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ワールドイートタワーへ
二分間クッキングの悪意
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翌朝起きて、全員で朝食を作って食べ始める。
マクネルファーも完全回復したようで
猛烈な勢いでパンをかじっては咽ている。
「じいさん、がっつきすぎだにゃ」
ペップから渡された水を飲み干して
マクネルファーはニカッと笑い
「マリーから逃げ切ったぞ!」
ガッツポーズをした。
「逃げ切ったというよりは、追い込まれた感じじゃないー?」
「そう言わんでくれ。あとはゴルダブル君を
食王にして、わしは行方不明になるだけじゃ」
「行方不明になって、身元不明の遺体になるんですの?」
ファイナが悪気なくぶっこんできて
「おい、縁起でもないぞい。もちろんどこか新天地で
天寿を全うするのじゃ!」
「全裸で叫んでた割には元気になってよかったにゃ……」
「ふっ、女子たちにはわしのナイス筋肉を
見せてしまったな……」
「枯れた肉体だったよ……」
ピグナが興味なさそうに言って、ペップがいきなり
「エッチなのはいけないにゃ!
お前はこれから"ゴルダブル様なら"と言う」
ビシッとファイナを指さして言う。
「なっ、なんでわかったんですの!?
まさか、予知能力が!?」
「ふっふふふ……私は既にアンチエッチ拳を極めたにゃ!」
いや、それ、別に予言能力要らないだろ……。
ちょっと考えれば分かることだよな。
と俺は黙ったまま朝食を食べ終えた。
テントを畳んで荷物を纏め、上へと登る準備をし始める。
ピグナによると、悪魔センサーで上を探知しようとしても
謎の力に遮られて、何があるかわからないらしい。
完全に準備を終えて、ふとピグナが
「ねぇ、ゴルダブル、何か忘れてることない?」
と言い出した。
「ん?何かあったかな」
「いや、入るとき鍵穴が急に現れたでしょ?」
「ああ、バムがマクネルファーさんの分の
キーを渡してきた。すぐ消えたけど」
ポケットから渡されたキーを取り出して見せると
全員が驚愕の表情で俺を見てくる。
「それ、なんで忘れてたにゃ……」
「ば、バムさんが我々を救ってくれたのですか?」
「そ、そうかわしの命の恩人になったのか……」
「とにかく行こうよ。進まなきゃ」
ピグナが気を取り直した顔で皆を見回して
俺を含めて全員が頷いた。
悪魔のピグナが警戒をしながら先頭を進み
俺とペップが荷物を背負い続き
そして最後列をファイナとマクネルファーが歩いていく。
老人のマクネルファーと、最強の殲滅能力を持つファイナを
守るための順序だ。
階段を静かに登っていき二階へと到達すると
そこには……。
「何もないにゃ……」
さっきまでのフロアと同じホールが
広がっているだけである。
「反対側の奥に階段があるね。行こう」
さらにまた上へと登ると
そこには何もなかった。
どうやらしばらくはこんな感じだなと
全員で理解したので、何もないフロアをひたすら
踏破して上へと上がっていく。
二十階ほど上がり、次の階で小休憩を入れようと
言いながら階段を上がると
そこのフロアの中心にはポツンと調理器具の並んだテーブルと
小さめの窯があり、その近くには縦看板が床から伸びていた。
全員で近づいて、看板を見ると
「二分で最高の料理を作れ」
と無茶苦茶なことが書かれている。
「んー最高な料理って言われても
誰にとっての最高だにゃ?」
首をかしげるペップの隣で、ピグナが周りを見回して
「上がる階段がないね」
「……つまり、このお題の通りに作らないと
上には進めんということかの?」
「だろうね。どうしようか」
「とりあえず、お題の通りに作ろう」
俺の言葉に全員が頷いて
何を作ればいいか、味覚はどちらに合わせるのか
話し始めた。
ピグナがこちらの世界の味覚に合わせる方が
いいのではないかと言ってきたので
まずはそれで作ろうということにする。
ファイナに二分で作れそうな旨い料理はないかと尋ねると
「難しいですね……皿に香辛料を撒いてみるとかどうでしょうか?」
「……それは料理というより香辛料だにゃ……」
「でもいいアイデアかもしれないよ。
まだダイオウイカの塩漬け残ってるから
あそこの窯で軽く焼いて、香辛料かけてみる?」
「そうしよう」
六人で素早く準備を始める。
窯に火をつけて、食材をテーブルに並べた。
「よし、二分を時計で測るぞい。よいかな?」
皆で頷くと
マクネルファーが
「よーい、スタート!」
合図を言い放ち、俺が包丁で
ダイオウイカの塩漬けされた肉を一口サイズに切って
それをペップが窯の中の火で炙り
表面が焼けたそれをテーブルの皿にのせ、ファイナとピグナが
素早く香辛料をいくつも振りかけた。
ファイナがさらに僅かに切ったそれを
口に放り込んで味見して、頷いた。
「よしっ、二分じゃ!」
マクネルファーはガッツポーズした。
同時に、料理真上の空間に大きな横穴が開いて
そこから、紫色の毛がびっしりと生えた伸びた爪が赤い
太い筋肉質な手が伸びてくる。その手はガシッと
ダイオウイカの焼き肉を掴むと
穴の中へとそれを持って行った。
全員で呆然とそれを眺めていると
穴の中から
「まずっ。作り直し。罰として今度は三十秒だ」
低く支配的な男の声がしてきて
ダイオウイカの焼き肉は穴から床へと投げ捨てられる。
宙から穴が消えてから
恐る恐る俺が
「な、なんだ、あの手……」
呟くと、ピグナが腕を組んで
「上位悪魔だね。あの個性的な手を見ただけで分かるよ」
「じょ、上位悪魔がなんで、この塔に?」
「食王に雇われてるんでしょ。監視兼味見役だね」
「そ、そうか次は三十秒とか言ってたが……」
「……三十秒で作るしかないね」
ピグナがそう言うと、全員がすぐに集まり
次の料理の案を出し合う。ここで立ち止まっている時間はない。
三十秒で出来る料理と言えば
混ぜ物くらししかないので
そうすることにして、次は味覚を俺たち側に
寄せてみることにした。
一応離れたところで、一度試作品を作ってみる。
ほうれん草のようなこの世界の野菜である
レグルリージュの胡麻和えである。
少し卑怯だが、あらかじめ茹でた赤いレグルリージュを
ペップが全速力ですりつぶした胡麻と砂糖と
醤油に近いソイソースに混ぜて
軽く絡めて終了である。
「旨い。これならいけるじゃろ」
マクネルファーも太鼓判を押してくれた。
俺たちは食材を調理機材に置いて
位置につき、時計を持つマクネルファーの合図と共に
全速力で胡麻和えを作り終える。
「よし!ピッタリじゃ!」
すると再び、宙に穴が開きそこから
毛むくじゃらの筋肉質な手が伸びてきて
胡麻和えの皿ごと、穴の中へと取り去っていく。
しばらく穴を見上げて待っていると
「まあまあだな。でも違う。作り直し。
今度は十五秒だ」
と穴の中から低く声をかけられる。
しばらく呆然としてから
穴が閉じると、再び全員で集まる。
「おい、十五秒は無理だろ」
「通さない気では?」
「悪意あるじゃろあれ……」
「ハイキャッター拳の気弾を穴にぶち込むにゃ?」
ピグナは一人黙って考えて
「本当は、食王に喰わせてやろうと思ってたんだけど」
と荷物の中をゴソゴソと漁りだす。
皆で見つめていると
ピグナは荷物の中から、真黒な液体の入った瓶を
取り出した。
それには見覚えがある。
「漁師連合国で、ヌーングサーの娘から吸出した……」
ピグナは静かにと口に人差し指を立てて、皆を集める。
「うん。あの娘の身体中にたまっていた
汚染物質だね。今の食王なら多分
大好物でしょこれ?」
「それで持ってきていたのか」
「で、それをあの悪魔に喰わせるのか?
大丈夫かのう……」
「もちろん全部は飲ませないよ。
小分けして甘い味付けでね。面白いと思わない?」
ピグナはククと小さく笑う。
「まあ、これだけ嫌がらせされてるから
ちょっとくらいは仕返ししないとな」
「悪魔だから死なないんだにゃ?」
「うん。そっちは心配ない。
これでだめなら、ペップちゃんが気弾を
全力で穴にぶち込むということで」
「任せろにゃ!」
「私も闇の獄炎を打ち込みますわ!」
ファイナとペップは腕を立てて頷いた。
再びマクネルファーに時計を持ってもらって
俺たちはコップに小分けした真黒な
汚染物質に砂糖をぶち込んでかき回しまくる。
「よしっ、十五秒じゃ!」
また宙に開いた穴から、紫色の腕が伸びてきて
そして真黒な液体の入ったコップを取り去っていった。
固唾を飲んで上を眺める。
ペップはすでに、穴に向けて気弾を
撃つ準備を始めていて、ファイナも
呪文の詠唱を始めている。
しばらく沈黙が続いて穴の中から
「ごぶぁ!ブホォォオオ!こ、こら審査員である我に毒を!」
と怒った声がした瞬間に
「黄金星光爆裂破ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
力をためていたペップが穴の中に黄金の気弾を
両手から何発も打ち込んで
「冥界の獄炎よ!あの穴の中の者を焼き尽くせ!」
同時にファイナの開いた両手から
怒り狂う亡者の顔のような形をした
巨大な炎が穴目掛けて正確に二発撃ちこまれた。
気弾と炎を吸い込んで
しばらく沈黙した穴を全員で見上げていると
「あの……すいません、もう通ってください……。
おちょくって、すいませんっした……」
すっかり弱気になった声が言ってきて
同時に、俺たちのすぐ近くに、
金属製の螺旋階段が出現する。
穴に向けてペップが
「もう逆らうにゃよ!私たちはエッチ撲滅団だにゃ!
ちゃんと覚えとけにゃ!」
そう勇ましく叫ぶと、逃げるように穴は
シュルシュルと小さくなり消えた。
「いや、エッチ撲滅団じゃないぞ……」
「あれ?違ったかにゃ……」
むしろ、いつ付けたのか教えてほしい。
「あ、みんなこれ見てよ!」
ピグナの指先を見ると
床に投げ捨てられたダイオウイカの肉が
どこかから出てきた数百匹の小さな青い虫たちに
一斉に食べられて、すごいスピードでなくなっていく。
「ああ、そういうことか」
マクネルファーがその光景を見ながら頷いた。
「どうしたにゃ?自分の中の虫マニアの血が覚醒したのかにゃ?」
「違うわい。そうでなくて、わしら以前の
この塔に挑んだ者たちの末路じゃろあれ?」
俺も理解したくはなかったが、その意味が分かってしまった。
「つまりここで無理難題を言われて
上がれなかったら、出られないので餓死して……」
「あの肉の様に綺麗に処理されるのですか……」
ファイナも理解したようだ。
虫たちは床の肉を跡形もなく食べつくすと
フッと消えて行った。
「これも冥界の建物の内部崩壊を防ぐシステムだよ。
不要になったゴミを食べてくれる虫だね」
以前の挑戦者たちの遺体や
荷物などもすべてあの虫に食べられたのだろう。
「やっぱりさっきの悪魔、引きずり出して
殺しといたほうが良かったにゃ?」
ペップが鋭い目つきで言うが
俺は首を横に振り
「とにかく螺旋階段を上がろう」
全員が頷いて、ゆっくりと上の階を目指していく。
マクネルファーも完全回復したようで
猛烈な勢いでパンをかじっては咽ている。
「じいさん、がっつきすぎだにゃ」
ペップから渡された水を飲み干して
マクネルファーはニカッと笑い
「マリーから逃げ切ったぞ!」
ガッツポーズをした。
「逃げ切ったというよりは、追い込まれた感じじゃないー?」
「そう言わんでくれ。あとはゴルダブル君を
食王にして、わしは行方不明になるだけじゃ」
「行方不明になって、身元不明の遺体になるんですの?」
ファイナが悪気なくぶっこんできて
「おい、縁起でもないぞい。もちろんどこか新天地で
天寿を全うするのじゃ!」
「全裸で叫んでた割には元気になってよかったにゃ……」
「ふっ、女子たちにはわしのナイス筋肉を
見せてしまったな……」
「枯れた肉体だったよ……」
ピグナが興味なさそうに言って、ペップがいきなり
「エッチなのはいけないにゃ!
お前はこれから"ゴルダブル様なら"と言う」
ビシッとファイナを指さして言う。
「なっ、なんでわかったんですの!?
まさか、予知能力が!?」
「ふっふふふ……私は既にアンチエッチ拳を極めたにゃ!」
いや、それ、別に予言能力要らないだろ……。
ちょっと考えれば分かることだよな。
と俺は黙ったまま朝食を食べ終えた。
テントを畳んで荷物を纏め、上へと登る準備をし始める。
ピグナによると、悪魔センサーで上を探知しようとしても
謎の力に遮られて、何があるかわからないらしい。
完全に準備を終えて、ふとピグナが
「ねぇ、ゴルダブル、何か忘れてることない?」
と言い出した。
「ん?何かあったかな」
「いや、入るとき鍵穴が急に現れたでしょ?」
「ああ、バムがマクネルファーさんの分の
キーを渡してきた。すぐ消えたけど」
ポケットから渡されたキーを取り出して見せると
全員が驚愕の表情で俺を見てくる。
「それ、なんで忘れてたにゃ……」
「ば、バムさんが我々を救ってくれたのですか?」
「そ、そうかわしの命の恩人になったのか……」
「とにかく行こうよ。進まなきゃ」
ピグナが気を取り直した顔で皆を見回して
俺を含めて全員が頷いた。
悪魔のピグナが警戒をしながら先頭を進み
俺とペップが荷物を背負い続き
そして最後列をファイナとマクネルファーが歩いていく。
老人のマクネルファーと、最強の殲滅能力を持つファイナを
守るための順序だ。
階段を静かに登っていき二階へと到達すると
そこには……。
「何もないにゃ……」
さっきまでのフロアと同じホールが
広がっているだけである。
「反対側の奥に階段があるね。行こう」
さらにまた上へと登ると
そこには何もなかった。
どうやらしばらくはこんな感じだなと
全員で理解したので、何もないフロアをひたすら
踏破して上へと上がっていく。
二十階ほど上がり、次の階で小休憩を入れようと
言いながら階段を上がると
そこのフロアの中心にはポツンと調理器具の並んだテーブルと
小さめの窯があり、その近くには縦看板が床から伸びていた。
全員で近づいて、看板を見ると
「二分で最高の料理を作れ」
と無茶苦茶なことが書かれている。
「んー最高な料理って言われても
誰にとっての最高だにゃ?」
首をかしげるペップの隣で、ピグナが周りを見回して
「上がる階段がないね」
「……つまり、このお題の通りに作らないと
上には進めんということかの?」
「だろうね。どうしようか」
「とりあえず、お題の通りに作ろう」
俺の言葉に全員が頷いて
何を作ればいいか、味覚はどちらに合わせるのか
話し始めた。
ピグナがこちらの世界の味覚に合わせる方が
いいのではないかと言ってきたので
まずはそれで作ろうということにする。
ファイナに二分で作れそうな旨い料理はないかと尋ねると
「難しいですね……皿に香辛料を撒いてみるとかどうでしょうか?」
「……それは料理というより香辛料だにゃ……」
「でもいいアイデアかもしれないよ。
まだダイオウイカの塩漬け残ってるから
あそこの窯で軽く焼いて、香辛料かけてみる?」
「そうしよう」
六人で素早く準備を始める。
窯に火をつけて、食材をテーブルに並べた。
「よし、二分を時計で測るぞい。よいかな?」
皆で頷くと
マクネルファーが
「よーい、スタート!」
合図を言い放ち、俺が包丁で
ダイオウイカの塩漬けされた肉を一口サイズに切って
それをペップが窯の中の火で炙り
表面が焼けたそれをテーブルの皿にのせ、ファイナとピグナが
素早く香辛料をいくつも振りかけた。
ファイナがさらに僅かに切ったそれを
口に放り込んで味見して、頷いた。
「よしっ、二分じゃ!」
マクネルファーはガッツポーズした。
同時に、料理真上の空間に大きな横穴が開いて
そこから、紫色の毛がびっしりと生えた伸びた爪が赤い
太い筋肉質な手が伸びてくる。その手はガシッと
ダイオウイカの焼き肉を掴むと
穴の中へとそれを持って行った。
全員で呆然とそれを眺めていると
穴の中から
「まずっ。作り直し。罰として今度は三十秒だ」
低く支配的な男の声がしてきて
ダイオウイカの焼き肉は穴から床へと投げ捨てられる。
宙から穴が消えてから
恐る恐る俺が
「な、なんだ、あの手……」
呟くと、ピグナが腕を組んで
「上位悪魔だね。あの個性的な手を見ただけで分かるよ」
「じょ、上位悪魔がなんで、この塔に?」
「食王に雇われてるんでしょ。監視兼味見役だね」
「そ、そうか次は三十秒とか言ってたが……」
「……三十秒で作るしかないね」
ピグナがそう言うと、全員がすぐに集まり
次の料理の案を出し合う。ここで立ち止まっている時間はない。
三十秒で出来る料理と言えば
混ぜ物くらししかないので
そうすることにして、次は味覚を俺たち側に
寄せてみることにした。
一応離れたところで、一度試作品を作ってみる。
ほうれん草のようなこの世界の野菜である
レグルリージュの胡麻和えである。
少し卑怯だが、あらかじめ茹でた赤いレグルリージュを
ペップが全速力ですりつぶした胡麻と砂糖と
醤油に近いソイソースに混ぜて
軽く絡めて終了である。
「旨い。これならいけるじゃろ」
マクネルファーも太鼓判を押してくれた。
俺たちは食材を調理機材に置いて
位置につき、時計を持つマクネルファーの合図と共に
全速力で胡麻和えを作り終える。
「よし!ピッタリじゃ!」
すると再び、宙に穴が開きそこから
毛むくじゃらの筋肉質な手が伸びてきて
胡麻和えの皿ごと、穴の中へと取り去っていく。
しばらく穴を見上げて待っていると
「まあまあだな。でも違う。作り直し。
今度は十五秒だ」
と穴の中から低く声をかけられる。
しばらく呆然としてから
穴が閉じると、再び全員で集まる。
「おい、十五秒は無理だろ」
「通さない気では?」
「悪意あるじゃろあれ……」
「ハイキャッター拳の気弾を穴にぶち込むにゃ?」
ピグナは一人黙って考えて
「本当は、食王に喰わせてやろうと思ってたんだけど」
と荷物の中をゴソゴソと漁りだす。
皆で見つめていると
ピグナは荷物の中から、真黒な液体の入った瓶を
取り出した。
それには見覚えがある。
「漁師連合国で、ヌーングサーの娘から吸出した……」
ピグナは静かにと口に人差し指を立てて、皆を集める。
「うん。あの娘の身体中にたまっていた
汚染物質だね。今の食王なら多分
大好物でしょこれ?」
「それで持ってきていたのか」
「で、それをあの悪魔に喰わせるのか?
大丈夫かのう……」
「もちろん全部は飲ませないよ。
小分けして甘い味付けでね。面白いと思わない?」
ピグナはククと小さく笑う。
「まあ、これだけ嫌がらせされてるから
ちょっとくらいは仕返ししないとな」
「悪魔だから死なないんだにゃ?」
「うん。そっちは心配ない。
これでだめなら、ペップちゃんが気弾を
全力で穴にぶち込むということで」
「任せろにゃ!」
「私も闇の獄炎を打ち込みますわ!」
ファイナとペップは腕を立てて頷いた。
再びマクネルファーに時計を持ってもらって
俺たちはコップに小分けした真黒な
汚染物質に砂糖をぶち込んでかき回しまくる。
「よしっ、十五秒じゃ!」
また宙に開いた穴から、紫色の腕が伸びてきて
そして真黒な液体の入ったコップを取り去っていった。
固唾を飲んで上を眺める。
ペップはすでに、穴に向けて気弾を
撃つ準備を始めていて、ファイナも
呪文の詠唱を始めている。
しばらく沈黙が続いて穴の中から
「ごぶぁ!ブホォォオオ!こ、こら審査員である我に毒を!」
と怒った声がした瞬間に
「黄金星光爆裂破ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
力をためていたペップが穴の中に黄金の気弾を
両手から何発も打ち込んで
「冥界の獄炎よ!あの穴の中の者を焼き尽くせ!」
同時にファイナの開いた両手から
怒り狂う亡者の顔のような形をした
巨大な炎が穴目掛けて正確に二発撃ちこまれた。
気弾と炎を吸い込んで
しばらく沈黙した穴を全員で見上げていると
「あの……すいません、もう通ってください……。
おちょくって、すいませんっした……」
すっかり弱気になった声が言ってきて
同時に、俺たちのすぐ近くに、
金属製の螺旋階段が出現する。
穴に向けてペップが
「もう逆らうにゃよ!私たちはエッチ撲滅団だにゃ!
ちゃんと覚えとけにゃ!」
そう勇ましく叫ぶと、逃げるように穴は
シュルシュルと小さくなり消えた。
「いや、エッチ撲滅団じゃないぞ……」
「あれ?違ったかにゃ……」
むしろ、いつ付けたのか教えてほしい。
「あ、みんなこれ見てよ!」
ピグナの指先を見ると
床に投げ捨てられたダイオウイカの肉が
どこかから出てきた数百匹の小さな青い虫たちに
一斉に食べられて、すごいスピードでなくなっていく。
「ああ、そういうことか」
マクネルファーがその光景を見ながら頷いた。
「どうしたにゃ?自分の中の虫マニアの血が覚醒したのかにゃ?」
「違うわい。そうでなくて、わしら以前の
この塔に挑んだ者たちの末路じゃろあれ?」
俺も理解したくはなかったが、その意味が分かってしまった。
「つまりここで無理難題を言われて
上がれなかったら、出られないので餓死して……」
「あの肉の様に綺麗に処理されるのですか……」
ファイナも理解したようだ。
虫たちは床の肉を跡形もなく食べつくすと
フッと消えて行った。
「これも冥界の建物の内部崩壊を防ぐシステムだよ。
不要になったゴミを食べてくれる虫だね」
以前の挑戦者たちの遺体や
荷物などもすべてあの虫に食べられたのだろう。
「やっぱりさっきの悪魔、引きずり出して
殺しといたほうが良かったにゃ?」
ペップが鋭い目つきで言うが
俺は首を横に振り
「とにかく螺旋階段を上がろう」
全員が頷いて、ゆっくりと上の階を目指していく。
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