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四度目の人生
第35話 命乞い
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いつの間にか眠っていたのか、あるいは気を失ってしまったのか。誰かの足音が近付いてきて私は目を開いた。
「寝ていたのか。よくこんな所で眠れるな。本当に図太い神経をしているものだ」
嘲笑を含んだ言葉を放つ相手は王太子殿下だ。私はのろのろと体を起こして彼を見上げる。するとその横にはリーチェもいた。彼女は女性と分からないようにするためなのか、ぶかぶかのローブを被っている。
一方、ここにいる囚人らは夜遅くまで騒いでいたせいか、あるいは起床時間でもないからなのか、今は静かだ。
「お姉様って、そういうところがおありだから。お姉様の実母が、そういうふてぶてしい方だったんでしょ。わたくしのお母様と違って、成金実家が出自の下品な方だったのよ! 私のお母様はトラヴィス侯爵家の後継者になる男の子まで産んだのに、離婚しようとしなかったんだから! おまけにお姉様の実母は、お父様にお金を握らせなかったと言うわ。おかげで私たち親子がどれだけ極貧生活を強いられ――」
私は頭がはっきりすると、リーチェに構わずすぐさま殿下へと駆け寄った。
「殿下! シメオン様は! シメオン様はどうなったのです!」
「はっ。自分の身より他人の身が心配か? 余裕なことだな」
「殿下! シメオン様は今! 彼は彼は! お願いですからお教えください!」
鉄格子を揺らして必死で答えを乞う私は、殿下やリーチェから見れば、きっと昨日の囚人たちと同じ目をしているのだろう。
殿下は嫌そうに顔をしかめるとため息をつく。
「今日、お前と共に処刑される予定になった。バーナードは何度、酷い尋問を受けても自分の主張は決して変えなかった。誑かしたのも、脱獄計画を立てたのも、お前をそそのかしたのも、全て自分からしたことだと言い張った。悪質性が認められて、処刑する判断となったんだ。私があれほど慈悲を与えたと言うのに。全てはお前のせいだぞ。お前がバーナードの人生を狂わせたんだ」
「っ!」
私は足に力が入らなくなり、崩れ座り込んで茫然と殿下を見上げる。
シメオン様の人生を私が狂わせた。
「……駄目。駄目」
彼は私のために犠牲になっていい人じゃない。彼には輝かしい未来があるのだから。彼の未来はこれから先もずっと続くのだから。
――そうだ。駄目。駄目だ! ぼんやりしている場合ではない。今、私ができる最大限のことをしなければ。彼はまだ生きているのだから!
「そうなのよ。だから最後にお姉様とお会いしなきゃと思って、私もご一緒させてもらったのよ。ああ、お父様はお姉様の顔も見たくないとおっしゃっていたから、私がお伝えするわね。お姉様はトラヴィス侯爵家から除籍されたから。だからもう貴族の娘でもなければ、私の姉でもな――」
「殿下!」
私は再び気持ちを奮い立たせて鉄格子をつかんだ。
殿下だって、長年常に側で忠実に仕えてきたシメオン様を処刑するには、少しくらいのためらいだってあるはずだ。今なら私が真摯にお願い申し上げれば、まだお考え直しいただけるかもしれない。
「殿下! 昨夜も申し上げたように、わたくしがバーナード卿を誑かしたのです! わたくしが彼の優しい心に付け込んで逃亡計画を企てさせたのです。おっしゃるように、全ての責任はわたくしにあります。ですからどうか! どうか彼だけは助けてください。わたくしはどんな辱めを受けても構いません。ですから彼だけは。どうか彼だけはお救いください。彼の命だけはどうか。どうかお願いいたします」
「……なるほど? そんなにバーナードが大切か。そんなにあいつの処刑を止めたいか」
殿下は不敵に笑うと、鉄格子の間から片足を差し込んで命じた。
「ならば潰れたカエルのように地べたに這いずり、私に忠誠を誓う口づけをこの靴にしろ」
「寝ていたのか。よくこんな所で眠れるな。本当に図太い神経をしているものだ」
嘲笑を含んだ言葉を放つ相手は王太子殿下だ。私はのろのろと体を起こして彼を見上げる。するとその横にはリーチェもいた。彼女は女性と分からないようにするためなのか、ぶかぶかのローブを被っている。
一方、ここにいる囚人らは夜遅くまで騒いでいたせいか、あるいは起床時間でもないからなのか、今は静かだ。
「お姉様って、そういうところがおありだから。お姉様の実母が、そういうふてぶてしい方だったんでしょ。わたくしのお母様と違って、成金実家が出自の下品な方だったのよ! 私のお母様はトラヴィス侯爵家の後継者になる男の子まで産んだのに、離婚しようとしなかったんだから! おまけにお姉様の実母は、お父様にお金を握らせなかったと言うわ。おかげで私たち親子がどれだけ極貧生活を強いられ――」
私は頭がはっきりすると、リーチェに構わずすぐさま殿下へと駆け寄った。
「殿下! シメオン様は! シメオン様はどうなったのです!」
「はっ。自分の身より他人の身が心配か? 余裕なことだな」
「殿下! シメオン様は今! 彼は彼は! お願いですからお教えください!」
鉄格子を揺らして必死で答えを乞う私は、殿下やリーチェから見れば、きっと昨日の囚人たちと同じ目をしているのだろう。
殿下は嫌そうに顔をしかめるとため息をつく。
「今日、お前と共に処刑される予定になった。バーナードは何度、酷い尋問を受けても自分の主張は決して変えなかった。誑かしたのも、脱獄計画を立てたのも、お前をそそのかしたのも、全て自分からしたことだと言い張った。悪質性が認められて、処刑する判断となったんだ。私があれほど慈悲を与えたと言うのに。全てはお前のせいだぞ。お前がバーナードの人生を狂わせたんだ」
「っ!」
私は足に力が入らなくなり、崩れ座り込んで茫然と殿下を見上げる。
シメオン様の人生を私が狂わせた。
「……駄目。駄目」
彼は私のために犠牲になっていい人じゃない。彼には輝かしい未来があるのだから。彼の未来はこれから先もずっと続くのだから。
――そうだ。駄目。駄目だ! ぼんやりしている場合ではない。今、私ができる最大限のことをしなければ。彼はまだ生きているのだから!
「そうなのよ。だから最後にお姉様とお会いしなきゃと思って、私もご一緒させてもらったのよ。ああ、お父様はお姉様の顔も見たくないとおっしゃっていたから、私がお伝えするわね。お姉様はトラヴィス侯爵家から除籍されたから。だからもう貴族の娘でもなければ、私の姉でもな――」
「殿下!」
私は再び気持ちを奮い立たせて鉄格子をつかんだ。
殿下だって、長年常に側で忠実に仕えてきたシメオン様を処刑するには、少しくらいのためらいだってあるはずだ。今なら私が真摯にお願い申し上げれば、まだお考え直しいただけるかもしれない。
「殿下! 昨夜も申し上げたように、わたくしがバーナード卿を誑かしたのです! わたくしが彼の優しい心に付け込んで逃亡計画を企てさせたのです。おっしゃるように、全ての責任はわたくしにあります。ですからどうか! どうか彼だけは助けてください。わたくしはどんな辱めを受けても構いません。ですから彼だけは。どうか彼だけはお救いください。彼の命だけはどうか。どうかお願いいたします」
「……なるほど? そんなにバーナードが大切か。そんなにあいつの処刑を止めたいか」
殿下は不敵に笑うと、鉄格子の間から片足を差し込んで命じた。
「ならば潰れたカエルのように地べたに這いずり、私に忠誠を誓う口づけをこの靴にしろ」
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