惹かれた君とこの先に

１２

電車で会えば、目を合わせる。
けど、彼の友達から篤紀を奪うことはできない。
なるべく視界に入らないようにするようになったのは、その時からだ。
こんなにも、苦しい物だと知らなかった。
朝のわずかな時間。
乗り込んだ場所が離れている俺と篤紀は、一瞬の視線が合うだけだ。
でも、それだけでも俺は一日がうまくいきそうになる。
放課後は、部活も入っていない俺は、図書館に入り浸り。
学校の勉強の他に、３年のをし始めた。
篤紀は生徒会に入っていて、仕事が終わると顔を出す。
そのわずかな時間が、俺と篤紀の時間だった。

生徒会の引継ぎが終わるころには、進路も決まっていた。
卒業をすると、篤紀は一度、実家に戻る。
だから、電車を利用することもない。
俺は、それよりも前に、篤紀の想いの深さに困惑していた。
何度も、キスをしたいと言われるたびに、「ごめん」と言う。
それが、辛くて、家に帰ったら堪えきれず涙が出ていた。
どこまで彼を我慢させたらいいんだろう。
大切にされているから、何もしてこない。
だけど、それが、とても辛くて押しつぶされそうなっていた。
卒業式の翌日、彼は住まいの手続きを終えて図書館にやってきた。
どこかぎこちない俺を見て、違和感を感じたんだろう。
「言って、隼人。
　俺にどうしてほしい？」
そんなことを言われても、俺は、素直になれなかった。
震える声で、篤紀の顔を見ずに言う。
「卒業したらさ…
　準備とかで色々と大変だろ？
　だから、ちょっと会うのをやめておこうか」
俺の言葉に、口を閉ざす彼。
明らかに距離を置く言葉。
誰も傷つけず、誰も悪くない。
ズルいけど、こうして俺は、篤紀に選択肢を増やす。

その間に、自分を見つめて、そして新しい誰かを見つけて。

応えてやれないことがこんなにつらいなんて、俺は知らなかった。
だから、俺は、これ以上、何も言えなかった。