5 / 113
第5話 作戦大成功!
しおりを挟む
ぽかぽかと暖かい日差しが庭を穏やかに照らすある日の午後のこと。
悪役令嬢に徹するために努力しているが、これまで今一つ成功している気がしない。これからどんな行動をするべきかを腕を組んで熟考していたら、穏やかな暖かさも手伝って、ソファーでいつの間にかうたた寝していたらしい。
部屋の扉がノックされ、侍女がお茶をお持ちしましたと部屋に入ってきたことで、ふと意識が戻った。
眠気まなこのままで何気なく侍女に視線を送ると、彼女はびくっと肩を震わせた。
ただでさえ目つきが悪いのに、余計に人相が悪くなっていたかもしれない。
そこまで考えると、頭が急激に冴えてきて、くわっと目を見開いた。
この侍女は確か入ったばかりの見習い侍女で、名はユーナ。緑の瞳に、茶色の髪を一つのお下げにしている。下級貴族とあって所作に品こそあるが、まだまだ慣れぬ環境のせいか、どうにも肩身が狭そうで自信なさげな様子だ。
礼儀作法にうるさい、もとい厳しいお母様につけるよりは、まず何も言わないであろう私につけた方がいいと考えたのかもしれない。
なるほど。しかし私にこの侍女をつけた人には悪いが、これを利用しない手はない。
ベテランの侍女長なら私が多少の意地悪をしたところで笑って軽くいなし、柔軟に対応されてしまうが、新人ならきっと困るだろう。
今、ここで畳みかけるように相手が困る厄介な言動をすれば、怖い嫌な娘と印象づけられる。この絶好の機会を逃してはならない。
……さて。それはそうと彼女に一体何をして困らせようか。
侍女を黙って見ながら考えていると、私の視線を感じた彼女が怯えた様子で申し訳ございません、すぐにご用意いたしますと身をすくめた。
うん。なかなかの好感触!
ただ見続けているだけでも効果があることに満足していたが、ふと一つの考えを思いついた。
実は、私は猫舌だったりする。いつもは何も言わず我慢していたけれど、ここで冷ましてちょうだいと偉そうに言ってみてはどうだろう。
我ながら良い考えだと思い、私は口を開いた。
「あなた」
「は、はい! ただいま!」
私が声をかけると侍女は弾かれたようにこちらを見た。
「それ、冷ましてから持ってきてくれないかしら」
あ。しまった。持ってきてちょうだい! と叩きつけるように偉そうに言わなきゃいけなかった。
「は、はい?」
しくじって一瞬唇を噛みしめそうになったが、チャンスはもう一度私に与えられた。侍女が身をより小さくして、下からの目線で恐る恐るこちらを伺ってくれたからだ。
私は気を取り直して、不機嫌だぞの態度を見せるために、顎をくいっと上げ、とりわけ眉をひそめながら言った。
「だからお茶を冷ましてちょうだいと言っているの!」
「は、はい! かしこまりました!」
今度は彼女を威圧できるくらい上手く言えたようだ。彼女はびしりと背筋を直立させながら答えた。
この様子だと、私が特別動かなくても何かしでかしてくれそうだ。
案の定、私が彼女の一挙一動をひたすら見守り続けると緊張のあまりか、手の震えによってテーブルに置くはずのカップの中身を見事なまでに私の服にぶちまけてくれた。
どうもありがとうございます!
満面の笑顔で叫びたいのを我慢して私は声高らかに叱責した。
「何て事をしてくれるの!」
悪役令嬢に徹するために努力しているが、これまで今一つ成功している気がしない。これからどんな行動をするべきかを腕を組んで熟考していたら、穏やかな暖かさも手伝って、ソファーでいつの間にかうたた寝していたらしい。
部屋の扉がノックされ、侍女がお茶をお持ちしましたと部屋に入ってきたことで、ふと意識が戻った。
眠気まなこのままで何気なく侍女に視線を送ると、彼女はびくっと肩を震わせた。
ただでさえ目つきが悪いのに、余計に人相が悪くなっていたかもしれない。
そこまで考えると、頭が急激に冴えてきて、くわっと目を見開いた。
この侍女は確か入ったばかりの見習い侍女で、名はユーナ。緑の瞳に、茶色の髪を一つのお下げにしている。下級貴族とあって所作に品こそあるが、まだまだ慣れぬ環境のせいか、どうにも肩身が狭そうで自信なさげな様子だ。
礼儀作法にうるさい、もとい厳しいお母様につけるよりは、まず何も言わないであろう私につけた方がいいと考えたのかもしれない。
なるほど。しかし私にこの侍女をつけた人には悪いが、これを利用しない手はない。
ベテランの侍女長なら私が多少の意地悪をしたところで笑って軽くいなし、柔軟に対応されてしまうが、新人ならきっと困るだろう。
今、ここで畳みかけるように相手が困る厄介な言動をすれば、怖い嫌な娘と印象づけられる。この絶好の機会を逃してはならない。
……さて。それはそうと彼女に一体何をして困らせようか。
侍女を黙って見ながら考えていると、私の視線を感じた彼女が怯えた様子で申し訳ございません、すぐにご用意いたしますと身をすくめた。
うん。なかなかの好感触!
ただ見続けているだけでも効果があることに満足していたが、ふと一つの考えを思いついた。
実は、私は猫舌だったりする。いつもは何も言わず我慢していたけれど、ここで冷ましてちょうだいと偉そうに言ってみてはどうだろう。
我ながら良い考えだと思い、私は口を開いた。
「あなた」
「は、はい! ただいま!」
私が声をかけると侍女は弾かれたようにこちらを見た。
「それ、冷ましてから持ってきてくれないかしら」
あ。しまった。持ってきてちょうだい! と叩きつけるように偉そうに言わなきゃいけなかった。
「は、はい?」
しくじって一瞬唇を噛みしめそうになったが、チャンスはもう一度私に与えられた。侍女が身をより小さくして、下からの目線で恐る恐るこちらを伺ってくれたからだ。
私は気を取り直して、不機嫌だぞの態度を見せるために、顎をくいっと上げ、とりわけ眉をひそめながら言った。
「だからお茶を冷ましてちょうだいと言っているの!」
「は、はい! かしこまりました!」
今度は彼女を威圧できるくらい上手く言えたようだ。彼女はびしりと背筋を直立させながら答えた。
この様子だと、私が特別動かなくても何かしでかしてくれそうだ。
案の定、私が彼女の一挙一動をひたすら見守り続けると緊張のあまりか、手の震えによってテーブルに置くはずのカップの中身を見事なまでに私の服にぶちまけてくれた。
どうもありがとうございます!
満面の笑顔で叫びたいのを我慢して私は声高らかに叱責した。
「何て事をしてくれるの!」
12
お気に入りに追加
582
あなたにおすすめの小説

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。


魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる