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第20話 立派な悪女になるのなら
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さて。
エミリア嬢に宣戦布告したのはいいのだけれど、これから何をすればいいのだろう。
この世界の悪役だとしても、ただ闇雲に嫌がらせをするのではなく、最後の最後まで一本気の通った気高い悪役でありたい。
「ああ。立派な悪女になりたい……」
「はい?」
ユーナが用意してくれたお茶を前に、ぽつりと呟いたはずの言葉は彼女の耳にもしっかり届いたようで一瞬眉をひそめたが、すぐに表情をぱっと明るくする。
ユーナの傾向と対策を心得ている私は瞬時に彼女を手で押しとどめた。
「あ。殿下の気を引くために悪女になりたいわけではないので、念のため」
「あら。違うのですか」
ほら、来た。やっぱり。
私は苦笑いしてお茶を一口頂くと、息を吐いた。
「ねえ。ユーナ。人に対する意地悪って、どんな事かしら」
「はい?」
「人に意地悪したいのだけれど、思いつかないの」
ユーナはぴんと来たようで、再び表情を明るくする。
はい。嫌な予感がする。
「もう。ヴィヴィアンナ様ってば! 今時、好きな人に意地悪するって流行りませんよ! もっと素直に真っ直ぐぶつかっていかなければ」
やっぱりそう来たか……。
「違うの。相手は殿下じゃないってば」
「そうですね。やはり相手の事を知ることがまず第一でしょうね。殿下の事をちゃんと知って、どこまでの意地悪は許されるか、見極めることが大切ですよ! 意地悪が過ぎると嫌われちゃいますからね」
私にはユーナの明後日思考の暴走を止める術は持たない。
私もまた再び苦笑いしそうになったが、ふとユーナの言葉に引っかかった。
「確かに相手の事をよく知るっていうのは必要よね」
「そうですよ! 相手の事をきちんと理解してあげれば、喜んでくれることも癇に障ることもちゃーんと分かりますから。わたくしはヴィヴィアンナ様の事ならば何でもよく存じておりますよ!」
「そうだったかしら? ……私の話、結構聞いていないよね」
誇らしげに胸を張る彼女にとりあえず突っ込んでおく。
「まあ、ともかく分かったわ。大事なのは相手を理解することね」
「そうですよ!」
頑張ってと発破を掛けてくるユーナに引きつった笑みを向けた後、目を伏せる。彼女はそんな私を気遣って、そっと出て行く気配を感じた。
確か、エミリア・コーラル嬢に対して私が行ったらしい嫌がらせで、『目の前で物を落として拾わせた』や『わざとぶつかって謝罪させた』、『教科書を破いた』などがあった。その他にも『男子生徒に指示して襲わせた』、『植木鉢を上から落とした』や『階段から突き落とした』なども。
前半は直接命の危険にまでは至らない嫌がらせの範囲に収まっているけれど、後半は本気でしゃれにならない。
いくら自分で実行した悪役令嬢として裁かれたいからと言って、前半は馬鹿馬鹿しくもできたとして、後半の犯罪にまで手を染めることなど断じてできない。だからそれ以外で。……以外で?
あ、ああぁっ!?
思わず漏らしそうな声を咄嗟に両手で口を塞ぐ。
幸い外には漏れなかったようで、ユーナが駆けつけてくることはないようだ。
けれどほっとしたのも束の間、大変な事態に気付いて頭を抱え込んでしまった。
私が嫌がろうが、無視しようが、それらは実際に起こる事。
つまり自分のせいにされるのが嫌ならば、それらを全て未然に防がなくてはいけないと言うことだ。
「うそおぉぉ……」
また走り回る日々が始まるのかと思うと、憂鬱のため息すら出てこず、私はソファーに力なく横たわった。
エミリア嬢に宣戦布告したのはいいのだけれど、これから何をすればいいのだろう。
この世界の悪役だとしても、ただ闇雲に嫌がらせをするのではなく、最後の最後まで一本気の通った気高い悪役でありたい。
「ああ。立派な悪女になりたい……」
「はい?」
ユーナが用意してくれたお茶を前に、ぽつりと呟いたはずの言葉は彼女の耳にもしっかり届いたようで一瞬眉をひそめたが、すぐに表情をぱっと明るくする。
ユーナの傾向と対策を心得ている私は瞬時に彼女を手で押しとどめた。
「あ。殿下の気を引くために悪女になりたいわけではないので、念のため」
「あら。違うのですか」
ほら、来た。やっぱり。
私は苦笑いしてお茶を一口頂くと、息を吐いた。
「ねえ。ユーナ。人に対する意地悪って、どんな事かしら」
「はい?」
「人に意地悪したいのだけれど、思いつかないの」
ユーナはぴんと来たようで、再び表情を明るくする。
はい。嫌な予感がする。
「もう。ヴィヴィアンナ様ってば! 今時、好きな人に意地悪するって流行りませんよ! もっと素直に真っ直ぐぶつかっていかなければ」
やっぱりそう来たか……。
「違うの。相手は殿下じゃないってば」
「そうですね。やはり相手の事を知ることがまず第一でしょうね。殿下の事をちゃんと知って、どこまでの意地悪は許されるか、見極めることが大切ですよ! 意地悪が過ぎると嫌われちゃいますからね」
私にはユーナの明後日思考の暴走を止める術は持たない。
私もまた再び苦笑いしそうになったが、ふとユーナの言葉に引っかかった。
「確かに相手の事をよく知るっていうのは必要よね」
「そうですよ! 相手の事をきちんと理解してあげれば、喜んでくれることも癇に障ることもちゃーんと分かりますから。わたくしはヴィヴィアンナ様の事ならば何でもよく存じておりますよ!」
「そうだったかしら? ……私の話、結構聞いていないよね」
誇らしげに胸を張る彼女にとりあえず突っ込んでおく。
「まあ、ともかく分かったわ。大事なのは相手を理解することね」
「そうですよ!」
頑張ってと発破を掛けてくるユーナに引きつった笑みを向けた後、目を伏せる。彼女はそんな私を気遣って、そっと出て行く気配を感じた。
確か、エミリア・コーラル嬢に対して私が行ったらしい嫌がらせで、『目の前で物を落として拾わせた』や『わざとぶつかって謝罪させた』、『教科書を破いた』などがあった。その他にも『男子生徒に指示して襲わせた』、『植木鉢を上から落とした』や『階段から突き落とした』なども。
前半は直接命の危険にまでは至らない嫌がらせの範囲に収まっているけれど、後半は本気でしゃれにならない。
いくら自分で実行した悪役令嬢として裁かれたいからと言って、前半は馬鹿馬鹿しくもできたとして、後半の犯罪にまで手を染めることなど断じてできない。だからそれ以外で。……以外で?
あ、ああぁっ!?
思わず漏らしそうな声を咄嗟に両手で口を塞ぐ。
幸い外には漏れなかったようで、ユーナが駆けつけてくることはないようだ。
けれどほっとしたのも束の間、大変な事態に気付いて頭を抱え込んでしまった。
私が嫌がろうが、無視しようが、それらは実際に起こる事。
つまり自分のせいにされるのが嫌ならば、それらを全て未然に防がなくてはいけないと言うことだ。
「うそおぉぉ……」
また走り回る日々が始まるのかと思うと、憂鬱のため息すら出てこず、私はソファーに力なく横たわった。
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