あなただけが私を信じてくれたから

樹里

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三度目の人生

第25話 推測する

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 シメオン様の深い愛を感じて気力を取り戻した私は一度彼に去ってもらい、続いてやって来るリーチェを刺激しない程度に軽くいなして、再び戻って来てくれた彼と話すことになった。

「ではこの度は二度目の回帰だったのですか。それで毒の名もご存じだったのですね」
「はい」

 シメオン様は苦々しい表情を見せた。
 二度も助けられなかったと悔やんでいるのだろう。彼のせいではないのに。

「シメオン様」

 私は彼の気を逸らすように声をかける。

「今回の回帰で分かったことがあります。お茶に毒は入っていなかったのです」

 これまで毒が入っていたカップは、ミラディア王女殿下のカップ一つだったと言われていた。ならば、急遽変えられた私が飲むはずだったお茶に毒が入っていることはないはずなのだ。

「それに今回は特に注意深く見ていたから分かるのですが、ミラディア王女殿下はお茶を飲もうとカップを持ち上げていらっしゃいましたが、口を付ける前に苦しみ始めて落とされたのです」
「殿下はお茶を飲まれていないのですか!?」
「ええ。間違いありません」
「ですが、ミラディア王女殿下のカップから確かに毒が検出されたと聞いております。第三者機関が行っていますので、誰も改ざんできません」
「カップからとおっしゃいましたが、カップが倒れてお茶はこぼれていたのでしょう?」

 ミラディア王女殿下がカップから手を離され、陶器がテーブルに落ちた不快な音を確かに聞いた。

「ええ。倒れてテーブルに流れたお茶を採取――あ」

 私は頷く。

「あの騒ぎに乗じて、誰かが毒をテーブルに滴り落としたのではないかと」

 できるとしたらそれは――リーチェのみ。
 皆がミラディア王女殿下に駆け寄っていた中、彼女の気配だけはなかった。毒の瓶を私の鞄や侍女に忍ばせることだってできたかもしれない。

「もちろん今となっては何の証拠もないのですが」
「……そうですか。ではお茶はひとまず横に置くとして、何に毒が入っていたとお考えですか?」
「それはお菓子しかありません」
「しかし菓子も全て検査されました」
「当然、テーブルに残されたお菓子だけ――ですよね? 食べてお腹に入ってしまった物までは検査できない」

 シメオン様はゆっくりと頷く。

「確かにおっしゃる通りです。ですが、仮に菓子に毒が入っていたとして、ミラディア王女殿下がそれを食べるとは限らないのでは。下手をすると周りの者を巻き込む危険性があります。それに食べたとしても、果たして毒入りの菓子だけ残さず食べ切るのかという疑問も」
「そう……ですね。いえ、待って。あの時は確か」

 私は目を閉じてお茶会のことを目で見たこと、耳で聞いたことを必死になって思い出す。そしてはっと目を開ける。

「そうです。ミラディア王女殿下のお菓子は、たまには姉孝行をさせてほしいとエレーヌ王女殿下がお皿に取り分けていらっしゃいました。ミラディア王女殿下は、フィナンシェが大好物でいらっしゃるのでそれももちろん」

 エレーヌ王女殿下がお菓子を取るところは直接見てはいないが、その時、侍女は側にいなかったし、ミラディア王女殿下は全て任せていたから取ったのはエレーヌ王女殿下で間違いない。

「ただ、ミラディア王女殿下は、好きな物は最後まで取っておく主義だそうで、なかなかそれに手を付けようとされませんでした。そこで――そう。エレーヌ王女殿下が、そのフィナンシェを横取りしようとしたのです。しかしそうさせまいと、ミラディア王女殿下はすぐに口に放り込まれました。そしてお茶が運ばれて来て、その直後に事件は起こったのです」
「つまり……それは」
「……はい。お考えの通りです。エレーヌ王女殿下も加担されている、あるいは黒幕かもしれません」

 眉をひそめたシメオン様に私は頷いた。
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