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次の審査員と妙案
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地下へと伸びる階段を下りていく。
固めの土でできた周囲の壁を見回しながら
階段を慎重に進んでいくと
いきなり、青空の中へと出た。
足元には延々と透明な床が広がっているようで
歩いて行ける。
「こりゃまた、とんでもないところに来たもんじゃな……」
マクネルファーが上下左右を見回しながら言う。
「ちょっと待ってね、悪魔パワーで
床の範囲くらいは分かると思うから」
ピグナが両目を閉じて、しばらく集中した後に
「ここから、三百六十度、八万キロに渡って
透明な床があるね。こっちの方向には
五キロ先に、建築物があるみたい」
「どんな建物なのかにゃ?」
「いや、そこまでは分かんなかったよ。
妨害なのか、イメージが薄れてて」
とりあえずそこまで歩くことにした。
妨害するものが一切なく
直線距離でいけるので
たどり着くのに、それほど時間はかからなかった。
そこには、直系数百メートルほどありそうな巨大な穴と
それを囲って覆う太い鉄格子が聳え立っていた。
「なんだにゃ、これ……」
「わかんないね。どうする?
ここで休憩する?そろそろ夕食の時間だし」
「そうしましょう。疲れましたわ」
近くにテントを張って、俺たちは夕食の準備を始める。
「足元が透明な床なのが慣れんのう」
「でも、割れて落ちることはなさそうだよ。
相当に強度な素材じゃないかな」
「わたくしの魔法で実験してみますか?」
「私の気弾でもいいにゃよ?」
「いやいやいやいや、止めてくれ……わしは
ここから下に落ちて、死にたくはないぞい」
炊飯の煙が辺りに漂い始めて
皆で力を抜いて、雑談しながら夕食の準備をしていると
いきなり
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
という大きな地鳴りのような音が
透明な床の下から響いてきて
巨大な何かが、俺たち目指して飛んできた。
よくみると、苔むした異常に大きな翼をはばたかせたドラゴンのようである。
そのドラゴンは、小さな島ほどもありそうな
竜の顔をスポッと巨大な穴に入れると
鼻息荒く
「飯をくれ!めーしーをーくーれー!」
大口を開けて俺たちに言ってきて
同時にテントも用意していた夕食も
さらに俺たち自身も、その言葉を吐いた風圧で
吹き飛ばされていく。
「ハイキャッター拳、七の章!
風渡りスイミングだにゃ!」
ペップは、風圧の中を泳ぐように移動してきて
五人全員を捕まえると、無難に着地した。
呆然と吹き飛ばされた荷物類と
竜の巨大な顔を見回していると
「すまん……毎回、飛ばしてしまう……」
申し訳なさそうに、巨竜が呟いてきた。
呟き声でも、かなりでかい。
「私がいたからにゃんとかにゃったにゃ。
以降気をつけるように!」
ペップから指を差されて怒られて
巨竜が申し訳なさそうに、苔むした瞼の
両目を伏せるのがシュールだなぁ……と
見上げていると
気を取り直した顔のピグナが
巨竜の顔に近づいていって
「あんたが、次の審査員なんだね?」
と尋ねると、巨竜はニカッと笑って
ゆっくりと頷いた。
ピグナが巨竜に色々と質問している間に
俺たちは遠くまで飛んで行った
荷物やら機材、そしてテントを回収に行く。
数百メートルとか普通に飛ばされているので
皆でかなり苦労しながら、巨竜の頭の入っている
檻から遠くに離してまとめていく。
一時間弱で、ようやく全ての荷物を見つけ出し
「ひと苦労でしたわ……」
ファイナが肩を落として呟く。
向こうではまだピグナが巨竜に
様々な質問をぶつけている。
「あのでかい竜に食わせるなら
もう一回、階段上って調理場から
食材をもってこねばならんのう」
「でも、あいつの味覚がどっちなのか
まだわからないにゃ」
「ピグナが話を終えるまで待とう」
夕食が吹っ飛んだので
それに代わる食事をまた作り始める。
ようやく俺たちの夕飯ができたころに
ピグナはこちらへと駆けて戻り
「分かったよ!何が食べたいのかも!」
巨竜はこちらを仰ぎ見ると
檻から首を出して、そして遥か下方へと
飛んで行った。
「行きましたけどいいのですか?」
「うん。あたしたちが休憩と睡眠取ったら
また来るって言ってた」
ピグナに夕食の皿を乗せたトレイを
ペップが渡しながら
「で、どんな食べ物がほしいにゃ?」
「えっとね、あいつの名前はドナグルザ・ナッハガって言って
すっごい辛い物が食べたいんだって。
味覚は話を聞く限り、普通だね」
「甘いものの次は辛いものか……。
味覚の絶頂は今回は必要ない感じ?」
「そういうのはないって言ってた。
とにかく、体中がビリビリするくらい
辛い物を食べさせてほしいらしいよ」
「シンプルじゃな。とにかく飯を食って
寝よう、一晩経ったら良いアイデアも
浮かんでくるかもしれん」
皆同意したので、用心のために
檻からさらに離れた場所へ
テントを張る。
「そういえば、この空間はどうなってるんだ?」
ピグナに尋ねる。
「大きな島がここから下の空にいくつも浮いていて
そこがドラゴンたちの楽園になってるんだって。
この場所は透明な床と、高い天井に覆われていて
ドラゴンたちは入れないようになってるみたい」
「……同じ惑星なのか?」
「そこまではわかんない。
どこかの閉鎖空間かもしれない。
あの竜は、近くの浮き島に住んでいて
食事の匂いがしたら、檻に顔を入れるように
ある時、頭の中に声がしてやることにしたんだって」
「……凄い嗅覚だな」
こっちから下方に島は見えないので
相当な長距離を飛んできているはずである。
「そうだね、それにその頭の声も
食王とか食王の手下のものだろうね」
「……考え出したらきりがないから
とりあえず、あの巨竜を満足させるものを
明日から作ろう」
ピグナは頷いた。
翌日、
皆で起きだして朝食を食べていると
遠くの檻の中にドラゴンが顔を入れて
「きたぞー」
と気を使った調子で声をかけてくる。
精一杯小さくしているがそれでも結構な大声である。
空はまだ青空のままだ。
どうやらここも前の階と同じく
空の色が変わらないらしい。
ピグナさっそく竜のところに走って行き
色々と尋ねに行く。
そしてこちらへと駆けてきて
「量は多い方が良いんだって。
あと味は辛めでかつ豊かな方がいいってさ」
「注文が昨日より増えてきたのう……待たせたからか」
「竜の子供さんに作ってあげていた
料理の応用が効きますわね」
ファイナを皆で一瞬、見つめる。
「そ、そうか……じゃあ、辛めの
野菜炒めとかでいけるな」
「問題は食材の搬送だにゃ……」
「それはみんなでするしかないね。
あたしは、これから食材を運ぶって言ってくるよ」
ピグナはまた、檻へと駆けて行った。
俺とペップが搬送係ということになり
ファイナとマクネルファーは
その場で調理の準備を始める。
ペップと共に、前の階を行き来して
可能な限りの肉と食材を運び込んでいくが
いくら運んでもまだ足りないような気がする。
そして調理場の食材はいくら
運び足しても不思議と補充されていて
尽きることがなかったので
搬送の無限ループに陥っているような
錯覚を覚えながら
二人で、数百キロ分の食材を
数時間かけて、積み上げ
そして、俺がまず倒れ込む。
ペップは余裕の表情で
「鍛え方がたりないにゃ。あとは任せろにゃ」
さらに速度を上げて、一階とこの場所との
往復を始めだした。
「水飲むかの?」
「ありがとう……」
マクネルファーの差し出した水を飲んで
しばらく休憩することにした。
調理器具の準備はとっくに済んでいるようだ。
やることがなくなったファイナが暇そうに
右手と左手に冥界の炎を点けたり消したりしている。
少し休んでから、食材の搬送に
再び加わる。ペップ一人でやらせるわけにはいかない。
ファイナとマクネルファーも
無理せずに持てる範囲で、肉や野菜を
運んできてくれた。
千キロを余裕で超えるであろう
食材を積み上げて、巨竜と話して
待たせていたピグナに駆け寄って
搬送が終わったことを教えると
「待たせたねー!今から作るからねー」
巨竜に手を振って、俺の手を引いて
食材の場所へと駆けていく。
「もっと近くで作らんと
盛れる皿はないぞい」
「そうだにゃ。鼻息で飛ばさないように
注意していてほしいにゃ」
「わかった。じゃあ、その食材を
檻のすぐ近くに移動させて」
ピグナは頷いて
肉や野菜を背負って
すぐに檻へと駆けていく。
俺たちもさらに食材の移動に時間をかける。
今度は近くだったので一時間ほどで
何とか全て移動させられて
皿が無いので、巨竜の鼻先で作ることにした。
ピグナによると、料理が完成すると
遮っている檻の一部が消えて、そこから舌を伸ばして
食事を食べられるようになるらしい。
「鼻息でとばすにゃよ!」
ペップは背後の巨竜に注意しながら
大鍋に肉と野菜を放り込んでかき混ぜていく。
その野菜炒めに、全員で全力で
塩やら、辛い香辛料やソースを何種類も振りかけて
かき混ぜて出来上がったら、ペップが
巨竜の顔の前で大鍋をひっくり返して
床にぶちまける。
ひたすら数時間以上それの繰り返しである。
千キロ以上の食材を使い切って
巨竜の鼻先に香ばしい匂いの
野菜炒めの大山が出来上がると、ペップ以外の
全員がその場に倒れていた。
もう半日近く、料理にかかりきりで
体力が残っていない。
唯一元気なペップが
「できたにゃ!食えにゃ!」
ビシッと檻に入った巨竜の顔を見上げて
指を差すと、巨竜と俺たちの間の檻が
スッと消えて、嬉しそうな顔の巨竜が
長い舌で千キロ以上量のある野菜炒めの山を一気に
口の中へと放り込んだ。
「一瞬か……」
皆で唖然としていると、巨竜は
旨そうにそれを飲み込んで
「ぜんぜん辛くないぞー?またそのうち来る」
と満足げに呟いて、スポッと檻から顔を出して
下方へと飛んで行った。
「……」
全員で言葉もなく固まる。
「あの……騙されたのでは?」
「いや、そうだったらあたしなら分かるけど……」
「と、とにかく、休もう。
俺たちも何か食べないと」
「私に任せろにゃ!旨いもん御馳走するにゃ!」
体力にまだ余裕のあるペップが
俺たちの遅めの昼食を作ってくれて
ふるまってくれたので
何とか、落ち着きを取り戻し
これからどうするか、作戦を練り始める。
「つまりじゃ、単純に辛さが足らんかったと思うがの」
「そうですわね。余裕の顔で食べていましたわ」
「上の階の調理場の食材で、あれ以上辛い組み合わせは
ないにゃ」
「うーん……ファイナちゃん、あとでいいから
魔界から、ヘルファイアクラッカーを
できるだけ召喚してくれる?」
「そ、それは、食べさせても大丈夫なのですか?」
「なんじゃそれは。爆竹か?」
「いや、木の実だよ。食べると炎が出る辛さで
あ、みんなは、素手で触れたらダメだからね。
触っただけで死ぬから」
「お、おい……あの竜を殺す気なのか?」
ピグナは首を横に振って
「いや、そうじゃないよ。
強靭な竜の口内で、しかも辛いもの好きで
辛い物に慣れてる。ならあたしが知ってる
一番辛いものでも、たぶん大丈夫だよ」
「確実ではないなら、賭けじゃな」
「九割勝てる賭けだと思う」
その後も少し皆で考えて、他に妙案は出なかったので
ピグナの案で行くことにした。
固めの土でできた周囲の壁を見回しながら
階段を慎重に進んでいくと
いきなり、青空の中へと出た。
足元には延々と透明な床が広がっているようで
歩いて行ける。
「こりゃまた、とんでもないところに来たもんじゃな……」
マクネルファーが上下左右を見回しながら言う。
「ちょっと待ってね、悪魔パワーで
床の範囲くらいは分かると思うから」
ピグナが両目を閉じて、しばらく集中した後に
「ここから、三百六十度、八万キロに渡って
透明な床があるね。こっちの方向には
五キロ先に、建築物があるみたい」
「どんな建物なのかにゃ?」
「いや、そこまでは分かんなかったよ。
妨害なのか、イメージが薄れてて」
とりあえずそこまで歩くことにした。
妨害するものが一切なく
直線距離でいけるので
たどり着くのに、それほど時間はかからなかった。
そこには、直系数百メートルほどありそうな巨大な穴と
それを囲って覆う太い鉄格子が聳え立っていた。
「なんだにゃ、これ……」
「わかんないね。どうする?
ここで休憩する?そろそろ夕食の時間だし」
「そうしましょう。疲れましたわ」
近くにテントを張って、俺たちは夕食の準備を始める。
「足元が透明な床なのが慣れんのう」
「でも、割れて落ちることはなさそうだよ。
相当に強度な素材じゃないかな」
「わたくしの魔法で実験してみますか?」
「私の気弾でもいいにゃよ?」
「いやいやいやいや、止めてくれ……わしは
ここから下に落ちて、死にたくはないぞい」
炊飯の煙が辺りに漂い始めて
皆で力を抜いて、雑談しながら夕食の準備をしていると
いきなり
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
という大きな地鳴りのような音が
透明な床の下から響いてきて
巨大な何かが、俺たち目指して飛んできた。
よくみると、苔むした異常に大きな翼をはばたかせたドラゴンのようである。
そのドラゴンは、小さな島ほどもありそうな
竜の顔をスポッと巨大な穴に入れると
鼻息荒く
「飯をくれ!めーしーをーくーれー!」
大口を開けて俺たちに言ってきて
同時にテントも用意していた夕食も
さらに俺たち自身も、その言葉を吐いた風圧で
吹き飛ばされていく。
「ハイキャッター拳、七の章!
風渡りスイミングだにゃ!」
ペップは、風圧の中を泳ぐように移動してきて
五人全員を捕まえると、無難に着地した。
呆然と吹き飛ばされた荷物類と
竜の巨大な顔を見回していると
「すまん……毎回、飛ばしてしまう……」
申し訳なさそうに、巨竜が呟いてきた。
呟き声でも、かなりでかい。
「私がいたからにゃんとかにゃったにゃ。
以降気をつけるように!」
ペップから指を差されて怒られて
巨竜が申し訳なさそうに、苔むした瞼の
両目を伏せるのがシュールだなぁ……と
見上げていると
気を取り直した顔のピグナが
巨竜の顔に近づいていって
「あんたが、次の審査員なんだね?」
と尋ねると、巨竜はニカッと笑って
ゆっくりと頷いた。
ピグナが巨竜に色々と質問している間に
俺たちは遠くまで飛んで行った
荷物やら機材、そしてテントを回収に行く。
数百メートルとか普通に飛ばされているので
皆でかなり苦労しながら、巨竜の頭の入っている
檻から遠くに離してまとめていく。
一時間弱で、ようやく全ての荷物を見つけ出し
「ひと苦労でしたわ……」
ファイナが肩を落として呟く。
向こうではまだピグナが巨竜に
様々な質問をぶつけている。
「あのでかい竜に食わせるなら
もう一回、階段上って調理場から
食材をもってこねばならんのう」
「でも、あいつの味覚がどっちなのか
まだわからないにゃ」
「ピグナが話を終えるまで待とう」
夕食が吹っ飛んだので
それに代わる食事をまた作り始める。
ようやく俺たちの夕飯ができたころに
ピグナはこちらへと駆けて戻り
「分かったよ!何が食べたいのかも!」
巨竜はこちらを仰ぎ見ると
檻から首を出して、そして遥か下方へと
飛んで行った。
「行きましたけどいいのですか?」
「うん。あたしたちが休憩と睡眠取ったら
また来るって言ってた」
ピグナに夕食の皿を乗せたトレイを
ペップが渡しながら
「で、どんな食べ物がほしいにゃ?」
「えっとね、あいつの名前はドナグルザ・ナッハガって言って
すっごい辛い物が食べたいんだって。
味覚は話を聞く限り、普通だね」
「甘いものの次は辛いものか……。
味覚の絶頂は今回は必要ない感じ?」
「そういうのはないって言ってた。
とにかく、体中がビリビリするくらい
辛い物を食べさせてほしいらしいよ」
「シンプルじゃな。とにかく飯を食って
寝よう、一晩経ったら良いアイデアも
浮かんでくるかもしれん」
皆同意したので、用心のために
檻からさらに離れた場所へ
テントを張る。
「そういえば、この空間はどうなってるんだ?」
ピグナに尋ねる。
「大きな島がここから下の空にいくつも浮いていて
そこがドラゴンたちの楽園になってるんだって。
この場所は透明な床と、高い天井に覆われていて
ドラゴンたちは入れないようになってるみたい」
「……同じ惑星なのか?」
「そこまではわかんない。
どこかの閉鎖空間かもしれない。
あの竜は、近くの浮き島に住んでいて
食事の匂いがしたら、檻に顔を入れるように
ある時、頭の中に声がしてやることにしたんだって」
「……凄い嗅覚だな」
こっちから下方に島は見えないので
相当な長距離を飛んできているはずである。
「そうだね、それにその頭の声も
食王とか食王の手下のものだろうね」
「……考え出したらきりがないから
とりあえず、あの巨竜を満足させるものを
明日から作ろう」
ピグナは頷いた。
翌日、
皆で起きだして朝食を食べていると
遠くの檻の中にドラゴンが顔を入れて
「きたぞー」
と気を使った調子で声をかけてくる。
精一杯小さくしているがそれでも結構な大声である。
空はまだ青空のままだ。
どうやらここも前の階と同じく
空の色が変わらないらしい。
ピグナさっそく竜のところに走って行き
色々と尋ねに行く。
そしてこちらへと駆けてきて
「量は多い方が良いんだって。
あと味は辛めでかつ豊かな方がいいってさ」
「注文が昨日より増えてきたのう……待たせたからか」
「竜の子供さんに作ってあげていた
料理の応用が効きますわね」
ファイナを皆で一瞬、見つめる。
「そ、そうか……じゃあ、辛めの
野菜炒めとかでいけるな」
「問題は食材の搬送だにゃ……」
「それはみんなでするしかないね。
あたしは、これから食材を運ぶって言ってくるよ」
ピグナはまた、檻へと駆けて行った。
俺とペップが搬送係ということになり
ファイナとマクネルファーは
その場で調理の準備を始める。
ペップと共に、前の階を行き来して
可能な限りの肉と食材を運び込んでいくが
いくら運んでもまだ足りないような気がする。
そして調理場の食材はいくら
運び足しても不思議と補充されていて
尽きることがなかったので
搬送の無限ループに陥っているような
錯覚を覚えながら
二人で、数百キロ分の食材を
数時間かけて、積み上げ
そして、俺がまず倒れ込む。
ペップは余裕の表情で
「鍛え方がたりないにゃ。あとは任せろにゃ」
さらに速度を上げて、一階とこの場所との
往復を始めだした。
「水飲むかの?」
「ありがとう……」
マクネルファーの差し出した水を飲んで
しばらく休憩することにした。
調理器具の準備はとっくに済んでいるようだ。
やることがなくなったファイナが暇そうに
右手と左手に冥界の炎を点けたり消したりしている。
少し休んでから、食材の搬送に
再び加わる。ペップ一人でやらせるわけにはいかない。
ファイナとマクネルファーも
無理せずに持てる範囲で、肉や野菜を
運んできてくれた。
千キロを余裕で超えるであろう
食材を積み上げて、巨竜と話して
待たせていたピグナに駆け寄って
搬送が終わったことを教えると
「待たせたねー!今から作るからねー」
巨竜に手を振って、俺の手を引いて
食材の場所へと駆けていく。
「もっと近くで作らんと
盛れる皿はないぞい」
「そうだにゃ。鼻息で飛ばさないように
注意していてほしいにゃ」
「わかった。じゃあ、その食材を
檻のすぐ近くに移動させて」
ピグナは頷いて
肉や野菜を背負って
すぐに檻へと駆けていく。
俺たちもさらに食材の移動に時間をかける。
今度は近くだったので一時間ほどで
何とか全て移動させられて
皿が無いので、巨竜の鼻先で作ることにした。
ピグナによると、料理が完成すると
遮っている檻の一部が消えて、そこから舌を伸ばして
食事を食べられるようになるらしい。
「鼻息でとばすにゃよ!」
ペップは背後の巨竜に注意しながら
大鍋に肉と野菜を放り込んでかき混ぜていく。
その野菜炒めに、全員で全力で
塩やら、辛い香辛料やソースを何種類も振りかけて
かき混ぜて出来上がったら、ペップが
巨竜の顔の前で大鍋をひっくり返して
床にぶちまける。
ひたすら数時間以上それの繰り返しである。
千キロ以上の食材を使い切って
巨竜の鼻先に香ばしい匂いの
野菜炒めの大山が出来上がると、ペップ以外の
全員がその場に倒れていた。
もう半日近く、料理にかかりきりで
体力が残っていない。
唯一元気なペップが
「できたにゃ!食えにゃ!」
ビシッと檻に入った巨竜の顔を見上げて
指を差すと、巨竜と俺たちの間の檻が
スッと消えて、嬉しそうな顔の巨竜が
長い舌で千キロ以上量のある野菜炒めの山を一気に
口の中へと放り込んだ。
「一瞬か……」
皆で唖然としていると、巨竜は
旨そうにそれを飲み込んで
「ぜんぜん辛くないぞー?またそのうち来る」
と満足げに呟いて、スポッと檻から顔を出して
下方へと飛んで行った。
「……」
全員で言葉もなく固まる。
「あの……騙されたのでは?」
「いや、そうだったらあたしなら分かるけど……」
「と、とにかく、休もう。
俺たちも何か食べないと」
「私に任せろにゃ!旨いもん御馳走するにゃ!」
体力にまだ余裕のあるペップが
俺たちの遅めの昼食を作ってくれて
ふるまってくれたので
何とか、落ち着きを取り戻し
これからどうするか、作戦を練り始める。
「つまりじゃ、単純に辛さが足らんかったと思うがの」
「そうですわね。余裕の顔で食べていましたわ」
「上の階の調理場の食材で、あれ以上辛い組み合わせは
ないにゃ」
「うーん……ファイナちゃん、あとでいいから
魔界から、ヘルファイアクラッカーを
できるだけ召喚してくれる?」
「そ、それは、食べさせても大丈夫なのですか?」
「なんじゃそれは。爆竹か?」
「いや、木の実だよ。食べると炎が出る辛さで
あ、みんなは、素手で触れたらダメだからね。
触っただけで死ぬから」
「お、おい……あの竜を殺す気なのか?」
ピグナは首を横に振って
「いや、そうじゃないよ。
強靭な竜の口内で、しかも辛いもの好きで
辛い物に慣れてる。ならあたしが知ってる
一番辛いものでも、たぶん大丈夫だよ」
「確実ではないなら、賭けじゃな」
「九割勝てる賭けだと思う」
その後も少し皆で考えて、他に妙案は出なかったので
ピグナの案で行くことにした。
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