放課後高速騎兵隊クラブ

LongingMoon

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四. 馬

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 基本的に、真悟の家族は何があっても、基本的に仲がよくて、その日の夜もテレビを見ながら家族団欒で夕食を摂っていた。真悟が、栗東の中学校に入学した週の土曜日の夜のことだった。
 「なんだぁ、今度の総理大臣は。これまでの政治家も無茶苦茶やったけど、桁違いというより100乗くらい言ってることとやってることが無茶苦茶やな、母さん。おもろいけど」
 「何言ってんの。アンタもたいがい無茶苦茶よ。ねぇ、真悟」
 「うん。でも、ボクも結構無茶苦茶かも。父さんの血を引いて。父さんも、母さんも、よく聞いて欲しいんだ。この1週間ボクなりに、いろいろ考えたんだ。ボクは小学校時代は、平々凡々なサッカー好き少年だったんだけど、無茶苦茶な父さんによく見に連れていって貰った競走馬もホントは好きだったんだ。最初、この栗東という街に行く話を聞いた時、何も知らなかったんだけど、この1週間でこの街は競走馬の現在のメッカだったんだということを知ったんだ。サッカーはどこでもできるんだけど、乗馬はどこでもとうわけにはいかないんだ。だから、ボクはこの街で乗馬をやる決心をしたんだ。もちろん、ボクも中学生だからウチの経済状況はわかっているし。だから、栗東のどこかの厩舎でアルバイトをしながら乗馬をやりたいんだ。もちろん、勉強もするよ」
 「よくぞ言った。オレの狙い通りだ。オレがすぐに最高の厩舎を見つけてやろう」
 「あなた、何を言っているの。真悟は、まだ中学生なのにアルバイトなんて、学校が認めてくれる訳ないわ」
 「いや、おまえも、さっきの沖田の記者会見を見ただろう。これから先の世の中はどうなるのか見えないんだよ。中学生って言ったって、戦国時代なら元服して自分の生き方を決めるのは当たり前だったんだぜ」
 「そんな厩舎のアルバイトなんて、たいへんで勉強する暇なんて、なくなっちゃうわよ。私は、せめて真悟を塾に行かせてあげるために、やったこともないスーパーのレジ打ちをやることにしたのに」
 「オレを信じろ。塾なんていくより、厩舎のバイトやりながら、馬術をやった方が自分のためにもなるし、これからの日本のためにもなるんだぜ」
 「・・・」
テレビで何の根拠もないまま、沖田を非難する政治評論家達の論評の声だけが虚しく鳴り響く以外、家族の団欒は沈黙のまま時間が過ぎ終了した。ただ、ぼくらの家族に悲壮感はなく、母親を含めてこれから先、何の根拠もなく明るい未来が待っているとしか思えなかった。
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