昇華混じりの雪柳 淡い恋の白い肌

香野ジャスミン

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翼は、事実を教えてもらい、誤魔化せないところまで自分の気持ちをさらけ出す様な行動をでたことに気まずくなってしまった。
尋ねられた問いに、消える様な声で、
「拓人さんが倒れたって…病院に救急搬送されたって聞いたので…
 もう、すごく心配をしたのに…」

俯いてしまった翼を拓人はそっと抱き寄せる。
「…そんなに心配をされると、翼が私を想ってくれているとうぬぼれてしまうけど…
 それでいい?」
覗き込むように顔を見られ、潤んでしまった瞳で彼を見つめる。
もう、誤魔化せない…
震える唇をきつくしめて、瞳を閉じる。
もう、これ以上彼の目をみていると、全てを知らせそうで怖くなった。
小さく翼は頷いた。
ふわっと空気の流れを顔の横で感じた。

顔を上げると、月明りで彼の顔は見えにくくなっていた。
彼の顔を見たくて、彼に近付く。
あっ!
彼の瞳には、涙がにじんでいた。
「…翼、好きだ」
そう言われ、彼に身体を抱きしめられる。

胸の中に、小さな温もりが広がる。
それは、とても温かい。

じっと抱きしめられている翼も、ゆっくりと彼の背中に腕を回す。
「…拓人さん、好きです。」
自分の言葉で想いを伝えるなんて、もっと苦しいと思っていた。

あの頃、彼に想いを伝えた時は、気持ちがあふれてきて溺れそうになった。
でも、今は、ゆっくりと流れるように彼を思える。


2人、車に乗り込み、拓人がどこかに連絡を入れる。
「…翼?
 明日は、休みなの?」
拓人の言葉に、翼は頷く。

それ以上、言葉はいらない。

拓人のマンションに着いたときには、夜更けと呼ばれる時間になっていた。

手を引かれ、翼は彼の部屋の寝室に来る。
「…ごめん。
 我慢できない…」
拓人の言葉に、翼が驚いているうちに、唇を荒々しく絡めとられる。
「あっん…」
余裕なのない、そのキスは、口の中を動き回って翼を確かめるようにうごめく。
上あごの所を舐め上げられると、背中からぞくぞくと湧いてくる感覚に、翼は身体を震えさせる。
ガクッ
と、足の力が抜けてしまい、拓人に支えられる。
「…キスは…誰かとした?」
会わなかった時間は、それだけ多くのものを奪ったことにもなり、拓人は知っておきたかった。

翼は静かに首を横に振る。
頭を撫でられながら、指が徐々に首の方に降りてくる。

「…じゃぁ、この身体を誰かに触れさせた?」
拓人の長い指が、翼の襟もとに来る。

その気配を感じながら、翼は彼を見つめながら、首を振る。
「…だって、ずっと、ずっと先輩の事が…
 好きだったんだもん…」

やっと言えた。
やっと彼に想いを知ってもらえた。

それだけで翼は、胸がいっぱいになり涙があふれる。
諦めようとした。
でも、出来なかった。

離れると考えなくていいのではと思ったけれど、この人の事を考えない日はなかった。
でも、別れを告げた時、傍には鈴宮がいた。
だから、心の中から消えるようにしてきた。

スーツ姿で仕事をしている翼は、胸のふくらみが少しでも目立たないように、胸に布を巻いている。
だから、拓人の指が、上からシャツのボタンを外された途中で見えてきて、翼は咄嗟に、拓人の手を止める。
醜い姿を、見られると…そう思ってしまった。

「翼、手を離して?
 いつもは、これを巻いてるの?
 痛くない?」
優しい彼の言葉に、翼は掴んでいた手を緩める。

再び彼の手がボタンを外し、布が見えている状態だ。
―恥ずかしい…

少しでもそれを誤魔化そうと横を向く。
けれど、ゆっくりと指が鎖骨の辺りを通り過ぎ布を止めているところにただりついてしまう。

―!!
布が緩められるのに気付く。
翼の緊張を拓人も知っている。
だから、気持ちが少しでも違う所に向けれるように話をする。
「オレ、どこまでがっついてんのって思うぐらい、今、興奮してる。

 翼が喜んでくれるかなって…少しでも、俺の事を考えて欲しくて…
 初めて翼に触れる時には、ちゃんとしようと考えてたんだ。

 でも…
 翼が好きって言ってくれたら、全部、頭の中から吹き飛んで行ってしまった…」
「…」
いつも完璧な拓人さんにも、そんなことがあるのだと知る。
そして、自分の事を考えてくれていることにも、素直に嬉しいと思えた。

「…翼に、何度俺は別れの言葉を言わせているんだろう…」
布を緩める手が止まる。
翼は、彼の顔を見て、彼の想いを知ろうとする。
「一度目は、公園で。
 二度目は、三葉邸で。
 …それも全部、翼の本心じゃない」
―!!!
翼は、息をのむ。
どうして?
どうしてそれを知っているの?
翼の胸中の想いを察した拓人は苦笑いをする。
「…少し考えたらわかるよ。
 だって、翼は何一つ、自分のために選んでないじゃん」
―!!
「二度目は、誰のために別れを切り出したのか?
 どうして日本を離れたのか…
 考えた。

 どう考えても、俺のためだ。
 …違う?」
パサリ
と布が全て解けて落とされる。

そこには、鮫島から受けた薬剤で丸みを持った胸がシャツの間から見えていた。
翼は、ゆっくりとシャツに手をかけて隠そうとする。
「隠さないで…」

長きに渡り摂取した薬は、かなりきつめの物だった。
接種をやめても、一度入ったホルモンは、分解されることなく蓄積される。
そのため、男性のような胸ではなく、どこか柔らかい印象を得る。
色の白さと、その胸の赤から桃色に近い乳首の色が、拓人を誘ってきていた。

「…こんな身体、愛せない…ですよね」
あまりにも、胸を凝視されていたので、翼は不安に思う。
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