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ローレシアン王国鎮圧編
セイ
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王都中央城内に着陸した俺たちは
次々の駆け寄ってくるメイドや兵士たちの大歓声に迎えられる。
「まだ、鎮圧は序盤なんですけどねぇ……ここで喜ばれても……」
何とも言えないアルデハイトが髪をかきながら、人波をかき分けていく。
後ろを行くマイカと、先頭のアルデハイトに守られるように俺は進んで行く。
こういう光景、動画やテレビで見たことあるわ。
大事件に巻き込まれた人に迫るマスコミ群。みたいな感じだ。
時々握手を求められたりしながら、俺たちは人波をかき分けて、何とか城内に入る。
まだついてこようとする人たちには、マイカが妖しく手を振り回し
謎の催眠術をかけ通路に横に並ばせ、人間の壁にする。
「なにそれ……」
「……最近……覚えた……楽しいぞ……」
ニヤニヤしているマイカの催眠術によって壁になった人たちが
その後ろから迫り来ようとしている人たちをブロックしているうちに
俺たちは素早く脇道に入り、隠しエレベーターに乗る。
「……まずは……女王に……戦勝報告から……だ……」
相変わらず覚えられないが、
このエレベーターは以前に乗った女王執務室への直通のものだったらしい。
「素早く動きすぎる我々も悪いのですが、いい加減
王国側もこちらを常時補佐する態勢を整えてほしいですね」
人々から掴まれてヨレヨレになった服を直しているアルデハイトが愚痴る。
「……無理……言うな……内戦……中……」
「んー、落ち着いたら、ちょっと考えてもらいましょうか」
「……それがいい……」
アルデハイトを諭したマイカは、エレベーターの扉が開いてすぐに通路へと出た。
そのまま早歩きで、展示品の飾られている通路を抜け、女王執務室の扉を開ける。
「あ……」
部屋の隅の大きなデスクに座って、書類の山に判子を押していたミサキが
こちらを見て、すぐに嬉しそうな顔で駆け寄ってくる。
アルデハイトは跪き、マイカと俺も続く。
「謀反人ラングラール一党は、ここに控える、我が主タジマと我々その配下が捕えました」
アルデハイトは跪いたまま、左手を広げて、後ろに控える俺たちを指し示す。
「……報告は受けました。女王として何よりも感謝いたします」
胸を張って、毅然とした態度でミサキは俺たちに感謝を述べてくる。
「少し、タジマ様とお話があるので、外して貰って良いですか」
「もちろんです」
アルデハイトとマイカは一礼すると、素早く扉を開けて出て行った。
うん。お前ら……ここまで想定内で連れてきたよね。そうだよね。
何も考えてなかった俺が茫然としていると
二人が出て行くのを見届けたミサキが俺に抱き着いてくる。
「心配しました。こんなにも早く、ラングラール軍を倒すだなんて……
……大好きです」
頬にキスをされて、戸惑う俺を女王はソファに誘う。
「魔族の女を捕えたとか……」
「ですね。中々強いやつでしたよ」
「お怪我はありませんか?お仲間に負傷者は?」
身体を寄せ、上目遣いで綺麗な顔を近づけ心配してくるミサキに
俺は胸がドキドキしている。
戦場での異常な高揚感のあとに、性的な興奮はダメだ。
これ、ちょっと……やば……も、だめ……かも……。。
本能の赴くままに、ミサキの背中に、腕を回しかけたその時
「バンッ」と大きな音をさせ、扉を開け、軍服を着た大老ミイが入ってくる。
セ、セーフ……。あぶねぇ、一線超える直前だったわ。
ホッとしていると
大老ミイは、ソファで寄り添っている俺たちに気付いて
「大変失礼しました。しかし、問題が発生していまして……」
何とか居住まいを正した俺に近寄ってくる。
「どうしたんですか?」
必死にまじめな顔を作って言うと
「捕えた魔族が『流れ人と会わせねば舌を噛み切る』とさっきから牢の中で叫んでいます……」
ミサキは口を押さえて、驚いた顔をしながら
「タカユキ様が会いにいって大丈夫でしょうか?」
そう俺たちを見回して心配した顔をする。
「……とりあえず行きましょうか」
「私も行きます!!」
「いえ、女王様はここに居られてください。危険です」
いきり立ったミサキは大老ミイに遮られて、真っ赤な顔をして抗議する。
「私だって、皆と一緒にいたいのです!!」
困った顔のミイは、俺に助けを求める。
俺は二人の顔を見比べ、少し考えてから
「アルデハイトとマイカに護衛させたらどうでしょうか?」
とミイに提案してみる。ミイは真面目な顔で暫く考え込んで
「護衛の件、よろしくお願いします。私も同行いたします」
と頭を下げてきた。
水色のドレスに毛皮のコートを羽織ったミサキと、落ち着いたローブ姿の大老ミイ
さらに俺の三人が部屋から出てくると
アルデハイトとマイカがうやうやしく頭を下げる。
そして、すぐにミサキを中心にして、他の四人が囲む形で、
隠しエレベーターの扉を開け、乗り込む。
乗り込むとマイカがパネルを開けて、何やら勝手に操作を始めた。
「大老様。やはり地下ですかね」
「……本来なら部外秘で、ましてや、他種族に絶対に知られてはならないのですが……」
降下していくエレベータの中で、ミイはアルデハイトの顔を見上げながら
「まぁ、魔族とは言え、信用しましょう。貴方もタジマ様の大事な配下でしょうし」
「城のずっと地下……中央山のさらに地下の、厳重封印室という場所です」
「……らじゃ……移動するように……セットする……」
マイカがやろうとしたミイを遮って、パネルのボタンを高速で打ち始める。
「この方は人間ではないのですか?」
ワンテンポ遅れて、ミイの会話の内容に気付いたミサキが驚いた顔で
アルデハイトを見る。確かに角と翼が無ければ
綺麗な顔も半分前髪に隠れているし、長身だが猫背だしで、魔族には見えないわな。
手足が長く、姿勢の悪い兄ちゃんにしか見えない。
アルデハイトはニッコリ微笑むと、うやうやしくお辞儀をして
「そうなのですよ。魔族です。タジマ様のお世話をさせて頂いてます」
「……魔族も悪い人ばかりではないのですね」
純粋な目でミサキはアルデハイトに答え、アルデハイトが何故か頬を赤らめる。
照れているのか。
パネル操作を終えたマイカは暇そうにしながら
ミサキを振り向いてジーッと上から下まで見つめる。
「……下僕にするには……いや……ダメだ……もっと……面白い……やつ……」
と怪しく呟いていたので、睨んで釘をさす。
延々と降下していくエレベーターの扉がやっと開く。
薄暗い倉庫内のような、電灯に照らされた
鉄壁が通路が奥へと伸びている冷たい雰囲気の場所だ。
「この少女は何者なのですか?行き方を知っているはずは……」
大老ミイが、目を丸くしてマイカを見つめる。
「さぁ……?アルデハイト分かる?」
「私にも未だによくわかりません。筋肉の付き方や骨格は普通の人間ですね。
正常な十五歳前後の人間女性です」
アルデハイト両手を広げ、肩を竦める。
俺はマイカについてはもう色々と考えるのを止めた。
ある程度好きにさせておけば、助けになってくれるしそれでいい。
「……私とは……誰だろう……それ……人類……永遠の課題……」
マイカはいつものごとく、意味不明なことを呟いてから、
怪しい笑いを浮かべ、スタスタと奥へと歩き始めた。
「何のお話ですか?」
ミサキが興味津々な顔で割り込んできて、
「いえ。何でもありませんよ。ささっ行きましょう」
と大老ミイが誤魔化し、ミサキの手を引いて奥へと進み始める。
しばらく薄暗い通路を進むと、突き当たりの壁に頑丈そうな扉があり
ミイは、扉の脇に付いたボタンを押し、開ける。
またオーバーテクノロジーである。
マシーナリー提供の技術だな、と思いながら俺はミイたちと共に奥へと入る。
出迎えた数人の衛兵たちに案内され、更に進んで行くと、
所々凹んだ鉄壁に囲まれた何もない個室が分厚い強化ガラスの先に見えて
そこには騒いで暴れている黒いスポーツブラとショーツ姿の
頭から角を二本生やした銀髪美人が居る。
確かに捕えた魔族の女だ。セイとか言ったか。
こちらを見つけ、さらに激しく何かを叫んでいることは分かるが
強化ガラスに遮られて良く聞こえない。
「暴れていて手がつけられないのです。舌を噛むと何度も脅してきますし……」
「我々は、彼女の要望に出来る限り従おうとしたのですが……」
と担当の兵士たちは大老ミイに困惑を隠さない。
それを聞きながらアルデハイトはコートのポケットから取り出した
折り畳まれていた虹色のレインコートを伸ばして羽織って
フードを被りながら
「偽装はこの程度で良いでしょう。若い個体ですからね。
これで近寄っても私が魔族だとは、見破れません」
と呟き、俺に窓へと近づくように促す。
すでにマイカが顔を窓にくっつけて、セイを眺めている。
「……なかなか……いい……下僕……したい……」
いつものごとく下僕の下調べを始めているマイカは放置して
俺は兵士から渡された牢の中に繋がっている受話器を
手にとって中へと話しかける。
「流れ人のタジマだが、何か用か」
「おまえがあああ!!!私をとらえた流れ人かああああ!!!」
うるさい。しかも怖い。俺は一旦受話器の通話口を遮って後ろを振り向き
大老ミイや仲間たちに目線でアドバイスを求める。
ミサキは、こちら側の横壁の近くまで下がって、恐々と
自分を囲う兵士たちの陰から
銀髪を振り乱して、強化ガラスの向こうで暴れまわるセイを見ている。
フードを目深に被ったアルデハイトが
「要求を聞いてください」
アドバイスしてきて、俺は頷き、再び受話器を耳に当てる。
「要求は何だ。言われた通り、俺はここにきたぞ」
「ただちにいいいいいい!!!私を解放してこの国を引き渡せ!!」
そこでつい俺は、思ったことを言ってしまう。
「お前、バカだろ」
「……な、なんてこというんだ……」
暴れていたセイは、動きを止めて強化ガラス越しに受話器を手にもつ俺を見る。
「よく考えてみろ。お前は囚われているが
ここの兵士さん達は大切に扱おうとしてくれているだろ。
それがどういうことかまずは考えろ」
「……」
絶句した顔のセイにさらに
「お前ら魔族は同胞の命をすごく大切にする。
そしてそれは俺たち人間も良く知っている。ということはだな
つまり、お前は、北に居る魔族軍を撤退させるための交渉カードに使われ
それが成功して、近いうち無事に解放されるわけだ」
色んな大人たちから聞いた話を総合するとこうなるはずだ。
ガキの俺に分かるので、魔族のセイが分からないわけはないはずだが。
「……」
「まずは自分の立場を理解して、無駄に暴れるな。自分の命と身体を大事にしろ」
「……今の話は、本当か?」
「本当だ。俺が約束する」
セイは少し黙った後に、強化ガラス越しに真顔で
「人間は野蛮だから、美人な私にエッチなこととかするんじゃないのか?」
意外な質問に一瞬絶句しながら、何とか気を取り直す。
「……しないわ。人間の理性舐めんな」
俺がまさにその生き証人である。
数々の女難を、運と実力を駆使して何事もなく乗り切ってきた俺だけは舐めるな。
「この完璧な身体と、美しい顔を見てもか?」
セイは、自分の真っ白な身体をガラスに近づけて、
スポーツブラからこぼれそうな大きな胸を押し付けてくる。
「しつこい。通話切るぞ」
「……分かった。お前を信用する」
向こうの部屋の隅に大人しく座り込んだセイを見届けてから
再び受話器の通話口を手で塞ぎ、アルデハイトに話しかける。
「本当にあいつ、傭兵会社社長なの?」
俺の会社社長イメージはこうなんていうか
もっと俺なんか相手にされないくらい知的で世慣れた年上と言うか……。
それと比べて、余りにも何と言うか……セイは違うというか……。
俺の話をあっさり信じ込んだのも含めて、頭があまりよく無さそうな……。
捕えられたことで、自国や自分の親にこれから多大な迷惑かけるのも分かっていないようだし。
「社長なのは間違いないと思います……それに魔族国のゴシップで
大学も裏口入学という噂があるのですが、間違い無さそうですね……」
予想通り聴覚を広げ、通話内容を聞いていたアルデハイトはすぐに答える。
「会社も、頭いい友達に作らせたんだろうな……」
たぶん、あの様子だと副代表のカラスラが苦労させられているのだろう。
「でしょうね……。しかし、ここまでだと、父親のモル様も気苦労が多いはずです」
アルデハイトが唸って考え込み始めて
代わりに大老ミイが俺に近寄ってくる。
「お見事です。後のことは私にお任せください」
俺から受話器を受け取ったミイは、中にいるセイと
拘留中の生活に必要なもの等の真面目な話をし始めた。
すっかり大人しくなったセイを見て、ガラスに近寄ってきたミサキが
「タカユキ様って凄いんですね。荒ぶる魔族をあっという間に収めてしまわれるとは」
と目を輝かせこちらを見つめてくる。
「いや、あいつが単純だっただけですよ。話が通じてよかったです」
頭をかく俺に腕を絡めてミサキは寄り添う。
事後処理は大老ミイに任せ、俺たちは牢から出て行く。
エレベーターへ続く長い通路を歩いている最中にミサキが
「私もあの魔族の方とお友達になれないかしら」
と呟いたので、アルデハイトが呆れた顔をしながら、
「お勧めできません。魔族には他に沢山、話すに値する人格者がいますよ」
「でも、タカユキ様とお話できたのでしょう?もう私の間接的なお友達です」
「……面白い……私は……いいと思う……」
マイカはあっさりと賛同した。アルデハイトはため息を吐きながら、
「モルシュタイン家とローレシアン王家が繋がるのは良いことですが……。
果たして、あのウツケの頭に、その崇高な意義が分かるのでしょうかねぇ」
「タカユキ様はどう思われます?」
ミサキに綺麗な顔を向けられた俺は、
「うーん。わからないですね。でも友達になる時はなるもんですよ」
そして、なれない時は努力してもなれない。こればかりは相性である。
「そうですよねっ。私、今日からここに通って仲良くなってみます」
ミサキはやる気になったのか、顔が上気して目が輝きだした。
次々の駆け寄ってくるメイドや兵士たちの大歓声に迎えられる。
「まだ、鎮圧は序盤なんですけどねぇ……ここで喜ばれても……」
何とも言えないアルデハイトが髪をかきながら、人波をかき分けていく。
後ろを行くマイカと、先頭のアルデハイトに守られるように俺は進んで行く。
こういう光景、動画やテレビで見たことあるわ。
大事件に巻き込まれた人に迫るマスコミ群。みたいな感じだ。
時々握手を求められたりしながら、俺たちは人波をかき分けて、何とか城内に入る。
まだついてこようとする人たちには、マイカが妖しく手を振り回し
謎の催眠術をかけ通路に横に並ばせ、人間の壁にする。
「なにそれ……」
「……最近……覚えた……楽しいぞ……」
ニヤニヤしているマイカの催眠術によって壁になった人たちが
その後ろから迫り来ようとしている人たちをブロックしているうちに
俺たちは素早く脇道に入り、隠しエレベーターに乗る。
「……まずは……女王に……戦勝報告から……だ……」
相変わらず覚えられないが、
このエレベーターは以前に乗った女王執務室への直通のものだったらしい。
「素早く動きすぎる我々も悪いのですが、いい加減
王国側もこちらを常時補佐する態勢を整えてほしいですね」
人々から掴まれてヨレヨレになった服を直しているアルデハイトが愚痴る。
「……無理……言うな……内戦……中……」
「んー、落ち着いたら、ちょっと考えてもらいましょうか」
「……それがいい……」
アルデハイトを諭したマイカは、エレベーターの扉が開いてすぐに通路へと出た。
そのまま早歩きで、展示品の飾られている通路を抜け、女王執務室の扉を開ける。
「あ……」
部屋の隅の大きなデスクに座って、書類の山に判子を押していたミサキが
こちらを見て、すぐに嬉しそうな顔で駆け寄ってくる。
アルデハイトは跪き、マイカと俺も続く。
「謀反人ラングラール一党は、ここに控える、我が主タジマと我々その配下が捕えました」
アルデハイトは跪いたまま、左手を広げて、後ろに控える俺たちを指し示す。
「……報告は受けました。女王として何よりも感謝いたします」
胸を張って、毅然とした態度でミサキは俺たちに感謝を述べてくる。
「少し、タジマ様とお話があるので、外して貰って良いですか」
「もちろんです」
アルデハイトとマイカは一礼すると、素早く扉を開けて出て行った。
うん。お前ら……ここまで想定内で連れてきたよね。そうだよね。
何も考えてなかった俺が茫然としていると
二人が出て行くのを見届けたミサキが俺に抱き着いてくる。
「心配しました。こんなにも早く、ラングラール軍を倒すだなんて……
……大好きです」
頬にキスをされて、戸惑う俺を女王はソファに誘う。
「魔族の女を捕えたとか……」
「ですね。中々強いやつでしたよ」
「お怪我はありませんか?お仲間に負傷者は?」
身体を寄せ、上目遣いで綺麗な顔を近づけ心配してくるミサキに
俺は胸がドキドキしている。
戦場での異常な高揚感のあとに、性的な興奮はダメだ。
これ、ちょっと……やば……も、だめ……かも……。。
本能の赴くままに、ミサキの背中に、腕を回しかけたその時
「バンッ」と大きな音をさせ、扉を開け、軍服を着た大老ミイが入ってくる。
セ、セーフ……。あぶねぇ、一線超える直前だったわ。
ホッとしていると
大老ミイは、ソファで寄り添っている俺たちに気付いて
「大変失礼しました。しかし、問題が発生していまして……」
何とか居住まいを正した俺に近寄ってくる。
「どうしたんですか?」
必死にまじめな顔を作って言うと
「捕えた魔族が『流れ人と会わせねば舌を噛み切る』とさっきから牢の中で叫んでいます……」
ミサキは口を押さえて、驚いた顔をしながら
「タカユキ様が会いにいって大丈夫でしょうか?」
そう俺たちを見回して心配した顔をする。
「……とりあえず行きましょうか」
「私も行きます!!」
「いえ、女王様はここに居られてください。危険です」
いきり立ったミサキは大老ミイに遮られて、真っ赤な顔をして抗議する。
「私だって、皆と一緒にいたいのです!!」
困った顔のミイは、俺に助けを求める。
俺は二人の顔を見比べ、少し考えてから
「アルデハイトとマイカに護衛させたらどうでしょうか?」
とミイに提案してみる。ミイは真面目な顔で暫く考え込んで
「護衛の件、よろしくお願いします。私も同行いたします」
と頭を下げてきた。
水色のドレスに毛皮のコートを羽織ったミサキと、落ち着いたローブ姿の大老ミイ
さらに俺の三人が部屋から出てくると
アルデハイトとマイカがうやうやしく頭を下げる。
そして、すぐにミサキを中心にして、他の四人が囲む形で、
隠しエレベーターの扉を開け、乗り込む。
乗り込むとマイカがパネルを開けて、何やら勝手に操作を始めた。
「大老様。やはり地下ですかね」
「……本来なら部外秘で、ましてや、他種族に絶対に知られてはならないのですが……」
降下していくエレベータの中で、ミイはアルデハイトの顔を見上げながら
「まぁ、魔族とは言え、信用しましょう。貴方もタジマ様の大事な配下でしょうし」
「城のずっと地下……中央山のさらに地下の、厳重封印室という場所です」
「……らじゃ……移動するように……セットする……」
マイカがやろうとしたミイを遮って、パネルのボタンを高速で打ち始める。
「この方は人間ではないのですか?」
ワンテンポ遅れて、ミイの会話の内容に気付いたミサキが驚いた顔で
アルデハイトを見る。確かに角と翼が無ければ
綺麗な顔も半分前髪に隠れているし、長身だが猫背だしで、魔族には見えないわな。
手足が長く、姿勢の悪い兄ちゃんにしか見えない。
アルデハイトはニッコリ微笑むと、うやうやしくお辞儀をして
「そうなのですよ。魔族です。タジマ様のお世話をさせて頂いてます」
「……魔族も悪い人ばかりではないのですね」
純粋な目でミサキはアルデハイトに答え、アルデハイトが何故か頬を赤らめる。
照れているのか。
パネル操作を終えたマイカは暇そうにしながら
ミサキを振り向いてジーッと上から下まで見つめる。
「……下僕にするには……いや……ダメだ……もっと……面白い……やつ……」
と怪しく呟いていたので、睨んで釘をさす。
延々と降下していくエレベーターの扉がやっと開く。
薄暗い倉庫内のような、電灯に照らされた
鉄壁が通路が奥へと伸びている冷たい雰囲気の場所だ。
「この少女は何者なのですか?行き方を知っているはずは……」
大老ミイが、目を丸くしてマイカを見つめる。
「さぁ……?アルデハイト分かる?」
「私にも未だによくわかりません。筋肉の付き方や骨格は普通の人間ですね。
正常な十五歳前後の人間女性です」
アルデハイト両手を広げ、肩を竦める。
俺はマイカについてはもう色々と考えるのを止めた。
ある程度好きにさせておけば、助けになってくれるしそれでいい。
「……私とは……誰だろう……それ……人類……永遠の課題……」
マイカはいつものごとく、意味不明なことを呟いてから、
怪しい笑いを浮かべ、スタスタと奥へと歩き始めた。
「何のお話ですか?」
ミサキが興味津々な顔で割り込んできて、
「いえ。何でもありませんよ。ささっ行きましょう」
と大老ミイが誤魔化し、ミサキの手を引いて奥へと進み始める。
しばらく薄暗い通路を進むと、突き当たりの壁に頑丈そうな扉があり
ミイは、扉の脇に付いたボタンを押し、開ける。
またオーバーテクノロジーである。
マシーナリー提供の技術だな、と思いながら俺はミイたちと共に奥へと入る。
出迎えた数人の衛兵たちに案内され、更に進んで行くと、
所々凹んだ鉄壁に囲まれた何もない個室が分厚い強化ガラスの先に見えて
そこには騒いで暴れている黒いスポーツブラとショーツ姿の
頭から角を二本生やした銀髪美人が居る。
確かに捕えた魔族の女だ。セイとか言ったか。
こちらを見つけ、さらに激しく何かを叫んでいることは分かるが
強化ガラスに遮られて良く聞こえない。
「暴れていて手がつけられないのです。舌を噛むと何度も脅してきますし……」
「我々は、彼女の要望に出来る限り従おうとしたのですが……」
と担当の兵士たちは大老ミイに困惑を隠さない。
それを聞きながらアルデハイトはコートのポケットから取り出した
折り畳まれていた虹色のレインコートを伸ばして羽織って
フードを被りながら
「偽装はこの程度で良いでしょう。若い個体ですからね。
これで近寄っても私が魔族だとは、見破れません」
と呟き、俺に窓へと近づくように促す。
すでにマイカが顔を窓にくっつけて、セイを眺めている。
「……なかなか……いい……下僕……したい……」
いつものごとく下僕の下調べを始めているマイカは放置して
俺は兵士から渡された牢の中に繋がっている受話器を
手にとって中へと話しかける。
「流れ人のタジマだが、何か用か」
「おまえがあああ!!!私をとらえた流れ人かああああ!!!」
うるさい。しかも怖い。俺は一旦受話器の通話口を遮って後ろを振り向き
大老ミイや仲間たちに目線でアドバイスを求める。
ミサキは、こちら側の横壁の近くまで下がって、恐々と
自分を囲う兵士たちの陰から
銀髪を振り乱して、強化ガラスの向こうで暴れまわるセイを見ている。
フードを目深に被ったアルデハイトが
「要求を聞いてください」
アドバイスしてきて、俺は頷き、再び受話器を耳に当てる。
「要求は何だ。言われた通り、俺はここにきたぞ」
「ただちにいいいいいい!!!私を解放してこの国を引き渡せ!!」
そこでつい俺は、思ったことを言ってしまう。
「お前、バカだろ」
「……な、なんてこというんだ……」
暴れていたセイは、動きを止めて強化ガラス越しに受話器を手にもつ俺を見る。
「よく考えてみろ。お前は囚われているが
ここの兵士さん達は大切に扱おうとしてくれているだろ。
それがどういうことかまずは考えろ」
「……」
絶句した顔のセイにさらに
「お前ら魔族は同胞の命をすごく大切にする。
そしてそれは俺たち人間も良く知っている。ということはだな
つまり、お前は、北に居る魔族軍を撤退させるための交渉カードに使われ
それが成功して、近いうち無事に解放されるわけだ」
色んな大人たちから聞いた話を総合するとこうなるはずだ。
ガキの俺に分かるので、魔族のセイが分からないわけはないはずだが。
「……」
「まずは自分の立場を理解して、無駄に暴れるな。自分の命と身体を大事にしろ」
「……今の話は、本当か?」
「本当だ。俺が約束する」
セイは少し黙った後に、強化ガラス越しに真顔で
「人間は野蛮だから、美人な私にエッチなこととかするんじゃないのか?」
意外な質問に一瞬絶句しながら、何とか気を取り直す。
「……しないわ。人間の理性舐めんな」
俺がまさにその生き証人である。
数々の女難を、運と実力を駆使して何事もなく乗り切ってきた俺だけは舐めるな。
「この完璧な身体と、美しい顔を見てもか?」
セイは、自分の真っ白な身体をガラスに近づけて、
スポーツブラからこぼれそうな大きな胸を押し付けてくる。
「しつこい。通話切るぞ」
「……分かった。お前を信用する」
向こうの部屋の隅に大人しく座り込んだセイを見届けてから
再び受話器の通話口を手で塞ぎ、アルデハイトに話しかける。
「本当にあいつ、傭兵会社社長なの?」
俺の会社社長イメージはこうなんていうか
もっと俺なんか相手にされないくらい知的で世慣れた年上と言うか……。
それと比べて、余りにも何と言うか……セイは違うというか……。
俺の話をあっさり信じ込んだのも含めて、頭があまりよく無さそうな……。
捕えられたことで、自国や自分の親にこれから多大な迷惑かけるのも分かっていないようだし。
「社長なのは間違いないと思います……それに魔族国のゴシップで
大学も裏口入学という噂があるのですが、間違い無さそうですね……」
予想通り聴覚を広げ、通話内容を聞いていたアルデハイトはすぐに答える。
「会社も、頭いい友達に作らせたんだろうな……」
たぶん、あの様子だと副代表のカラスラが苦労させられているのだろう。
「でしょうね……。しかし、ここまでだと、父親のモル様も気苦労が多いはずです」
アルデハイトが唸って考え込み始めて
代わりに大老ミイが俺に近寄ってくる。
「お見事です。後のことは私にお任せください」
俺から受話器を受け取ったミイは、中にいるセイと
拘留中の生活に必要なもの等の真面目な話をし始めた。
すっかり大人しくなったセイを見て、ガラスに近寄ってきたミサキが
「タカユキ様って凄いんですね。荒ぶる魔族をあっという間に収めてしまわれるとは」
と目を輝かせこちらを見つめてくる。
「いや、あいつが単純だっただけですよ。話が通じてよかったです」
頭をかく俺に腕を絡めてミサキは寄り添う。
事後処理は大老ミイに任せ、俺たちは牢から出て行く。
エレベーターへ続く長い通路を歩いている最中にミサキが
「私もあの魔族の方とお友達になれないかしら」
と呟いたので、アルデハイトが呆れた顔をしながら、
「お勧めできません。魔族には他に沢山、話すに値する人格者がいますよ」
「でも、タカユキ様とお話できたのでしょう?もう私の間接的なお友達です」
「……面白い……私は……いいと思う……」
マイカはあっさりと賛同した。アルデハイトはため息を吐きながら、
「モルシュタイン家とローレシアン王家が繋がるのは良いことですが……。
果たして、あのウツケの頭に、その崇高な意義が分かるのでしょうかねぇ」
「タカユキ様はどう思われます?」
ミサキに綺麗な顔を向けられた俺は、
「うーん。わからないですね。でも友達になる時はなるもんですよ」
そして、なれない時は努力してもなれない。こればかりは相性である。
「そうですよねっ。私、今日からここに通って仲良くなってみます」
ミサキはやる気になったのか、顔が上気して目が輝きだした。
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気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
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※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
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*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
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