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ワールドイートタワーへ

悪意のち墓石の街

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揺れは次第に酷くなって
ピグナと動揺してあたふたしていると
いきなりピタッと収まった。
「な、なんだったんだ……」
「わかんない……でも、たぶん何が
 地中から出てきたんだと思う」
「二人を起こそう」
俺たちが起こすまでもなく
ペップがテントから出てきた。

「凄い揺れだったにゃ……」
「ファイナも起こしてくれるか?」
ペップは頷いて、すぐ起こしに行ってくれた。
起きてきたファイナも交えて
地中から何か出てきたと思うと
ピグナが説明すると
即座にペップがテントを片付け始めて
ファイナも荷物をまとめ始めた。
俺とピグナもそれに加わる。

十分ほどで出発の準備は整って
どちらへ向かうかという話になった。
「あたしは、大木の裏をまっすぐに
 進めばいい気がしてる」
「私も勘も同じだにゃ」
「どこか、良さそうな場所でペップさんが
 木の上に登れば良いのでは?」
「大木から離れてからやってみるにゃ。
 また白い手に掴まれたらたまらんからにゃ」
よし、出発という直前になって
俺はいきなり、服の袖を掴まれた。
そこには小柄な例のトレーナーパイセンが立っていて
「メニュー変更たい。ウサギ飛びせんね」
と俺に恐ろしいことをいきなり告げてきた。

普通に歩いていく三人の後ろから
俺はトレーナーパイセンに監視されながら
ウサギとびをしてついていく。
荷物はペップが俺の分まで背負ってくれたが
それでも結構辛い。
大木からしばらく歩いて離れると
ペップが高い木を指さして
「ここにするにゃ」
と荷物を下して、スルスルと登り始めた。

皆で木を見上げながら待つ。
俺はもちろん木の下でウサギとびである。
しばらくすると素早く下りてきたペップが
「すっ、すごいものを見たにゃ!」
俺たちを見回して

「空の果てまで階段が伸びていたにゃ!
 間違いないにゃ!あれが目的地だにゃ!」

ピグナとファイナはすぐに頷いて
「行きましょう」
とペップが指さした方角へと歩きだして
俺もトレーナーパイセンに監視されながら
ウサギとびでついていく。
「まだ筋肉は限界じゃないたい!」
「まだいけると!まだアマチュアレベルばい!」
トレーナーパイセンに無暗に激励されながら
きつさに耐えて、ひたすら三人の背中を追っていくと
薄暗い森を抜けて、小雨が降り注ぐ
草原へと出た。

一気に開けた視界の果てに
延々と空の果てまで伸びる階段が映った。
「お供え物が鍵になってたんだね」
「そのようですわ」
「登るの楽しみだにゃ!」
「ここは、もうよかたい。筋肉をやすめんさい」
トレーナーパイセンはそう言ってスッと消えた。
俺は天まで伸びる階段を眺めて
「そんなにすんなり、いくんだろうか……」
とボソッと呟き、バッと三人から
振り返られながら
その場に疲労で倒れ込んだ。

小雨をテントでしのぎながら
俺は三人から中で介抱される。
「ねぇ、ゴルダブル、すんなり行かないって
 どういうこと?」
ピグナが尋ねてきて、俺は寝たまま
「……あんなにあからさまな場所は
 今まで、殆ど罠じゃなかったか?」
「うーん、言われてみればそうですわね……」
「確かににゃ……」
良かった三人とも気づいてくれたようだ。

「つまり他に行くべき場所があると?」
「そうじゃないかと思う」
「とは言えヒントは他にないにゃ」
「とりあえず階段の所まで行ってみようよ」
「そうですわね。登らずに様子を見ましょう」
二時間ほどして俺の体力が回復するのと同時に
四人で階段まで歩いていく。

さらに一時間ほどかけて
草原のど真ん中から、延々と空へと伸びている
階段の下へと歩いていった。
俺たちがたどり着くと階段が伸びている先の
空だけがパアッと晴れて、虹が幾重にもかかった。

「な……怪しすぎるだろ?」
「た、確かに最初のテンションのままだったら
 喜んで登ってたよこれ……」
「どう見ても罠ですわね」
「んーこれは、トレーナーパイセンに
 また頼んで試しに登ってもらうかにゃ?」
「いや、それは止めよう……俺の分もまだ終わってない……」
俺の担当はまだまだやる気のようである。
「大丈夫だにゃ。今度は私がトレーニングを引き受けるにゃ」
ペップはニカッと笑った。

ファイナの召喚魔法から出てきた
大柄なトレーナーパイセンは俺たちの頼みと
ペップがその代償としてトレーニングを引き受けると話すと
「よかたい。この階段に登ればいいんね?」
と尋ねてきたので、全員で頷いて
罠があるかもしれないと一応説明する。
「問題なか。この身体は仮初たい。行ってくるたい」
トレーニングパイセンは軽やかなステップで
天まで伸びる階段を走って登り始めた。

固唾を飲んでそれを見守っていると
まずは下から階段が崩れだした。
「やっぱり来たね……」
「たぶん序の口だにゃ……」
「だろうな……」
トレーナーパイセンは後ろを振り返らずに
階段を駆け上っていくので崩れには追い付かれそうにない。
さらに見上げていると
今度は登っていくトレーナーパイセンの左右から
強風が吹き始める。
「風で落とすのか……」
「あの高さから落下したら死にますわね……」
「登らないで良かったな……」

上手くバランスをとって階段を駆け上っていく
トレーナーパイセンが豆粒ほどの大きさになるまで
離れると、今度はいきなり空中に
真っ白な髭と横わけの真っ白な長髪をした
後光が差す神々しい老人の顔と上半身が
大写してで出てきて
「よくここまで、来ましたね。
 では、天国へとお連れしましょう」
と老人はその巨大な口を開けると
いきなりすさまじい勢いの炎を吐き出した。

米粒状のトレーナーパイセンはどうやら避けきったようで
そのままさらに駆け上っていく。
「悪意しかないな……」
「殺す。以外の意志を感じないにゃ……」
「あれ、天界とか冥界の生き物じゃないよ。
 ただの巨大な映像や音声と、空中召喚された炎の組み合わせだね」
さらに見上げている、今度はいきなり曇った空から
激しい雷が何本も降り注ぎ始めて
そして上の方の階段からいきなり
派手な音を立てて爆散しはじめる。

さすがにトレーナーパイセンも避けきれずに
爆風に巻き込まれて消えた。
そしてスッと俺たちの背後に再び姿を現す。
「身体を再構成したたい。あれ以上は進めんかったけど
 よかね?」
「十分だにゃ。じゃあ私がトレーニング
 するから好きなメニューを言ってくれにゃ」
ペップはさっそく片足立ちのスクワット言い渡されて
小雨が降る中、筋トレをしはじめた。

「で、どうする?」
「階段は完全に爆散して無くなったね」
「うーん、わたくしは、階段のさらに先に
 まっすぐ進むしかない気がしていますが……」
ファイナの勘にピグナが同意して
「今までも完全ノーヒントってわけじゃなかったからね。
 確かに外れの罠の先に、何かある可能性はあるね」
俺は空を見回してみる。さっきまで晴れていた一部も
すべて曇り空に戻り、小雨が延々と降りしきっている。
どの方角も代わり映えはしていない。
「空にはヒントはないな」
「じゃあ、ファイナちゃんの案で」
三人で頷いて、ペップがトレーニングを終わるのを待ち
また先へと進み始めた。

ペップは後ろからトレーナーパイセンに
指導されながら逆立ち歩きでついてくる。
彼女のことは放っておいてあげつつ
「そう言えば、じいさんはどこに行ったんだろうね」
「そうですわね。心配する必要はないでしょうけど」
「確かにな」
俺ももう気にしていない。
またどこかで何か良い目に遭っているだろう。

草原をまっすぐに歩き続けると
なんと、大きな街が見えてきた。
驚いて進んでいくと、それが街に見えた
まったく違うものであるのがわかる。
巨大な墓地である。家々に似せるように
色とりどりに塗られた巨大な墓石が
街のように大量に立ち並んでいる。
「異様な光景は慣れたと思ったけど……」
「そうだね……」
「進みましょう。今度は罠ではないと思いますわ」
逆立ち歩きしているペップと共に
墓石の街へと入っていく。

巨大な墓石が整然と立ち並ぶ街へと入っていくと
真っ黒いローブのフードを目深に被った
数人の男女が街の中心を棺のようなものを神輿のように
担いでゆっくり静かに進んでいく。
神輿の背後には綺麗に整列した
真白いローブを着た人々が数十人並んでついていっている。

ピグナがその葬列を見た瞬間に
「意思のある生き物じゃないよ。
 プログラムされた行動を繰り返す人形みたいなもんだね」
「……一体、捕獲するにゃ?」
「そうだね。ちょっと最後列の女の人形を
 捕まえてみて」
ペップが最後列へと走って行くと
白いローブを着た女性の姿をした人形を
脇に抱えて戻ってくる。

「中身がどんなになってるか、調べるにゃ?」
ぐったりと動かなくなった白いローブを着た
まるで人間のような人形をペップを寝かせながら言う。
「そうだね。脱がしてみようか」
「ゴルダブル様は、向こうを向いていてくださいね」
「えっ、いや、人形だろ……」
ファイナから有無を言わさずに反対を向かせられる。

「ふーむ……よくできてるにゃ……」
「肌も柔らかいね。しかし毛は一切ないか」
「本当に人形なのですか?」
「有機体で作られた人形だよ。作ったやつは
 相当な技術者だと思う」
俺は三人の話を聞くしかない。

「よし、調べ終わったにゃ」
俺が振り向くとペップが服を着せ終わった人形を
横の墓石の壁に寄せて寝かせていた。
「この人形からは微かにエッチの波動を感じるにゃ。
 作ったものはまだ悟りきってないにゃ」
「つまり、寂しさに負けて人形を人間そっくり作ったと?」
「そうだと思うにゃ」
「ふむー謎が深まりましたわね」
俺がしゃがんで人形の胸元を捲って見てみようとすると
すぐにペップが飛んできて
「エッチなのはいけないにゃあ……」
肩を掴まれ、耳元で怖い声で囁かれた。

俺たちは向こうをまだゆっくりと進んでいる
人形たちの葬儀の列を追ってみることにする。
四人で別れて、人形たちを別々の角度から観察する。
俺は最後尾で、背中を軽く叩いてみたり
呼びかけてみるが、反応は帰ってこない。
やはり用意された行動を繰り返しているだけのようだ。

一時間ほど、葬儀の列と並んで歩いていくと。
大量の墓石を組み合わせて作られたらしき
巨大な教会へとたどり着いた。
人形たちの列は、異様なその教会へと入っていき
そして聖堂の中で棺を下すと
その棺を丁寧で良く連携の取れた動きで
聖堂の奥の祭壇の前に安置して
そして棺の蓋を開ける。

中に入っていたものを全員で見た瞬間に
驚愕した。
そこには白髭で顔一面が覆われている。
白いローブ姿のマクネルファーが寝ていた。
「じ、じいさん、何してるにゃ!?」
マクネルファーは微かに瞳を開けると
「う、うーん……懐かしい声がするのう……」
とこちらを見てきて、ガバッと起き上がる。

しばらく全員で唖然として顔を見つめていると
マクネルファーがゆっくりと棺から起き上がり
「お前ら、終わりじゃ終わり。家に帰りなさい」
人形たちに向かって呼びかけた。
次の瞬間には、白いローブと黒いローブの人形たちは
後ろを向いて、キビキビした動きで聖堂から出て行った。

「久しぶりじゃのう……」
マクネルファーは涙目で語り掛けてくるが
まだ目の前で何が起こっているのか
俺たちには理解できていない。
聖堂の並べられた長椅子に並んで座って
マクネルファーから話を聞くことにする。
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