伊十郎、参る!

よしだひろ

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第一章 拙者、伊十郎にござる

其の四 見付けて襲って逃げ出して

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 家に着くと美香はこれからどうしたものかと思った。きっと警察から目を付けられているに違い無い。伊十郎はベランダのテントの中で何かをやっていた。
 夕方になった。
 美香はテレビを付けて夕方のニュースを見ていた。その時何と朝のコンビニ強盗のニュースが流れた。そして視聴者の投稿として流れたのが伊十郎が犯人の車に木刀を突き刺して取り押さえるシーンだった。
「この後、この木刀を刺した男は女と共に逃走しました」
 美香は慌てて伊十郎を部屋の中に呼び込んだ。
「おお、これは珍妙な。拙者が下手人を取り押さえる様が映っているでござる。これはどう言う事なのじゃ?」
「どう言うことかこっちが知りたいわ。でもこれで私達は有名人って事よ」
「有名人とは?」
「世の中のみんなに知れ渡ってしまったって事よ」
 美香は泣き出したかった。
「それは困るのう。拙者監察の仕事ゆえ知れ渡ってしまうと困るでござる」
(だったら派手な動きなんてしないでよー)
 かくして伊十郎は世の中に知れ渡ることになった。そして橘俊介もそのテレビを見ていたのだった。口元を緩めて言った。
「奴もこのへんちくりんな世界に来ていたのか……」
 俊介は立ち上がり部屋を出て行った。着物の出立ち。しかし刀の類は差していなかった。
 俊介は部屋を出ると階段を降りて行った。俊介の居た部屋は三階だ。階段を何度か折り返して降りて行く。
 自分の慣れた街であるかのように路地裏を迷う事なく歩いていく。三十分程歩いた先に一つのビルがあった。一階が駐車場になっていた。横に上に上がる階段がある。
 俊介は迷わず階段を昇る。二階に小さなガラス戸の入り口がある。蓮華商事と書かれていた。
 俊介は扉を開けて中に入った。そこは小さなスペースで、右にはやはりガラスの扉、左にはエレベーターがあった。俊介はガラスの扉を開けて中に入る。
 中に入ると襟の開いた派手な服を着たチンピラ風の男がソファに座っていた。他にも似たような格好の男が数人いる。
 一番近くにいた男が近付いてきた。
「橘さん。どうしました?」
「社長に頼みがあって来ただけだよ。お前らテレビを見たか?」
「テレビなら見てますけど」
 その部屋の一角にテレビが置いてあり何か流れていた。
「今しがた侍がテレビに映ったのを見たか?」
「侍? さあ、見ませんでしたが」
「その侍を探し出して欲しいんだ」
 その男は詳しく話を聞いた。そして社長に連絡をする為に部屋の電話を取った。
「社長。橘さんが来てます。社長にお願いがあるとかで」
 二言三言話すと電話を置いた。
「ここに来るそうです」
 しばらく待っていると俊介が入ってきた扉から小太りの男が入ってきた。
「俊介。あまり出歩くな」
「社長。ちっとあんたの力を借りたくてな」
 細かく事情を説明する。
「するとその侍がお前が狙ってる伊十郎とか言う奴なのか?」
「ああ。まさか俺と同じくこの世界に来ていたとは思わなかったがな」
「奴の居場所を探すのはSNSに任せよう」
「……?」
「ネットの奴らは個人を特定するのが好きなんだ。なーに、意味が分からなくても安心しろ。すぐに居場所を見つけ出してくれるさ」
「任せて良いんだな?」
「任せておけ」
 社長は近くにいたチンピラに指示を出した。
「じゃあまた巣篭もりしてくるぜ」
 そう言うと俊介は事務所を出て行った。チンピラは社長に言った。
「社長。あんな訳の分からない男、組の客としてかくまってて良いんですか? 住処や銃まで貸し与えて」
「あいつはこの前の取引の時に俺たちを助けてくれたのは話しただろう。刀一本で銃を持った高木一家の奴らを全員叩き切ったんだ。どこの誰かは分からないが仲間にしたいと思ったんだよ」
「話は聞きましたが、わがままにさせといていいんですか?」
「今は恩を売ってやがて仲間に引き入れる。いいからその伊十郎とか言う奴の居所を調べろ」
 伊十郎はその事があった後も特に普段と変わりなく美香が会社に行った後散歩に出かけたり公園でのんびりしたりした。すれ違う人みんなに挨拶して愛想が良かった。
 その為近所ではすぐに有名になり"お侍の伊十郎"として名前も知られるようになった。そしてそれはそのままネットの世界にも知れ渡った。
 住所の特定はされないものの、よく行く公園の場所がネットに載ってしまったのだった。
 そんなある日、夕方家の電話に美香から着信があった。伊十郎はワクワクして電話に出た。
「もしもし、伊十郎でござる」
「あ、伊十郎? 今日急な残業で遅くなるのよ。良かったら仕事終わった後駅前で夕飯一緒に食べない?」
「駅前? それは出前の事でござるか?」
「電車に乗る浦安駅の事よ。富士見交番は分かるでしょ? あそこで道を聞いて、のんびり歩いて迎えに来てよ。仕事終わったらまた電話するからね」
 その後美香はなるべく早く仕事を終えるように急いだ。仕事が終わったのは七時頃だった。
 伊十郎に電話をする。仕事が終わった事、大体七時三十分には浦安に着けると言う事を伝えた。
「七時三十分とは何のことじゃ? 時刻? 時刻は干支で表すものじゃ」
 美香は説明するのがめんどくさかったので、富士見交番に行って駅に行く道を聞いて駅前で待ってるように伝えた。大体十五分あれば美香のマンションから駅まで着く。何とかなるだろう、と。
 しかし浦安駅に向かいながら、実際伊十郎がちゃんと来れるか心配になってきた。思えば伊十郎はスマホなど持っていない。
 そんな心配をよそに伊十郎は呑気に鍵を二箇所閉めてマンションを後にした。富士見交番に着くと中に入った。
「こんばんは! おお尾関殿」
 中には尾関巡査部長と中島巡査が居た。
「佐々木さん。今警察はあなたの処置をどうするべきか大揉めですよー」
「ん、んん。なんだかかたじけないのう」
「中島。佐々木さんを責めてどうする。佐々木さん気になさらずに。所で今日は?」
「駅前で美香殿と会うのだが駅前という所への道が分からぬのじゃ。教えてもらえまいか」
「それならば我々もパトロールの時刻なので一緒に行きましょう」
「時刻か……」
 尾関巡査部長と中島巡査はパトロールに出る準備をした。交番に鍵をかけて道を案内してくれた。
「所で尾関殿。この時代は刻限を表すのに干支は使わんのか?」
「はい。江戸時代とはそもそも時刻の考え方が違うんですよ」
 江戸時代は大きく分けると昼間と夜があった。昼なら昼を六等分、夜なら夜を六等分してそれぞれに干支を割り当てていた。昼や夜の長さは季節によって違う為、一刻の長さも季節によって違っていた。
「今は一日の長さを二十四で割って時刻としてるんですよ。だから同じ朝の四時でも夏と冬で明るさが違うんですよ」
「ややこしいのう」
 尾関巡査部長と中島巡査は道すがら時間の考え方や時計の読み方、十二時間表記と二十四時間表記がある事などを教えた。
「何故そんなややこしい測り方になったんじゃか」
「難しい話になっちゃうので割愛しますが、その方がしっくり行くんですよ」
「佐々木さん。ほら、ここが浦安駅前ですよ。待ち合わせなら改札口の前が良いと思うので改札口付近に居ると良いですよ」
 二人は改札口の前に案内してくれた。
「おお! 地下鉄に乗り込む際の謎のカラクリじゃな?」
「では、また」
「助かり申した。色々話ができて楽しかったぞ。しからばご免」
 それから伊十郎は大人しく美香が来るのを待った。しかし数分後、伊十郎は不可思議な視線を感じた。何者かが自分を見ているのが分かった。しかし、殺気を感じる事はなかったし捨ておく事にした。
 程なくして美香が現れた。伊十郎を見付けて駆け寄ってきた。
「伊十郎! 待った?」
「ああ! しかし長く待ったわけではない」
「じゃ行こうか」
 美香は駅前のファミレスに入った。伊十郎は再びスパゲティが食べたいと言った。
 食事を終えて店を出ると、伊十郎は相変わらず視線を感じて立ち止まった。
「どうしたの、伊十郎?」
「いや、何でもござらん」
「ちょっと運動を兼ねて公園を抜けて行きましょう」
 二人は公園に入る。少し遊歩道を歩くとちょっとした茂みと林のエリアになった。そこでまた伊十郎は立ち止まる。
「美香殿。安心するでござるよ。拙者に任せてくだされ」
「何言ってるの?」
 伊十郎は辺りの茂みを注意深く見た。
「最初からいた奴を含めて八人でござるか」
「だから何が?」
「美香殿。ここを動かずにいて下され。すぐに済む故」
 と言うと伊十郎は木刀の柄に手をかけてそのまま茂みに向かって走り出した。そして茂みをヒョイと飛び越えて茂みの向こうに消えた。
 すると鈍い打撃の音が聞こえて男がうめく声が聞こえた。ドサっという音がした。美香はどうして良いのか分からず立ち尽くしていると、あちこちから何かが地面に倒れる音がした。
 程なくして伊十郎が戻ってきた。
「一体何があったの?」
「美香殿は気付かなかったでござるか? 不埒者が拙者達をつけてきていたのでござるよ」
 そう言うと伊十郎は茂みの裏に美香を案内した。複数の男達が地面に倒れていた。
「こいつらでござる」
 すると低くうめいていた一人の男が顔を持ち上げて言った。
「伊十郎、俺たちを痛めつけたところで俊介様は手を緩めんぞ」
 伊十郎は驚いた。
「貴様、俊介の手のものか?」
「だったらどうする」
 まさか俊介もこの時代にやって来ていたとは夢にも思っていなかった。伊十郎は少し考えた。そしてその男に俊介の下へ案内させようと考えた。
「俊介は今どこにいる? そこへ案内してもらおうか」
 男は抵抗できないと思い素直にその言葉に従う事にした。
「しかし車を操縦してたものまでやっちまったんじゃ、俊介様の元に戻ろうにも帰れないぜ」
 どうやらこの男達は車でここに来たようだ。伊十郎がその運転手を倒してしまったので車はあるものの帰る事はできないと言っている。
「この時代にはな、地下鉄と言う便利な乗り物がある。バスやタクシーもある。方法ならいくらでもあるわ。俊介はどのような場所におるんじゃ?」
 男はポケットから紙切れを取り出した。そこには住所と電話番号などが書かれていた。美香はそれを見てタクシーなら簡単にいけると思ったのだが、伊十郎一人で向かわせる事に不安を感じた。
「ねえ、お巡りさんに任せたら?」
「お巡りさん? 尾関殿の事か。いやいや、これは元より拙者の仕事。尾関殿に迷惑をかけるわけにはいかん」
 結局タクシーに乗り男が持っていた住所に向かう事になった。
 目的地に着くとそこは歓楽街の中にある雑居ビルだった。男を先に歩かせてビルの中に入る。
 階段を登り三階まで来た。男はとある部屋の前に立ち、この中に俊介がいると告げた。
 伊十郎は木刀を抜き部屋の前に立つと徐ろに部屋の扉を蹴破った。
 俊介は既に伊十郎の気配に気付いていて部屋の反対側に立ち、右手に銃を構えて伊十郎を狙っていた。
 その刹那、伊十郎は右に飛び退いた。と同時に乾いた破裂音がした。美香は驚いて部屋の入り口からそっと中を覗き込んだ。
 伊十郎は俊介の弾丸をかわして壁に向かって走り込んだ。俊介が放った弾は手下の男の腹に命中した。
「け、拳銃!」
 美香は驚いて叫んでいた。伊十郎は咄嗟に壁に向かってジャンプした。同時に発砲音がした。弾は今まで伊十郎がいた所をかすめ跳び後ろの壁に当たった。
 伊十郎は壁に両足を付き思い切り蹴り上げた。壁から俊介の方へ向かって跳んだ。俊介は自分に向かって飛んでくる伊十郎に向けて銃を放った。
 弾は伊十郎の羽織りの袖口に穴を空けたが伊十郎には当たらなかった。伊十郎は素早く木刀を振り下ろし俊介の拳銃を弾き落とした。
「暫く見んうちに珍妙なものを手に入れおったな。短筒たんづつの類か?」
「まだ使い慣れてねえんでな」
 俊介は刀を帯びていない。唯一の武器の銃を落とされてはいるが余裕の態度だった。
「何故俺が銃を撃つのが分かった?」
「貴様の強い殺気を感じれば造作もないことよ」
 俊介はジリジリと動いた。しかしそれは拳銃が落ちてる右側ではなく、反対の左側だった。
 腹を撃たれた男が呻く。
「早く手当てしないと仲間の命が危ないぞ」
「そんなもん欲しかねえよ」
 その時俊介は銃を取るために右側に跳んだ。手を伸ばす。と同時に伊十郎も跳んだ。木刀を拳銃に向けて突き刺しに行った。
 自分の手より木刀の方が長い。このまま銃を取りに行けば右手を刺される。そう読んで俊介は素早く右手を曲げた。
 俊介は下半身を水平に回転させて床を滑った。伊十郎の木刀のきっさきが銃の横の床を刺しカツっと音がした。
 俊介はその木刀を左手で払い除ける。伊十郎はバランスを崩しながらも踏ん張って左足で落ちてる銃を踏みつけた。
「美香殿ぉ! 逃げなされ!」
 しかし美香は恐怖と混乱で動く事が出来なかった。
 俊介は右手で伊十郎の左足の足首を掴んだ。
「よっぽどこいつが気に入ってるようじゃのう」
「あの三下を見れば分かるだろう。こいつ一発で人が死ぬんだぜ」
「それは怖いのう」
 二人の力は拮抗していた。銃を取ろうとする俊介、それを阻止する伊十郎。しかし脚力の方が上だった。伊十郎は俊介の右手を跳ね除けた。
 俊介は咄嗟に身をねじって今度は左手で銃を取りに行く。伊十郎は素早く木刀を振り下ろし俊介の左肘を払った。
 意図せず肘を弾かれてその勢いで俊介は銃を握るどころか遠くに弾き飛ばしてしまった。
 間髪入れず伊十郎は床に寝てる俊介の右肩を突き刺しに行った。俊介は堪らず銃が転がった方とは反対側に転がりそれをかわし、転がった勢いを利用して素早く立ち上がった。
「中々やるな、伊十郎」
「……」
「次はあっちの女を利用させてもらうか」
 そう言うと俊介は背後の窓ガラスを開け、そのままそこから飛び降りた。伊十郎は素早く窓に駆け寄り外を見た。
 俊介は右肩から前に周り受け身を取るとそのまま立ち上がり走って人混みに消えた。伊十郎は追うのを諦めた。
 伊十郎は振り向き美香の所まで来て言った。
「さ、帰るでござる」
 美香は驚いて言った。
「え? で、でもこの人は?」
 俊介に撃たれた男が身動きもせず床にうつ伏せになっていた。
「既に息絶えているでござるよ」
 美香は江戸時代には切り捨てご免と言う習慣があった事を思い出していた。
「そうじゃなくて警察とかに言わないでいいの?」
「尾関殿のお手を煩わすこともあるまい。これは拙者の仕事故」
 美香は、今警察に知られたら色々面倒な事になるに違いないと思い、この場は伊十郎に任せようと思った。
「それにしても拳銃とは恐ろしいものじゃのう。信長公は火縄銃を三段構えで使ったと言われておる。それは一度撃つと次を撃つまでに時間が掛かるからじゃ。しかし拳銃は連続して撃つ事ができるんじゃからのう」
     *
 数時間後。俊介は暴力団のボス、その手下とそのビルに戻ってきた。暴力団の手下は死体を袋に入れると何処かへ運んでいった。
「俊介。派手に暴れたなぁ」
「いきなりだったんでな」
 ボスは床に落ちている拳銃を拾うと俊介に向けた。
「余り下手に動かれるとこっちの身も危険になるんだよ」
 しかし俊介は落ち着いて言った。
「次は上手くやるさ」
 そう言って銃を受け取ろうとする。しかしボスは銃を持ち上げてそれを阻止した。
「仕事を上手くやるには質のいいオモチャが必要だ」
 そう言うとボスは手下に顎で指示した。一人の手下が俊介の前に出て小さなケースを開けてみせた。そこには別の銃があった。
「ベレッタ九〇トゥーだ。今までお前に与えていた銃は警察から横流しされた回転式。弾は五発しか入らねえ。しかしこいつは自動式だ。十二連装だ」
 俊介はニヤリと笑ってその銃を手に取った。
「ここはもう使えん。暫くは港に停めてあるクルーザーを使ってろ」
 ボスは手下のものに俊介を案内させた。そして証拠を隠すためにそのビルの部屋を隈なく掃除して家具などは全て焼いて捨てた。
 美香はその夜どうしても心配で悩んでいた。いくら伊十郎の仕事だとは言え、人が一人死んでいるのに警察に言わなくて良いのだろうか?
「伊十郎。やっぱり尾関さんに相談してみよう」
「尾関殿の手を煩わせたくはないが美香殿がそこまで言うなら」
「善は急げよ。早速交番へ行きましょう」
 二人は急いで交番に向かった。
「やあ佐々木さん。金井さんに会えたようですね」
「先般は助かりもうした」
「で、今度は?」
 美香は事の成り行きを説明した。
「何ですって!? 殺人事件が?」
 二人は別々に事情聴取される事になった。伊十郎は中島巡査に、美香は尾関巡査部長に詳しく話をする事になった。尾関巡査部長は事が事だけに本署に連絡すべきか迷った。
 取り敢えず現場へ向かう事になった。
 しかし現場に着くとそこは何もない空っぽの部屋だった。水か何かで清掃された跡があり、壁の何箇所かはハンマーで叩き壊した跡があった。
「ここで殺人事件が?」
「先程は空っぽの部屋ではござらんかったが、俊介の奴め跡を残さずに逃げたと見える」
 中島巡査が言った。
「人が撃たれたなら床からルミノール反応が出るはずですよ。水で流したくらいじゃ証拠は消せません」
 しかし尾関巡査部長は困ったように言った。
「死体がない以上殺人事件とはならない。何よりここは我々の管轄外だからそもそも捜査権もない」
「でもどうするんですか?」
「取り敢えず死体を探さなければならないだろう。身元不明の遺体をあたってみるしかあるまい」
 尾関巡査部長と中島巡査は非番の時も利用して捜査をしてくれると言ったが期待しないで欲しいとも言った。
「しかし俊介の居所、どのように探したもんかのう」
「佐々木さんは大人しくしてて下さい。捜査は我々がしてちゃんと犯人を捕まえて見せますよ」
 美香は不安だった。
「もしまた変な人が、その俊介とか言う人が現れたらどうしたら……」
「俊介が拙者や美香殿の前に現れた時は俊介の最期の時じゃ。むしろ現れてくれた方が手間が省ける」
「伊十郎。今の時代簡単に人を殺しちゃいけないのよ」
「俊介は極悪人じゃぞ?」
「例え極悪人でも法によって裁かれるのよ」
「しらすの事じゃな。しらすにて裁かれても極刑間違いなしなれば、初めから殺しておく方が仕事が楽じゃぞ」
「極刑間違いなしでも人を殺しちゃいけないのよ!」
「しかし正確に言えば今夜は拙者は誰も殺めてはおらん。俊介が放った弾が仲間に当たって死んだだけじゃ」
 尾関巡査部長が丁寧に説明した。
「佐々木さん。今の世の中は法治社会と言いまして全ては法律が決めるんですよ。どんな極悪人でもそいつを殺せば殺した方も裁かれる。良く覚えておいて下さい」
「時代が変われば世のことわりも変わるもんじゃのう。心得た。しかし美香殿が出かけている間が心配じゃのう。よし! 今から拙者は美香殿の用心棒じゃ」
 伊十郎は美香が行く所には全て着いて行くと言い出した。伊十郎がいてくれれば確かに美香も安心なのだが、流石に会社の中に連れて入るわけには行かない。
「ご安心下され。会社とか言うところに入って守る事が美香殿の迷惑になるのなら、会社の外で美香殿を待ってるでござるよ」
「え? でもそれじゃ何時間も待つ事になるよ」
「ナンジカン? 其奴の事も待てば良いのか?」
「そうじゃなくて。なんて言うのかな……長い間外で待つ事になるよって意味」
「それなら心配ご無用。拙者監察の仕事もしておる故待つことは特に苦にならん」
     *
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