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四度目の人生
第33話 待ち伏せ
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私たちの前に現れたのは、予想通り王太子殿下だった。彼の後ろにはたくさんの騎士たちが控えている。
明らかに私たちの動きを察知して待ち受けていた態勢だ。情報が漏れていたのだろう。それともシメオン様が言っていた協力者が私たちを売ったのだろうか。
シメオン様は腕で私を自分の背中へと押しやった。
背後に人の気配はない。けれど、この状況から抜け出すのは到底無理のように思われた。きっとシメオン様もそう考えていただろう。逃げ場はないと。
「残念だったな、バーナード。お前の行動は私には筒抜けだ。私のほうが常に一歩も二歩も先に立っている。私のほうがはるかに大きな力を持っている。お前は正しく主を選ぶべきだった。そうだろう?」
何も答えないシメオン様に殿下はため息をついた。
「バーナード。お前は優秀で忠実で、これまで長らく私に真摯に仕えてくれていた信頼できる人間だ。幼少期から親しくしてきた友人でもある。処分するには惜しい。だからお前には一度だけチャンスを与えてやろう。その女を切り捨ててこちらに来い」
殿下は続けてそう言ってシメオン様のほうへ手を差し出す。
「お前はそのふしだらな女に誑かされて一時の気の迷いを起こしてしまっただけだろう? 仕方がないことだ。その女は計算高く、利用できるものなら、自分の何を売っても利用するような強かな女だ。お前は自身の高潔さが仇となって、その女の本性が見抜けず、手玉に取られただけだ。情状酌量の余地はある。――さあ、私の手を取り、再び私の前に跪け。そうすれば、この度の反逆は水に流してやる」
するとシメオン様はふっと笑った。
「いいえ、王太子殿下。私は高潔な人間などではありません。私こそ愚かにも主君の婚約者様に恋焦がれて一方的に愛を求め、奪い求めさせて、逃亡をそそのかした不徳義な人間です。不義を働いたのは私のほうです。誑かしたのは私のほうです」
「シメオン様……」
シメオン様の手を震える手で握ると、彼は強く握り返してくれた。
「バーナード! 殿下のご慈悲が分からないのか! お前はこのままで行けば騎士の位を剥奪され、家門まで巻き込むことになるんだぞ! それどころかお前は――令嬢と共に処刑される!」
「っ!」
誰かが叫んだ言葉が目に見えぬ手となって私の心臓をぐっとつかんだ。私はたまらずシメオン様の手を離すと、彼の横に並んで速い鼓動を打つ胸に手を当てる。
「王太子殿下! 殿下がおっしゃるように、わたくしがバーナード卿を誑かしたのです! 彼に脱獄の計画を立てさせたのはわたくしです。悪いのはわたくしです! どうかわたくしだけをしょ――っ!」
私は最後まで言う前にシメオン様に抱き寄せられると口づけされた。
もう何も言わないでほしいと言わんばかりに、何度も何度も。最後に私の熱を確かめるように何度も。
「――っ。お前たちいつまで、ぼうっと突っ立っている! いい加減、二人を引き離さないか!」
殿下の命令で騎士らが慌てて駆け寄り、私たちを引き離した。
「さっさと連れていけ!」
続いて叫んだ殿下の命令によって騎士に両脇を抱え込まれたシメオン様は、前方へと連行されていく。
「シメオン様! シメオン様!」
「来い! お前はこちらだ!」
シメオン様へと手を伸ばそうとするが、私は彼とは反対方向へと引きずられる。
「シメオン様!」
「……っ。殿下! 処罰なら私が受けます。どうかアリシア様に乱暴を働かないでください。どうかどうかお願いいたします!」
「シメオン様!」
私たちは互いの姿が見えなくなるまでいつまでも叫び、目で追い続けていた。
明らかに私たちの動きを察知して待ち受けていた態勢だ。情報が漏れていたのだろう。それともシメオン様が言っていた協力者が私たちを売ったのだろうか。
シメオン様は腕で私を自分の背中へと押しやった。
背後に人の気配はない。けれど、この状況から抜け出すのは到底無理のように思われた。きっとシメオン様もそう考えていただろう。逃げ場はないと。
「残念だったな、バーナード。お前の行動は私には筒抜けだ。私のほうが常に一歩も二歩も先に立っている。私のほうがはるかに大きな力を持っている。お前は正しく主を選ぶべきだった。そうだろう?」
何も答えないシメオン様に殿下はため息をついた。
「バーナード。お前は優秀で忠実で、これまで長らく私に真摯に仕えてくれていた信頼できる人間だ。幼少期から親しくしてきた友人でもある。処分するには惜しい。だからお前には一度だけチャンスを与えてやろう。その女を切り捨ててこちらに来い」
殿下は続けてそう言ってシメオン様のほうへ手を差し出す。
「お前はそのふしだらな女に誑かされて一時の気の迷いを起こしてしまっただけだろう? 仕方がないことだ。その女は計算高く、利用できるものなら、自分の何を売っても利用するような強かな女だ。お前は自身の高潔さが仇となって、その女の本性が見抜けず、手玉に取られただけだ。情状酌量の余地はある。――さあ、私の手を取り、再び私の前に跪け。そうすれば、この度の反逆は水に流してやる」
するとシメオン様はふっと笑った。
「いいえ、王太子殿下。私は高潔な人間などではありません。私こそ愚かにも主君の婚約者様に恋焦がれて一方的に愛を求め、奪い求めさせて、逃亡をそそのかした不徳義な人間です。不義を働いたのは私のほうです。誑かしたのは私のほうです」
「シメオン様……」
シメオン様の手を震える手で握ると、彼は強く握り返してくれた。
「バーナード! 殿下のご慈悲が分からないのか! お前はこのままで行けば騎士の位を剥奪され、家門まで巻き込むことになるんだぞ! それどころかお前は――令嬢と共に処刑される!」
「っ!」
誰かが叫んだ言葉が目に見えぬ手となって私の心臓をぐっとつかんだ。私はたまらずシメオン様の手を離すと、彼の横に並んで速い鼓動を打つ胸に手を当てる。
「王太子殿下! 殿下がおっしゃるように、わたくしがバーナード卿を誑かしたのです! 彼に脱獄の計画を立てさせたのはわたくしです。悪いのはわたくしです! どうかわたくしだけをしょ――っ!」
私は最後まで言う前にシメオン様に抱き寄せられると口づけされた。
もう何も言わないでほしいと言わんばかりに、何度も何度も。最後に私の熱を確かめるように何度も。
「――っ。お前たちいつまで、ぼうっと突っ立っている! いい加減、二人を引き離さないか!」
殿下の命令で騎士らが慌てて駆け寄り、私たちを引き離した。
「さっさと連れていけ!」
続いて叫んだ殿下の命令によって騎士に両脇を抱え込まれたシメオン様は、前方へと連行されていく。
「シメオン様! シメオン様!」
「来い! お前はこちらだ!」
シメオン様へと手を伸ばそうとするが、私は彼とは反対方向へと引きずられる。
「シメオン様!」
「……っ。殿下! 処罰なら私が受けます。どうかアリシア様に乱暴を働かないでください。どうかどうかお願いいたします!」
「シメオン様!」
私たちは互いの姿が見えなくなるまでいつまでも叫び、目で追い続けていた。
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