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第122話 ジェラルド様には良くしていただいております
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「え? 城下町で買い物がしたい?」
執務室でお仕事中の殿下に早速お伺いを立ててみると、殿下は眉を上げた。
「ええ。王宮勤めしている者は、やはり市井に行ってのお買い物は駄目なのでしょうか」
「いや。そういうわけではない」
あ……。
学校が休みの日は、殿下の呪いの解明について調べないといけないから駄目かな。
「殿下の呪いのことも、もちろん気にはなっているのですが」
「確かに解明はしたいところだが、今は君の影祓いで、不自由ない生活を送ることができているから先延ばしでも大丈夫だ。それより君こそ、ここに来てからゆっくりした休みを取らせていなかったな。悪かった。では、次の休みの日に行くか」
「はい! ありがとうござ……ん? 殿下も行かれるのですか?」
別に殿下の同行を求めているつもりはなかったのですが。
「私一人にだけ仕事をさせておいて、君はお気楽に遊ぶつもりか?」
しらっとした目を向けるのをやめてください。あなたのお仕事でしょうよ。
「ですが、殿下は市井に出られると体調が悪くなるのでは? 影に取り憑かれるのでしょう?」
「君がいるし、大丈夫だ」
「影に関してはそうですが……」
護衛の方なしで殿下を連れ回すのは不安です。万が一、騒ぎになったり、まして刺客が現れでもしたら私では対応できません。
「そうだな。やはり護衛は必要だ。ジェラルドに頼んでみよう」
ジェラルドさんが付いてきてくれるのならば安心である。
殿下は立ち上がると、ジェラルドさんの護衛官室に繋がる扉を叩いた。
あら。
一応、殿下も確認のノックはするのね。私の部屋はノックなしで乗り込んで来るくせに!
「入るぞ」
「はい、殿下」
殿下が入ると、ジェラルドさんは立ち上がっていた。
「どうかされましたか」
「次の休み、私用で悪いのだが、城下町まで付き合ってもらえないか」
ジェラルドさんは殿下の後ろにいた私に目をやって笑みを浮かべると、すぐに殿下へと視線を戻した。
「はい。承知いたしました」
「ありがとう。頼む」
ジェラルドさんの了解を得て、私たちはまた執務室へと戻る。
「さっき君たち目配せしていなかったか」
「え?」
部屋に戻るなり変な事を言う殿下に私は眉をひそめた。
「君たち目配せしていなかったか」
殿下は聞こえなかったと思ったのか、また同じセリフを繰り返す。
「あ、はい。帰宅途中の馬車の中で、お話ししていたのです。町に出かけられないかと」
「そうか。仲が良いな」
何となく悔しそうな声が含まれているようなので、私は意地悪にもさらに追い打ちをかけてみる。
「はい。ジェラルド様には良くしていただいております。ユリアもお世話になりまして」
「……私の護衛官なのだが」
おや。本音が出たぞ。
「ええ。一番の護衛官様をわたくしに付けていただき感謝しております。ジェラルド様はとても気さくでいらっしゃいまして、毎日楽しく会話させていただいておりますの」
ますますムッと眉を寄せる殿下。
悔しがれ悔しがれ!
「ほぉ。それは結構なことだ」
「ええ。ありがとうございます。それによく相談も受けていただいております」
「相談?」
「ええ。何かお困りの事がありましたらご相談くださいと、ご親切にもおっしゃってくださるものですから」
私は頬に手を当ててにっこりと笑う。
「そうか。ジェラルドは優しいからな」
「ええ。とてもお優しい方です」
「そうだな。私にもよく尽くしてくれている」
殿下は負けじとそうおっしゃった。
そりゃそうよ。ジェラルドさんは殿下のことを一番に考えていらっしゃいますよ。私も追い打ちをかけるのはここまでにしようか。
「ええ。ジェラルド様は殿下のことをとても気にかけていらっしゃるのだな、と気付きました」
「え?」
「わたくしとユリアの関係を羨ましいとおっしゃっていました」
「……羨ましい?」
「ええ。本音でぶつかり合うわたくしたちをご覧になったからでしょう」
職務を越えた殿下の事情に踏み込めない現実が、ジェラルドさんにとっておつらいのだと思う。けれど、それは私の口から言えるような事ではない。殿下は自分の立場として口を閉ざすことを望まれているのだから。
ただ、ジェラルドさんのお気持ちを知っていてほしい。ジェラルドさんはいつも殿下の側にあるということを。
もちろんご存知かもしれない。ご存知だからこそ、殿下もおつらいのかもしれないけれど。
「殿下、差し出がましいかと思いますが。……あ、つい口から出てしまいました。殿下のお立場を考えましたら、やはり差し出がましいので止めます。どうぞ忘れてくださいませ」
「余計に気になるだろう……」
殿下は不満げに文句を放った。
執務室でお仕事中の殿下に早速お伺いを立ててみると、殿下は眉を上げた。
「ええ。王宮勤めしている者は、やはり市井に行ってのお買い物は駄目なのでしょうか」
「いや。そういうわけではない」
あ……。
学校が休みの日は、殿下の呪いの解明について調べないといけないから駄目かな。
「殿下の呪いのことも、もちろん気にはなっているのですが」
「確かに解明はしたいところだが、今は君の影祓いで、不自由ない生活を送ることができているから先延ばしでも大丈夫だ。それより君こそ、ここに来てからゆっくりした休みを取らせていなかったな。悪かった。では、次の休みの日に行くか」
「はい! ありがとうござ……ん? 殿下も行かれるのですか?」
別に殿下の同行を求めているつもりはなかったのですが。
「私一人にだけ仕事をさせておいて、君はお気楽に遊ぶつもりか?」
しらっとした目を向けるのをやめてください。あなたのお仕事でしょうよ。
「ですが、殿下は市井に出られると体調が悪くなるのでは? 影に取り憑かれるのでしょう?」
「君がいるし、大丈夫だ」
「影に関してはそうですが……」
護衛の方なしで殿下を連れ回すのは不安です。万が一、騒ぎになったり、まして刺客が現れでもしたら私では対応できません。
「そうだな。やはり護衛は必要だ。ジェラルドに頼んでみよう」
ジェラルドさんが付いてきてくれるのならば安心である。
殿下は立ち上がると、ジェラルドさんの護衛官室に繋がる扉を叩いた。
あら。
一応、殿下も確認のノックはするのね。私の部屋はノックなしで乗り込んで来るくせに!
「入るぞ」
「はい、殿下」
殿下が入ると、ジェラルドさんは立ち上がっていた。
「どうかされましたか」
「次の休み、私用で悪いのだが、城下町まで付き合ってもらえないか」
ジェラルドさんは殿下の後ろにいた私に目をやって笑みを浮かべると、すぐに殿下へと視線を戻した。
「はい。承知いたしました」
「ありがとう。頼む」
ジェラルドさんの了解を得て、私たちはまた執務室へと戻る。
「さっき君たち目配せしていなかったか」
「え?」
部屋に戻るなり変な事を言う殿下に私は眉をひそめた。
「君たち目配せしていなかったか」
殿下は聞こえなかったと思ったのか、また同じセリフを繰り返す。
「あ、はい。帰宅途中の馬車の中で、お話ししていたのです。町に出かけられないかと」
「そうか。仲が良いな」
何となく悔しそうな声が含まれているようなので、私は意地悪にもさらに追い打ちをかけてみる。
「はい。ジェラルド様には良くしていただいております。ユリアもお世話になりまして」
「……私の護衛官なのだが」
おや。本音が出たぞ。
「ええ。一番の護衛官様をわたくしに付けていただき感謝しております。ジェラルド様はとても気さくでいらっしゃいまして、毎日楽しく会話させていただいておりますの」
ますますムッと眉を寄せる殿下。
悔しがれ悔しがれ!
「ほぉ。それは結構なことだ」
「ええ。ありがとうございます。それによく相談も受けていただいております」
「相談?」
「ええ。何かお困りの事がありましたらご相談くださいと、ご親切にもおっしゃってくださるものですから」
私は頬に手を当ててにっこりと笑う。
「そうか。ジェラルドは優しいからな」
「ええ。とてもお優しい方です」
「そうだな。私にもよく尽くしてくれている」
殿下は負けじとそうおっしゃった。
そりゃそうよ。ジェラルドさんは殿下のことを一番に考えていらっしゃいますよ。私も追い打ちをかけるのはここまでにしようか。
「ええ。ジェラルド様は殿下のことをとても気にかけていらっしゃるのだな、と気付きました」
「え?」
「わたくしとユリアの関係を羨ましいとおっしゃっていました」
「……羨ましい?」
「ええ。本音でぶつかり合うわたくしたちをご覧になったからでしょう」
職務を越えた殿下の事情に踏み込めない現実が、ジェラルドさんにとっておつらいのだと思う。けれど、それは私の口から言えるような事ではない。殿下は自分の立場として口を閉ざすことを望まれているのだから。
ただ、ジェラルドさんのお気持ちを知っていてほしい。ジェラルドさんはいつも殿下の側にあるということを。
もちろんご存知かもしれない。ご存知だからこそ、殿下もおつらいのかもしれないけれど。
「殿下、差し出がましいかと思いますが。……あ、つい口から出てしまいました。殿下のお立場を考えましたら、やはり差し出がましいので止めます。どうぞ忘れてくださいませ」
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殿下は不満げに文句を放った。
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