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三度目の人生
第27話 たった一つの方法
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「何か方法があるのですか? どんな方法ですか?」
シメオン様は前のめりになる。
「わたくしがもう一度回帰すればいいのです。お茶会のその日に。こぼれたお茶に毒物が混入される前にわたくしが採取すればいいのです。それを検査していただければ、お茶に毒が入っていなかったことを証明できます」
「……え?」
私は牢屋に入る前に身ぐるみをはがされた。鞄も装飾品もドレスも、下着すらも全て取り上げられた。けれど唯一奪われなかった物がある。それは右腕の包帯だ。これに毒物が混入される前のお茶を染み込ませ、再び戻るであろうこの牢屋でシメオン様にお渡しすればいい。
「一度目の回帰と二度目とでは、戻った時間帯が異なっていました。もしかしたら何か転機となる行動があって、回帰する前と違ったその行動をした場合、それが確定されてしまい、そこより以前の時間までは戻れないようになっているのかもしれません」
おそらくその転機となる行動は、一度目は私が腕に包帯を巻いたこと、二度目はカップを入れ替えたことになるだろう。つまり次に戻れるとしたら、私がカップを入れ替えた後になるはずだ。
「王女殿下がお倒れになるまでには戻れると考えています。一方で、毒入りのお菓子をお食べになることはもう止められないでしょう。それでも応急処置が早ければ、回復も早まるはずです。ですからわたくしは次も必ず毒の名を叫びます」
「アリシア様」
「そうそう」
シメオン様が私に呼びかけたが、伝え忘れない内に彼の行動についても注意を促しておくことにする。
「それ以外に、わたくしが直接関わっていないこと、シメオン様の行動でも状況が変化していました。ですからシメオン様もこれ以上もう何もなさらないで、ただ静かにわたくしを見送ってくださいませ」
「――アリシア様、お待ちください。何をおっしゃっているのです」
先走りしてしまったようだ。私は改めて説明する。
「シメオン様はこれまでの回帰で、ここには二度訪れておりません。一度目はリーチェとシメオン様が鉢合わせし、私が不用意な言動を取ってしまったため、彼女が王太子殿下に頼んであなたの行動を制限させました。二度目は鉢合わせしていないのにもかかわらず、あなたの動きを察知して調査を妨害していたようです」
殿下はシメオン様を終日、護衛に就かせると言っていた。
「おそらくシメオン様の行動がそれまでと違っていたのでしょう。つまりわたくしだけではなく、周囲の人間の行動によっても状況が変わってしまうということです。ですからシメオン様には調査を控えていただきたいのです」
「私が調査を止めたら――っ。あなたは! あなたは今、何をおっしゃっているのか、本当に分かっているのですか!」
普段は冷静なシメオン様がこんなにも感情的に叱責する姿は、近くでは初めて見てたじろいだ。
「あなたは今、この世界にある可能性の芽さえご自分で摘み取ろうとしているのですよ! それに回帰されるということは、もう一度あなたは処刑される――死ぬということです。次の状況がさらにあなたを追い詰めることになるかもしれない。しかも戻れるという保証はどこにもありません。もしかしたらそのまま……」
拳を作って震わせ、険しい表情で語尾をぼかすシメオン様。
私はこくんと息を呑む。
「承知しております。ですが、もうそれしか方法がないのです。わたくしを犯人にしたい人間がいる以上、シメオン様が動いても妨害されるのみで、きっと私の無実を証明してくれるものが出てくることはないでしょう。それどころか、転機となる行動を取ってしまって、回帰したい時間まで戻ることができなくなる可能性だってあるのです。どうかご理解ください」
「ですが!」
「シメオン様。わたくしはこの世界ではなく、自分が動ける次の世界に可能性を見出したいのです」
シメオン様は唇をぐっと固く結び、目を細めて顔を強張らせた。
シメオン様は前のめりになる。
「わたくしがもう一度回帰すればいいのです。お茶会のその日に。こぼれたお茶に毒物が混入される前にわたくしが採取すればいいのです。それを検査していただければ、お茶に毒が入っていなかったことを証明できます」
「……え?」
私は牢屋に入る前に身ぐるみをはがされた。鞄も装飾品もドレスも、下着すらも全て取り上げられた。けれど唯一奪われなかった物がある。それは右腕の包帯だ。これに毒物が混入される前のお茶を染み込ませ、再び戻るであろうこの牢屋でシメオン様にお渡しすればいい。
「一度目の回帰と二度目とでは、戻った時間帯が異なっていました。もしかしたら何か転機となる行動があって、回帰する前と違ったその行動をした場合、それが確定されてしまい、そこより以前の時間までは戻れないようになっているのかもしれません」
おそらくその転機となる行動は、一度目は私が腕に包帯を巻いたこと、二度目はカップを入れ替えたことになるだろう。つまり次に戻れるとしたら、私がカップを入れ替えた後になるはずだ。
「王女殿下がお倒れになるまでには戻れると考えています。一方で、毒入りのお菓子をお食べになることはもう止められないでしょう。それでも応急処置が早ければ、回復も早まるはずです。ですからわたくしは次も必ず毒の名を叫びます」
「アリシア様」
「そうそう」
シメオン様が私に呼びかけたが、伝え忘れない内に彼の行動についても注意を促しておくことにする。
「それ以外に、わたくしが直接関わっていないこと、シメオン様の行動でも状況が変化していました。ですからシメオン様もこれ以上もう何もなさらないで、ただ静かにわたくしを見送ってくださいませ」
「――アリシア様、お待ちください。何をおっしゃっているのです」
先走りしてしまったようだ。私は改めて説明する。
「シメオン様はこれまでの回帰で、ここには二度訪れておりません。一度目はリーチェとシメオン様が鉢合わせし、私が不用意な言動を取ってしまったため、彼女が王太子殿下に頼んであなたの行動を制限させました。二度目は鉢合わせしていないのにもかかわらず、あなたの動きを察知して調査を妨害していたようです」
殿下はシメオン様を終日、護衛に就かせると言っていた。
「おそらくシメオン様の行動がそれまでと違っていたのでしょう。つまりわたくしだけではなく、周囲の人間の行動によっても状況が変わってしまうということです。ですからシメオン様には調査を控えていただきたいのです」
「私が調査を止めたら――っ。あなたは! あなたは今、何をおっしゃっているのか、本当に分かっているのですか!」
普段は冷静なシメオン様がこんなにも感情的に叱責する姿は、近くでは初めて見てたじろいだ。
「あなたは今、この世界にある可能性の芽さえご自分で摘み取ろうとしているのですよ! それに回帰されるということは、もう一度あなたは処刑される――死ぬということです。次の状況がさらにあなたを追い詰めることになるかもしれない。しかも戻れるという保証はどこにもありません。もしかしたらそのまま……」
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「シメオン様。わたくしはこの世界ではなく、自分が動ける次の世界に可能性を見出したいのです」
シメオン様は唇をぐっと固く結び、目を細めて顔を強張らせた。
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