上 下
17 / 50
二度目の人生

第17話 回帰を確信する

しおりを挟む
 私は今、夢の中で見たはずの光景を見て、同じ体験をしていた。――いや。夢と言うのならば、なぜこんなに明瞭に体が覚えているのだろうか。あれはきっと夢ではなかったのだろう。
 私は一度冤罪で監獄に入れられ、処刑された。そして現在、回帰している。私はそう確信した。

 父に怒鳴られ、王太子殿下に罵られ、ならば次は? 次は――。
 足音が聞こえて振り返る。

「アリシア様!」

 ああ、ほら。
 私を最後まで信じてくれた方。シメオン様だ。……シメオン様。
 私はふらふらとシメオン様に近付き、彼の頬に鉄格子から出した自分の手を当てる。

「シメオン様、シメオン様……シメオン様」
「……え?」

 彼の驚く表情がにじんで見えた。

「――あ。そ、そちらに! ただ今そちらに参りますので!」

 シメオン様が扉を開けて入るや否や、私は彼の胸に飛び込み、彼もまた私をしっかりと抱き留めてくれた。
 彼の温もりと規則的な心音が、私の時間を取り戻してくれたことを知る。
 私は手で涙を拭うと彼からそっと離れた。

「ごめんなさい。わたくし、今とても汚れていたわ。に、臭いだって」
「気になりませんよ。あなたはあなたですから」

 シメオン様は離れた私を再び胸に抱き寄せる。
 私はまた同じ間違いをしてしまった。しかし彼もまた同じ答えを返して、同じ行動をしてくれた。

「ところで、その……。どうして私の名前で呼んでくださったか、お聞きしても?」
「え?」

 私はシメオン様から少し離れ、視線を上げて彼を見た。

「シメオン様がそう呼んでくださいと」
「私がですか?」
「そうで――っ!」

 そうか。名前で呼んでほしいと言われたのはこの牢屋にいる時で、会話がもっと進んだ後のことだった。

「ご、ごめんなさい。わたくしの勘違いでした」

 シメオン様は、謝罪しようとしてうつむく私の顎を取って仰ぎ見させた。

「アリシア様、謝ってほしいわけではないのです。あなたに名前で呼ばれると、勘違いしてしまいそうになるからです。……だからどうか、私のことを名前で呼んでくださる理由をお教えください」

 何物にも染まらないはずの彼の黒い瞳に、小さな赤い炎が映った気がした。私はその熱に浮かされて口を開く。

「っ。わ、わたくしは、ずっとずっと以前からシメオン様のことを心よりお慕いしておりま――」

 嬉しそうに微笑む彼は、私が最後まで言い切らない内に抱き寄せると、熱く深く激しく口づけをした。


 再び会えた彼と離れるのは寂しかったが、今の状況を把握するために尋ねることにした。

「あの、シメオン様、今の状況についてですが」
「はい。ですが、その前にアリシア様にお尋ねしたいことがございます」
「な、何でしょう?」

 彼にしてはやや強引な尋問気味の姿に気圧される。

「その手首の怪我はどうされたのでしょう。尋問した人間があなたを傷つけたのでしょうか」
「あ……これは」

 私は包帯を巻いた自分の手首に触れた。

「お茶会の朝、家でベッドから下りる時に足を滑らせて手首を捻ってしまったのです」
「そうでしたか。どうぞお大事になさってください」

 シメオン様をまとっていた空気が柔らかくなる。怒ってくれていたらしい。

「ええ。お気遣いありがとうございます。あの、シメオン様。それで今の状況についてですが」
「はい」
「わたくしは確かにミラディア王女殿下のすぐ側に座っておりましたが、なぜわたくしが捕まることになったのでしょうか」
「毒を入れたのはミラディア王女殿下の侍女、ダリアという女性です。毒入りの瓶を隠し持っていました。彼女はあなたに脅されて毒を盛るように指示されたと証言しました」
「え!? そんな……」

 状況が前回と変わっている。やはり私が違う行動を取ったからだろうか。

「彼女とは挨拶程度しか話したことがありません。……わたくしを信じていただけますか?」
「もちろんです」

 シメオン様は一瞬の迷いもなく、笑顔で頷いてくれる。
 私はほっとして笑顔を返した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなければ。

月見 初音
恋愛
大国クラッサ王国のアルバト国王の妾腹の子として生まれたアグネスに、婚約話がもちかけられる。 しかし相手は、大陸一の美青年と名高い敵国のステア・アイザイン公爵であった。 公爵から明らかな憎悪を向けられ、周りからは2人の不釣り合いさを笑われるが、アグネスは彼と結婚する。 結婚生活の中でアグネスはステアの誠実さや優しさを知り彼を愛し始める。 しかしある日、ステアがアグネスを憎む理由を知ってしまい罪悪感から彼女は自死を決意する。 毒を飲んだが死にきれず、目が覚めたとき彼女の記憶はなくなっていた。 そして彼女の目の前には、今にも泣き出しそうな顔のステアがいた。 𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷 初投稿作品なので温かい目で見てくださると幸いです。 コメントくださるととっても嬉しいです! 誤字脱字報告してくださると助かります。 不定期更新です。 表紙のお借り元▼ https://www.pixiv.net/users/3524455 𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷

氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む

矢口愛留
恋愛
 ミアの婚約者ウィリアムは、これまで常に冷たい態度を取っていた。  しかし、ある日突然、ウィリアムはミアに対する態度をがらりと変え、熱烈に愛情を伝えてくるようになった。  彼は、ミアが呪いで目を覚まさなくなってしまう三年後の未来からタイムリープしてきたのである。  ウィリアムは、ミアへの想いが伝わらずすれ違ってしまったことを後悔して、今回の人生ではミアを全力で愛し、守ることを誓った。  最初は不気味がっていたミアも、徐々にウィリアムに好意を抱き始める。  また、ミアには大きな秘密があった。  逆行前には発現しなかったが、ミアには聖女としての能力が秘められていたのだ。  ウィリアムと仲を深めるにつれて、ミアの能力は開花していく。  そして二人は、次第に逆行前の未来で起きた事件の真相、そして隠されていた過去の秘密に近付いていき――。 *カクヨム、小説家になろう、Nolaノベルにも掲載しています。

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

処理中です...