10 / 33
ラブホと神社
しおりを挟む
友人の田中(仮名)さんから聞いた話だ。
彼の地元には、神社が二社ある。
その二社のうち、片方は、周囲を田んぼに囲まれた小山に建っていて
よく手入れがされ、地元の人間たちも正月には喜んで参拝に行く。
田中さんも、正月の三社参りはまずはその神社から始めるらしい。
そして市内の大きな神社を、二社巡って
新年の門出を祝うそうである。
自分はそう聞いた時に田中さんに
「地元のもう片方の神社には何でいかんの?」
とつい尋ねてしまった。
彼は待ってましたと、それはもう嬉しそうに
「明らかに呪われてるんよ」
そう言うと、さっそく話しだした。
もう片方の神社は、先ほど説明した神社の場所から
三キロほど離れた少し奥まった山中の頂上にあり
下界との間にとても長く広い階段を持つような、格式高そうな立地だった。
階段下の平地の周囲に氏子さんたちの家も並んでいて
近くに団地が幾つも造成される前は
恐らくは、地元の中心部だったらしい。
地主の家も近くにあり、名家が集まっているような地区だったと
田中さんは嬉しそうにしゃべっていた。
「でも、近くにラブホが建ってから何かおかしくなったって
地元の友達が言っててな」
そう、田中さんは話をつなぐ。
そのラブホは、ちょうど山中の神社からまっすぐに伸びていく参道の
入り口の手前を横切る狭い舗装された道路の向かい側に建っていて
まるで山中からまっすぐに降りてくる神社の神気を吸い取るように
開きっぱなしの正面門があり、田舎にも関わらずに
何故かとても繁盛しているようである。
「俺、まずモテなかったからラブホとか縁が無くて
それに学生の頃は親の新年のお参りすら誘いも断ってゲーム三昧で
そういうの碌にしてなかったんで
その神社が呪われているのも、ずっと気づかなかったんやけど
大学から実家に帰省した……たしか、二十歳くらいのとき
正月に暇だったのもあって、ふと思い立って、三社参りってのをやってみようかと思った」
田中さんはそう言って、ことの顛末を話し出した。
当時、学生で金もなく異性にもご縁がなかった田中さんは
この地味な人生の開運を賭け、それまでの二十年の人生でほぼ縁のなかった
三社参りというものをしてみようと思い立った。
とりあえず、まずは地元にある二社を一人で歩いて巡ろうとしたらしい。
そして、一社目は、先に説明した神社に行き、雰囲気も良く
人通りも活気があり、地元の友達とも会って少し話せたりして楽しかったので
その勢いで、例の呪われた神社へも初めて行ったのだが
正月なのに人は居らず、氏子さんたちの家が左右に並ぶ
参道は新年なのに空気が重苦しく、終いには
その家々のうち、一軒に繋がれていた片目の飛び出た黒犬から
(月明かりだったが、確かにそう見えたらしい)
吠えたてられて、殆ど半泣きになりながらも
神社下の階段まで走ってたどり着き、何とか上り始めたそうである。
「百段くらいある長い石階段を上り出してからは、気持ちが楽になった。
上りきった先の神社の境内は、神社の近所に住んでるらしきお年寄りたちが
焚火をして集まっていて、見ず知らずの俺に気づくと
"明けましておめでとうございます"
って優しく声をかけてくれたりと、雰囲気は悪くなかった」
田中さんは苦笑いしながらそう言うと
その後について話し出した。
新年の挨拶を返したりしつつ、神社に参った後、階段を下りていき
そして再び雰囲気の暗い参道へと戻ると
次第に肩が重くなっていったそうだ。
「そういうのにそんなに縁がなかった当時の俺でも
あ、なんか悪いのに乗られたなと思ったわ。
あきらかに、ダメだなと、呪われたかなと」
ビビりながらも、歩いて実家へと帰っていくと
次第に肩の重さそれ自体は解けて行ったが
その年は不運続きで最悪だったと田中さんは語る。
「たぶん、あの神社、呪われてるんやろうね。
話したら地元の友達も同意してくれたし。
それ以来、そっちには一度も行ってないわ」
自分はその話をきいて
それ神社ではなく参道が呪われているのでは?
むしろ、ラブホから何か変なものが噴き出ているのでは?
などと、色々と疑問に感じたが、
その場では、それ以上尋ねたりはしなかった。
彼の地元には、神社が二社ある。
その二社のうち、片方は、周囲を田んぼに囲まれた小山に建っていて
よく手入れがされ、地元の人間たちも正月には喜んで参拝に行く。
田中さんも、正月の三社参りはまずはその神社から始めるらしい。
そして市内の大きな神社を、二社巡って
新年の門出を祝うそうである。
自分はそう聞いた時に田中さんに
「地元のもう片方の神社には何でいかんの?」
とつい尋ねてしまった。
彼は待ってましたと、それはもう嬉しそうに
「明らかに呪われてるんよ」
そう言うと、さっそく話しだした。
もう片方の神社は、先ほど説明した神社の場所から
三キロほど離れた少し奥まった山中の頂上にあり
下界との間にとても長く広い階段を持つような、格式高そうな立地だった。
階段下の平地の周囲に氏子さんたちの家も並んでいて
近くに団地が幾つも造成される前は
恐らくは、地元の中心部だったらしい。
地主の家も近くにあり、名家が集まっているような地区だったと
田中さんは嬉しそうにしゃべっていた。
「でも、近くにラブホが建ってから何かおかしくなったって
地元の友達が言っててな」
そう、田中さんは話をつなぐ。
そのラブホは、ちょうど山中の神社からまっすぐに伸びていく参道の
入り口の手前を横切る狭い舗装された道路の向かい側に建っていて
まるで山中からまっすぐに降りてくる神社の神気を吸い取るように
開きっぱなしの正面門があり、田舎にも関わらずに
何故かとても繁盛しているようである。
「俺、まずモテなかったからラブホとか縁が無くて
それに学生の頃は親の新年のお参りすら誘いも断ってゲーム三昧で
そういうの碌にしてなかったんで
その神社が呪われているのも、ずっと気づかなかったんやけど
大学から実家に帰省した……たしか、二十歳くらいのとき
正月に暇だったのもあって、ふと思い立って、三社参りってのをやってみようかと思った」
田中さんはそう言って、ことの顛末を話し出した。
当時、学生で金もなく異性にもご縁がなかった田中さんは
この地味な人生の開運を賭け、それまでの二十年の人生でほぼ縁のなかった
三社参りというものをしてみようと思い立った。
とりあえず、まずは地元にある二社を一人で歩いて巡ろうとしたらしい。
そして、一社目は、先に説明した神社に行き、雰囲気も良く
人通りも活気があり、地元の友達とも会って少し話せたりして楽しかったので
その勢いで、例の呪われた神社へも初めて行ったのだが
正月なのに人は居らず、氏子さんたちの家が左右に並ぶ
参道は新年なのに空気が重苦しく、終いには
その家々のうち、一軒に繋がれていた片目の飛び出た黒犬から
(月明かりだったが、確かにそう見えたらしい)
吠えたてられて、殆ど半泣きになりながらも
神社下の階段まで走ってたどり着き、何とか上り始めたそうである。
「百段くらいある長い石階段を上り出してからは、気持ちが楽になった。
上りきった先の神社の境内は、神社の近所に住んでるらしきお年寄りたちが
焚火をして集まっていて、見ず知らずの俺に気づくと
"明けましておめでとうございます"
って優しく声をかけてくれたりと、雰囲気は悪くなかった」
田中さんは苦笑いしながらそう言うと
その後について話し出した。
新年の挨拶を返したりしつつ、神社に参った後、階段を下りていき
そして再び雰囲気の暗い参道へと戻ると
次第に肩が重くなっていったそうだ。
「そういうのにそんなに縁がなかった当時の俺でも
あ、なんか悪いのに乗られたなと思ったわ。
あきらかに、ダメだなと、呪われたかなと」
ビビりながらも、歩いて実家へと帰っていくと
次第に肩の重さそれ自体は解けて行ったが
その年は不運続きで最悪だったと田中さんは語る。
「たぶん、あの神社、呪われてるんやろうね。
話したら地元の友達も同意してくれたし。
それ以来、そっちには一度も行ってないわ」
自分はその話をきいて
それ神社ではなく参道が呪われているのでは?
むしろ、ラブホから何か変なものが噴き出ているのでは?
などと、色々と疑問に感じたが、
その場では、それ以上尋ねたりはしなかった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
AstiMaitrise
椎奈ゆい
ホラー
少女が立ち向かうのは呪いか、大衆か、支配者か______
”学校の西門を通った者は祟りに遭う”
20年前の事件をきっかけに始まった祟りの噂。壇ノ浦学園では西門を通るのを固く禁じる”掟”の元、生徒会が厳しく取り締まっていた。
そんな中、転校生の平等院霊否は偶然にも掟を破ってしまう。
祟りの真相と学園の謎を解き明かすべく、霊否たちの戦いが始まる———!
【短編】怖い話のけいじばん【体験談】
松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。
スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる