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第5話 作戦大成功!
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ぽかぽかと暖かい日差しが庭を穏やかに照らすある日の午後のこと。
悪役令嬢に徹するために努力しているが、これまで今一つ成功している気がしない。これからどんな行動をするべきかを腕を組んで熟考していたら、穏やかな暖かさも手伝って、ソファーでいつの間にかうたた寝していたらしい。
部屋の扉がノックされ、侍女がお茶をお持ちしましたと部屋に入ってきたことで、ふと意識が戻った。
眠気まなこのままで何気なく侍女に視線を送ると、彼女はびくっと肩を震わせた。
ただでさえ目つきが悪いのに、余計に人相が悪くなっていたかもしれない。
そこまで考えると、頭が急激に冴えてきて、くわっと目を見開いた。
この侍女は確か入ったばかりの見習い侍女で、名はユーナ。緑の瞳に、茶色の髪を一つのお下げにしている。下級貴族とあって所作に品こそあるが、まだまだ慣れぬ環境のせいか、どうにも肩身が狭そうで自信なさげな様子だ。
礼儀作法にうるさい、もとい厳しいお母様につけるよりは、まず何も言わないであろう私につけた方がいいと考えたのかもしれない。
なるほど。しかし私にこの侍女をつけた人には悪いが、これを利用しない手はない。
ベテランの侍女長なら私が多少の意地悪をしたところで笑って軽くいなし、柔軟に対応されてしまうが、新人ならきっと困るだろう。
今、ここで畳みかけるように相手が困る厄介な言動をすれば、怖い嫌な娘と印象づけられる。この絶好の機会を逃してはならない。
……さて。それはそうと彼女に一体何をして困らせようか。
侍女を黙って見ながら考えていると、私の視線を感じた彼女が怯えた様子で申し訳ございません、すぐにご用意いたしますと身をすくめた。
うん。なかなかの好感触!
ただ見続けているだけでも効果があることに満足していたが、ふと一つの考えを思いついた。
実は、私は猫舌だったりする。いつもは何も言わず我慢していたけれど、ここで冷ましてちょうだいと偉そうに言ってみてはどうだろう。
我ながら良い考えだと思い、私は口を開いた。
「あなた」
「は、はい! ただいま!」
私が声をかけると侍女は弾かれたようにこちらを見た。
「それ、冷ましてから持ってきてくれないかしら」
あ。しまった。持ってきてちょうだい! と叩きつけるように偉そうに言わなきゃいけなかった。
「は、はい?」
しくじって一瞬唇を噛みしめそうになったが、チャンスはもう一度私に与えられた。侍女が身をより小さくして、下からの目線で恐る恐るこちらを伺ってくれたからだ。
私は気を取り直して、不機嫌だぞの態度を見せるために、顎をくいっと上げ、とりわけ眉をひそめながら言った。
「だからお茶を冷ましてちょうだいと言っているの!」
「は、はい! かしこまりました!」
今度は彼女を威圧できるくらい上手く言えたようだ。彼女はびしりと背筋を直立させながら答えた。
この様子だと、私が特別動かなくても何かしでかしてくれそうだ。
案の定、私が彼女の一挙一動をひたすら見守り続けると緊張のあまりか、手の震えによってテーブルに置くはずのカップの中身を見事なまでに私の服にぶちまけてくれた。
どうもありがとうございます!
満面の笑顔で叫びたいのを我慢して私は声高らかに叱責した。
「何て事をしてくれるの!」
悪役令嬢に徹するために努力しているが、これまで今一つ成功している気がしない。これからどんな行動をするべきかを腕を組んで熟考していたら、穏やかな暖かさも手伝って、ソファーでいつの間にかうたた寝していたらしい。
部屋の扉がノックされ、侍女がお茶をお持ちしましたと部屋に入ってきたことで、ふと意識が戻った。
眠気まなこのままで何気なく侍女に視線を送ると、彼女はびくっと肩を震わせた。
ただでさえ目つきが悪いのに、余計に人相が悪くなっていたかもしれない。
そこまで考えると、頭が急激に冴えてきて、くわっと目を見開いた。
この侍女は確か入ったばかりの見習い侍女で、名はユーナ。緑の瞳に、茶色の髪を一つのお下げにしている。下級貴族とあって所作に品こそあるが、まだまだ慣れぬ環境のせいか、どうにも肩身が狭そうで自信なさげな様子だ。
礼儀作法にうるさい、もとい厳しいお母様につけるよりは、まず何も言わないであろう私につけた方がいいと考えたのかもしれない。
なるほど。しかし私にこの侍女をつけた人には悪いが、これを利用しない手はない。
ベテランの侍女長なら私が多少の意地悪をしたところで笑って軽くいなし、柔軟に対応されてしまうが、新人ならきっと困るだろう。
今、ここで畳みかけるように相手が困る厄介な言動をすれば、怖い嫌な娘と印象づけられる。この絶好の機会を逃してはならない。
……さて。それはそうと彼女に一体何をして困らせようか。
侍女を黙って見ながら考えていると、私の視線を感じた彼女が怯えた様子で申し訳ございません、すぐにご用意いたしますと身をすくめた。
うん。なかなかの好感触!
ただ見続けているだけでも効果があることに満足していたが、ふと一つの考えを思いついた。
実は、私は猫舌だったりする。いつもは何も言わず我慢していたけれど、ここで冷ましてちょうだいと偉そうに言ってみてはどうだろう。
我ながら良い考えだと思い、私は口を開いた。
「あなた」
「は、はい! ただいま!」
私が声をかけると侍女は弾かれたようにこちらを見た。
「それ、冷ましてから持ってきてくれないかしら」
あ。しまった。持ってきてちょうだい! と叩きつけるように偉そうに言わなきゃいけなかった。
「は、はい?」
しくじって一瞬唇を噛みしめそうになったが、チャンスはもう一度私に与えられた。侍女が身をより小さくして、下からの目線で恐る恐るこちらを伺ってくれたからだ。
私は気を取り直して、不機嫌だぞの態度を見せるために、顎をくいっと上げ、とりわけ眉をひそめながら言った。
「だからお茶を冷ましてちょうだいと言っているの!」
「は、はい! かしこまりました!」
今度は彼女を威圧できるくらい上手く言えたようだ。彼女はびしりと背筋を直立させながら答えた。
この様子だと、私が特別動かなくても何かしでかしてくれそうだ。
案の定、私が彼女の一挙一動をひたすら見守り続けると緊張のあまりか、手の震えによってテーブルに置くはずのカップの中身を見事なまでに私の服にぶちまけてくれた。
どうもありがとうございます!
満面の笑顔で叫びたいのを我慢して私は声高らかに叱責した。
「何て事をしてくれるの!」
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