上 下
41 / 50
五度目の人生

第41話 ミラディア王女の命令

しおりを挟む
「ブルシュタイン王国の第一王女、ミラディア・アン・カルロッテ・クリーヴランドが命じます。――今すぐ捕縛しなさい」

 今、捕縛と言った? 私は既に牢屋に入っているのに。
 私は目を閉じて沙汰を待っていたが、奇妙な言葉に思わず顔を上げてしまった。

「承知いたしました。ブルシュタイン第一王女ミラディア・アン・カルロッテ・クリーヴランド王女殿下の命の下に――オースティン・リュカ・クリーヴランド王太子殿下、並びにリーチェ・トラヴィス侯爵令嬢を拘束させていただきます」

 シメオン様がそう宣言すると、王太子殿下とリーチェはあまりの驚きに肩を跳ねさせながら叫んだ。

「――な!? 何だと!?」
「え、わ、私!?」

 私も目の前で何が起こっているのか理解できず、茫然と見守る。しかし私たちの驚きをよそに、シメオン様は王太子殿下を容赦なく捕縛し、もう一人の名も知らぬ騎士がリーチェを捕縛した。

「捕縛完了いたしました」
「ご苦労様。では二人をその辺の適当な牢屋にでも放り込んじゃって」
「承知いたしました」

 シメオン様は軽い口調のミラディア王女殿下の言葉を粛々と受け止めたが、王太子殿下はそうはいかない。

「姉上! 一体どういうことですか!」
「残念だけどそういうことなのでしょう? 自分が一番分かっているはずよ」
「あ、姉上は何か勘違いなさっています! ご説明したらきっと分かっていただけるはずです!」
「ええ、ええ。もちろんよ。そのご説明とやらを、これからじーっくり聞かせてもらおうじゃない」

 ミラディア王女殿下は腕を組み、顎を上げた。

「誤解です! あの女がカップを交換したことは覚えておられるでしょう!?」
「あの女などと、よくも婚約者に向かって言える言葉だこと。まあ、もう婚約解消は必至だけれどね。――ええ、アリシアは確かにカップを交換したわね。覚えているわ。だけれど、わたくしは一口もお茶を飲んでいないこともしっかりと覚えているのよ」
「あ、姉上は毒を飲んで混乱され――」

 はあ、とミラディア王女殿下は大きなため息をつく。

「ここまで言わなきゃ、分からないかしら。お茶に毒が入っていなかったことを示す証拠品も取り戻されたし、盗んだ人間もあなたに指示されたと自白している。エレーヌが細工していたところを目撃した人物も保護しているし、あの子の部屋から毒入りの瓶も回収済みよ。あの子も捕縛されて今回のことを全て自供したらしいわ」
「なっ……」
「アリシアを蔑ろにするだけでは飽き足らず、よくもここまで彼女を貶めてくれたわね。絶対に許さないわよ! お父様が少しでも恩赦を与えようとしたら、わたくしが直々にあなたの首を刈り獲りに行くから覚悟なさい! ――さあ、もういいでしょう。わたくしがオースティンをぶん殴る前に連れて行って」

 うるさそうに手で払う仕草を見せるミラディア王女殿下に、シメオン様が承知いたしましたと頭を下げる。すると。

「ま、待ってください、待って! 私は、私は何もしていません!」

 これまで黙っていたリーチェが身じろぎしながら叫んだ。

「大人しくしろ!」
「――痛いっ!」

 ミラディア王女殿下は拘束を強められた彼女に視線を流すと、片手を立てて騎士を制止させる。リーチェにもまた申し開きの時間をお与えになるらしい。

「どういうことかしら?」
「だ、だって! エレーヌ王女殿下が私のことを何と言ったか知りませんけど、ミラディア王女殿下はお茶を飲まれていないし、そのお茶にも毒が入っていなかったということは、エレーヌ王女殿下がお菓子か何かにでも毒を入れたということですよね!?」
「そうね」

 リーチェは同意を頂いて勢いづいたのか、少し笑みをこぼすと続ける。

「私はミラディア王女殿下のお菓子には一切手を触れていません! どうして関係のない私まで捕まえられるんですか!? 悪いのは、毒を入れたエレーヌ王女殿下と、アリシアお姉様を犯人にするために証拠隠滅しようとした王太子殿下だけでしょう!? 確かに殿下とは恋仲で、殿下が私のためにしてくれたことなんでしょうけど、私は今回のことは何も知りません! たまたまお茶の席でご一緒していたからって、私まで捕まえるだなんてあまりにも不当です! 私は事件とは無関係ですっ!」

 騎士に後ろ手を取られていても、リーチェは大きく胸を前に突き出して主張した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】お世話になりました

こな
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……? ※小説家になろう様にも掲載させて頂いております。ただ改稿を行い、結末がこちらに掲載している内容とは異なりますので物語全体の雰囲気が異なる場合がございます。あらかじめご了承下さい。(あちらはゲオルグと並び人気が高かったエイドENDです)

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

アリシアの恋は終わったのです【完結】

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

処理中です...