つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第101話 ご家族との戯れ

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 書庫室の門番、デレクさんに挨拶をして私たちはそこを後にした。

 部屋を出る前にこちらへ向かってくる人間がいないか確認してもらったことで、私たちが密会しているのだとすっかり思い込んでしまったようだ。
 神聖なる歴史ある書物に囲まれていて、そんな気になれる人がいるのだろうかと思うけれども……。

「また鍛練場に寄っていくか?」
「あ、ええ。そう致します」
「そうか。では私も行こう」

 今回は前回よりも少し早い時間帯かもしれないので、また仮試合をするのならばユリアの勇姿を見られるかもしれない。

「ユリアが体を鍛えたいと思っているのは自分のためですが、わたくしのためでもあるのです。この王宮で危険から守ろうと」
「そうか」
「殿下がジェラルド様を学校の送迎につけてくださっているのも、そういうことなのでしょう?」

 一時期は私が逃げられないようにと、ジェラルドさんを付けたかと思った時もあったけれど。

「護衛を付けるとかえって目立つから、どうすべきかとは思っていたが」
「ええ。ありがとうございます」
「ただ、王宮内よりも外の方が危険が高いと思っていたが、王宮内ももっと気を配るべきではあったな」

 ベルモンテ侯爵家のことを言っているのだろうか。ユリアも私は彼らの商売敵であり、目の上のたんこぶだと言っていたし。とはいえ、彼らが私の存在に気付いたところで何かしてくるとは思えな――いや、待ってよ。

 クラウディア嬢のことがふと思い出された。あのご令嬢の態度を見たら、何かしてきてもおかしくないと考えを改める。

「ロザンヌ嬢?」

 急に口を閉ざした私を不審に思ったのか、殿下は私に振り返る。

「大丈夫です、殿下。わたくしには、騎士と対当できる能力を持つユリアという最強侍女が側についております」
「そうだが」
「ユリア曰く、私を害する者全て排除する、とのことです」
「……ああ。それは頼もしそうだ」

 ユリアの無表情顔を思い出したのか、殿下は妙に納得した。

 鍛練場に向かう途中にもある、先ほどよりも小さなお庭を横に廊下を歩いていると。

「お兄様!」
「にいさま!」

 可愛らしい声が聞こえてきた。兄様ということは王女と第二王子らしい。
 私は慌てて殿下から距離を取った。

 国王陛下や王妃殿下にはご紹介いただいたけれど、ご姉弟はまだ幼く、事情を把握しれない部分があるので、紹介できないことを殿下が詫びてくださっていたことがあった。
 もし紹介すれば、私を見かけた時に人なつこく声をかけてくるかもしれない。目立つことを避けたいということだったからだ。

 だから私は距離を取って、ご兄弟が戯れる様子を遠くから見ていた。

 王女様が十二、三歳、第二王子様が七、八歳頃でいらっしゃっただろうか。側には二人の男性がおり、礼を取っている。体つきがいいので、ジェラルドさんのように護衛騎士の方かもしれない。
 殿下は膝を折り、柔らかい笑顔を浮かべて、お二人の相手をされている。
 そんな姿を見ていると、私も兄様方のことを思い出す。

 私も寂しいけれど、兄様方も時折私のことを思い出して、寂しがってくださっているかしら。お父様も、お母様も、お家の皆さんも。
 それとも小うるさい娘(少しくらいは自覚がある)がいなくて、皆、伸び伸びしていらっしゃるのかしら。
 妙に感傷的になってしまう。

「では、またねー、お兄様!」
「またね、にいさま」

 お二人の声が上がって、私ははっと我に返った。
 殿下は挨拶を交わすと、離れた所で待機していた私の元にやってきた。

「すまない。待たせた」
「いいえ。仲がよろしいのですね」
「まあ、まだ二人は幼いし、懐いてくれている。ただ、女の子はおしゃまで子供扱いすると怒られるよ。淑女レディーに向かって失礼よと。対応が難しいな」

 困ったように笑っていらっしゃるけれど、その表情は決して嫌がっているわけではない。むしろ可愛らしくてしかたなく思われているのだろう。

「女性は精神が成長するのが早いですから」
「なるほど。君の幼い頃はとりわけおませだったんだろうな。容易に想像できるよ」

 うーん。何と答えていいものやら。

「……君も。そろそろ落ち着いてきた頃だし、君も一度実家に帰るか?」
「え? なぜですか?」
「こちらを懐かしそうに見ていたから。君をご家族から離したことをすまないと思っている」

 私ばかり殿下方のご様子を見ていると思っていたけれど、殿下もまた私の様子に気を配ってくださっていたらしい。

「いいえ、殿下。わたくしはそのお心だけで十分です。お手紙も書きますし、大丈夫ですわ。それに早々に帰りますと、母に叱られますもの」

 それに。
 それに今は殿下のお側にいたい。……ん? え? は?

「そうか。私のわがままに付き合わせてすまない。……ありがとう」

 殿下に礼を述べられて、私はいいえと慌てて笑みを浮かべた。
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