬢に対して私が行ったらしい嫌がらせで、『目の前で物を落として拾わせた』や『わざとぶつかって謝罪させた』、『教科書を破いた』などがあった。その他にも『男子生徒に指示して襲わせた』、『植木鉢を上から落とした』や『階段から突き落とした』なども。
前半は直接命の危険にまでは至らない嫌がらせの範囲に収まっているけれど、後半は本気でしゃれにならない。
いくら自分で実行した悪役令嬢として裁かれたいからと言って、前半は馬鹿馬鹿しくもできたとして、後半の犯罪にまで手を染めることなど断じてできない。だからそれ以外で。……以外で?
あ、ああぁっ!?
思わず漏らしそうな声を咄嗟に両手で口を塞ぐ。
幸い外には漏れなかったようで、ユーナが駆けつけてくることはないようだ。
けれどほっとしたのも束の間、大変な事態に気付いて頭を抱え込んでしまった。
私が嫌がろうが、無視しようが、それらは実際に起こる事。
つまり自分のせいにされるのが嫌ならば、それらを全て未然に防がなくてはいけないと言うことだ。
「うそおぉぉ……」
また走り回る日々が始まるのかと思うと、憂鬱のため息すら出てこず、私はソファーに力なく横たわった。
12
お気に入りに追加
582
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。


妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です>
【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】
今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜
言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。
しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。
それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。
「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」
破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。
気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。
「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。
「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」
学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス!
"悪役令嬢"、ここに爆誕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる