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五度目の人生
第42話 仲間割れ
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「君は馬鹿か!? 何という頭の悪さだ!」
「――何ですって!?」
憤ったのは王太子殿下だ。そしてその言葉に目を高くつり上げたのはもちろんリーチェである。
「私が盗ませた証拠品は、君が毒を入れるより前にアリシア嬢が採取したお茶だ! 君が毒を混入させたテーブルに広がったお茶からは当然ながら毒物反応があったからこそ、アリシア嬢が捕まったんだろう! その毒を入れられたのは君だけだ。忘れたのか!」
「……あ」
焦る余り混乱していたのだろうか。ようやく気付いたリーチェは、目を見開いて言葉を失う。
「私は君のためを思って、ここまで手を貸したんだぞ。その私を裏切るとはな! 何という卑劣極まりない下品な人間だ。こんな人間に手を貸していた私はあまりにも愚かすぎる。ああ、そうだ。私こそが大馬鹿者だったよ!」
「――なっ。そもそも! 私がこんなことまでしなければならなかったのは、殿下が私を王妃じゃなくて、愛妾にしようとしていたからよ! 悪いのは殿下じゃないの!」
「当たり前だ! お前のような頭の悪い人間に王妃が務まるとでも、本気で思っていたのか! アリシア嬢ほど王妃になるにふさわしい人間はいなかったんだ。それをお前が勝手にこんなことをしたから。だが、たとえアリシア嬢が処刑されたとしても、王妃となる人間にふさわしい次の女性を探していたさ! 愛玩程度にしかならないお前が王妃など夢のまた夢だ!」
「何ですって! この裏切り者!」
リーチェは怒りで顔を真っ赤にした。
「お前に言われる筋合いはない!」
「先に私を裏切ったのはそっちでしょう!? 私だって、あなたが王太子殿下じゃなければ、ユリウス殿下よりもはるかに劣るあなたなんて、鼻も引っかけなかったわよ! 本当は、私だって容姿も性格も頭も良いユリウス殿下のほうが良かったんだから! ユリウス殿下のほうを落としかったんだから!」
「ユリウスだって、お前のようなあばずれの人間は選びやしないさ!」
「誰があばずれよ! 撤回しなさいよ!」
怒りのまま暴れるリーチェは手に負えないようで、彼女を捕まえている騎士の体が振られているぐらいだ。
「あばずれをあばずれと言って何が悪い! 私と閨を共にしたい女などいくらでもいたのに、何だって私はこんな程度の低い女に執着していたのか」
「ふざけないでよ! 私だからこそ、甲斐性なしのあなたをおだてて自尊心を高めてあげていたんじゃないの!」
「何だと!?」
「……バーナード卿」
いつまでも続きそうなやり取りに、ミラディア王女殿下は頭が痛そうに額に手を置き、もう一方の手を再び揺らした。
「――承知いたしました。殿下、ご同行お願いいたします」
「バーナード、放せ! お前の主君は誰だと思っている! 放せ! 放さないか! 私は王太子殿下だぞ!」
「そうよ! 私は王妃になる人間なんだから! 無礼な真似は許さないわよ! 覚えてなさい! 皆、皆、首をはねてやるから!」
王太子殿下とリーチェは精一杯暴れながら叫ぶと、王女殿下は心底うんざりしたような表情になる。
「ああ、うるさいわね。耳障りに目障りだから早く二人を連れて行ってちょうだい。二人を近くに入れるとうるさくなるから、遠く引き離して放り込んでね」
「承知いたしました」
シメオン様ともう一人の騎士は一礼すると、叫び、暴れ、激しく罵り合いを続ける王太子殿下とリーチェを連れ去った。
「やれやれ。やっと静かになったわね。さあ、レイモンド。わたくしのことはいいから、早く扉を開けてあげて」
「……王女殿下」
「分かったわよ」
護衛騎士にたしなめられたミラディア王女殿下は肩を竦める。
「もうっ。言いにくいったらないのよね。舌を噛みそうだわ。――リッチャレッリ卿、扉を開けなさい」
王女殿下もそう思っていたようだ。ぶつぶつ文句を言いながらも、呼び直して再び命じる。
「承知いたしました」
護衛騎士は鍵を開けると扉を開放してくれた。
「さあ、出ていらっしゃい、アリシア」
「あ……」
「ほら、早く」
私は護衛騎士の手助けを受けながらよろよろと牢屋から出ると、両手を私のほうへと差し伸べてくれている笑顔のミラディア王女殿下の元に向かう。
「遅くなってごめんなさい。よく頑張ったわね。もう大丈夫。あなたの無実の罪は晴らされたわ。わたくしが証人よ」
「あ……あ、あ」
私はミラディア王女殿下の足元に崩れ落ちると、王女殿下の足に縋りついて、子供のように泣きじゃくった。
「――何ですって!?」
憤ったのは王太子殿下だ。そしてその言葉に目を高くつり上げたのはもちろんリーチェである。
「私が盗ませた証拠品は、君が毒を入れるより前にアリシア嬢が採取したお茶だ! 君が毒を混入させたテーブルに広がったお茶からは当然ながら毒物反応があったからこそ、アリシア嬢が捕まったんだろう! その毒を入れられたのは君だけだ。忘れたのか!」
「……あ」
焦る余り混乱していたのだろうか。ようやく気付いたリーチェは、目を見開いて言葉を失う。
「私は君のためを思って、ここまで手を貸したんだぞ。その私を裏切るとはな! 何という卑劣極まりない下品な人間だ。こんな人間に手を貸していた私はあまりにも愚かすぎる。ああ、そうだ。私こそが大馬鹿者だったよ!」
「――なっ。そもそも! 私がこんなことまでしなければならなかったのは、殿下が私を王妃じゃなくて、愛妾にしようとしていたからよ! 悪いのは殿下じゃないの!」
「当たり前だ! お前のような頭の悪い人間に王妃が務まるとでも、本気で思っていたのか! アリシア嬢ほど王妃になるにふさわしい人間はいなかったんだ。それをお前が勝手にこんなことをしたから。だが、たとえアリシア嬢が処刑されたとしても、王妃となる人間にふさわしい次の女性を探していたさ! 愛玩程度にしかならないお前が王妃など夢のまた夢だ!」
「何ですって! この裏切り者!」
リーチェは怒りで顔を真っ赤にした。
「お前に言われる筋合いはない!」
「先に私を裏切ったのはそっちでしょう!? 私だって、あなたが王太子殿下じゃなければ、ユリウス殿下よりもはるかに劣るあなたなんて、鼻も引っかけなかったわよ! 本当は、私だって容姿も性格も頭も良いユリウス殿下のほうが良かったんだから! ユリウス殿下のほうを落としかったんだから!」
「ユリウスだって、お前のようなあばずれの人間は選びやしないさ!」
「誰があばずれよ! 撤回しなさいよ!」
怒りのまま暴れるリーチェは手に負えないようで、彼女を捕まえている騎士の体が振られているぐらいだ。
「あばずれをあばずれと言って何が悪い! 私と閨を共にしたい女などいくらでもいたのに、何だって私はこんな程度の低い女に執着していたのか」
「ふざけないでよ! 私だからこそ、甲斐性なしのあなたをおだてて自尊心を高めてあげていたんじゃないの!」
「何だと!?」
「……バーナード卿」
いつまでも続きそうなやり取りに、ミラディア王女殿下は頭が痛そうに額に手を置き、もう一方の手を再び揺らした。
「――承知いたしました。殿下、ご同行お願いいたします」
「バーナード、放せ! お前の主君は誰だと思っている! 放せ! 放さないか! 私は王太子殿下だぞ!」
「そうよ! 私は王妃になる人間なんだから! 無礼な真似は許さないわよ! 覚えてなさい! 皆、皆、首をはねてやるから!」
王太子殿下とリーチェは精一杯暴れながら叫ぶと、王女殿下は心底うんざりしたような表情になる。
「ああ、うるさいわね。耳障りに目障りだから早く二人を連れて行ってちょうだい。二人を近くに入れるとうるさくなるから、遠く引き離して放り込んでね」
「承知いたしました」
シメオン様ともう一人の騎士は一礼すると、叫び、暴れ、激しく罵り合いを続ける王太子殿下とリーチェを連れ去った。
「やれやれ。やっと静かになったわね。さあ、レイモンド。わたくしのことはいいから、早く扉を開けてあげて」
「……王女殿下」
「分かったわよ」
護衛騎士にたしなめられたミラディア王女殿下は肩を竦める。
「もうっ。言いにくいったらないのよね。舌を噛みそうだわ。――リッチャレッリ卿、扉を開けなさい」
王女殿下もそう思っていたようだ。ぶつぶつ文句を言いながらも、呼び直して再び命じる。
「承知いたしました」
護衛騎士は鍵を開けると扉を開放してくれた。
「さあ、出ていらっしゃい、アリシア」
「あ……」
「ほら、早く」
私は護衛騎士の手助けを受けながらよろよろと牢屋から出ると、両手を私のほうへと差し伸べてくれている笑顔のミラディア王女殿下の元に向かう。
「遅くなってごめんなさい。よく頑張ったわね。もう大丈夫。あなたの無実の罪は晴らされたわ。わたくしが証人よ」
「あ……あ、あ」
私はミラディア王女殿下の足元に崩れ落ちると、王女殿下の足に縋りついて、子供のように泣きじゃくった。
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