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第8話 殿下とお茶会
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時間引き延ばし作戦は失敗し、さらに印象悪化作戦は……。
ちらりと二人を伺うと。
「お綺麗ですわ、ヴィヴィアンナ様!」
「ええ。とてもお似合いですわ。さすがヴィヴィアンナ様がお願いされただけありますね」
二人とも満足そうに笑顔を浮かべているところを見ると、失敗しているようである。
「……ありがとう」
がっかりしながらも、私はひとまずお礼を言った。
「そろそろ殿下もお見えになる頃ですね。それでは参りましょうか」
「えっと。もうちょ――」
「ええ。参りましょう」
私はアイラとユーナにがっちり挟まれて、有無を言わせず連行されていった。
私がお庭に連行されて程なくして、そもそもの諸悪の根源殿下がやって来た。
茶色系統の金髪で瞳は榛色の少年で、見た目は美しいが、不機嫌そうな態度からやんちゃ感がにじみ出ている。
そうそう。成長していくにつれ、金髪が薄れて茶色が強くなっていたが、幼い頃は金髪の色の方が強かった。太陽に透けると綺麗だった。……まあ、今まさにその時なのだけれど。
「ルイス王太子殿下、本日はようこそお越しくださ――」
「挨拶はいい」
こちらが礼儀に則って挨拶しようとするのに、彼は不遜な態度で席に座るや否や、テーブルに片肘を突き、そっぽを向いた。
この光景も何度見ただろう。これまでの私は殿下のご機嫌を取ろうと懸命に話しかけていたが、今回の私は違う。そちらがその態度なら、こちらも勝手にさせてもらう。
料理長が作ってくれたクッキーは殿下の元に、ユーナと一緒に私が作ったクッキーは自分の元に置いてあったのでそれを取ると、無言で食べ始めた。
色形は多少不格好でも味はまあ……うん。多くは語るまい。
ただ、ユーナはこう見えて料理得意なんですよと胸を張ると、不器用な手つきで一生懸命作っていたが、料理よりも髪結い師としての腕を磨く方がきっといい。
うーん。深い味わい。
大人のほろ苦さというものを一人堪能していると、不意に声を掛けられた。
「おい」
私や殿下の侍従や侍女は離れて見守ってはいるが、まず声の出所は目の前の殿下だろう。
仕方なく私は彼に視線を向けた。
「はい。殿下。何でございましょう」
「さっきから何一人食っているんだ。何か喋れよ」
「失礼いたしました。殿下はそっぽを向いておいででしたので、お話ししたい気分ではないのかと思っておりました」
笑顔でそう返すと、殿下はちっと舌打ちした。
これまでの私は凄いと思う。現在の私は今にも笑顔の仮面が剥がれ落ちそうだ。
私は思わず口元に手をやって仮面をしっかりと装着し直した。
「良い季節になりましたね。近くにとても素敵なお花畑がありますの。よろしければご案内いたしますが、ご興味はございますか?」
「別に」
そうでしょうね。言ってみただけです。本気で誘う気はありません。
「近頃、わたくしの元に野鳥がやって来るようになりまして、それが毎日の楽しみなのですの。殿下は最近、何か楽しい事はございましたか?」
「別に」
「……今、刺繍を習っているのですが、段々と上達してきて先生に褒められました。殿下は何か上達したものはございますか?」
「別に」
「そう言えば、わたく――」
「別に」
最後は私が言う前に遮った。
まったく取りつく島も無い。
私が心の中でため息をついていると、殿下は心底嫌そうにため息をついてみせた。
「つまらない女だな」
そのお言葉、そっくりそのままお返しします。
私は黙ってカップを手に取ると、紅茶と共に言葉を喉に無理矢理流し込む。そして心を落ち着けると、にっこりと笑みを浮かべてみせた。
「よろしければ殿下もクッキーをお召し上がりください。恐れながら、うちの料理長は王家と匹敵する程の腕前ですのよ」
私が殿下の前にあるクッキーを勧めるが、殿下はなぜか私の方のクッキーに興味を移した。
「……お前のそっちの黒いやつは」
「あ! こ、こちらはいけません」
思わずお皿を引いてしまった。
それが気に食わなかったのか、殿下は手を伸ばしてクッキーを一枚をさらっていった。
「あ! お待ちくだ――」
あっと言う間のことで、止めるもなく、殿下が一口。サクッとはならず。
ザクッ!
と音を立てた。
「何だこれは!」
ぺっぺと吐き出した。
だから今、止めようとしたのに。
「説明しろ!」
高圧的な声で怒鳴られて一瞬怯んだが、説明せざるを得ず、口を開いた。
「わ、わたくしと侍女で作りましたもので、少し失――」
「はっ! お前が!? 毒でも入れたか!」
そう言ってまだ手に持っていた残りのクッキーを忌々しそうに地面に叩きつけると、それを踏みにじった。
ちらりと二人を伺うと。
「お綺麗ですわ、ヴィヴィアンナ様!」
「ええ。とてもお似合いですわ。さすがヴィヴィアンナ様がお願いされただけありますね」
二人とも満足そうに笑顔を浮かべているところを見ると、失敗しているようである。
「……ありがとう」
がっかりしながらも、私はひとまずお礼を言った。
「そろそろ殿下もお見えになる頃ですね。それでは参りましょうか」
「えっと。もうちょ――」
「ええ。参りましょう」
私はアイラとユーナにがっちり挟まれて、有無を言わせず連行されていった。
私がお庭に連行されて程なくして、そもそもの諸悪の根源殿下がやって来た。
茶色系統の金髪で瞳は榛色の少年で、見た目は美しいが、不機嫌そうな態度からやんちゃ感がにじみ出ている。
そうそう。成長していくにつれ、金髪が薄れて茶色が強くなっていたが、幼い頃は金髪の色の方が強かった。太陽に透けると綺麗だった。……まあ、今まさにその時なのだけれど。
「ルイス王太子殿下、本日はようこそお越しくださ――」
「挨拶はいい」
こちらが礼儀に則って挨拶しようとするのに、彼は不遜な態度で席に座るや否や、テーブルに片肘を突き、そっぽを向いた。
この光景も何度見ただろう。これまでの私は殿下のご機嫌を取ろうと懸命に話しかけていたが、今回の私は違う。そちらがその態度なら、こちらも勝手にさせてもらう。
料理長が作ってくれたクッキーは殿下の元に、ユーナと一緒に私が作ったクッキーは自分の元に置いてあったのでそれを取ると、無言で食べ始めた。
色形は多少不格好でも味はまあ……うん。多くは語るまい。
ただ、ユーナはこう見えて料理得意なんですよと胸を張ると、不器用な手つきで一生懸命作っていたが、料理よりも髪結い師としての腕を磨く方がきっといい。
うーん。深い味わい。
大人のほろ苦さというものを一人堪能していると、不意に声を掛けられた。
「おい」
私や殿下の侍従や侍女は離れて見守ってはいるが、まず声の出所は目の前の殿下だろう。
仕方なく私は彼に視線を向けた。
「はい。殿下。何でございましょう」
「さっきから何一人食っているんだ。何か喋れよ」
「失礼いたしました。殿下はそっぽを向いておいででしたので、お話ししたい気分ではないのかと思っておりました」
笑顔でそう返すと、殿下はちっと舌打ちした。
これまでの私は凄いと思う。現在の私は今にも笑顔の仮面が剥がれ落ちそうだ。
私は思わず口元に手をやって仮面をしっかりと装着し直した。
「良い季節になりましたね。近くにとても素敵なお花畑がありますの。よろしければご案内いたしますが、ご興味はございますか?」
「別に」
そうでしょうね。言ってみただけです。本気で誘う気はありません。
「近頃、わたくしの元に野鳥がやって来るようになりまして、それが毎日の楽しみなのですの。殿下は最近、何か楽しい事はございましたか?」
「別に」
「……今、刺繍を習っているのですが、段々と上達してきて先生に褒められました。殿下は何か上達したものはございますか?」
「別に」
「そう言えば、わたく――」
「別に」
最後は私が言う前に遮った。
まったく取りつく島も無い。
私が心の中でため息をついていると、殿下は心底嫌そうにため息をついてみせた。
「つまらない女だな」
そのお言葉、そっくりそのままお返しします。
私は黙ってカップを手に取ると、紅茶と共に言葉を喉に無理矢理流し込む。そして心を落ち着けると、にっこりと笑みを浮かべてみせた。
「よろしければ殿下もクッキーをお召し上がりください。恐れながら、うちの料理長は王家と匹敵する程の腕前ですのよ」
私が殿下の前にあるクッキーを勧めるが、殿下はなぜか私の方のクッキーに興味を移した。
「……お前のそっちの黒いやつは」
「あ! こ、こちらはいけません」
思わずお皿を引いてしまった。
それが気に食わなかったのか、殿下は手を伸ばしてクッキーを一枚をさらっていった。
「あ! お待ちくだ――」
あっと言う間のことで、止めるもなく、殿下が一口。サクッとはならず。
ザクッ!
と音を立てた。
「何だこれは!」
ぺっぺと吐き出した。
だから今、止めようとしたのに。
「説明しろ!」
高圧的な声で怒鳴られて一瞬怯んだが、説明せざるを得ず、口を開いた。
「わ、わたくしと侍女で作りましたもので、少し失――」
「はっ! お前が!? 毒でも入れたか!」
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