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「…ここって一等地じゃないですか?」
元々、彰は美容関係に詳しい。
当然、前もって選んでもらっていたお店の紹介をしてもらって翼は驚いた。
「翼、あなたは日本を離れて、どこまで日本の事を知っているのかしら?」
―!?
その指摘は、翼にとって、とても触れられたくないことだった。
事情を抱えて出た翼の事を思うと、多少、彼のとった行動は理解できる。
ただ、それは、ずっとイギリスにいればの話だ。

翼はこれから日本を拠点にする。
つまり、日本の事を知っておかないとならないのだ。

「日本は、今国会で、同性婚を認めるようになるわ」
―!!
「正確には、もう、かなり前から、それは認められていたの。
 でも、考えは最先端を目指していても、生きている人間は、そこまで追いつけなかった。

 今は、違うの。
 知ってる?
 アイドルをしていた子が、日本を捨ててイギリスに行ったの。」
―!!!
「米倉…宰」
彰は頷いた。
「あんなに、楽しそうにお仕事をしていて、みんなの憧れを集めていたのに、好きな人が男だったからと言って、マスコミが、一斉に叩き出したの。
 だから、誰も傷つくことがない方法をとって、国を出た。
 でも、それは、ある意味、危機が現れたといってもいいかしら。
 日本の宝はいつかなくなるのかもしれないとさえ、言われ始めた。
 好きな人がたまたま、同性だっただけで、国を出るなんて…
 日本は、もっと人口が減るわ。
 だって、異性婚だけだった時から、人口は減っているのよ?

 でもね、ファンは、彼の良さに気付いていたのよ。
 だから、彼がイギリスに行って、何を見て何を学んでいるのかを見ているの。

 それをね、全世界に発信したのよ。米倉もそれを了解したんだって。
 すごいわ。
 だって、あなたの事にも触れて、世界の声を日本に向けさせたの」
―!?
翼は、あまりにも、スケールの大きい話なので、驚いて言葉も出ない。
ただ、彰の話を口を開けてみている。
「いくら法律で認められても、人から好奇の目で見られて暮らすのは、耐えれない。
 好奇の目で見るということは、誰かと比べているからだって」
翼は、米倉らしいと思った。
「いつか日本に戻って、また喜んでくれる人の前で歌いたいって言ってたら、みんな応援したくなるわ」
そういう彰の表情は楽しそうだ。
「普通に一般企業に勤めている人もいるのよ、あなたは薬だけだったけど、身体にメスを入れている人もいるわ。その人たちも、みんな幸せを求めているの。
 そんな人たちに、心から楽しんでもらえる場所があると知ってもらいたいのよ」
だからと言って、こんな一等地にサロンを展開するのは、遠慮をしたくなる。

「ここは、カップル専用のサロンと、誰でもサロン。
 もちろん、選ぶのは自分たち。
 あなたは、自分の事を隠さずにするんでしょ?
 だったら、始めからお情けなど期待しないこと」
彰の顔が、徐々に黒須の顔に変わってきているようになる。
それに気づいた翼が、尋ねると
「美容には詳しいから、それなりにアドバイスをさせてもらうわ。
 だって、母でしょ?父なんでしょ?」
照れながらも、開き直っている彰を見て、翼も嬉しくなる。
「彰さんを見て、こんな綺麗な男の人がいたら、絶対に、憧れると思います」
嬉しそうに話をする翼を、鈴宮は複雑な思いで見ていた。

久しぶりに会った彰は、少し色気が失われていた。
それは、三葉の爺のことが心配だからというのが一番なのは、鈴宮もわかっている。

こんなに、身の周りの事に手を付けれなくなるぐらい思われているのだと知り、羨ましいと思った。
と、同時に、弱っている彰を、支えたいとも思った。
自分は、どちらかと言うと、弱っている人を見ると放っておくことができないたちだ。
だから、今回も彰を同情の目で見ていると思っていた。

翼と会った彰は、日に日に、元の艶を取り戻していっていた。
それは、翼にとっても、彰にとってもいい方向に向かっていると言えるだろう。

でも、傍で見ている鈴宮の心は穏やかではなかった。
彰の美しさが際立っているのだ。

街を歩いていても、男装の翼に対して、彰は、和服を着ている。
だから、色気が漏れているのだ。
人目を集めているのだ。

ずっと静かに控えていた鈴宮が口を開く。
「…彰さん、あまり無防備にならないでください」
―!!
あまりにも、それは、唐突な言葉だった。
彰は、思わず、鈴宮を見つめてしまった。
翼も、驚いた。

ハッと鈴宮も我に返る。
なんて自分勝手な言葉だ。
鈴宮が、訂正しようとするが、彰は嬉しそうに笑う。
「…クスクス…心配してくれているのね。
 ありがとう」
誤解をした彰を、翼も、鈴宮もそれを正そうとしない。
今は、それでいいと思う。
鈴宮は、落ち着かないが、彰にとって、今は、とても大切な時である。
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