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二二. 誘拐事件対策本部
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もちろん、これだけ大規模な犯罪を警察が把握できていないはずはなかった。しかし、万一マスコミから情報がもれるようなことがあれば、事件の暗転直下は否めなかった。それも、この大規模誘拐事件が発生する1ヶ月前から都内の某ホテルの会議室の1室を借りて、出入りするのは名も知られていないが各地の一線で活躍している私服警官が全てで、警察庁や警視庁幹部の出入りは一切なかった。その代わり、テレビ会議システムが導入され、毎日のように対策会議が開かれていた。しかし、その成果は芳しくなかった。
6月も半ば、小雨の中、どこでこの対策本部を嗅ぎつけたのか馬社会の起案者である正田と楠瀬が対策本部に突然やってきた。
テレビ会議の警察幹部に向かって、「あなたたちは何をやっているのですか。こんな誘拐事件くらいで。早く抜本的な対策を打たないと取り返しがつかなくなりますよ」
「だから、こうやって対策会議を開いて、少しずつ成果を上げているではありませんか」
「何を言っているんですか。今回のような政治目的の一連の誘拐事件は検挙率100%であることをいち早く示さなければ、日本は足元から掬われますよ」
「・・・」
「犬を使うのです。それも、嗅覚の優れた優秀な犬を。既に、使われているかもしれませんが、誘拐事件専用の捜査犬部隊を編成するのです。今回発生している誘拐事件は特に馬車を多用しています。ということは、必然的に行動範囲は限られているはずです。ですから、犬と馬と私服警官を組織化するのです。まず、私服警官がいち早く犬の散歩を装って、誘拐された被害者を探し出すのです。そして、身代金要求日時までに潜伏場所を急襲するのです。それから、犯人グループの目的からして、大規模な誘拐事件を引き起こす可能性があります。したがって、それまでに日本だけでなく、世界中から優秀な犬を一時的に借り受けるのです。我々の読みでは、これから半月から1ヶ月が山場だと思います」
7月、期せずして、集団誘拐事件が発生した。既に、捜査犬部隊は作られていた。身代金要求のあった月曜日以前に、ほぼ全誘拐拉致現場は把握されていた。1つの場所に10人以上もの子供たちが拉致されている。それぞれ10匹以上の犬たちが各子供の遺留品を手掛かりに私服警官が捜査すれば造作のないことであった。しかし、例え1場所でも見つけることができなければ、この作戦は成功しない。最後に仁美が拉致されている滋賀県の誘拐拉致現場をどうしても見つけることができなかった。月曜日には、確実に身代金要求を受けるしかない状況だった。日曜日の深夜まで、真悟も仁美の家で飼っていたゴールデンレトルリバーを使って私服の婦警さんと必死で仁美を探した。犯行は、東名、名神高速道路沿いで実行されている。スピード違反捜査をしていた委員長の行動範囲はそれ程広くない。
土曜日に琵琶湖の南東地区で栗東の少し北に位置する名神自動車道の菩提寺パーキングエリアで仁美の馬が乗り捨てられているのが見つかった。そのパーキングエリアの売店での聞き込みで、仁美が黄色い道路公団風の車に乗っていたことが目撃されていた。そして、その車は、名神自動車道から米原ジャンクションを越えて北陸自動車道の神田パーキングエリアに乗り捨てられていたことがわかったのは、土曜日の夜だった。日曜日の朝から、真悟は私服の婦警さんと仁美の愛犬とで車が乗り捨てられていた神田パーキングエリアで聞き込みを行なったが、そこから先の足取りがつかめなかった。
聞き込みを続けているとお昼近くになって、とある出店のバイトの女の子が、下り方面の馬車に眠った状態の女子高校生を乗せていた2人組みの中年男女がいたことを聞き出した。犯人グループは、神田パーキングエリアの下りに予め馬車を用意していたのであった。その結果、どうやら3人は下りの伊吹パーキングエリアで、最後に姿を消したようであるところまで突き止めた。滋賀県内では、もちろん他に誘拐された子供たち9人の足取りを追っていた。他の子供たちの行く方のベクトルも伊吹山に向いていることがわかってきた。伊吹山は観光シーズンであり、日曜日の午後、登山観光客を装って多くの犬連れの捜査員がさまよい歩いた。真悟は烏騅に乗って、仁美のゴールデンレトルリバーと伊吹山をさまよった。
そして、夜7時過ぎに、仁美のゴールデンレトルリバーがとある山小屋を見つけた。その時、辺は薄暗くなっていた。真悟はすぐにでも、仁美を助けに行きたかったが、この事件は全国一斉に救出作戦を成功させなければ、他で誘拐された子供たちの命の保証のないことを理解していた。
それから、真悟たちは大急ぎで対策本部のある大津へ舞い戻った。帰りは、車の出動を許可されている自衛隊の車両へ乗せてもらった。
月曜日朝、犯人から身代金の要求に関する具体的指示が始まった。12箇所の各誘拐拠点の被害者代表がそれぞれ2000万円以上の金を集め、決められた菓子箱を決められた菓子袋に入れて準備しておくこと。受け渡しは、夕方指示するとのことであった。
再び、夕方17:00に犯人たちから電話で指示があった。
「17:30に各拠点で決められた駅の決められた番号のコインロッカーに、拠点の代表者が2000万円以上の金が入った菓子袋を入れておくように」と。
鍵の受け渡しは別途指示するとのことであった。しかし、被害者の家族が、その後いくら待っても犯人グループからの連絡はなかった。
犯人グループは予め決めていたコインロッカーの合鍵をすでに偽造しており、18:00には、菓子袋を引き出していた。コインロッカーの合鍵は簡単に作ることはできなかったが、彼らはネットの闇合鍵サイトで1月以上前に、作成していた。そして、監視カメラ対策として、これもネットサイトで決して顔を合わせることのない運び屋まで雇っていた。
警察も、菓子箱にGPSなどの場所を特定する装置を入れて置くことはできなかったが、紙幣に訓練された犬にしかわからない臭いをすり込んで運び屋から100m以内には近づかないように尾行し続けた。
しかし、どの運び屋も途中から予め駐馬場に留めてあった馬に乗り、高速道路に入っていった。そして、予め決められた場所から菓子袋を高速道路の外へ投げ捨てた。もちろん、そこには真犯人が待ち構えていた。各地でこの瞬間がトリガーになって、月曜日中に各地の拉致現場1km周囲を包囲していた1000頭以上のジャパニーズ保安官部隊ならびに乗馬クラブが一斉に人質救出に向かった。現金入りの菓子箱を受け取った犯人に対しては、すでに高速道路の下道を特殊訓練された犬と私服のジャパニーズ保安官部隊がセットになって、しっかり詰めていた。
月曜日の夕方から、真悟たちは、仁美のいる伊吹山の山小屋の包囲網に加わっていた。人質のいる山小屋は見渡しが良く、山小屋から約2km離れた森林地帯に包囲網を敷いた。滋賀県のジャパニーズ保安官部隊はもちろんのこと、滋賀県中の乗馬クラブから5000頭以上の馬が集まってきてくれていた。また、北海道の帯広から、仁美が誘拐されたことを聞きつけたともちゃんたちも日本海経由の船で馬を乗せてやってきてくれていた。夜、頭図乗馬支援クラブ株式会社とジャパニーズ保安官部隊は、人質救出作戦について話し合った。
「ここでの、人質救出は少しやっかいだな」
頭図乗馬支援クラブ株式会社代表として、船木が返事した。
「そうですね。包囲網から山小屋まで距離が離れていて、見晴らしが良すぎますね」
保安官部隊の隊長の表情は険しさを増していた。
「夜中に暗闇の中、一気に攻め落とすか」
「いや、それは危険でしょう。奴らは、すでに身代金回収者が失敗していることを認識していると見なければならないでしょう。人質も、1人や2人じゃないから、何をしでかすかわからないでしょう。ここは、奴らに戦闘意識を失わせた上で、説得するというのが上策だと思いますが」
「ううん。それはいいが、いったいどうやって」
「かなり古い作戦ですが、夜の間に小屋の周囲を遠目からみてもわかるように旗ざし物を目一杯たてて、朝には5000頭を超える馬がいるように見せかけて、とてもじゃないけど包囲網を突破できないという意識を与えるのです。その上で、今回の誘拐事件の状況を説明し、比較的軽い刑罰になるので人質を解放し出頭することを奨めるのです。今回の事件で、人死は全くなく、黒幕がいてその陰謀によって、ここの犯人は動かされていることも認識しているので、刑罰が軽くなるようなことを言って出頭の説得工作を図るのです」
「よし、それで行こう。他の地域の人質は解放され犯人たちも逮捕されている。京都や岐阜の連中にも手伝ってもらって、旗ざし物を準備しよう」
朝明るくなって、犯人グループが外を見回すと、旗ざし物や馬の声で優に1万人以上の馬による包囲網がしかれているように見え、犯人たちの戦意はほとんど消え失せてしまっていた。
火曜日、朝7時、ジャパニーズ保安官部隊隊長の拡声器による説得工作が始まった。
即座に、人質が全員解放された。
子供たちの最後尾に仁美の姿が見えた。
「さあ、みんな、あそこにおかあさんたちが待ってるよ。早く行きなさいと、後ろからけしかけた」
走り出した子供たちを見守る仁美の視線の先には、真悟やともちゃんの姿があった。
仁美の責任感と緊張の糸はプッツリと切れ、子供たちの後ろから涙を流しながら走り出した。
「しんごー」
真悟も走り出した。
「ひとみー」
2人が周りの視線もはばからず、抱き合うまで、30秒もかからなかった。
そして、その2人を仁美の両親、ともちゃんや船木などあちこちから集まった乗馬クラブの面々が取り囲んだ。長い2人の抱擁のあと、仁美は両親とも抱き合った。
それから、仁美を助けにきてくれたともちゃんや船木先輩など乗馬クラブの仲間たち1人1人と握手を交わした。
そして、何度も、何度も「ありがとう」の言葉を繰り返した。
東名・名神一斉誘拐事件は、こうして解決することができた。
誘拐犯のなかには、仁美を拉致したグループの女がいた。しかし、今回逮捕された犯人の中には指名手配されていた誘拐犯の親玉の男の姿はなかった。
その後、馬による窃盗や誘拐事件は、ほとんどなくなった。
6月も半ば、小雨の中、どこでこの対策本部を嗅ぎつけたのか馬社会の起案者である正田と楠瀬が対策本部に突然やってきた。
テレビ会議の警察幹部に向かって、「あなたたちは何をやっているのですか。こんな誘拐事件くらいで。早く抜本的な対策を打たないと取り返しがつかなくなりますよ」
「だから、こうやって対策会議を開いて、少しずつ成果を上げているではありませんか」
「何を言っているんですか。今回のような政治目的の一連の誘拐事件は検挙率100%であることをいち早く示さなければ、日本は足元から掬われますよ」
「・・・」
「犬を使うのです。それも、嗅覚の優れた優秀な犬を。既に、使われているかもしれませんが、誘拐事件専用の捜査犬部隊を編成するのです。今回発生している誘拐事件は特に馬車を多用しています。ということは、必然的に行動範囲は限られているはずです。ですから、犬と馬と私服警官を組織化するのです。まず、私服警官がいち早く犬の散歩を装って、誘拐された被害者を探し出すのです。そして、身代金要求日時までに潜伏場所を急襲するのです。それから、犯人グループの目的からして、大規模な誘拐事件を引き起こす可能性があります。したがって、それまでに日本だけでなく、世界中から優秀な犬を一時的に借り受けるのです。我々の読みでは、これから半月から1ヶ月が山場だと思います」
7月、期せずして、集団誘拐事件が発生した。既に、捜査犬部隊は作られていた。身代金要求のあった月曜日以前に、ほぼ全誘拐拉致現場は把握されていた。1つの場所に10人以上もの子供たちが拉致されている。それぞれ10匹以上の犬たちが各子供の遺留品を手掛かりに私服警官が捜査すれば造作のないことであった。しかし、例え1場所でも見つけることができなければ、この作戦は成功しない。最後に仁美が拉致されている滋賀県の誘拐拉致現場をどうしても見つけることができなかった。月曜日には、確実に身代金要求を受けるしかない状況だった。日曜日の深夜まで、真悟も仁美の家で飼っていたゴールデンレトルリバーを使って私服の婦警さんと必死で仁美を探した。犯行は、東名、名神高速道路沿いで実行されている。スピード違反捜査をしていた委員長の行動範囲はそれ程広くない。
土曜日に琵琶湖の南東地区で栗東の少し北に位置する名神自動車道の菩提寺パーキングエリアで仁美の馬が乗り捨てられているのが見つかった。そのパーキングエリアの売店での聞き込みで、仁美が黄色い道路公団風の車に乗っていたことが目撃されていた。そして、その車は、名神自動車道から米原ジャンクションを越えて北陸自動車道の神田パーキングエリアに乗り捨てられていたことがわかったのは、土曜日の夜だった。日曜日の朝から、真悟は私服の婦警さんと仁美の愛犬とで車が乗り捨てられていた神田パーキングエリアで聞き込みを行なったが、そこから先の足取りがつかめなかった。
聞き込みを続けているとお昼近くになって、とある出店のバイトの女の子が、下り方面の馬車に眠った状態の女子高校生を乗せていた2人組みの中年男女がいたことを聞き出した。犯人グループは、神田パーキングエリアの下りに予め馬車を用意していたのであった。その結果、どうやら3人は下りの伊吹パーキングエリアで、最後に姿を消したようであるところまで突き止めた。滋賀県内では、もちろん他に誘拐された子供たち9人の足取りを追っていた。他の子供たちの行く方のベクトルも伊吹山に向いていることがわかってきた。伊吹山は観光シーズンであり、日曜日の午後、登山観光客を装って多くの犬連れの捜査員がさまよい歩いた。真悟は烏騅に乗って、仁美のゴールデンレトルリバーと伊吹山をさまよった。
そして、夜7時過ぎに、仁美のゴールデンレトルリバーがとある山小屋を見つけた。その時、辺は薄暗くなっていた。真悟はすぐにでも、仁美を助けに行きたかったが、この事件は全国一斉に救出作戦を成功させなければ、他で誘拐された子供たちの命の保証のないことを理解していた。
それから、真悟たちは大急ぎで対策本部のある大津へ舞い戻った。帰りは、車の出動を許可されている自衛隊の車両へ乗せてもらった。
月曜日朝、犯人から身代金の要求に関する具体的指示が始まった。12箇所の各誘拐拠点の被害者代表がそれぞれ2000万円以上の金を集め、決められた菓子箱を決められた菓子袋に入れて準備しておくこと。受け渡しは、夕方指示するとのことであった。
再び、夕方17:00に犯人たちから電話で指示があった。
「17:30に各拠点で決められた駅の決められた番号のコインロッカーに、拠点の代表者が2000万円以上の金が入った菓子袋を入れておくように」と。
鍵の受け渡しは別途指示するとのことであった。しかし、被害者の家族が、その後いくら待っても犯人グループからの連絡はなかった。
犯人グループは予め決めていたコインロッカーの合鍵をすでに偽造しており、18:00には、菓子袋を引き出していた。コインロッカーの合鍵は簡単に作ることはできなかったが、彼らはネットの闇合鍵サイトで1月以上前に、作成していた。そして、監視カメラ対策として、これもネットサイトで決して顔を合わせることのない運び屋まで雇っていた。
警察も、菓子箱にGPSなどの場所を特定する装置を入れて置くことはできなかったが、紙幣に訓練された犬にしかわからない臭いをすり込んで運び屋から100m以内には近づかないように尾行し続けた。
しかし、どの運び屋も途中から予め駐馬場に留めてあった馬に乗り、高速道路に入っていった。そして、予め決められた場所から菓子袋を高速道路の外へ投げ捨てた。もちろん、そこには真犯人が待ち構えていた。各地でこの瞬間がトリガーになって、月曜日中に各地の拉致現場1km周囲を包囲していた1000頭以上のジャパニーズ保安官部隊ならびに乗馬クラブが一斉に人質救出に向かった。現金入りの菓子箱を受け取った犯人に対しては、すでに高速道路の下道を特殊訓練された犬と私服のジャパニーズ保安官部隊がセットになって、しっかり詰めていた。
月曜日の夕方から、真悟たちは、仁美のいる伊吹山の山小屋の包囲網に加わっていた。人質のいる山小屋は見渡しが良く、山小屋から約2km離れた森林地帯に包囲網を敷いた。滋賀県のジャパニーズ保安官部隊はもちろんのこと、滋賀県中の乗馬クラブから5000頭以上の馬が集まってきてくれていた。また、北海道の帯広から、仁美が誘拐されたことを聞きつけたともちゃんたちも日本海経由の船で馬を乗せてやってきてくれていた。夜、頭図乗馬支援クラブ株式会社とジャパニーズ保安官部隊は、人質救出作戦について話し合った。
「ここでの、人質救出は少しやっかいだな」
頭図乗馬支援クラブ株式会社代表として、船木が返事した。
「そうですね。包囲網から山小屋まで距離が離れていて、見晴らしが良すぎますね」
保安官部隊の隊長の表情は険しさを増していた。
「夜中に暗闇の中、一気に攻め落とすか」
「いや、それは危険でしょう。奴らは、すでに身代金回収者が失敗していることを認識していると見なければならないでしょう。人質も、1人や2人じゃないから、何をしでかすかわからないでしょう。ここは、奴らに戦闘意識を失わせた上で、説得するというのが上策だと思いますが」
「ううん。それはいいが、いったいどうやって」
「かなり古い作戦ですが、夜の間に小屋の周囲を遠目からみてもわかるように旗ざし物を目一杯たてて、朝には5000頭を超える馬がいるように見せかけて、とてもじゃないけど包囲網を突破できないという意識を与えるのです。その上で、今回の誘拐事件の状況を説明し、比較的軽い刑罰になるので人質を解放し出頭することを奨めるのです。今回の事件で、人死は全くなく、黒幕がいてその陰謀によって、ここの犯人は動かされていることも認識しているので、刑罰が軽くなるようなことを言って出頭の説得工作を図るのです」
「よし、それで行こう。他の地域の人質は解放され犯人たちも逮捕されている。京都や岐阜の連中にも手伝ってもらって、旗ざし物を準備しよう」
朝明るくなって、犯人グループが外を見回すと、旗ざし物や馬の声で優に1万人以上の馬による包囲網がしかれているように見え、犯人たちの戦意はほとんど消え失せてしまっていた。
火曜日、朝7時、ジャパニーズ保安官部隊隊長の拡声器による説得工作が始まった。
即座に、人質が全員解放された。
子供たちの最後尾に仁美の姿が見えた。
「さあ、みんな、あそこにおかあさんたちが待ってるよ。早く行きなさいと、後ろからけしかけた」
走り出した子供たちを見守る仁美の視線の先には、真悟やともちゃんの姿があった。
仁美の責任感と緊張の糸はプッツリと切れ、子供たちの後ろから涙を流しながら走り出した。
「しんごー」
真悟も走り出した。
「ひとみー」
2人が周りの視線もはばからず、抱き合うまで、30秒もかからなかった。
そして、その2人を仁美の両親、ともちゃんや船木などあちこちから集まった乗馬クラブの面々が取り囲んだ。長い2人の抱擁のあと、仁美は両親とも抱き合った。
それから、仁美を助けにきてくれたともちゃんや船木先輩など乗馬クラブの仲間たち1人1人と握手を交わした。
そして、何度も、何度も「ありがとう」の言葉を繰り返した。
東名・名神一斉誘拐事件は、こうして解決することができた。
誘拐犯のなかには、仁美を拉致したグループの女がいた。しかし、今回逮捕された犯人の中には指名手配されていた誘拐犯の親玉の男の姿はなかった。
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