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第58話 お金は必要です
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「酷いです、その呆れたような態度! わたくしとしましても情報量があまりにも少ないのですから」
「いや。別に馬鹿にしたつもりではなかったが、悪い。でも確かにそうだな。情報があまりにも少なすぎる」
「王家は代々、殿下のような方が現れているのでしょう? 今まで何か対処法がなかったのですか?」
殿下は腕を組むと少し視線を下げた。
「そうだな。文献を紐解く限り無さそうだった。これまでも呪術師に頼ってきた部分が大きかったようだから」
「呪術師様ですか。その方も代々続いている家系なのですよね。言わば王家の弱みを握られているも同然なのではないでしょうか?」
「言葉は悪いが、間違ってはいないかな。だからそれなりの待遇と爵位が与えられている」
殿下は以前、呪術師様は貴族の方だとおっしゃっていた。そうなると発言力も大きい方なのでしょう。きっと殿下が苦い表情を浮かべているのもそういうこと。
「わたくしにも弱みを握られておりますが?」
「君に? なるほど。確かに」
殿下は少し意地悪そうに笑った。
「だが、私はこの国の第一王子で、君は数ある一つの子爵令嬢だ。人はどちらの言うことを信じるだろうか」
「うーん。そうですね。返す言葉もございません」
元々、バラそうとか、脅そうとかそういう気はないけれど。
「まあ。望むならば、君の家を多少優遇することは可能だが?」
してやろうかとでも続きそうな物言いに、見下されている様な気がしてムッとする。
「いえ。わたくしはそんな事を望んでおりませんし、父も自分が功績を上げたわけでもないのに優遇されることは望まないでしょう」
「無欲なんだな」
意外そうに眉を上げる殿下。
殿下の周りにはやはり欲深い人間が集まっているのだろうか。だとしたら、気が休まるところがなさそうだ。そう考えると少しだけ不憫な気がする。
「無欲というのとはちょっと違いますね。他人から与えられたものは一時は満足しても瞬く間に消えてしまい、心がいつまでも満たされないからです。だからもっともっと貪欲になる。一方、たとえ小さな事でも自分の手で成し得たものは確かな手応えがある分、自分に自信がついて心が満たされます。そちらの方が本当の意味で、何倍も人の心を豊かにするのです。……父の受け売りではございますが」
何か琴線に触れるような言葉だったのだろうか。すぐ側に控えていたユリアが少し反応した。
「なるほど。人格者だな。君の父は」
「はい。自慢の父にございます」
殿下の言葉に視線を戻し、私は胸を張る。けれどすぐに小さく笑って肩をすくめてみせた。
「ただですね。いくら人格者であってもお金が無ければ人を助けられませんし、自分自身の心が貧しくなるのもまた真実です。ですからわたくしはお金なんて無くても愛さえあればいいとは思いません。お金は必要です」
実際、父が領地にある孤児院に援助したいと思っていても、思うような予算が取れないと頭を悩ませているところを見たことがある。うちがもう少し資産のある貴族ならと思うこともある。良い人だけでは誰も助けられないのが現実だ。私も殿下から給金を頂いたら実家に送るつもりだけれど、とても足りるとは思えない。
思わず唇を噛みしめた。
「思っていた以上に君は現実主義だ」
「――え。あ、ええ、はい。わたくしは現実に生きておりますもの。人生にお金は必要だと思うことを恥じてはおりません」
一瞬思いにふけったが殿下の声に我に返ると、また胸を張ってきっぱり言い切る。すると、君は自分の心に正直で安心すると殿下は笑った。
数日後。
影の対処法で我ながらなかなかの名案を思いついて、殿下に早速ご報告しようと浮き足立っていた。そしていつものようにジェラルドさんの部屋を訪れ、入室許可を得て殿下の執務室に入ろうとした時。
「あの、ロザンヌ様」
珍しく戸惑ったようなジェラルドさんに声をかけられる。
「はい。ジェラルド様。どういたしましたか」
「あ、えっと」
一瞬、口ごもったジェラルドさんだったけれど、すぐに微笑んだ。
「……いえ。お仕事、頑張ってくださいね」
「はい。あり、がとうございます?」
少しきまりが悪そうに笑う彼の表情に違和感を覚えつつも、失礼いたしますと入室すると。
「ああ、来たか」
「――っ!?」
目に飛び込んで来た光景に、息が止まって殿下へのご挨拶も即答できなかった。
「いや。別に馬鹿にしたつもりではなかったが、悪い。でも確かにそうだな。情報があまりにも少なすぎる」
「王家は代々、殿下のような方が現れているのでしょう? 今まで何か対処法がなかったのですか?」
殿下は腕を組むと少し視線を下げた。
「そうだな。文献を紐解く限り無さそうだった。これまでも呪術師に頼ってきた部分が大きかったようだから」
「呪術師様ですか。その方も代々続いている家系なのですよね。言わば王家の弱みを握られているも同然なのではないでしょうか?」
「言葉は悪いが、間違ってはいないかな。だからそれなりの待遇と爵位が与えられている」
殿下は以前、呪術師様は貴族の方だとおっしゃっていた。そうなると発言力も大きい方なのでしょう。きっと殿下が苦い表情を浮かべているのもそういうこと。
「わたくしにも弱みを握られておりますが?」
「君に? なるほど。確かに」
殿下は少し意地悪そうに笑った。
「だが、私はこの国の第一王子で、君は数ある一つの子爵令嬢だ。人はどちらの言うことを信じるだろうか」
「うーん。そうですね。返す言葉もございません」
元々、バラそうとか、脅そうとかそういう気はないけれど。
「まあ。望むならば、君の家を多少優遇することは可能だが?」
してやろうかとでも続きそうな物言いに、見下されている様な気がしてムッとする。
「いえ。わたくしはそんな事を望んでおりませんし、父も自分が功績を上げたわけでもないのに優遇されることは望まないでしょう」
「無欲なんだな」
意外そうに眉を上げる殿下。
殿下の周りにはやはり欲深い人間が集まっているのだろうか。だとしたら、気が休まるところがなさそうだ。そう考えると少しだけ不憫な気がする。
「無欲というのとはちょっと違いますね。他人から与えられたものは一時は満足しても瞬く間に消えてしまい、心がいつまでも満たされないからです。だからもっともっと貪欲になる。一方、たとえ小さな事でも自分の手で成し得たものは確かな手応えがある分、自分に自信がついて心が満たされます。そちらの方が本当の意味で、何倍も人の心を豊かにするのです。……父の受け売りではございますが」
何か琴線に触れるような言葉だったのだろうか。すぐ側に控えていたユリアが少し反応した。
「なるほど。人格者だな。君の父は」
「はい。自慢の父にございます」
殿下の言葉に視線を戻し、私は胸を張る。けれどすぐに小さく笑って肩をすくめてみせた。
「ただですね。いくら人格者であってもお金が無ければ人を助けられませんし、自分自身の心が貧しくなるのもまた真実です。ですからわたくしはお金なんて無くても愛さえあればいいとは思いません。お金は必要です」
実際、父が領地にある孤児院に援助したいと思っていても、思うような予算が取れないと頭を悩ませているところを見たことがある。うちがもう少し資産のある貴族ならと思うこともある。良い人だけでは誰も助けられないのが現実だ。私も殿下から給金を頂いたら実家に送るつもりだけれど、とても足りるとは思えない。
思わず唇を噛みしめた。
「思っていた以上に君は現実主義だ」
「――え。あ、ええ、はい。わたくしは現実に生きておりますもの。人生にお金は必要だと思うことを恥じてはおりません」
一瞬思いにふけったが殿下の声に我に返ると、また胸を張ってきっぱり言い切る。すると、君は自分の心に正直で安心すると殿下は笑った。
数日後。
影の対処法で我ながらなかなかの名案を思いついて、殿下に早速ご報告しようと浮き足立っていた。そしていつものようにジェラルドさんの部屋を訪れ、入室許可を得て殿下の執務室に入ろうとした時。
「あの、ロザンヌ様」
珍しく戸惑ったようなジェラルドさんに声をかけられる。
「はい。ジェラルド様。どういたしましたか」
「あ、えっと」
一瞬、口ごもったジェラルドさんだったけれど、すぐに微笑んだ。
「……いえ。お仕事、頑張ってくださいね」
「はい。あり、がとうございます?」
少しきまりが悪そうに笑う彼の表情に違和感を覚えつつも、失礼いたしますと入室すると。
「ああ、来たか」
「――っ!?」
目に飛び込んで来た光景に、息が止まって殿下へのご挨拶も即答できなかった。
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