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第151話 晩餐会前に
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はぁ。
淡い黄色のドレスを着せられた私は大きなため息を落とした。
とうとう晩餐会当日がやって来てしまった。開催時刻ももう間もなくだ。
本日はいつも一つに束ねている髪の毛を下ろして後ろで結わえていて、形だけはおしとやかなご令嬢に見える。しかし、鏡の中の自分といえば不行儀に憂鬱そうな表情を浮かべている。
「嫌だわ。ねえ、ユリア、わたくしの代わりに出席してくれない?」
「謹まずにお断り申し上げます」
「酷い!」
できないと分かっていてもユリアに文句を言ってしまう。
「それよりもロザンヌ様、本当に殿下に頂いたリボンをお付けしなくてよいのですか」
「ええ。この色合いのドレスに合わないから」
本当は付けたかったけれど、ドレスとリボンの格差が酷い。リボンだけが悪目立ちしてしまうだろう。
「そうでしょうか?」
「ねえ。そう言えば、ユリアは晩餐会の間、どうしているの?」
首を傾げるユリアに私は話を変える。
「私は給仕にあたります」
「そう。私も給仕の役に回りたい……」
「ロザンヌ様には無理です」
ユリアにきっぱりと言い切られた。
「どうしてそんなに嫌なのですか。ダンスだってあれからも散々練習したでしょう」
「だってぇ。マナーとか他の貴族とのお喋りとか、気を遣うのが嫌なのよ。それに晩餐会とか言っても、実際のところは落ち着いて食事した気になんてならないし! あと、ダンスも確かに嫌だけど、誰にも誘われなくて壁の花になるのが一番怖い!」
それが本音かもしれない。
「ですが、本日は旦那様と奥様にお会いできるでしょう」
「それはそうだけど」
「さあ。いつまでも愚痴っていても仕方ありません。準備をしてください。それと胸元の殿下のお部屋の鍵。動き回って落としては大変ですので、忘れずに外してくださいね」
落とすことももちろん懸念されるが、首元が開いている今日のドレスだと丸わかりになってしまう。
「はぁい……」
ユリアに指定された場所に保管しようと渋々立ち上がった時、殿下の部屋に繋がる扉がノックされる音が聞こえた。
殿下もノックするという行為をようやく覚えたらしい。小走りで向かう。
「はい。どうぞ」
「入るぞ」
言葉と共に扉から現れた殿下は、金の糸で繊細に刺繍されている白いタキシードを身につけていた。
格式高い王家の者として、長い時を経て継承してきた歴史の重みなのか、一般人とは超越した品格と高貴さを漂わせている。それはもう言葉を失うほどには。
「どうだ。もう準備はできたか。……どうした?」
殿下に問われてはっと我に返り、私はおどおどと視線を泳がす。
「い、いえ。はい。えっと準備は、はい」
「緊張しているのか?」
「は、はい。そうです」
殿下の立ち姿にただただ圧倒され、私は思わず本音で頷いた。
「君らしくもない。ダンスはあれからも練習しただろう?」
あ。そっちの話か。確かに私らしくもなく、動揺しすぎた。
息を大きく一つ吐く。
「そうですが……」
「もしかして、ダンスに誘ってくれる人間がいなかったらどうしようかと思っているのか」
見事に図星ですが、それは口から出さなくていい言葉です。
「私が相手をするわけにもいかないしな」
そうね。殿下の手だけは取ることができない。
「誰かに頼むというのも」
殿下は顎に手を置いて、一人考えてくださっているけれど、段々と腹が立ってきた。
これでは完全に誰も私を誘ってくれない前提ではないか。
私は胸を張る。
「同情は結構です。それにこれでもダンスに誘ってくれる人間ぐらいいます!」
「そう、なのか?」
嘘ですけど。
疑わしそうに眉をひそめた殿下に、私は腕を組んでそっぽを向いた。
「とにかく殿下にご心配いただくようなことではございません」
「……そうか」
「もうよろしいでしょうか。殿下もお忙しいでしょうし、わたくしもそろそろ参りませんと」
思いの外、言い方がきつくなってしまった。せっかく晩餐会前にお顔を見せに来てくださったのに。でも一度口から出てしまった言葉は取り返すことができない。
私は唇を噛みしめた。
「そうだな。分かった」
「……では。失礼いたします」
「ああ」
殿下の顔を真っ直ぐ見られなくて深々と礼を取ると、殿下がノブに手をかけて扉を押したのだろう。こちらへと扉が迫り、閉まりきろうとした瞬間。
「ロザンヌ嬢。ドレス、良く似合っている」
「……え」
殿下の声がかかって顔を上げた時には、もう扉は閉まっていた。そしてかちゃりと鍵が回る音が耳に届く。
私の胸元にはまだネックレスの代わりにこの扉の鍵があったけれど、私はそれを使って開け入ることはできなかった。
淡い黄色のドレスを着せられた私は大きなため息を落とした。
とうとう晩餐会当日がやって来てしまった。開催時刻ももう間もなくだ。
本日はいつも一つに束ねている髪の毛を下ろして後ろで結わえていて、形だけはおしとやかなご令嬢に見える。しかし、鏡の中の自分といえば不行儀に憂鬱そうな表情を浮かべている。
「嫌だわ。ねえ、ユリア、わたくしの代わりに出席してくれない?」
「謹まずにお断り申し上げます」
「酷い!」
できないと分かっていてもユリアに文句を言ってしまう。
「それよりもロザンヌ様、本当に殿下に頂いたリボンをお付けしなくてよいのですか」
「ええ。この色合いのドレスに合わないから」
本当は付けたかったけれど、ドレスとリボンの格差が酷い。リボンだけが悪目立ちしてしまうだろう。
「そうでしょうか?」
「ねえ。そう言えば、ユリアは晩餐会の間、どうしているの?」
首を傾げるユリアに私は話を変える。
「私は給仕にあたります」
「そう。私も給仕の役に回りたい……」
「ロザンヌ様には無理です」
ユリアにきっぱりと言い切られた。
「どうしてそんなに嫌なのですか。ダンスだってあれからも散々練習したでしょう」
「だってぇ。マナーとか他の貴族とのお喋りとか、気を遣うのが嫌なのよ。それに晩餐会とか言っても、実際のところは落ち着いて食事した気になんてならないし! あと、ダンスも確かに嫌だけど、誰にも誘われなくて壁の花になるのが一番怖い!」
それが本音かもしれない。
「ですが、本日は旦那様と奥様にお会いできるでしょう」
「それはそうだけど」
「さあ。いつまでも愚痴っていても仕方ありません。準備をしてください。それと胸元の殿下のお部屋の鍵。動き回って落としては大変ですので、忘れずに外してくださいね」
落とすことももちろん懸念されるが、首元が開いている今日のドレスだと丸わかりになってしまう。
「はぁい……」
ユリアに指定された場所に保管しようと渋々立ち上がった時、殿下の部屋に繋がる扉がノックされる音が聞こえた。
殿下もノックするという行為をようやく覚えたらしい。小走りで向かう。
「はい。どうぞ」
「入るぞ」
言葉と共に扉から現れた殿下は、金の糸で繊細に刺繍されている白いタキシードを身につけていた。
格式高い王家の者として、長い時を経て継承してきた歴史の重みなのか、一般人とは超越した品格と高貴さを漂わせている。それはもう言葉を失うほどには。
「どうだ。もう準備はできたか。……どうした?」
殿下に問われてはっと我に返り、私はおどおどと視線を泳がす。
「い、いえ。はい。えっと準備は、はい」
「緊張しているのか?」
「は、はい。そうです」
殿下の立ち姿にただただ圧倒され、私は思わず本音で頷いた。
「君らしくもない。ダンスはあれからも練習しただろう?」
あ。そっちの話か。確かに私らしくもなく、動揺しすぎた。
息を大きく一つ吐く。
「そうですが……」
「もしかして、ダンスに誘ってくれる人間がいなかったらどうしようかと思っているのか」
見事に図星ですが、それは口から出さなくていい言葉です。
「私が相手をするわけにもいかないしな」
そうね。殿下の手だけは取ることができない。
「誰かに頼むというのも」
殿下は顎に手を置いて、一人考えてくださっているけれど、段々と腹が立ってきた。
これでは完全に誰も私を誘ってくれない前提ではないか。
私は胸を張る。
「同情は結構です。それにこれでもダンスに誘ってくれる人間ぐらいいます!」
「そう、なのか?」
嘘ですけど。
疑わしそうに眉をひそめた殿下に、私は腕を組んでそっぽを向いた。
「とにかく殿下にご心配いただくようなことではございません」
「……そうか」
「もうよろしいでしょうか。殿下もお忙しいでしょうし、わたくしもそろそろ参りませんと」
思いの外、言い方がきつくなってしまった。せっかく晩餐会前にお顔を見せに来てくださったのに。でも一度口から出てしまった言葉は取り返すことができない。
私は唇を噛みしめた。
「そうだな。分かった」
「……では。失礼いたします」
「ああ」
殿下の顔を真っ直ぐ見られなくて深々と礼を取ると、殿下がノブに手をかけて扉を押したのだろう。こちらへと扉が迫り、閉まりきろうとした瞬間。
「ロザンヌ嬢。ドレス、良く似合っている」
「……え」
殿下の声がかかって顔を上げた時には、もう扉は閉まっていた。そしてかちゃりと鍵が回る音が耳に届く。
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