9 / 50
一度目の人生
第9話 お茶会から始まる悪夢
しおりを挟む
今日という日に合わせてきたかのように澄み切った青い空の下、ガゼボを取り囲む美しい花々が咲き誇る、まさに絶好のお茶会日和となった。
参加者は、第一王女ミラディア殿下と第二王女のエレーヌ殿下。そして私とリーチェの四人だ。
「今日はお招きいただき、誠にありがとうございます」
私とリーチェはそれぞれスカートを広げて丁重に礼を取り、ミラディア王女殿下とエレーヌ王女殿下にご挨拶する。
「こちらこそ。久々にあなたがお茶を淹れてくれると聞いて、とても楽しみにしていたのよ」
「え?」
「わたくしも楽しみにしておりました。アリシア嬢は、お茶を淹れるのが本当にお上手だとお姉様からお聞きしていましたもの。今日はよろしくお願いいたします」
「――あ、はい。承知いたしました。精一杯努めさせていただきます」
ミラディア王女殿下の言葉に小さな違和感を覚えたが、エレーヌ王女殿下に笑顔でお声がけされて私は頭を垂れた。一方、ミラディア王女殿下はリーチェに視線を移される。
「リーチェ嬢も今日は楽しんでいってちょうだい」
「はい、ありがとうございます。今日という日を本当に心待ちしておりました」
「まあ、それは良かったわ」
本当に嬉しそうに満面の笑みでリーチェは受け答えしていた。
「それでは始めましょう。アリシア、ではお願いね」
ミラディア王女殿下のお言葉からお茶会が始まる。
「はい、承知いたしました」
私たちは美しい景色の中、我ながら上手に淹れることができた香り高いお茶と美味しそうなお菓子の数々を口にし、そしてきっと他愛もない談話に興じるはずだった。
ミラディア王女殿下がカップを口にされるその瞬間までは。
「きゃああああっ!?」
誰が叫んだのだろう。
私だったかもしれない。同席した誰かだったかもしれない。あるいは少し離れて見守っていた侍女たちだったかもしれない。もしかしたらその光景を見た全員だったかもしれない。甲高い声が上がり、辺りは騒然となる。
それもそのはず。
ミラディア王女殿下が震える手で喉を押さえるのが見えたからだ。
「あ、あ、あ……」
ミラディア王女殿下は目を見開いたまま声にならない声を上げ、ぐらりとその体を揺らし、地面に崩れ落ちた。
和やかに進行されていくだろうと思われていたお茶会から一変した惨状に、驚愕と恐怖とが一度に襲ってきて誰もが動くことができない。
しかしようやく我を取り戻すと私は金切り声で叫ぶ。
「ミ、ミラディア王女殿下! 誰か! 誰か! お医者様を! 早くお医者様をお呼びください!」
その声を合図に侍女や騎士たちが駆け寄り、エレーヌ王女殿下が続いて叫んだ。
「お、お姉様! お姉様! しっかりしてください! 誰か! 誰かお姉様を助けてっ!」
そして今。
私は尋問を受けたのち――監獄の中にいる。
参加者は、第一王女ミラディア殿下と第二王女のエレーヌ殿下。そして私とリーチェの四人だ。
「今日はお招きいただき、誠にありがとうございます」
私とリーチェはそれぞれスカートを広げて丁重に礼を取り、ミラディア王女殿下とエレーヌ王女殿下にご挨拶する。
「こちらこそ。久々にあなたがお茶を淹れてくれると聞いて、とても楽しみにしていたのよ」
「え?」
「わたくしも楽しみにしておりました。アリシア嬢は、お茶を淹れるのが本当にお上手だとお姉様からお聞きしていましたもの。今日はよろしくお願いいたします」
「――あ、はい。承知いたしました。精一杯努めさせていただきます」
ミラディア王女殿下の言葉に小さな違和感を覚えたが、エレーヌ王女殿下に笑顔でお声がけされて私は頭を垂れた。一方、ミラディア王女殿下はリーチェに視線を移される。
「リーチェ嬢も今日は楽しんでいってちょうだい」
「はい、ありがとうございます。今日という日を本当に心待ちしておりました」
「まあ、それは良かったわ」
本当に嬉しそうに満面の笑みでリーチェは受け答えしていた。
「それでは始めましょう。アリシア、ではお願いね」
ミラディア王女殿下のお言葉からお茶会が始まる。
「はい、承知いたしました」
私たちは美しい景色の中、我ながら上手に淹れることができた香り高いお茶と美味しそうなお菓子の数々を口にし、そしてきっと他愛もない談話に興じるはずだった。
ミラディア王女殿下がカップを口にされるその瞬間までは。
「きゃああああっ!?」
誰が叫んだのだろう。
私だったかもしれない。同席した誰かだったかもしれない。あるいは少し離れて見守っていた侍女たちだったかもしれない。もしかしたらその光景を見た全員だったかもしれない。甲高い声が上がり、辺りは騒然となる。
それもそのはず。
ミラディア王女殿下が震える手で喉を押さえるのが見えたからだ。
「あ、あ、あ……」
ミラディア王女殿下は目を見開いたまま声にならない声を上げ、ぐらりとその体を揺らし、地面に崩れ落ちた。
和やかに進行されていくだろうと思われていたお茶会から一変した惨状に、驚愕と恐怖とが一度に襲ってきて誰もが動くことができない。
しかしようやく我を取り戻すと私は金切り声で叫ぶ。
「ミ、ミラディア王女殿下! 誰か! 誰か! お医者様を! 早くお医者様をお呼びください!」
その声を合図に侍女や騎士たちが駆け寄り、エレーヌ王女殿下が続いて叫んだ。
「お、お姉様! お姉様! しっかりしてください! 誰か! 誰かお姉様を助けてっ!」
そして今。
私は尋問を受けたのち――監獄の中にいる。
116
お気に入りに追加
790
あなたにおすすめの小説
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む
矢口愛留
恋愛
ミアの婚約者ウィリアムは、これまで常に冷たい態度を取っていた。
しかし、ある日突然、ウィリアムはミアに対する態度をがらりと変え、熱烈に愛情を伝えてくるようになった。
彼は、ミアが呪いで目を覚まさなくなってしまう三年後の未来からタイムリープしてきたのである。
ウィリアムは、ミアへの想いが伝わらずすれ違ってしまったことを後悔して、今回の人生ではミアを全力で愛し、守ることを誓った。
最初は不気味がっていたミアも、徐々にウィリアムに好意を抱き始める。
また、ミアには大きな秘密があった。
逆行前には発現しなかったが、ミアには聖女としての能力が秘められていたのだ。
ウィリアムと仲を深めるにつれて、ミアの能力は開花していく。
そして二人は、次第に逆行前の未来で起きた事件の真相、そして隠されていた過去の秘密に近付いていき――。
*カクヨム、小説家になろう、Nolaノベルにも掲載しています。
(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?
青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。
けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの?
中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
ごめんなさい、お姉様の旦那様と結婚します
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
しがない伯爵令嬢のエーファには、三つ歳の離れた姉がいる。姉のブリュンヒルデは、女神と比喩される程美しく完璧な女性だった。端麗な顔立ちに陶器の様に白い肌。ミルクティー色のふわふわな長い髪。立ち居振る舞い、勉学、ダンスから演奏と全てが完璧で、非の打ち所がない。正に淑女の鑑と呼ぶに相応しく誰もが憧れ一目置くそんな人だ。
一方で妹のエーファは、一言で言えば普通。容姿も頭も、芸術的センスもなく秀でたものはない。無論両親は、エーファが物心ついた時から姉を溺愛しエーファには全く関心はなかった。周囲も姉とエーファを比較しては笑いの種にしていた。
そんな姉は公爵令息であるマンフレットと結婚をした。彼もまた姉と同様眉目秀麗、文武両道と完璧な人物だった。また周囲からは冷笑の貴公子などとも呼ばれているが、令嬢等からはかなり人気がある。かく言うエーファも彼が初恋の人だった。ただ姉と婚約し結婚した事で彼への想いは断念をした。だが、姉が結婚して二年後。姉が事故に遭い急死をした。社交界ではおしどり夫婦、愛妻家として有名だった夫のマンフレットは憔悴しているらしくーーその僅か半年後、何故か妹のエーファが後妻としてマンフレットに嫁ぐ事が決まってしまう。そして迎えた初夜、彼からは「私は君を愛さない」と冷たく突き放され、彼が家督を継ぐ一年後に離縁すると告げられた。
【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。
たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。
その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。
スティーブはアルク国に留学してしまった。
セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。
本人は全く気がついていないが騎士団員の間では
『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。
そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。
お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。
本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。
そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度……
始めの数話は幼い頃の出会い。
そして結婚1年間の話。
再会と続きます。
【完結】恋の終焉~愛しさあまって憎さ1000倍~
つくも茄子
恋愛
五大侯爵家、ミネルヴァ・リゼ・ウォーカー侯爵令嬢は第二王子の婚約者候補。それと同時に、義兄とも婚約者候補の仲という複雑な環境に身を置いていた。
それも第二王子が恋に狂い「伯爵令嬢(恋人)を妻(正妃)に迎えたい」と言い出したせいで。
第二王子が恋を諦めるのが早いか。それとも臣籍降下するのが早いか。とにかく、選ばれた王子の婚約者候補の令嬢達にすれば迷惑極まりないものだった。
ミネルヴァは初恋の相手である義兄と結婚する事を夢見ていたというに、突然の王家からの横やりに怒り心頭。それでも臣下としてグッと堪えた。
そんな中での義兄の裏切り。
愛する女性がいる?
その相手と結婚したい?
何を仰っているのでしょうか?
混乱するミネルヴァを置き去りに義兄はどんどん話を続ける。
「お義兄様、あなたは婿入りのための養子縁組ですよ」と言いたいのをグッと堪えたミネルヴァであった。義兄を許す?許さない?答えは一つ。
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる