料理に興味が一切ない俺が、味覚が狂った異世界に転移した

弍楊仲 二仙

文字の大きさ
上 下
115 / 133
ワールドイートタワーへ

ウロと光の玉

しおりを挟む
小雨の中立ち上がる。
わりと全身ずぶ濡れである。
かなりの量の雨を浴びていたようだ。
「青空から落ちてて、途中で気絶したみたいなんだけど
 その間に何が起こってたか、見てた人居る?」
仲間たちに尋ねてみると

「私は着地の瞬間まで、意識を保ってたにゃ」
「あたしとファイナちゃんは、寝てたみたい。
 ペップちゃんに起こされた」
「途中まで青空で、急に空の下一面が曇り空になって
 それから、雨雲の中を落ちて行って
 着地する寸前に、ゆっくりになったにゃ。
 大地に降りてからは、バラバラに落ちたみんなを
 こうして集めてまわったにゃよ?」
「ありがたい。恩に着る」
感謝すると、ペップはニカッと笑った。

「しかし陰気な場所ですわ……」
「そうだね。ここが次のフロアだと思うんだけど……」
確かに足元は黒く湿っていて
頭上は暗雲が垂れ込め、そして小雨が降っている。
俺はペップから折りたたみ傘を渡してもらって
それを差す。
「どこかで着替えたいんだけど……」
「あっちに森がありますわね。」
ファイナが真黒な木々が生える
怪しげな森を指さした。

とりあえず、小雨を遮れそうなので
森の中へと非難する。
少し離れた所で服を脱いで
着替えていると、目の前にスッと
光の玉が通り過ぎていく。
気のせいかなと着替え終わって
雨に濡れた服を絞ったりして
皆のところへと戻る。

ペップが
テントを既に張っていて
ファイナとピグナは食事を作っていた。
いつものことだが、しっかり二種類である。
ファイナ用の小鍋と、俺たち用の鍋を
両手から魔法の炎を出しているファイナが
それぞれ沸かしている。

俺は近くの枝に服を干してから
料理に加わる。
完成して、四人で
湿っぽい土の上に水をはじく油が塗られた
皮シートを敷いて
食べ始めると
「今日は休む?」
とピグナが言い出す。
「マクネルファーは……?」
「あのじいさん強運だにゃ。生きてるにゃ」
「そうですわね。どこかで楽しんでる気がしますわ」
「気にしないでいいよ。大丈夫だって」
「……そうだろうか」
心配しているのは俺だけのようなので
とりあえず、飯を食べて
皆で、休むことにする。

やっぱりテントの外だった。
何がって寝る場所がである。
寝袋をそのまま敷くと
湿りそうなので、下に皮シートを敷いて
そして包んで、中へと入る。
木々の下なので濡れはしないが
小雨が、葉っぱをポツポツと打つ音が
延々と続く。

寝られない。
寝袋の中から目を開けて
俺たちを覆う木々を眺めていると
フッと、光の玉がまた過ぎった。
眼の調子が悪いのかなと瞬きしていると
また光の玉が寝ている俺の上を
通り過ぎていき、さらにその数が増えていく。
数十の白い光の玉に俺の寝袋は囲まれて
恐怖心とパニックが極限に達し
そのまま俺は気を失った。
「おっきろにゃああああああああ!」

いきなり身体の横を叩かれて
「ぶぼっはぁああああああああ!」
俺はゴロゴロと横に転がって
茂みの中に突っ込む。

すぐにピグナとファイナが茂みの中から
俺を引っ張り出して
「大丈夫だった?」
「白目を剥いて、泡を噴き出していたので
 ペップさんが、起こしてくれました」

「そ、そう……」
骨とか折れてないよな……と身体を触りながら
立ち上がる。
小雨が木々の葉を打つ音が
絶え間なく続いている。
「ご飯、できてるよ」
ピグナから手を引かれて
食事を並べたシートの上へと連れていかれ
さっそく食べ始める。

あれだけ強くたたかれたのに
身体の調子は良いようである。
ペップがテントを畳みながら
「これでみんな起きたけど、どうするにゃ?」
「森の奥に行こうと思うんだけど
 ゴルダブルはどう思う?」
「いいんじゃないか?他に目立った所も
 ないんだろ?」
俺が食べながら答えると、ピグナは頷いた。
「悪魔センサーも効かないんだよ。
 だから、ペップちゃんの勘に頼ることにした」
「この奥だにゃ。間違いにゃい」
テントを荷物の中へとまとめながら
ペップが自信満々に頷く。

俺が食べ終わり、片付けや準備も終わると
さっそく出発ということになった。
俺はなんとなく何か大事な事を
忘れているような気がするが
きっと気のせいだろうと、思いながら
皆と、森の奥へと歩みを進めていく。

暗く薄暗い森である。
木々の葉を雨が打ち続けて
陰気な雰囲気が延々と続いていく。
「あのさ、マクネルファーは……」
ふと思い出しので、女子たちに尋ねてみるが
「じいさんなら平気だにゃ」
「気にしなくとも良いですわ」
「そうだね。どっかで楽しくやってるし
 そのうち、こっちの顔出すよ。たぶん」
まったく三人とも心配していない。
いいんだろうかと思いながら
さらに奥へと歩みを進めていく。

ペップは元気よく進んでいくが
次第にファイナの元気が無くなってきた。
「だ、ダメですわ……何か力が……」
「私が背負うにゃ」
ペップは荷物と共に軽々と
ファイナを背負って、先頭をまた歩き出す。

「いい感じだね。冥界の避暑地にちょっと
 雰囲気が似てるよ」
ピグナは機嫌がいい。
俺はなんとなくいまいちな自分の気持ちに
この雰囲気が合致しているので
それほど辛くはない。
フワフワとした気分なまま
ペップの背中を見て進んでいくと
百メートルくらいは高さがありそうな
巨大な大木の根元へとたどり着いた。

ペップは頷いて
「ここだにゃ。たぶんここに何かあるにゃ」
と指をさす。
太い幹には幾つもの大きめのウロが開いている。
それはもはや真っ暗な洞窟のようだ。

「登る?」
ピグナが木の上を指さすと
ペップが荷物を置いて、寝ているファイナを俺に預け
「じゃ、ちょっと頂上まで言ってくるにゃ!」
スルスルと大木の幹を登り始めた。
そして十メートルほど上に開いた大きなウロの横を
通り過ぎようとしたときに
ウロの中から真っ白に発光する
巨大な手が現れて、ペップを身体ごと掴んで
ウロの中へと瞬時に連れ去っていく。

俺とピグナは呆然と上を見上げることしか
できなかった。
「ど、どうする?」
「いや、どうするって、ペップを助けに行くしかないだろ……」
「で、でもさ、よく考えたらね……」
ピグナはいきなり俺の身体を掴んできた。
「い、今なら、なんでもできるよね?」
要するに注意するペップが居なくなって
キスでも男女の営みでも、なんでもし放題と言いたいらしい。
さすが悪魔、自身の快楽に忠実だ。
呆れながら
「すぐに探しに……い、いやちょっと待てよ……」
俺は名案を思い付いてしまう。

「な、なあ、もしかしてここで
 ペップがブチ切れるようなことをすれば……」
「そ、そうか!向こうから戻ってくるかもしれない」
どこにでも現れるのがペップである。
ピグナはすぐにファイナを揺り起こして
寝ぼけ眼の彼女に状況を説明する。

「おお……そ、それは一石二鳥ですわね!」
さっきまで完全にやる気が無かった
ファイナが頬を赤らめてスッと立ち上がった。
「で、ど、どうすれば……」
「ペップちゃんが激怒しそうなことを
 全部やればいいんだよ!」
ピグナは服を脱ぎだした。ファイナも負けじと
脱ぎ捨て始める。
お、おおおお……まさか、こんな陰気なところで
いよいよ、来たのか?
フィーバーが、人生の絶頂の瞬間が。
ピグナはどうでもいいので、
浮気を脱いでいるファイナをジッと見ていると
「は、恥ずかしいですわ……」
身体を背けた
「ちょ、ちょっとゴルダブルこっち見てよ!」
ピグナが俺の顔を下着姿の自分に向けてくる。
お、おおおお……なんかいい!
なんかいいぞおおおおおお!
ピグナには興味ないけど、いい!
女子と女子のような何かが俺のために脱いでいる!
よ、よし、相手にしてやろう!
ここは俺の全力をかけて!
恥ずかし気に近寄ってきたファイナとピグナを
両腕で抱き寄せて

完全にやる気になったのと同じ瞬間に
大木のウロというウロから黄金の光が漏れ出てきて
同時に大地を揺らすような低い音で

「エッチなのはいけないにゃあ……」

恐ろしい響きの声が聞こえてきた。
「まだ何もしていませんのに!?」
「ま、まさかもう、帰ってきたの!?」
ピグナが俺の腕の中で頭上を見あげると
先ほどペップが連れ去られた一番下のウロの中から
光り輝く金色の透明な龍が出てくる。

透明な輝く龍は何十メートルもあるような身体を
窮屈そうにウロの中から出しながら
厳めしく横に長い顔についた
燃えるような真っ赤な両眼で睨みつけながら

「エッチなのは貴様らかにゃ……?」

抱き合っている俺たちに問いかけてくる。
全員で必死に横に首を振って
二人はすばやく服を着始める。
黄金の龍はしばらく、俺たちの様子を
いかめしい顔で見つめ続けると
急にふっと消えた。
同時にペップがゆっくりと下へと落ちてくる。

ペップを俺が受け止めて
しばらく唖然と固まる。
服を着終えた二人も近寄ってきて
「す、すごいね……ペップちゃんの
 武術の才能の片鱗を見たよ。
 あれたぶん、闘気で作った龍でしょ……」
「わたくしに並ぶくらいの攻撃の天才かもしれませんわ……」
「と、とにかく、ペップは取り戻した。
 ちょっとここで休憩して、作戦を練り直そう」

テントを設営して
その中でペップを寝かし
大木のふもとで昼食を作り始める。
「ペップが起きたら、ウロの内部のことが訊けるな」
「そうだね。あーでも惜しかったなぁ」
「まっことそうですわ!」
二人が頷き合っていると、テントの中から
一瞬、凄まじい気配が飛んできて
全員で固まる。

ピグナが恐る恐るテントの入り口を開けて
「起きてないよ……無意識であれか……」
料理が出来たので、モソモソと三人で
シートの上に座り、黙って食べていると
俺の目の前に、フッと光の玉が横切る。
「……?」
見間違いか?と思うと
「今の見ましたか?」
ピグナが俺とピグナを見回してくる。
ピグナは少し考えてから

「霊魂とかの類だね。冥界にはよく飛んでるよ」

気にしない顔でまた食べ始めた。
「れ、霊魂……」
「つまり幽霊ですの……?」
ピグナはめんどくさそうに頷いてそして
「なんで驚いてるの?さっきのペップちゃんのが
 よっぽど怖いよ?」
不思議そうに俺たちを見てくる。
辺りにはさらに光の玉が増え始めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

日本は異世界で平和に過ごしたいようです。

Koutan
ファンタジー
2020年、日本各地で震度5強の揺れを観測した。 これにより、日本は海外との一切の通信が取れなくなった。 その後、自衛隊機や、民間機の報告により、地球とは全く異なる世界に日本が転移したことが判明する。 そこで日本は資源の枯渇などを回避するために諸外国との交流を図ろうとするが... この作品では自衛隊が主に活躍します。流血要素を含むため、苦手な方は、ブラウザバックをして他の方々の良い作品を見に行くんだ! ちなみにご意見ご感想等でご指摘いただければ修正させていただく思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。 "小説家になろう"にも掲載中。 "小説家になろう"に掲載している本文をそのまま掲載しております。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

超文明日本

点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。 そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。 異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

処理中です...