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五度目の人生
第43話 心と体の休息
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主に精神的なものだろう、酷く衰弱していた私は、ミラディア王女殿下付きのたくさんの侍女さんたちの補助によって何とか湯浴みさせてもらった。その中にはニ度目の人生の時だったか、私に脅されて毒を盛ったと証言した侍女、ダリアさんの姿もあった。
少し複雑な気持ちもあったが、今世の彼女はそんなことはしていないのだ。偏った見方をしてはならない。混同してはならない。それに彼女もエレーヌ王女殿下やリーチェにきっと毒の瓶を仕込まれたりして脅されて、逆らえなかったのだろう。身分差や立場のことを考えると彼女を責められない。
このことを常に心に留めておけば、きっとこの気持ちも時間と共に整理できるに違いない。
もしかしたら父は今、慌てて私のトラヴィス家からの除籍撤回に走っているかもしれないが、私は今も除籍された身分なので家には戻れない(戻りたくない)し、何よりも今回のことはエレーヌ王女殿下と王太子殿下による策略によって冤罪で投獄されたということで、王室側が用意してくださった王宮内の貴賓室で休養させてもらっている。
慣れとは怖いもので、長らくの牢屋生活のせいで最初は柔らかいベッドの感覚がむしろ寝苦しさを感じたものだ。また、太陽を浴びる生活をしていなかったせいで、太陽光は目に刺激が強すぎたため、厚みのあるカーテンがかけられて同じ薄暗い環境から慣らしていくことになった。
そのせいなのか、最初の何日かは処刑場面、とりわけシメオン様の処刑場面が夢に出てきて、夜中に飛び起きることが度々あった。
シメオン様は生きているのだと、もう悪夢は終わったのだからと、ただの夢に過ぎないのだと、何度も何度も自分に言い聞かせた。一方で、シメオン様が処刑されたことは紛れもない事実の一つで、それを私が忘れることは許されないと思った。
私の心はいつまでも過去の事実という牢屋に囚われ続けるのかと思われたが、手厚い看護を受けたおかげで心も体も栄養を得て落ち着いてきたのか、やがて眠れるようになってきた。
「アリシア、どう? 体調は」
ミラディア王女殿下はご自身も病み上がりになのに、時間の感覚が曖昧になってしまった私のために、食事のたびに何度も足を運んでくださった。
王女殿下の右足には毒の後遺症で生涯痺れが残るそうで、杖が離せない生活になっているというのにもかかわらずだ。本当にお優しい方だ。
「ありがとうございます。おかげさまで落ち着いてまいりました。王女殿下こそお体が大変ですのにお見舞いいただいて、誠に申し訳ございません」
「わたくしは大丈夫よ。あなたとお話しできるのは嬉しいし、お医者様からも体をできるだけ動かしたほうがいいと言われているの。レイモンドには私生活まで支えてもらっているし」
ミラディア王女殿下の側にはいつも護衛騎士、リッチャ……リ卿が仕えている。彼が事件の反省を踏まえてより真摯にお仕えしているせいなのか、あるいは王女殿下がこの機会を逃すまいとしているのか、王女殿下は彼に対して少し甘えん坊になったように思える。
椅子から立つ際も、ご自分で杖を使うよりも、彼に抱き上げてもらっていることのほうが多い。そんな時の王女殿下のお顔は決まっていつも笑顔だ。何だか微笑ましかった。
一方、シメオン様は一度も私の元に訪れることはなかった。あれほどの酷い振り方をしたのだ。当然のことだと思う。
胸が痛んだが、シメオン様が生きているこの世界に自分も生きられていることに感謝した。それだけでいいと思った。
ミラディア王女殿下にもシメオン様が今どうしているかは聞かなかった。私の気持ちを察していらっしゃるのか、王女殿下も彼の名前を出すことはなく、ただ、今も騎士らによって王太子殿下たちの取り調べが続けられていることだけは伝えられた。
少し複雑な気持ちもあったが、今世の彼女はそんなことはしていないのだ。偏った見方をしてはならない。混同してはならない。それに彼女もエレーヌ王女殿下やリーチェにきっと毒の瓶を仕込まれたりして脅されて、逆らえなかったのだろう。身分差や立場のことを考えると彼女を責められない。
このことを常に心に留めておけば、きっとこの気持ちも時間と共に整理できるに違いない。
もしかしたら父は今、慌てて私のトラヴィス家からの除籍撤回に走っているかもしれないが、私は今も除籍された身分なので家には戻れない(戻りたくない)し、何よりも今回のことはエレーヌ王女殿下と王太子殿下による策略によって冤罪で投獄されたということで、王室側が用意してくださった王宮内の貴賓室で休養させてもらっている。
慣れとは怖いもので、長らくの牢屋生活のせいで最初は柔らかいベッドの感覚がむしろ寝苦しさを感じたものだ。また、太陽を浴びる生活をしていなかったせいで、太陽光は目に刺激が強すぎたため、厚みのあるカーテンがかけられて同じ薄暗い環境から慣らしていくことになった。
そのせいなのか、最初の何日かは処刑場面、とりわけシメオン様の処刑場面が夢に出てきて、夜中に飛び起きることが度々あった。
シメオン様は生きているのだと、もう悪夢は終わったのだからと、ただの夢に過ぎないのだと、何度も何度も自分に言い聞かせた。一方で、シメオン様が処刑されたことは紛れもない事実の一つで、それを私が忘れることは許されないと思った。
私の心はいつまでも過去の事実という牢屋に囚われ続けるのかと思われたが、手厚い看護を受けたおかげで心も体も栄養を得て落ち着いてきたのか、やがて眠れるようになってきた。
「アリシア、どう? 体調は」
ミラディア王女殿下はご自身も病み上がりになのに、時間の感覚が曖昧になってしまった私のために、食事のたびに何度も足を運んでくださった。
王女殿下の右足には毒の後遺症で生涯痺れが残るそうで、杖が離せない生活になっているというのにもかかわらずだ。本当にお優しい方だ。
「ありがとうございます。おかげさまで落ち着いてまいりました。王女殿下こそお体が大変ですのにお見舞いいただいて、誠に申し訳ございません」
「わたくしは大丈夫よ。あなたとお話しできるのは嬉しいし、お医者様からも体をできるだけ動かしたほうがいいと言われているの。レイモンドには私生活まで支えてもらっているし」
ミラディア王女殿下の側にはいつも護衛騎士、リッチャ……リ卿が仕えている。彼が事件の反省を踏まえてより真摯にお仕えしているせいなのか、あるいは王女殿下がこの機会を逃すまいとしているのか、王女殿下は彼に対して少し甘えん坊になったように思える。
椅子から立つ際も、ご自分で杖を使うよりも、彼に抱き上げてもらっていることのほうが多い。そんな時の王女殿下のお顔は決まっていつも笑顔だ。何だか微笑ましかった。
一方、シメオン様は一度も私の元に訪れることはなかった。あれほどの酷い振り方をしたのだ。当然のことだと思う。
胸が痛んだが、シメオン様が生きているこの世界に自分も生きられていることに感謝した。それだけでいいと思った。
ミラディア王女殿下にもシメオン様が今どうしているかは聞かなかった。私の気持ちを察していらっしゃるのか、王女殿下も彼の名前を出すことはなく、ただ、今も騎士らによって王太子殿下たちの取り調べが続けられていることだけは伝えられた。
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