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決戦
行方不明と後悔
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かなりの高さまで上昇すると
ピタッとバムは止まった。
八枚の翼がバサバサと羽ばたいている。
「待つのかにゃ?」
「そうですね。今、向こうで囮が突入する隙を伺っています」
「囮も居るにゃ?どんな作戦だにゃ?」
「囮によって引き付けて、そこに上空より
勢いをつけて飛び込んだペップさんが
一撃を浴びせ、食王を粉砕する計画です」
「……いまいちイメージがわかないにゃ……。
私は、このゴルダブルを被ったまま突撃すれば
いいのかにゃ?全ての力を使って?」
「そういうことです」
「ふーむ……バムちゃんを信じるしかないにゃい……」
俺も発言すると、せっかく上手くいっている状況が
こじれそうなので、今は皮に徹して黙って聞くことにする。
そこからさらに十分ほど浮かび続けて
いい加減、だれてきたころに
ペップに変化が現れる。
「……う……下で、何かとても
いけないオーラが渦巻き始めたにゃ……」
バムと、着られている皮である俺は
息をのんで見守る。
次第にペップの発する雰囲気が
恐ろしいものへと変化していく。
虹色の噴煙が、俺の開かれた口の中から
激しく漏れ出してきて、思わず声をあげそうになる。
「ぐっ……ぐぎが……えっ、えっえっ……」
俺を着ているペップはまるで
今まではまったく違う声で唸り始めた。
「んぐっ……がるるるる……ぬぎぐ……」
な、なんか今までのより
もっとヤバい何かにペップが変化していくような
気配が周囲を包み込み始めたころに
バムがパッとペップを抱えていた両手を離す。
一直線に真下の戦場へと俺たちは落ちていく。
「ば、ばばばはははばばばはばん……バンするにゃ……。
お、おおおお前らのその不埒な欲望を見せたがる
邪悪な意志そのものを
え、ええええ永久に停止させるにゃ……」
ペップは意味不明なことを呟きながら
両手をグッと握って、空中をクルクルと周り始めた。
「わ、わわわれこそは、宇宙の代執行者
……不埒で淫媚なものすべてを
人目から避けさせるもの……世界をフラットに
耕すためにダークマターの底から送り込まれた者……」
もう怖い。俺はすでにペップに着られていること自体が
とてつもなく怖い。ペップは回転をやめて空中でピタッと止まると
両手両足を広げて
「ごぶらああああああああああああああ!!!
エッチなのはいけないにゃああああああああああ!!!!!!」
天地を揺らすような声で辺りへと叫び
虹色のオーラを近くの空に一挙に拡散した。
そして真下へと頭を下にして、手足を折りたたみ
辺りに虹色の闘気をまき散らしながら
まるでミサイルのように、一直線に突っ込んでいく。
あ……大砲で飛ばされた時より
これ、怖いかもしれない……と気づいたときにはもう遅かった。
また辺りがスローモーションで見え始める。
虹色の光が辺りにまき散らされて
眼下には、巨大な真黒な人型……いや、俺
そっくり髪型の黒い巨大生物……あれが変化した食王だろう
……がいて
その辺りを……やはりというか予想通りと言うか
殆ど紐でできたビキニを着た
真っ赤やまっ黄色の肌をした頭に角の生えた
女性たちが盾を構えて取り囲んでいる。
そして、真黒な巨大生物に抱き着いて
ゆっくりと身体を上下に振っているのは
巨大な二枚の真っ白な羽根を持った女性は
ああ……やはりパシーだ。ここからは良く見えないが
ピンクの透明なネグリジェのようなものを
身に着けている……。
全員、身長百メートル近くありそうである……。
なんという、訳の分からないエロ空間……まさに
誰が得するんだという状況だ。
いや、確か、巨大女萌えみたいな性癖もあった気が……
などと俺のパニックを起こした頭が
高速で必要のないことを考え続けていると
ペップはさらに速度を上げて
「このエッチの螺旋の中心に居る貴様を排除する!!」
とまた天地を揺らすような声で叫んで
パシーが抱きついている真っ黒い身体をした
巨大食王の頭を勝ち割りながら突っ込んだ。
その瞬間、俺は意識が途切れる。
「パパーパパー。お魚さん凄いねー」
気が付くと俺は薄暗い水族館に居た。
手を繋いでいるのは、小さな真黒な身体をした
……裸の俺だ。
「パパ?俺が君のパパ?」
「うん、そうだよー。パパーあれが亀さん?」
目の前の大きな水槽には、悠々と大きな亀が泳いでいる。
「そうだな。長生きなんだよ。
百年生きる種もいるんだ」
「ふーん、人間と同じくらいかなー?」
「そうだね、人間も長生きだね」
俺たちは、その後も、あまり客の居ない水族館を
二人でゆったりと周り続け
イルカのショーを見たり、シャチを間近で見たりして
疲れたので、水族館の最上階にある
海の見える食堂でカレーを食べることにした。
「美味しいねーこの間連れて行ってくれた
遊園地のソフトクリームも美味しかったけどー」
二人で並んで、海を見ながら
カレーを食べる。
「ここ、パパが高校のときに彼女と来たんだ。
パパ、初デートでね。緊張してて
あまり、色々と覚えてないよ」
「そうなんだーママとは違う人?」
「半年くらいで別れたんだ。それからは
とくに関係は無かったなー」
「人に歴史ありだねー」
「ふふふ、難しい言葉を知ってるね。
でもこのカレーの味はよく覚えてるんだ」
「美味しいもんねー」
「そうだね」
二人でそのまま和やかにカレーを食べ
もう帰ろうということになり、水族館の出入り口から
出ると、バムにそっくり真っ黒い裸の女性が
出迎えてくれて、俺たち三人で
水族館から出ていく。
そこで意識が揺らいで、消えた。
「おっきろにゃああああああああああ!」
「ぶぼはあああああああ」
ペップからビンタされて俺は起きる。
ブラブラと揺れているのは
ペップが右手で俺を持って吊っているからのようだ。
「しょ、食王は倒したのか!?」
ペップは難しい顔をする。
「よくわからんにゃ……私が起きたら
エッチな格好をした巨人たちから囲まれていて
それで見上げていると
ファイナちゃんとピグナちゃんが駆け寄ってきたにゃ」
横から顔を出したピグナが
「あとはあたしが説明するよ!ペップちゃんは
休んでて!」
「うむ……よくわかんにゃいが
全身筋肉痛だにゃ。眠気もす、ごいにゃ……」
ペップが倒れ込んで、ピグナはその身体を支えて
俺をサッと自分の手に取ると
ペップを寝かし、俺の顔を見て
「ペップちゃんが確かに食王は倒したんだけど
同時にバムちゃんが消えた!」
とわけのわからないことを言ってくる。
「天界でも大騒動になってるみたいで
あたしの知らない大天使たちが
さっきからずっと、頭の中で現地に何か
変化がないか、聞いてきてる」
「……バムが……なあ、それと関係あるのか
わからないけど」
食王に衝突したあとに見た二度の
遊園地と、水族館の夢について話すと
ピグナは青い顔をし始める。
「あのさ、あたしの推測でしかないんだけど
最初の遊園地の時にもしかすると食王は
ゴルダブルと一時的に融合してたんじゃないかな……」
「そっ、そうなのか?」
「推測だよ?でも、その後にゴルダブルそっくり
黒い巨大な体になって現れたでしょ?」
「確かに……」
「で、今度は、その出口に真黒なバムちゃんが
居たということは……」
ピグナはそこで辛そうに一旦、口を閉じて考え込んで
「たぶん、パシーとかオーガ女たちを
遠隔操作しているところから感覚に入られて
乗っ取られたんじゃ……」
「うわぁ……」
ヤバいということは俺にも分かる。
「なあ、俺たち二度も食王を倒したよな?」
「そうだよ。そしてそれは再現可能だからね。
あたしたちの連携の破壊力は、もはや食王を凌駕してる。
でも……」
「バムと食王の能力が組み合わさったら……」
ピグナはまた眉間にしわを寄せて考え込み
「きっと、バムちゃんも抵抗してると思うんだよ。
あれだけの力を持ったバムちやんがあっさり
融合されるわけがない。
だから、食王は融合が完成するまで姿を消した」
「さ、探さないと……」
だが俺は皮である。口と目は辛うじて使えるが
何もできない。
「ねぇ、ゴルダブル、食王がピンチになったら
行きそうな場所の見当がつかない?」
「ちょ、ちょっと待て。考えてみる」
両目を閉じて、今まで起きたことを
高速で頭の中で辿ってみる。
ないないないないないない、くそっ……
どこにもそんな話は聞いて……いや……。
「あっ、バムが確か……」
「うん。なんでも言って」
「確か、食王は……この世界に来たときに
機械に囲まれていたと……そして
この星の生き物じゃないと……」
ピグナがあっと口を開けて
「そうか!宇宙船か!それを探せば!」
「なあ、ワールドイートタワーの可能性もないか?」
「そっちは、嵐が消えてるからもう天界と冥界の
大探索チームが入ってるけど、まだ何も……」
「そうか、ならこの星の隅々まで
宇宙船を探さないと……」
「ちょっと、頭の中でうるさい大天使どもに
今のことを話してみる」
「ああ、頼む……」
何もできないので、空を見上げていると
ファイナが走ってきた。
「やっと巨大オーガさんたちを冥界へと帰らせましたわ。
ところで、なにやらマズイことに
なっていると、トレーナーパイセンさんたちから
お聞きしましたが……」
今までの話をするとファイナはキッと空を見上げ
「やはり、世界はまだ危険なままなのですね。
わかりました。宇宙船探索の事、冥王様に伝えるように
トレーナーパイセンさんに言ってみます」
ファイナは来た方向へと駆けて行った。
入れ替わりでマクネルファーがやってくる。
「ふぃーやっと、マリーから逃げおおせたわい。
ありゃ、どうしたんじゃ?二人とも怖い顔して。
食王は死んだんじゃろ?ロボットで自爆せんでよかったわ」
目を閉じて一人でブツブツと通信しているピグナの代わり
俺が、また先ほどの話をすると
マクネルファーは
「……世界の危機なら仕方ないのぉ。
マリーに帝国兵を使って宇宙船の探索と
それから世界各国へと、連絡をするように
言ってみるわい」
ニヒルに笑って、去って行く。
皮のわりによく頑張ったと思う。
ちょっと休むか、と空を見上げるのをやめて
両目を閉じると、いきなり意識が落ちた。
「パパーあのさーママがねー」
見覚えがあるアパートの一室だ。
確か、俺の部屋じゃないか……ここ。
ちゃぶ台を囲んで、小さな黒いバムと
大きな黒いバムが俺を見ている。
「ママが僕と遊びたくないって言うんだ……」
小さな黒いバムは寂し気に呟いてくる。
黒いバムは黙って微笑んでいるだけだ。
「僕、ママと遊びたいのに……」
小さな黒いバムは俺を物欲しげに見つめる。
俺は少し考えて
「ママは疲れてるんじゃないか?」
「でも、僕はママと……」
小さなバムは辛そうな顔で見てくる。
黒いバムはまるで顔に表情が貼りついたかのように
微笑み続けている。
「パパは僕の事好き?」
小さなバムが俺を見つめてくる
「ああ、好きだよ」
「ママは僕の事好き?」
見つめられたバムは微笑むだけである。
「……好きじゃないのかなぁ」
意気消沈する小さなバムに俺は
「きっと、疲れてるんだよ」
さっきと同じことを繰り返す。
すると、いきなり小さなバムが
憤怒の表情になり
「同じことしか言えないの?」
俺を指さすと、いきなり辺りの景色が変わった。
俺はどこかに寝かされている。
「聞こえますかー!?」
男の声で何度も耳元にそう尋ねられる。
聞こえているよ。うるさいなと
朦朧とした意識の中思いながら
良く見えない視界で辺りを見回す。
病院、いや、狭い救急車の中……?
よく分からない言葉を男たちが言っている中
ピーッと言う機械音が聞こえて
胸に何か機械が押し当てられ
掛け声とともに、俺の上半身が
ガクンッと上へと跳ねる。
痛みが無いから分からないが
電気ショックか何かのようだ……そこで意識を失った。
次に起きると顔には白い布がかけられていた。
何も見えないなと思っていると
いきなり布が外されて
見覚えのある顔が俺を覗き込んでくる。
ふくよかで憔悴しきった顔は……母さんか……。
料理上手で、口うるさくて……優しい……。
ああ、俺、切れた電線に当たって
そうか、死んだんだな……。
母さんは、俺の顔見るとそのまま
横に崩れ落ちていき、隣に居た父親から支えられる。
父さん……相変わらずサイド以外、禿げてるな……。
痩せてて小柄で、うだつのあがらないリーマンだけど
文句ひとつ言わず、病気もせずに
俺を育ててくれた。
気丈な顔を無理してしているのが分かるのは
いつものことだけど……。
ああ、ごめん……なんか本当にごめんなさい。
早かったなぁ……短いけど人生に悔いなしとか
決戦の前に言っちゃったけど
早すぎた……かも……。
後悔と共に目の前が真っ白になっていく。
「おっきろにゃあああああああああ!!」
「ぶぼふぁああああああああああああ!」
平手打ちを連発されて
左右にブラブラ揺れる。皮のままのようだ。
「こ、ここは……」
「帝都の宮殿の中だにゃ!連れて来たにゃ!
ゴルダブルなんか気持ち悪い顔して
うなされてたから起こしたにゃ」
ペップは血色のいい顔で真面目に言ってくる。
「お、俺、生きてるよな?」
「当たり前だにゃ!皮だけどちゃんと生きてるにゃ!」
また平手打ちをしようとしたペップに慌てて
「だ、大丈夫。正気に戻った」
「ならいいにゃ。これから世界各国の
首脳を集めた会議が開かれるにゃ。連れてくにゃ」
よく見るとオレンジのスリムドレスを着ているペップは
俺を抱えて部屋を出ていく。
ピタッとバムは止まった。
八枚の翼がバサバサと羽ばたいている。
「待つのかにゃ?」
「そうですね。今、向こうで囮が突入する隙を伺っています」
「囮も居るにゃ?どんな作戦だにゃ?」
「囮によって引き付けて、そこに上空より
勢いをつけて飛び込んだペップさんが
一撃を浴びせ、食王を粉砕する計画です」
「……いまいちイメージがわかないにゃ……。
私は、このゴルダブルを被ったまま突撃すれば
いいのかにゃ?全ての力を使って?」
「そういうことです」
「ふーむ……バムちゃんを信じるしかないにゃい……」
俺も発言すると、せっかく上手くいっている状況が
こじれそうなので、今は皮に徹して黙って聞くことにする。
そこからさらに十分ほど浮かび続けて
いい加減、だれてきたころに
ペップに変化が現れる。
「……う……下で、何かとても
いけないオーラが渦巻き始めたにゃ……」
バムと、着られている皮である俺は
息をのんで見守る。
次第にペップの発する雰囲気が
恐ろしいものへと変化していく。
虹色の噴煙が、俺の開かれた口の中から
激しく漏れ出してきて、思わず声をあげそうになる。
「ぐっ……ぐぎが……えっ、えっえっ……」
俺を着ているペップはまるで
今まではまったく違う声で唸り始めた。
「んぐっ……がるるるる……ぬぎぐ……」
な、なんか今までのより
もっとヤバい何かにペップが変化していくような
気配が周囲を包み込み始めたころに
バムがパッとペップを抱えていた両手を離す。
一直線に真下の戦場へと俺たちは落ちていく。
「ば、ばばばはははばばばはばん……バンするにゃ……。
お、おおおお前らのその不埒な欲望を見せたがる
邪悪な意志そのものを
え、ええええ永久に停止させるにゃ……」
ペップは意味不明なことを呟きながら
両手をグッと握って、空中をクルクルと周り始めた。
「わ、わわわれこそは、宇宙の代執行者
……不埒で淫媚なものすべてを
人目から避けさせるもの……世界をフラットに
耕すためにダークマターの底から送り込まれた者……」
もう怖い。俺はすでにペップに着られていること自体が
とてつもなく怖い。ペップは回転をやめて空中でピタッと止まると
両手両足を広げて
「ごぶらああああああああああああああ!!!
エッチなのはいけないにゃああああああああああ!!!!!!」
天地を揺らすような声で辺りへと叫び
虹色のオーラを近くの空に一挙に拡散した。
そして真下へと頭を下にして、手足を折りたたみ
辺りに虹色の闘気をまき散らしながら
まるでミサイルのように、一直線に突っ込んでいく。
あ……大砲で飛ばされた時より
これ、怖いかもしれない……と気づいたときにはもう遅かった。
また辺りがスローモーションで見え始める。
虹色の光が辺りにまき散らされて
眼下には、巨大な真黒な人型……いや、俺
そっくり髪型の黒い巨大生物……あれが変化した食王だろう
……がいて
その辺りを……やはりというか予想通りと言うか
殆ど紐でできたビキニを着た
真っ赤やまっ黄色の肌をした頭に角の生えた
女性たちが盾を構えて取り囲んでいる。
そして、真黒な巨大生物に抱き着いて
ゆっくりと身体を上下に振っているのは
巨大な二枚の真っ白な羽根を持った女性は
ああ……やはりパシーだ。ここからは良く見えないが
ピンクの透明なネグリジェのようなものを
身に着けている……。
全員、身長百メートル近くありそうである……。
なんという、訳の分からないエロ空間……まさに
誰が得するんだという状況だ。
いや、確か、巨大女萌えみたいな性癖もあった気が……
などと俺のパニックを起こした頭が
高速で必要のないことを考え続けていると
ペップはさらに速度を上げて
「このエッチの螺旋の中心に居る貴様を排除する!!」
とまた天地を揺らすような声で叫んで
パシーが抱きついている真っ黒い身体をした
巨大食王の頭を勝ち割りながら突っ込んだ。
その瞬間、俺は意識が途切れる。
「パパーパパー。お魚さん凄いねー」
気が付くと俺は薄暗い水族館に居た。
手を繋いでいるのは、小さな真黒な身体をした
……裸の俺だ。
「パパ?俺が君のパパ?」
「うん、そうだよー。パパーあれが亀さん?」
目の前の大きな水槽には、悠々と大きな亀が泳いでいる。
「そうだな。長生きなんだよ。
百年生きる種もいるんだ」
「ふーん、人間と同じくらいかなー?」
「そうだね、人間も長生きだね」
俺たちは、その後も、あまり客の居ない水族館を
二人でゆったりと周り続け
イルカのショーを見たり、シャチを間近で見たりして
疲れたので、水族館の最上階にある
海の見える食堂でカレーを食べることにした。
「美味しいねーこの間連れて行ってくれた
遊園地のソフトクリームも美味しかったけどー」
二人で並んで、海を見ながら
カレーを食べる。
「ここ、パパが高校のときに彼女と来たんだ。
パパ、初デートでね。緊張してて
あまり、色々と覚えてないよ」
「そうなんだーママとは違う人?」
「半年くらいで別れたんだ。それからは
とくに関係は無かったなー」
「人に歴史ありだねー」
「ふふふ、難しい言葉を知ってるね。
でもこのカレーの味はよく覚えてるんだ」
「美味しいもんねー」
「そうだね」
二人でそのまま和やかにカレーを食べ
もう帰ろうということになり、水族館の出入り口から
出ると、バムにそっくり真っ黒い裸の女性が
出迎えてくれて、俺たち三人で
水族館から出ていく。
そこで意識が揺らいで、消えた。
「おっきろにゃああああああああああ!」
「ぶぼはあああああああ」
ペップからビンタされて俺は起きる。
ブラブラと揺れているのは
ペップが右手で俺を持って吊っているからのようだ。
「しょ、食王は倒したのか!?」
ペップは難しい顔をする。
「よくわからんにゃ……私が起きたら
エッチな格好をした巨人たちから囲まれていて
それで見上げていると
ファイナちゃんとピグナちゃんが駆け寄ってきたにゃ」
横から顔を出したピグナが
「あとはあたしが説明するよ!ペップちゃんは
休んでて!」
「うむ……よくわかんにゃいが
全身筋肉痛だにゃ。眠気もす、ごいにゃ……」
ペップが倒れ込んで、ピグナはその身体を支えて
俺をサッと自分の手に取ると
ペップを寝かし、俺の顔を見て
「ペップちゃんが確かに食王は倒したんだけど
同時にバムちゃんが消えた!」
とわけのわからないことを言ってくる。
「天界でも大騒動になってるみたいで
あたしの知らない大天使たちが
さっきからずっと、頭の中で現地に何か
変化がないか、聞いてきてる」
「……バムが……なあ、それと関係あるのか
わからないけど」
食王に衝突したあとに見た二度の
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ピグナは青い顔をし始める。
「あのさ、あたしの推測でしかないんだけど
最初の遊園地の時にもしかすると食王は
ゴルダブルと一時的に融合してたんじゃないかな……」
「そっ、そうなのか?」
「推測だよ?でも、その後にゴルダブルそっくり
黒い巨大な体になって現れたでしょ?」
「確かに……」
「で、今度は、その出口に真黒なバムちゃんが
居たということは……」
ピグナはそこで辛そうに一旦、口を閉じて考え込んで
「たぶん、パシーとかオーガ女たちを
遠隔操作しているところから感覚に入られて
乗っ取られたんじゃ……」
「うわぁ……」
ヤバいということは俺にも分かる。
「なあ、俺たち二度も食王を倒したよな?」
「そうだよ。そしてそれは再現可能だからね。
あたしたちの連携の破壊力は、もはや食王を凌駕してる。
でも……」
「バムと食王の能力が組み合わさったら……」
ピグナはまた眉間にしわを寄せて考え込み
「きっと、バムちゃんも抵抗してると思うんだよ。
あれだけの力を持ったバムちやんがあっさり
融合されるわけがない。
だから、食王は融合が完成するまで姿を消した」
「さ、探さないと……」
だが俺は皮である。口と目は辛うじて使えるが
何もできない。
「ねぇ、ゴルダブル、食王がピンチになったら
行きそうな場所の見当がつかない?」
「ちょ、ちょっと待て。考えてみる」
両目を閉じて、今まで起きたことを
高速で頭の中で辿ってみる。
ないないないないないない、くそっ……
どこにもそんな話は聞いて……いや……。
「あっ、バムが確か……」
「うん。なんでも言って」
「確か、食王は……この世界に来たときに
機械に囲まれていたと……そして
この星の生き物じゃないと……」
ピグナがあっと口を開けて
「そうか!宇宙船か!それを探せば!」
「なあ、ワールドイートタワーの可能性もないか?」
「そっちは、嵐が消えてるからもう天界と冥界の
大探索チームが入ってるけど、まだ何も……」
「そうか、ならこの星の隅々まで
宇宙船を探さないと……」
「ちょっと、頭の中でうるさい大天使どもに
今のことを話してみる」
「ああ、頼む……」
何もできないので、空を見上げていると
ファイナが走ってきた。
「やっと巨大オーガさんたちを冥界へと帰らせましたわ。
ところで、なにやらマズイことに
なっていると、トレーナーパイセンさんたちから
お聞きしましたが……」
今までの話をするとファイナはキッと空を見上げ
「やはり、世界はまだ危険なままなのですね。
わかりました。宇宙船探索の事、冥王様に伝えるように
トレーナーパイセンさんに言ってみます」
ファイナは来た方向へと駆けて行った。
入れ替わりでマクネルファーがやってくる。
「ふぃーやっと、マリーから逃げおおせたわい。
ありゃ、どうしたんじゃ?二人とも怖い顔して。
食王は死んだんじゃろ?ロボットで自爆せんでよかったわ」
目を閉じて一人でブツブツと通信しているピグナの代わり
俺が、また先ほどの話をすると
マクネルファーは
「……世界の危機なら仕方ないのぉ。
マリーに帝国兵を使って宇宙船の探索と
それから世界各国へと、連絡をするように
言ってみるわい」
ニヒルに笑って、去って行く。
皮のわりによく頑張ったと思う。
ちょっと休むか、と空を見上げるのをやめて
両目を閉じると、いきなり意識が落ちた。
「パパーあのさーママがねー」
見覚えがあるアパートの一室だ。
確か、俺の部屋じゃないか……ここ。
ちゃぶ台を囲んで、小さな黒いバムと
大きな黒いバムが俺を見ている。
「ママが僕と遊びたくないって言うんだ……」
小さな黒いバムは寂し気に呟いてくる。
黒いバムは黙って微笑んでいるだけだ。
「僕、ママと遊びたいのに……」
小さな黒いバムは俺を物欲しげに見つめる。
俺は少し考えて
「ママは疲れてるんじゃないか?」
「でも、僕はママと……」
小さなバムは辛そうな顔で見てくる。
黒いバムはまるで顔に表情が貼りついたかのように
微笑み続けている。
「パパは僕の事好き?」
小さなバムが俺を見つめてくる
「ああ、好きだよ」
「ママは僕の事好き?」
見つめられたバムは微笑むだけである。
「……好きじゃないのかなぁ」
意気消沈する小さなバムに俺は
「きっと、疲れてるんだよ」
さっきと同じことを繰り返す。
すると、いきなり小さなバムが
憤怒の表情になり
「同じことしか言えないの?」
俺を指さすと、いきなり辺りの景色が変わった。
俺はどこかに寝かされている。
「聞こえますかー!?」
男の声で何度も耳元にそう尋ねられる。
聞こえているよ。うるさいなと
朦朧とした意識の中思いながら
良く見えない視界で辺りを見回す。
病院、いや、狭い救急車の中……?
よく分からない言葉を男たちが言っている中
ピーッと言う機械音が聞こえて
胸に何か機械が押し当てられ
掛け声とともに、俺の上半身が
ガクンッと上へと跳ねる。
痛みが無いから分からないが
電気ショックか何かのようだ……そこで意識を失った。
次に起きると顔には白い布がかけられていた。
何も見えないなと思っていると
いきなり布が外されて
見覚えのある顔が俺を覗き込んでくる。
ふくよかで憔悴しきった顔は……母さんか……。
料理上手で、口うるさくて……優しい……。
ああ、俺、切れた電線に当たって
そうか、死んだんだな……。
母さんは、俺の顔見るとそのまま
横に崩れ落ちていき、隣に居た父親から支えられる。
父さん……相変わらずサイド以外、禿げてるな……。
痩せてて小柄で、うだつのあがらないリーマンだけど
文句ひとつ言わず、病気もせずに
俺を育ててくれた。
気丈な顔を無理してしているのが分かるのは
いつものことだけど……。
ああ、ごめん……なんか本当にごめんなさい。
早かったなぁ……短いけど人生に悔いなしとか
決戦の前に言っちゃったけど
早すぎた……かも……。
後悔と共に目の前が真っ白になっていく。
「おっきろにゃあああああああああ!!」
「ぶぼふぁああああああああああああ!」
平手打ちを連発されて
左右にブラブラ揺れる。皮のままのようだ。
「こ、ここは……」
「帝都の宮殿の中だにゃ!連れて来たにゃ!
ゴルダブルなんか気持ち悪い顔して
うなされてたから起こしたにゃ」
ペップは血色のいい顔で真面目に言ってくる。
「お、俺、生きてるよな?」
「当たり前だにゃ!皮だけどちゃんと生きてるにゃ!」
また平手打ちをしようとしたペップに慌てて
「だ、大丈夫。正気に戻った」
「ならいいにゃ。これから世界各国の
首脳を集めた会議が開かれるにゃ。連れてくにゃ」
よく見るとオレンジのスリムドレスを着ているペップは
俺を抱えて部屋を出ていく。
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おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日突然、異世界転移してしまった料理人のタツマ。
わけもわからないまま、異世界で生活を送り……次第に自分のやりたいこと、したかったことを思い出す。
それは料理を通して皆を笑顔にすること、自分がしてもらったように貧しい子達にお腹いっぱいになって貰うことだった。
男は異世界にて、フェンリルや仲間たちと共に穏やかなに過ごしていく。
いずれ、最強の料理人と呼ばれるその日まで。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
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