22 / 50
三度目の人生
第22話 開始していたお茶会
しおりを挟む
「……って、思わない? アリシア? アリシア?」
「え? あ――はい」
ミラディア王女殿下の呼びかけにようやく気がついた私は、慌てて返事した。
私はまた事件が起こる前に戻ったらしい。今回は既にお茶会が始まっており、お茶を淹れている侍女、ダリアさんの姿が見えた。また、私の腕に包帯が巻かれているのも確認できる。
つまり、もうお茶会を欠席するという手段も取れなくなってしまっていた。
「失礼いたしました。前日緊張でよく眠れなかったものですから」
「そんなに? ああ、じゃあ、その怪我も? 今朝、ベッドから落ちたと言っていたでしょう」
「そうなのです。ぼんやり考え事をしていたらうっかりと」
私は強張った笑顔を見せた。
「へえ。あなたでも緊張することがあるのね。もっと神経が図太いのかと思っていたわ」
「まあ! 怒りますよ、ミラディア王女殿下」
「ごめんなさい。冗談よ」
ミラディア王女殿下はからからと笑う。私たちがそんな会話をしていると。
「最後の一個、もーらいっ!」
エレーヌ王女殿下がミラディア王女殿下のお皿に載っているフィナンシェに手を伸ばそうとした。しかし、ミラディア王女殿下はすぐさま自分の口の中に放り込んだ。
「あ!」
悔しそうにするエレーヌ王女殿下の一方、ミラディア王女殿下はしてやったり顔だ。
「ケチっ!」
「わたくしの大好物を取ろうとするからよ」
「ケチっ! 私だって好きなのに」
リーチェがエレーヌ王女殿下も意外と自分と同じだと言っていた。けれど、この子供っぽさは姉に対する甘えかもしれない。これが一般的な姉妹なのだろうか。では私とリーチェの関係は一体何なのだろう。母が違うとは言え、父は一緒なのに、姉妹仲は決して良いとは言えない。
リーチェは私が7歳、彼女が5歳の時にトラヴィス侯爵家に入った。つまり父は私の実の母が亡くなる前から、義母と関係があったということになる。私と母からすれば、父と義母の関係は裏切り行為だ。
しかし一方で、義母は彼女が生まれてからの5年間、私たち母娘への恨み言をリーチェに囁きながら育てたのだろうか。彼女は初めて会った時から私に敵愾心を見せていた。もしそうならば、彼女は国王陛下の駒である以前に、義母の駒だったのかもしれない。
何気なく私がリーチェに視線を流すと、彼女は機嫌良さそうにお菓子を食べている姿が見えた。
彼女が義母の駒だったとしても、そうでなかったとしても、彼女の心に芽吹いた私への悪意はもう摘み取ることができないだろう。私たちの道が交わることは決してない。
私はエレーヌ王女殿下に向き直った。
「エレーヌ王女殿下、よろしければわたくしのフィナンシェをどうぞ」
姉妹仲の良さを微笑ましくも羨ましくも思った私は、エレーヌ王女殿下へとお皿を差し出す。
「まあ! いいの? ありがとう! 喜んで頂くわ」
「こら、エレーヌ! 人様の物を頂くなんて、はしたないでしょう」
「いいえ。大丈夫です。どうぞ」
「ありがとう。アリシア嬢!」
「ごめんなさいね、アリシア。わたくしが大人げなかったわ」
ミラディア王女殿下は申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「いいえ。大丈夫です。エレーヌ王女殿下のお喜びの笑顔が見れただけで光栄です」
「ふふっ。ありがとう。それにしてもアリシア、やっぱりお茶の淹れ方が気になるもの? 先ほどからお茶を淹れる侍女ばかり見ているじゃない」
「はい。本日はわたくしが淹れる予定でしたから」
「ええ、ええ。目つきが厳しい指導官のそれだったわよ。そんな目で見たら侍女が萎縮しちゃうわよ?」
「あ、そうですね。失礼いたしました」
ミラディア王女殿下はくすくすと笑う。
その笑顔が今の私には儚く見えて、胸が締め付けられる。――いいえ。今度こそは私がミラディア王女殿下を助けてみせる。
心の中で決意しているとお茶が運ばれてきた。
「え? あ――はい」
ミラディア王女殿下の呼びかけにようやく気がついた私は、慌てて返事した。
私はまた事件が起こる前に戻ったらしい。今回は既にお茶会が始まっており、お茶を淹れている侍女、ダリアさんの姿が見えた。また、私の腕に包帯が巻かれているのも確認できる。
つまり、もうお茶会を欠席するという手段も取れなくなってしまっていた。
「失礼いたしました。前日緊張でよく眠れなかったものですから」
「そんなに? ああ、じゃあ、その怪我も? 今朝、ベッドから落ちたと言っていたでしょう」
「そうなのです。ぼんやり考え事をしていたらうっかりと」
私は強張った笑顔を見せた。
「へえ。あなたでも緊張することがあるのね。もっと神経が図太いのかと思っていたわ」
「まあ! 怒りますよ、ミラディア王女殿下」
「ごめんなさい。冗談よ」
ミラディア王女殿下はからからと笑う。私たちがそんな会話をしていると。
「最後の一個、もーらいっ!」
エレーヌ王女殿下がミラディア王女殿下のお皿に載っているフィナンシェに手を伸ばそうとした。しかし、ミラディア王女殿下はすぐさま自分の口の中に放り込んだ。
「あ!」
悔しそうにするエレーヌ王女殿下の一方、ミラディア王女殿下はしてやったり顔だ。
「ケチっ!」
「わたくしの大好物を取ろうとするからよ」
「ケチっ! 私だって好きなのに」
リーチェがエレーヌ王女殿下も意外と自分と同じだと言っていた。けれど、この子供っぽさは姉に対する甘えかもしれない。これが一般的な姉妹なのだろうか。では私とリーチェの関係は一体何なのだろう。母が違うとは言え、父は一緒なのに、姉妹仲は決して良いとは言えない。
リーチェは私が7歳、彼女が5歳の時にトラヴィス侯爵家に入った。つまり父は私の実の母が亡くなる前から、義母と関係があったということになる。私と母からすれば、父と義母の関係は裏切り行為だ。
しかし一方で、義母は彼女が生まれてからの5年間、私たち母娘への恨み言をリーチェに囁きながら育てたのだろうか。彼女は初めて会った時から私に敵愾心を見せていた。もしそうならば、彼女は国王陛下の駒である以前に、義母の駒だったのかもしれない。
何気なく私がリーチェに視線を流すと、彼女は機嫌良さそうにお菓子を食べている姿が見えた。
彼女が義母の駒だったとしても、そうでなかったとしても、彼女の心に芽吹いた私への悪意はもう摘み取ることができないだろう。私たちの道が交わることは決してない。
私はエレーヌ王女殿下に向き直った。
「エレーヌ王女殿下、よろしければわたくしのフィナンシェをどうぞ」
姉妹仲の良さを微笑ましくも羨ましくも思った私は、エレーヌ王女殿下へとお皿を差し出す。
「まあ! いいの? ありがとう! 喜んで頂くわ」
「こら、エレーヌ! 人様の物を頂くなんて、はしたないでしょう」
「いいえ。大丈夫です。どうぞ」
「ありがとう。アリシア嬢!」
「ごめんなさいね、アリシア。わたくしが大人げなかったわ」
ミラディア王女殿下は申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「いいえ。大丈夫です。エレーヌ王女殿下のお喜びの笑顔が見れただけで光栄です」
「ふふっ。ありがとう。それにしてもアリシア、やっぱりお茶の淹れ方が気になるもの? 先ほどからお茶を淹れる侍女ばかり見ているじゃない」
「はい。本日はわたくしが淹れる予定でしたから」
「ええ、ええ。目つきが厳しい指導官のそれだったわよ。そんな目で見たら侍女が萎縮しちゃうわよ?」
「あ、そうですね。失礼いたしました」
ミラディア王女殿下はくすくすと笑う。
その笑顔が今の私には儚く見えて、胸が締め付けられる。――いいえ。今度こそは私がミラディア王女殿下を助けてみせる。
心の中で決意しているとお茶が運ばれてきた。
142
お気に入りに追加
893
あなたにおすすめの小説

【完結】恋を失くした伯爵令息に、赤い糸を結んで
白雨 音
恋愛
伯爵令嬢のシュゼットは、舞踏会で初恋の人リアムと再会する。
ずっと会いたかった人…心躍らせるも、抱える秘密により、名乗り出る事は出来無かった。
程なくして、彼に美しい婚約者がいる事を知り、諦めようとするが…
思わぬ事に、彼の婚約者の座が転がり込んで来た。
喜ぶシュゼットとは反対に、彼の心は元婚約者にあった___
※視点:シュゼットのみ一人称(表記の無いものはシュゼット視点です)
異世界、架空の国(※魔法要素はありません)《完結しました》
(完結)「君を愛することはない」と言われて……
青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら?
この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。
主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。
以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。
※カクヨム。なろうにも時差投稿します。
※作者独自の世界です。

(完結)無能なふりを強要された公爵令嬢の私、その訳は?(全3話)
青空一夏
恋愛
私は公爵家の長女で幼い頃から優秀だった。けれどもお母様はそんな私をいつも窘めた。
「いいですか? フローレンス。男性より優れたところを見せてはなりませんよ。女性は一歩、いいえ三歩後ろを下がって男性の背中を見て歩きなさい」
ですって!!
そんなのこれからの時代にはそぐわないと思う。だから、お母様のおっしゃることは貴族学園では無視していた。そうしたら家柄と才覚を見込まれて王太子妃になることに決まってしまい・・・・・・
これは、男勝りの公爵令嬢が、愚か者と有名な王太子と愛?を育む話です。(多分、あまり甘々ではない)
前編・中編・後編の3話。お話の長さは均一ではありません。異世界のお話で、言葉遣いやところどころ現代的部分あり。コメディー調。

(完結)婚約解消は当然でした
青空一夏
恋愛
エヴァリン・シャー子爵令嬢とイライジャ・メソン伯爵は婚約者同士。レイテ・イラ伯爵令嬢とは従姉妹。
シャー子爵家は大富豪でエヴァリンのお母様は他界。
お父様に溺愛されたエヴァリンの恋の物語。
エヴァリンは婚約者が従姉妹とキスをしているのを見てしまいますが、それは・・・・・・

(完)お姉様、婚約者を取り替えて?ーあんなガリガリの幽霊みたいな男は嫌です(全10話)
青空一夏
恋愛
妹は人のものが常に羨ましく盗りたいタイプ。今回は婚約者で理由は、
「私の婚約者は幽霊みたいに青ざめた顔のガリガリのゾンビみたい! あんな人は嫌よ! いくら領地経営の手腕があって大金持ちでも絶対にいや!」
だそうだ。
一方、私の婚約者は大金持ちではないが、なかなかの美男子だった。
「あのガリガリゾンビよりお姉様の婚約者のほうが私にぴったりよ! 美男美女は大昔から皆に祝福されるのよ?」と言う妹。
両親は妹に甘く私に、
「お姉ちゃんなのだから、交換してあげなさい」と言った。
私の婚約者は「可愛い妹のほうが嬉しい」と言った。妹は私より綺麗で可愛い。
私は言われるまま妹の婚約者に嫁いだ。彼には秘密があって……
魔法ありの世界で魔女様が最初だけ出演します。
⸜🌻⸝姉の夫を羨ましがり、悪巧みをしかけようとする妹の自業自得を描いた物語。とことん、性格の悪い妹に胸くそ注意です。ざまぁ要素ありですが、残酷ではありません。
タグはあとから追加するかもしれません。

逆行令嬢の反撃~これから妹達に陥れられると知っているので、安全な自分の部屋に籠りつつ逆行前のお返しを行います~
柚木ゆず
恋愛
妹ソフィ―、継母アンナ、婚約者シリルの3人に陥れられ、極刑を宣告されてしまった子爵家令嬢・セリア。
そんな彼女は執行前夜泣き疲れて眠り、次の日起きると――そこは、牢屋ではなく自分の部屋。セリアは3人の罠にはまってしまうその日に、戻っていたのでした。
こんな人達の思い通りにはさせないし、許せない。
逆行して3人の本心と企みを知っているセリアは、反撃を決意。そうとは知らない妹たち3人は、セリアに翻弄されてゆくことになるのでした――。
※体調不良の影響で現在感想欄は閉じさせていただいております。
※こちらは3年前に投稿させていただいたお話の改稿版(文章をすべて書き直し、ストーリーの一部を変更したもの)となっております。
1月29日追加。後日ざまぁの部分にストーリーを追加させていただきます。
命がけの恋~13回目のデスループを回避する為、婚約者の『護衛騎士』を攻略する
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<死のループから抜け出す為、今から貴方を攻略させて頂きます。>
全く気乗りがしないのに王子の婚約者候補として城に招かれた私。気づけば鐘の音色と共に、花畑の中で彼の『護衛騎士』に剣で胸を貫かれていた。薄れゆく意識の中・・これが12回目の死であることに気づきながら死んでいく私。けれど次の瞬間何故かベッドの中で目が覚めた。そして時間が戻っている事を知る。そこで今度は殺されない為に、私は彼を『攻略』することを心に決めた―。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

【完結】冷徹公爵、婚約者の思い描く未来に自分がいないことに気づく
21時完結
恋愛
冷徹な公爵アルトゥールは、婚約者セシリアを深く愛していた。しかし、ある日、セシリアが描く未来に自分がいないことに気づき、彼女の心が別の人物に向かっていることを知る。動揺したアルトゥールは、彼女の愛を取り戻すために全力を尽くす決意を固める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる