放課後高速騎兵隊クラブ

LongingMoon

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二七. エピローグ

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10年が過ぎた。カレンダーには2030という数字が刻まれていた。
真悟と仁美は、ブラジルのアマゾン川河口にあるベレンという都市の北にある街に住んでいた。そこは、フランス領ギアナのクールーというところの近郊の街でもあった。真悟と仁美は、一人の息子と、烏騅が産んだヒナノとその子供たちと生活を共にしていた。
そのあたりには、元々フランス国立宇宙センターロケット発射基地があり、世界中の国が協力して、沖田が待ち望んでいた軌道エレベーター開発を開始していた。軌道エレベーターは、できる限り赤道付近の静止衛星軌道直下に開発する必要があるが、領土、自然環境、政治的安定性、重力の安定性、広大な土地のキープなどの問題があり、世界でも5箇所だけが有力な候補地としてあげられていた。その中で、ブラジルは国をあげてフランスと共に積極的に世界の国々に協力を呼びかけて、エレベーターを作ろうとしていた。日本もそこでの軌道エレベーター開発プロジェクトの中心的存在として、参画することになった。真悟たちは、そのプロジェクトに手を上げた。

 「ただいま、今日はお土産がどっさりあるぞ。貰いもんだけどな」と言いながら真悟が帰ってきた。
 「あらあら、何それ。いびつなのばっかりね。その人参」
仁美が笑った。
 「うん。なんか、売り物にならないからって。僕らの家で飼っている馬たちにでも食わしてやれよって、エンジニアのアルシンドがくれたんだ」
 「じゃあ、久しぶりにキャロットケーキでも作ろうかな」
仁美が人参を見つめながら拳を握り締めた。
 「やったぁ」と、幼稚園に入りたての子供のリョウが、人参のたくさん入った袋を持ち上げようとしたが、重すぎて持ち上がらなかった。
「リョウくん、あなたが可愛がっているノゾミにも、あげておいでよ」
 「うん、わかった」と、リョウは返事をしながら、とびっきり大きい人参を1本だけ持って、馬小屋の方へと走っていった。

 真悟と仁美の二人は高校を卒業して、別々の道を選択した。真悟は軌道エレベーターの研究を推進する宇宙工学の道へ、仁美は獣医の道を選んだ。
 真悟は、大学を卒業後、2年間の修士課程を経て、この軌道エレベータープロジェクトにエントリーして抜擢された。仁美も大学卒業後2年間の修士課程を経て、獣医の資格を取った。そして、交際を続けていた2人は結婚と共に、ほとんど日本の裏側にあるフランス領ギアナのクールーへ移り住むことになった。
軌道エレベーター開発を進める地域には環境アセスメント(環境影響評価)を兼ねて、たくさんの牧場が作られていた。仁美は、そこで獣医をやりながら、主婦と環境保護の仕事に携わるようになった。
 真悟は、烏騅が命を懸けて守った沖田とその沖田の意志みたいなものに感化されて、いつしか人類が協力して軌道エレベーターを作らなくてはならないと思うようになっていた。今生きている人類や烏騅の子孫たちを守っていくために。
リビングの壁には、栗東市中学乗馬クラブ時代の集合写真と頭図高校時代の乗馬班集合写真と烏騅の写真が吊るされていた。
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