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第10話 お父様からの呼び出し
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……と。
しっかり泣きはらしたところで次に立ち向かうべき敵は――お父様だ。
お母様は事の次第を知って、ショックで倒れ、寝込んでいるとアイラから聞かされた。
ごめんなさい、お母様。
でも全く後悔はしていませんので、とりあえず心の中だけは謝っておきます。
一方、お父様は殿下が住まう当の王宮からそろそろ帰ってくる頃で、事態は既に把握しているだろう。
どんなお咎めが来るか……こちらは正直、戦々恐々である。もしかしたらここでこの度の人生は終了かもしれない。だとしても後悔はない(二度目)。
それでも小さく震え、いや、武者震いしていると。
「ヴィヴィヴィヴィアンナ様あぁ! だ、だ大丈夫ですわ。わた、わたくしがお守りいたしますじゃらっ」
私以上に顔色青く、がたがた震えて手を強く握りしめてくるユーナが、噛みっかみで言ってくれた。
それにしても、ヴィを何回言えば気が済むのだ。
しかしそんなユーナを見ていると不思議と笑いがこみ上げてきて、心が落ち着いて来た。
「大丈夫よ」
自分の言動に責任は持つ。そう決めたのだから。それに今からそうじゃなければ、破滅の際にも覚悟ができないもの。
私は笑顔を作ってみせるが、ユーナは今にも泣き出さんばかりだ。
すると。
コンコンッ。
扉が叩かれると、ユーナはひぃぃっと飛び上がった。
……ユーナが裁かれるわけではなかろうに驚きすぎだ。とりあえず落ち着けと。
「はい、どうぞ」
しっかりした声で返事すると、アイラが失礼いたしますと言って入ってきた。
「お嬢様、旦那様がお呼びでございます」
「分かりましたわ」
遂に来たか。
既に覚悟を決めていた私は彼女に続いて歩きだそうとすると、ユーナが私の腕を取った。
「わ、わたくも、わくたしも参りまっ」
ろれつが回らず、腰は完全に引けているのに、腕だけはしっかり掴んでいる。
ありがとう。あなたの気持ちはとっても分かった。
そんなユーナに苦笑していると、アイラが彼女に視線を移した。
「ユーナ。あなたはここにいなさい」
「で、ですが!」
「旦那様はヴィヴィアンナ様お一人をお呼びになったのよ。付いてきては駄目。あなたはここで待機しておきなさい」
「で、ですがぁ」
なおも行かせまいと、縋ってくる彼女の腕に私はそっと手をかける。
「ユーナ。ありがとう。あなたの思いやりを頂いたから勇気が出たわ。行ってくるわね。戻って来たらお茶を飲みたいから用意しておいてちょうだい」
「ヴィヴィアンナ様。……はい、承知いたしました」
私は安心させるように笑顔で頷くと今度は振り返らず、先導するアイラに続いた。
「旦那様、お嬢様をお連れいたしました」
アイラが外から声をかけると、厳しい顔をしたお父様が扉からすぐさま顔を覗かせた。
「アイラ、ありがとう。もう下がっていい」
「はい。かしこまりました」
一瞬だけ心配そうに私を見たが、笑みを向けると彼女はそれに応えるように小さく頷いてそのまま身を下げた。
「ヴィヴィアンナ、入りなさい」
「……はい」
こくん。
緊張の息を呑み込み、部屋へと足を踏み入れる。するとすぐにソファーに座るように促されたので、私は恐る恐る身を沈めた。
目の前に座ったお父様は一度だけため息をつき、手を組むとそこに額を任せて表情を隠す。
「ここに呼ばれた理由は分かっているね」
「……はい」
「そうか」
お父様はそう言ったきり、黙り込む。
一向に話を切り出さないで静かな空間にただ座らされることは、これから与えられるであろう罰の重さを感じさせられる。
何が下されようと自分のしたことは自分が責任を取る。それしかない。私は半ば目を伏せてその時を待った。
やがてお父様は怒りのために前で組んだ手にぐっと力を入れると、かすかに声を漏らして身を震わせた。
しっかり泣きはらしたところで次に立ち向かうべき敵は――お父様だ。
お母様は事の次第を知って、ショックで倒れ、寝込んでいるとアイラから聞かされた。
ごめんなさい、お母様。
でも全く後悔はしていませんので、とりあえず心の中だけは謝っておきます。
一方、お父様は殿下が住まう当の王宮からそろそろ帰ってくる頃で、事態は既に把握しているだろう。
どんなお咎めが来るか……こちらは正直、戦々恐々である。もしかしたらここでこの度の人生は終了かもしれない。だとしても後悔はない(二度目)。
それでも小さく震え、いや、武者震いしていると。
「ヴィヴィヴィヴィアンナ様あぁ! だ、だ大丈夫ですわ。わた、わたくしがお守りいたしますじゃらっ」
私以上に顔色青く、がたがた震えて手を強く握りしめてくるユーナが、噛みっかみで言ってくれた。
それにしても、ヴィを何回言えば気が済むのだ。
しかしそんなユーナを見ていると不思議と笑いがこみ上げてきて、心が落ち着いて来た。
「大丈夫よ」
自分の言動に責任は持つ。そう決めたのだから。それに今からそうじゃなければ、破滅の際にも覚悟ができないもの。
私は笑顔を作ってみせるが、ユーナは今にも泣き出さんばかりだ。
すると。
コンコンッ。
扉が叩かれると、ユーナはひぃぃっと飛び上がった。
……ユーナが裁かれるわけではなかろうに驚きすぎだ。とりあえず落ち着けと。
「はい、どうぞ」
しっかりした声で返事すると、アイラが失礼いたしますと言って入ってきた。
「お嬢様、旦那様がお呼びでございます」
「分かりましたわ」
遂に来たか。
既に覚悟を決めていた私は彼女に続いて歩きだそうとすると、ユーナが私の腕を取った。
「わ、わたくも、わくたしも参りまっ」
ろれつが回らず、腰は完全に引けているのに、腕だけはしっかり掴んでいる。
ありがとう。あなたの気持ちはとっても分かった。
そんなユーナに苦笑していると、アイラが彼女に視線を移した。
「ユーナ。あなたはここにいなさい」
「で、ですが!」
「旦那様はヴィヴィアンナ様お一人をお呼びになったのよ。付いてきては駄目。あなたはここで待機しておきなさい」
「で、ですがぁ」
なおも行かせまいと、縋ってくる彼女の腕に私はそっと手をかける。
「ユーナ。ありがとう。あなたの思いやりを頂いたから勇気が出たわ。行ってくるわね。戻って来たらお茶を飲みたいから用意しておいてちょうだい」
「ヴィヴィアンナ様。……はい、承知いたしました」
私は安心させるように笑顔で頷くと今度は振り返らず、先導するアイラに続いた。
「旦那様、お嬢様をお連れいたしました」
アイラが外から声をかけると、厳しい顔をしたお父様が扉からすぐさま顔を覗かせた。
「アイラ、ありがとう。もう下がっていい」
「はい。かしこまりました」
一瞬だけ心配そうに私を見たが、笑みを向けると彼女はそれに応えるように小さく頷いてそのまま身を下げた。
「ヴィヴィアンナ、入りなさい」
「……はい」
こくん。
緊張の息を呑み込み、部屋へと足を踏み入れる。するとすぐにソファーに座るように促されたので、私は恐る恐る身を沈めた。
目の前に座ったお父様は一度だけため息をつき、手を組むとそこに額を任せて表情を隠す。
「ここに呼ばれた理由は分かっているね」
「……はい」
「そうか」
お父様はそう言ったきり、黙り込む。
一向に話を切り出さないで静かな空間にただ座らされることは、これから与えられるであろう罰の重さを感じさせられる。
何が下されようと自分のしたことは自分が責任を取る。それしかない。私は半ば目を伏せてその時を待った。
やがてお父様は怒りのために前で組んだ手にぐっと力を入れると、かすかに声を漏らして身を震わせた。
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