あなただけが私を信じてくれたから

樹里

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一度目の人生

第12話 現状把握する

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 互いに離れがたかったが、バーナード卿は私を助けるため、一つでも手掛かりを探りに来てくれたので事情聴取を受けることになった。それと共に現状を教えてもらう。

「ミラディア王女殿下のご容態はいかがでしょうか?」
「症状からでは毒の特定ができず、まずは毒の解明からの治療となり、初期対応が遅れてしまいました。また、椅子から転倒した際に頭を強打されたようで、依然意識不明の状態が続いております」
「っ。ミラディア王女殿下……」

 ミラディア王女殿下にはいつも本当に良くしていただいた。誰にでも気さくで、心優しく、聡明なミラディア王女殿下がこんな形で誰かに害されるなんて、露ほどにも思わなかった。
 口を押える手が震えたが、バーナード卿は私の肩にそっと手を置いた。

「まだ意識は戻られておりませんが、命の危機は脱したとのことです」
「そうですか。良かった……」

 私は気を取り直して話を進める。

「――では、毒はミラディア王女殿下のカップのみに入っていたということですか?」
「ええ、そうです」
「茶器は全て一度温めるためのお湯を入れ、その後、捨てておりますので、仮に最初から毒が入っていたとしても洗い流されているかと。もちろん全て除き切れてはいないと思いますが。しかし何よりもわたくしがお茶を淹れ終わるまで、誰も茶器を触りませんでした」

 お茶の準備は別に用意された小さなテーブルにて皆の前で行い、私の側にはミラディア王女殿下の護衛騎士が付いていた。

「ええ、そうですね。護衛騎士もそう言っていました。また、銀のスプーンで確認するところを見たとも。そこで変化しなかったということは、その瞬間には入っていなかったことになります」

 ということは茶器が運ばれ、王女殿下の口に入るまでに毒が入れられたということだ。確かなことは言えないが、誰かが毒を入れられるような瞬間はなかったように思う。一方、お茶を淹れたのは私だが、運んでくれたのは侍女だ。

「わたくし以外に触った方はお茶を運んでくださった侍女さんですが、ミラディア王女殿下専用のティーカップというものはなく、無作為にお出しされたはずです。また、彼女も毒を入れられるような瞬間はなかったように思います。その彼女の取り調べはいかがでしたか」
「はい。身体検査が行われたのですが、彼女からは何も出ませんでした。一方、アリシア様は」
「……鞄の中から毒物が入った瓶が出てきた」
「お聞きになりましたか。ええ。その通りです」

 真犯人はあの騒ぎに乗じて毒の瓶を私の鞄に放り込んだかもしれないが、おそらく誰もその姿は見ていないだろう。その結果、鞄の中に入った瓶は私が犯人であることを示すのみだ。
 私は重いため息をついた。

「もう少し一緒に考えてみましょう。他に何か気になったことはありませんか?」

 バーナード卿は私の沈んだ気持ちを回生させるべく、穏やかな声で尋ねる。

「気にかかったこと。特に……あ、一つあります。ただ、わたくしが少し引っかかっただけで、関係ないことかもしれません」
「些細な事でも勘違いでも構いません。おっしゃってください」

 私は頷くと気になった点を伝えた。
 王太子殿下からは、ミラディア王女殿下は私がお茶を淹れることを望んでいると聞いていたが、王女殿下は私がお茶を淹れると聞いて楽しみにしていたと話されたことだ。

「ええ。確かに王太子殿下は、ミラディア王女殿下がアリシア様のお茶を望まれてお茶会を開くことになったとおっしゃっていましたね。一方、王女殿下はアリシア様がお茶を淹れると楽しみにされていた、つまりご自分からは要請されなかったということですね」

 バーナード卿は記帳しようとしていたペンを止めている。事件おいて、王族に関わることはたやすく文字に残せないのだろう。

「ええ。わたくしにはそう聞こえました」
「なるほど。では話に食い違いが生じますね」
「……はい」

 普通に考えれば、犯人の狙いはミラディア王女殿下で、お茶を淹れた私がたまたま犯人として仕立て上げられただけのようだが、この言葉の食い違いに意味があったなら、最初から私を犯人にするためにこの計画が立てられたとも考えられる。
 しかし一方で、私を陥れるためだけにミラディア王女殿下の殺害まで考えるだろうか。私が神経質に考えているだけだろうか。

 ――あ。そういえば。

「何かありましたか?」

 私の表情を読み取ったらしい。バーナード卿はすぐに尋ねてきた。

「はい。今回のお茶会は、もしかしたらエレーヌ王女殿下が主催されたものかもしれません。妹とお茶会の約束をされていたようですから。だからそこで勘違いが生じた可能性も」

 とはいえ、もし私が狙いだとしても、エレーヌ王女殿下が私を陥れる理由はない。容疑者として濃厚なのは、私を排除したいリーチェ、そして王太子殿下だろうか。しかし、リーチェがミラディア王女殿下を害する理由もない。姉弟仲も良くはなかったが、王太子殿下がミラディア王女殿下の殺害まで考えるとも思えない。
 分からないことだらけだ。

「エレーヌ王女殿下ですか。……では、その線でも探ってみることにいたします」
「はい。どうぞよろしくお願いいたします」
「承知いたしました。アリシア様、どうかお心を強くお持ちください。必ずアリシア様をお助けいたしますので」
「はい。バーナード卿を信じてお待ちしております」

 私は笑顔で頷いたが、バーナード卿は少し困った表情になる。

「バーナード卿?」
「ええと。私のことを信じてくださるなら、私の名前で……呼んでいただけませんか」
「え!?」
「駄目、でしょうか」
「っ……。い、いいえ」

 こんな時なのに、こんな場所なのに、心と頬が熱くなる。

「で、では。シッ……シメオン様」
「――っ!」

 シメオン様が私に言わせておいて、紅潮したご自分の顔を隠すように彼は私を抱きしめた。

「……シメオン様。お顔を見せてくださいな」
「も、申し訳ありません。アリシア様、必ずまた会いに来ます。それまで」

 そうして私たちはまた少し離れると口づけを交わそうとした。しかし、廊下から人の声が聞こえてきて、私たちは慌てて離れた。
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