伊十郎、参る!

よしだひろ

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第一章 拙者、伊十郎にござる

其の六 取り調べ、取り調べ

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 その日美香のスマホが不意に鳴った。浦安警察署からだった。
 美香と伊十郎を保護プログラムによって保護すると言うものだった。
「でも、誘拐犯は捕まったんじゃ」
「いえ、まだ危機は去っていません。直ちに迎えに行きますので我々が指定する部屋に移動して頂きます」
 美香は何か変だと思ったのだが警察が言うのだから従うしかないと思った。
 電話を切ると美香はすぐに高橋に連絡してその事を伝えた。
「何か変じゃないですか?」
「そうね。ちょっと変よね。警察が捜査しているうちに何か新しい事実が見つかったのかしら? 取り敢えず警察の言う事を聞いていて。何かあったらまた連絡ちょうだいね」
 電話を終えるとインターフォンが鳴った。エントランスに私服警官が来ていた。美香はオートロックを解除した。
「伊十郎。警察が来たから行きましょう」
「分かったでござる」
 間もなく玄関先のインターフォンが鳴った。美香はドアチェーンを付けてドアを開けた。そこには二人の男が立っていた。
「連絡した浦安警察のものです」
「警察手帳を見せてもらえますか?」
 二人の警官は警察手帳を開いてみせた。どうやら本物のようだ。
「ちょっと待ってください」
 美香は一旦ドアを閉めチェーンを外して再びドアを開けた。
「伊十郎、行くわよ」
 二人の警官のうち一人が前に立って先導しもう一人は美香と伊十郎の後ろから付いてきた。
 美香と伊十郎は覆面パトカーに乗せられて出発した。エントランス付近には野次馬が二人を見ていた。
 車は浦安市内のとあるホテルの地下駐車場に着いた。警官はドアを開けてくれるのだが、相変わらず美香と伊十郎を挟むように歩くのだった。
「このホテルに滞在してもらいます」
 エレベータで上に向かう。途中の階で止まると一人の警官が美香に外に出るように誘った。伊十郎は美香について出ようとしたがもう一人の警官がそれを制した。
「佐々木さんはまだです」
「え? 伊十郎とは別なんですか?」
「別々の部屋に入ってもらいます」
 美香は途端に不安になった。しかし伊十郎は笑顔で言った。
「美香殿、ご安心召され」
 仕方なく美香は伊十郎と分かれた。警官が先に立って廊下を歩いた。その先の部屋の前に二人の男が立って話をしていた。
 警官はその二人に軽く手を挙げて挨拶した。
「連れてきた」
 すると話をしていた男の一人がポケットからカードキーを出して部屋の鍵を開け、ドアを内側に開けた。
「この二人が金井さんの部屋を守ります。何かあったら言ってください」
 美香は不安一杯で部屋に入って行った。
 伊十郎がいない事がこんなにも不安だとは思わなかった。そして警察の事も完全に信頼できない自分がいた。
 程なくして部屋のドアがノックされた。外から鍵が開けられる音がして二人の男が入ってきた。入り口を守ってる二人とは違う男だった。
 その二人も警察手帳を見せた。
「浦安署の武井と斎藤です」
 何のことはない。場所を変えた事情聴取だった。美香は伊十郎の事について聞かれた。特に身元について。警察としてはタイムスリップという事は是が非でも受け入れられないのだ。
 美香は何度も同じ事を聞かれ、何度も同じ事を答えた。同じ頃伊十郎も執拗な事情聴取を受けていた。
 夕方になり警官はやっと帰って行った。美香は疲れ果てていた。
 その時美香のスマホが鳴った。高橋からだった。美香は事情聴取を受けている事を伝えた。
「警察もせこい事するわね。それは事情聴取じゃなくて尋問よ」
「タイムスリップという事が受け入れられないって」
「まあ、そうでしょうね。その事で報告があるのよ。私の仲間に物理学者がいるんだけど……」
 その物理学者の話では、論理的には未来へのタイムスリップは可能だという事だった。
「でもね、残念な事に過去へのタイムスリップは出来ないのよ。今の科学では伊十郎ちゃんがどうやって未来への来たのかも分からないし伊十郎ちゃんを過去への帰すこともできないのよ」
「伊十郎は本当にタイムスリップしてきたんでしょうか?」
「それについてはネット上でも色々騒がれてるわ。お騒がせユーチューバー説が有力だけどタイムスリップしてきたと信じる人も多いわ」
「私はどうすれば……?」
「今は我慢の時ね。私達が橘俊介と言う男の事を調べるからそうすればハッキリするでしょう」
 高橋は電話を切った。美香は何故か警察が信用できなくなってきていた。尾関巡査部長はどうしているだろうか。あの人なら分かってくれるのに。
 その頃伊十郎は部屋の前にいる警官を部屋に招き入れようとして話しかけていた。
「佐々木さん。分かってくださいよ。我々はあなたを守る任務中なんです。持ち場を離れて遊んでなんかいられませんよ」
「拙者は守ってもらわずとも己の身は己で守れるでござるよ。それにこのテレビという道具は珍妙で愉快なれば共に楽しもうぞ」
 伊十郎は無理矢理二人を部屋の中に引き入れた。
「実はテレビを作動させる方法が分からんのじゃ」
 伊十郎は照れながら言った。一人の警官がリモコンの使い方を教えた。
「この電源って書かれた赤いボタンを押すんですよ」
 そう言ってテレビを付けた。丁度伊十郎の事をやっていた。
「おお! 拙者が動いておる。誠に珍妙じゃのう」
「佐々木さん。あなた本当に過去から来たんですか?」
「そうらしいのう。拙者は天保五年の世におった。俊介と対峙している時、二人の間に雷が落ちてのう。気付いたらこの時代におったんじゃ」
 リモコンを置きながらその警官が言った。
「吉田さん。佐々木さんは本当の事を言ってるんじゃないでしょうかね。一貫して同じ証言をしているし辻褄が合う」
「田中。捜査に関する事をペラペラ喋るんじゃない」
 伊十郎は少し考えた。そして二人の警官の間に立った。
「お主が田中殿で……」
 そして吉田と呼ばれた警官の方に向き直って言った。
「お主が吉田殿でござるな。共に散歩にでも行かぬか?」
「それは無理です。あなたを部屋から出すわけには行きません」
「それは残念じゃのう」
 その瞬間、伊十郎は軽く腰を落として吉田警部の鳩尾みぞおちに拳を沈めた。
「うっ」
 吉田警部が床に崩れ落ちるのを確認せずにすぐさま田中警部の鳩尾みぞおちにも拳を沈めた。
 二人の警部は床に崩れ落ちた。
「すまんのう」
 伊十郎は部屋を出た。
 美香の部屋の前にいた警官は、廊下の向こうから伊十郎が来るのを見つけて驚いた。
「さ、佐々木さん。どうしてここに!」
「いやあ、探したでござるよ。吉田殿と田中殿なら疲れてるようなので寝かせてきた」
 警官は驚いて無線で呼びかけた。当然返事はなかった。
「美香殿を呼んでくだされ」
「か、金井さんはここにはいませんよ」
「散歩にでも出かけたでござるか?」
「元からここにはいません」
「揶揄うでない。この部屋は拙者の部屋と同じくお主らが警護に付いておるではないか」
「……」
「まあ良い」
 そう言うと伊十郎は木刀を抜いてその警官に手渡した。
「構えてみよ」
「私を試してるんですか? こう見えても剣道もやってますよ」
 そう言うとその警官は木刀をスッと構えた。もう一人の警官も言った。
「私も剣道五段だ」
「しかしこう言う技は知っておるかのう」
 そう言うと伊十郎は木刀を構えた警官の左の掌を強く弾き、同時に柄を取って木刀を左に捻った。その痛さに思わず警官は木刀を手放してしまった。
 伊十郎は左に捻った回転を利用して素早く木刀を奪いその警官の首元を打った。
「何をする!」
 もう一人の剣道五段の警官の首元も同時に打った。二人は続け様に床に崩れ落ちた。
「まだまだ修行が足りぬのう」
 伊十郎はドアを開けようとするのだがオートロックの為開かなかった。伊十郎はドアをドンドン叩いて美香を呼んだ。
「美香殿、美香殿。ここを開けてくだされ!」
 すぐにドアが開いた。中から美香が顔を出した。
「伊十郎!? 何でここに?」
「美香殿が心配で様子を見に来たでござる」
 と言って部屋に入ろうとする。美香は廊下に伸びてる警官を見て言った。
「ちょっと! この人たちこのままでいいの?」
「ならば中に運び込むか」
 伊十郎は二人を部屋に引きずって行った。美香の指示でベッドに横にした。
「テレビに拙者が映っていたでござるよ」
「世の中私達の事で持ちきりってことよ」
 美香はテレビを付けてみた。伊十郎の事はもうやってなかった。
 暫くテレビを見て過ごす。
「しかし何故この時代の警察は拙者の言う事を信じぬのか。頭が硬いのう」
 美香は無理もないと思った。
「今さっき高橋さんから電話があったんだけど、理論上タイムスリップは可能みたいよ」
「?」
「つまりあなたがした二百年の時間旅行は可能ってことよ」
「可能もなにも事実じゃ。で、どうやったら戻れるんじゃ」
「残念ながら今の科学では無理みたい」
「科学が何だか分からんが、いつの科学なら帰れるのじゃ」
「科学ってのは……なんて言えばいいのよ。えっと、例えば何で火が熱いのかとか何で雨が降るのかとか、そう言う事を説明することよ」
「火が熱いのは当たり前じゃ。近付けば誰にでもわかる」
「だからそれをちゃんと説明するのが科学なの」
「では何故火は熱いのじゃ?」
「私は科学者じゃないから分からないよ」
 その時ベッドで寝ていた一人の警官がムクリと起き上がった。
「火が熱いのは、物質が燃焼する時に酸素と結合する際、その分子が激しく振動するためだ」
「あ! 起きちゃった」
「この方は少し前から気付いておったよ。しかし珍妙な事を言うのう」
 その警官は少し考えてから話し始めた。
「少し前から気付いて二人の話を聞いていましたが……佐々木さん、あなた本当に過去から来たんですか?」
「だからそう言っておろう」
「今まではあなたがふざけているのかと思っていました。佐々木さんと金井さんが口裏を合わせているのだろうと。しかし今の会話を聞いて考えが変わりました」
「ならば拙者の言葉を信じてくれるのか?」
「信じるかどうかはまだ分かりませんが、あなた方の言っている事を受け入れる方がスムーズだ」
 美香は言った。
「じゃあ私達家に帰れるんですか?」
「それは出来ません。考えが変わったと言うのはあくまでも私個人の考えがと言う事で警察としてはやはりタイムスリップなどと言う事を受け入れる事は出来ない。それに……」
「それに?」
「あなた方のマンションは広く知れ渡っている。それは橘俊介にも伝わっているでしょう。奴がいつまた襲ってくるか分かりません」
 美香は家に帰れなくて半分残念に思い、しかし半分は嬉しく思った。警察はただ美香と伊十郎が逃亡する事を嫌ってホテルに軟禁したのかと思っていたが、本当に身を守ってくれる為でもあったからだ。
「俊介は拙者と同等の腕を持つ剣の達人じゃ。悪いがそなたらお巡りさんの敵う相手ではござらん」
 美香は更に付け加えた。
「それに拳銃も持ってます」
 その警官は懐から拳銃を取り出してみせた。
「拳銃なら我々も持っている」
「その拳銃というのは火縄銃のようなものか?」
「火縄銃よりも威力が格段に上です」
 そう言うと弾倉を取り出して中から弾を一発取り出してみせた。
「この弾を目に見えないほどの早い速度で撃ち出すんです。当たれば一発で人の命を奪いかねない」
「こんな小さなものが当たるだけで人を殺められるのか」
「ちょっとした鉄板なら貫通してその後ろにいる人間に当てる事も出来ます」
「これに木刀で挑むのはちと無理かのう」
「真剣でも無理ですよ。剣の達人は弾を弾き返すと言いますが本当かどうか分かりません」
「拙者ならこいつと正面からやり合わず避ける事を考えるのう。現にそれで二度勝っている」
「それは本当なのですか?」
「結局は刀での戦いと同じ事じゃ……ん? もう一人のお巡りさんも気が付かれたようじゃぞ」
 するともう一人ベッドに寝ていた警官が目覚めた。
「ん? ここは?」
 辺りを見回りして伊十郎を見つける。
「さ、佐々木さん。一体何を考えて……」
 しかし初めに気付いていた警官がそれを制した。
「鈴木。良いんだ。今回の事はただの遊びだ」
「柴田さん。それでいいんですか?」
「言わば我々もしてやられた形だし、恥を報告するのも面白くない。それに私は今回の事で考え方が変わったんだ」
「柴田さんがそう言うなら。しかし吉田さん達が何というか」
「話してみるさ」
 その日は伊十郎は部屋に戻る事になった。柴田警部は無線で吉田警部を呼び出して美香の部屋まで伊十郎を迎えに来させた。
 暫くして美香の部屋をノックする音が聞こえた。吉田警部だ。
「佐々木さん。酷いじゃないですか!」
「いやぁすまんすまん。美香殿の事が気になってのう」
 柴田警部は吉田警部に色々事情を説明した。そして今回の事は報告しない事になった。
 そうは言っても基本的に事態は何も変わっていなかった。連日のように警察はやってきて美香と伊十郎に話を聞いていた。
 しかし警察内部では伊十郎の言う事を信じる者が徐々に増えてきていた。タイムスリップを信じるわけではないものの、そう考えた方が事態をうまく受け入れられるからだ。
 また伊十郎達の証言を元に殺人事件のあったビルを捜索する事になった。
 一方、高橋の無意識の守り神のメンバーは俊介の居場所を探していた。事件のあったビルの契約者が暴力団である事を突き止めてそっち方面から探索をし始めた。
 その日、伊十郎の部屋にやはり同じ時刻に警官がやってきた。
「おお、今日は武井殿と斉藤殿か。毎日ご苦労様でござる。時に尾関殿と中島殿は元気か?」
「二人はまだ謹慎中だ」
「あの二人は何も悪い事はしておらんのだがのう」
「あんたのいた江戸時代とは違うんだ。今は法治社会なんだ」
「その法治社会が良く分からんがこの時代に正義は廃れてしまったのかのう」
 すると斉藤警部は怒り気味に言った。
「いい加減そのふざけた話し方はやめないか。タイムスリップと言い張るのもだ」
「しかしのう……」
「揶揄うのもいい加減にしろ! 人が死んでるかも知れないんだぞ。誘拐事件も起きている。遊びじゃないんだ!」
 しかし武井警部が斉藤警部の肩を叩いた。
「斉藤、熱くなるな」
 武井警部が代わりに話し始めた。
「佐々木さん。我々も早く事件を解決したいのですよ。佐々木さん自身の事はこの際置いておきましょう。その橘俊介なる人物は何者なんですか? 何故あなたの命を狙うんですか?」
「それも何度も言っておるが、簡単に言うと俊介は自分の仕事を阻止する拙者が邪魔なのじゃよ」
「そのあなたの仕事は江戸時代の与力だと言う事ですね」
「左様」
「橘俊介も江戸時代から来たのですか?」
「その通りじゃ」
「では何故銃を持っているのですか? 矛盾しませんか?」
「何故銃を持っておるのかは拙者の知るところではないが」
「いいでしょう……しかし、実はですね。誘拐事件の時に捕まえた何人かもあなたと同じように天保五年から来たと言っているんですよ。あなたと何か繋がりがあるのではないですか?」
「繋がりは盗人と与力と言う以外ないが」
「残りの逮捕者は暴力団の構成員でした。その殺人事件のあった部屋はその暴力団が借りていた部屋です」
「ではその暴力団を取り押さえれば良いのではないか?」
「殺人事件と言ってもあなた方が言い張ってるだけで死体が見つかったわけではありません。被害届なども出ていません。部屋を調べたところルミノール反応が出たと言うだけです」
「ルミノール反応とはどのような物なのじゃ?」
「血液が流れた事を示す化学反応ですよ。そう言った薬を使う事でそこに血が流れたかどうかが分かります。それだけでは殺人事件とは断定できない」
「では俊介は野放しか?」
「今の所重要参考人です。誘拐現場にもいなかった」
「……やはり拙者自ら探索するしかないか」
「民間人を危険に晒すわけには行かんのですよ」
「拙者は危険とは思っておらんが」
「いや、捜査は我々に任せてもらいたい」
 伊十郎はこの時代にはこの時代のやり方があるのだろうと思い任せる事にした。
「ではよろしく頼み申す」
「所で佐々木さん。そのお召し物の繊維片を調べさせてもらえませんか?」
「繊維片? なんじゃそれは?」
「そのお着物の繊維の切れ端を少しで良いので調べさせてくれませんか?」
「別に構わんがこんな物調べてどうするのじゃ?」
「それはおいおい」
 実は警察は伊十郎の服の繊維片を採取し年代鑑定をするつもりだった。年代鑑定により現代の布となればタイムスリップの事実はないだろうと考えたのだ。
「ではこの繊維片を早速鑑定に回させていただきますね。今日はこれにて帰ります」
「今日は早いのう、ではまた」
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