25 / 50
三度目の人生
第25話 推測する
しおりを挟む
シメオン様の深い愛を感じて気力を取り戻した私は一度彼に去ってもらい、続いてやって来るリーチェを刺激しない程度に軽くいなして、再び戻って来てくれた彼と話すことになった。
「ではこの度は二度目の回帰だったのですか。それで毒の名もご存じだったのですね」
「はい」
シメオン様は苦々しい表情を見せた。
二度も助けられなかったと悔やんでいるのだろう。彼のせいではないのに。
「シメオン様」
私は彼の気を逸らすように声をかける。
「今回の回帰で分かったことがあります。お茶に毒は入っていなかったのです」
これまで毒が入っていたカップは、ミラディア王女殿下のカップ一つだったと言われていた。ならば、急遽変えられた私が飲むはずだったお茶に毒が入っていることはないはずなのだ。
「それに今回は特に注意深く見ていたから分かるのですが、ミラディア王女殿下はお茶を飲もうとカップを持ち上げていらっしゃいましたが、口を付ける前に苦しみ始めて落とされたのです」
「殿下はお茶を飲まれていないのですか!?」
「ええ。間違いありません」
「ですが、ミラディア王女殿下のカップから確かに毒が検出されたと聞いております。第三者機関が行っていますので、誰も改ざんできません」
「カップからとおっしゃいましたが、カップが倒れてお茶はこぼれていたのでしょう?」
ミラディア王女殿下がカップから手を離され、陶器がテーブルに落ちた不快な音を確かに聞いた。
「ええ。倒れてテーブルに流れたお茶を採取――あ」
私は頷く。
「あの騒ぎに乗じて、誰かが毒をテーブルに滴り落としたのではないかと」
できるとしたらそれは――リーチェのみ。
皆がミラディア王女殿下に駆け寄っていた中、彼女の気配だけはなかった。毒の瓶を私の鞄や侍女に忍ばせることだってできたかもしれない。
「もちろん今となっては何の証拠もないのですが」
「……そうですか。ではお茶はひとまず横に置くとして、何に毒が入っていたとお考えですか?」
「それはお菓子しかありません」
「しかし菓子も全て検査されました」
「当然、テーブルに残されたお菓子だけ――ですよね? 食べてお腹に入ってしまった物までは検査できない」
シメオン様はゆっくりと頷く。
「確かにおっしゃる通りです。ですが、仮に菓子に毒が入っていたとして、ミラディア王女殿下がそれを食べるとは限らないのでは。下手をすると周りの者を巻き込む危険性があります。それに食べたとしても、果たして毒入りの菓子だけ残さず食べ切るのかという疑問も」
「そう……ですね。いえ、待って。あの時は確か」
私は目を閉じてお茶会のことを目で見たこと、耳で聞いたことを必死になって思い出す。そしてはっと目を開ける。
「そうです。ミラディア王女殿下のお菓子は、たまには姉孝行をさせてほしいとエレーヌ王女殿下がお皿に取り分けていらっしゃいました。ミラディア王女殿下は、フィナンシェが大好物でいらっしゃるのでそれももちろん」
エレーヌ王女殿下がお菓子を取るところは直接見てはいないが、その時、侍女は側にいなかったし、ミラディア王女殿下は全て任せていたから取ったのはエレーヌ王女殿下で間違いない。
「ただ、ミラディア王女殿下は、好きな物は最後まで取っておく主義だそうで、なかなかそれに手を付けようとされませんでした。そこで――そう。エレーヌ王女殿下が、そのフィナンシェを横取りしようとしたのです。しかしそうさせまいと、ミラディア王女殿下はすぐに口に放り込まれました。そしてお茶が運ばれて来て、その直後に事件は起こったのです」
「つまり……それは」
「……はい。お考えの通りです。エレーヌ王女殿下も加担されている、あるいは黒幕かもしれません」
眉をひそめたシメオン様に私は頷いた。
「ではこの度は二度目の回帰だったのですか。それで毒の名もご存じだったのですね」
「はい」
シメオン様は苦々しい表情を見せた。
二度も助けられなかったと悔やんでいるのだろう。彼のせいではないのに。
「シメオン様」
私は彼の気を逸らすように声をかける。
「今回の回帰で分かったことがあります。お茶に毒は入っていなかったのです」
これまで毒が入っていたカップは、ミラディア王女殿下のカップ一つだったと言われていた。ならば、急遽変えられた私が飲むはずだったお茶に毒が入っていることはないはずなのだ。
「それに今回は特に注意深く見ていたから分かるのですが、ミラディア王女殿下はお茶を飲もうとカップを持ち上げていらっしゃいましたが、口を付ける前に苦しみ始めて落とされたのです」
「殿下はお茶を飲まれていないのですか!?」
「ええ。間違いありません」
「ですが、ミラディア王女殿下のカップから確かに毒が検出されたと聞いております。第三者機関が行っていますので、誰も改ざんできません」
「カップからとおっしゃいましたが、カップが倒れてお茶はこぼれていたのでしょう?」
ミラディア王女殿下がカップから手を離され、陶器がテーブルに落ちた不快な音を確かに聞いた。
「ええ。倒れてテーブルに流れたお茶を採取――あ」
私は頷く。
「あの騒ぎに乗じて、誰かが毒をテーブルに滴り落としたのではないかと」
できるとしたらそれは――リーチェのみ。
皆がミラディア王女殿下に駆け寄っていた中、彼女の気配だけはなかった。毒の瓶を私の鞄や侍女に忍ばせることだってできたかもしれない。
「もちろん今となっては何の証拠もないのですが」
「……そうですか。ではお茶はひとまず横に置くとして、何に毒が入っていたとお考えですか?」
「それはお菓子しかありません」
「しかし菓子も全て検査されました」
「当然、テーブルに残されたお菓子だけ――ですよね? 食べてお腹に入ってしまった物までは検査できない」
シメオン様はゆっくりと頷く。
「確かにおっしゃる通りです。ですが、仮に菓子に毒が入っていたとして、ミラディア王女殿下がそれを食べるとは限らないのでは。下手をすると周りの者を巻き込む危険性があります。それに食べたとしても、果たして毒入りの菓子だけ残さず食べ切るのかという疑問も」
「そう……ですね。いえ、待って。あの時は確か」
私は目を閉じてお茶会のことを目で見たこと、耳で聞いたことを必死になって思い出す。そしてはっと目を開ける。
「そうです。ミラディア王女殿下のお菓子は、たまには姉孝行をさせてほしいとエレーヌ王女殿下がお皿に取り分けていらっしゃいました。ミラディア王女殿下は、フィナンシェが大好物でいらっしゃるのでそれももちろん」
エレーヌ王女殿下がお菓子を取るところは直接見てはいないが、その時、侍女は側にいなかったし、ミラディア王女殿下は全て任せていたから取ったのはエレーヌ王女殿下で間違いない。
「ただ、ミラディア王女殿下は、好きな物は最後まで取っておく主義だそうで、なかなかそれに手を付けようとされませんでした。そこで――そう。エレーヌ王女殿下が、そのフィナンシェを横取りしようとしたのです。しかしそうさせまいと、ミラディア王女殿下はすぐに口に放り込まれました。そしてお茶が運ばれて来て、その直後に事件は起こったのです」
「つまり……それは」
「……はい。お考えの通りです。エレーヌ王女殿下も加担されている、あるいは黒幕かもしれません」
眉をひそめたシメオン様に私は頷いた。
207
お気に入りに追加
893
あなたにおすすめの小説
(完結)「君を愛することはない」と言われて……
青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら?
この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。
主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。
以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。
※カクヨム。なろうにも時差投稿します。
※作者独自の世界です。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
(完結)婚約破棄から始まる真実の愛
青空一夏
恋愛
私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。
女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?
美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。
婚約破棄を、あなたのために
月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う
miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。
それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。
アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。
今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。
だが、彼女はある日聞いてしまう。
「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。
───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。
それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。
そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。
※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。
※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる