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珍しいサロンは、脚光を浴びるようになっていった。
もちろん、その噂は、米倉の耳にも入っていたようで、顔をだしてくれた。
「今度、介護を担当している人のカットもしてくれたらいいんだけど…」
それは、出来ることはするつもりだ。
「…なんだか、あんた、変わったな」
整えていると、ふとそんなことを言ってきた。
「そうでしょうか。
接客しながらのカットは、慣れないですけどね…」
苦笑いをすると、
「自分のしたいことを見つけた奴は、輝いているんだ」
翼をじっと見つめる顔は、嬉しそうだ。
「…そうなんですか…ね‥」
仕事が順調になればなるほど、自分の事をさらけ出すことにもなり、翼自身、疲れていた。
「いっそ、大々的に知らせてみたら?
そしたら、わざわざあんたに聞くこともないだろう」
―!
そうか…
仕事の内容を見てもらうにはそれでいいのかもしれない。
今までは二人で行くことのなかった場所に、足を踏み出すのは、なかなか決断が必要だ。
それは、多くの人と関わる中で知ったことだ。
だから、完全に個室を2部屋作るようにしてみた。
スタッフの出入りがあるけれど、必要なこと以外は、会話をするつもりもない。
それも、好評だった。
そうして、自分で学んだ知識で多くの理解者を得ることができた翼は、ある人物に出会うこととなる。
「彰さん…」
久しぶりにあう彰は、相変わらず素敵な人だった。
「お爺様がね、そろそろ…」
―!!
鈴宮も驚きを隠せずにいる。
「あなたのお店の事は、ネットで話題になってるのよ。
話題になっていたのもあるけれど、新しいことを始めたことに、みんな驚いているわ。
…よく、がんばったわね」
抱きしめる彰は、自分の知らない苦労をしてきた翼を愛おしく思う。
「私の友人に、あなたのお店を作りたいっていう人がいるの。
日本に帰ってきて欲しいの」
―!!!!
その言葉は、願っても誰かに言われるとは思わなかった。
だが、自分が帰国するとなると、それなりに注目されるようになる。
翼は、それを心配していた。
彰は翼の手を握る。
「もう、大丈夫。
心配事は、全て片付いたわ」
―!!
それは、あまりにも、衝撃的なことだった。
「えっ…
母の兄と言う人の事は…」
翼の的確な反応に、彰も頷く。
「注意をしてみていたのだけれどね。
お酒を飲んだまま、車を運転して亡くなったの…
もう、何もしないわ」
息を思わず、止めてしまった。
だって、自分に害がないようにとは思っていたが、こんなことになるとは思っていなかった。
「そう、ですか…」
複雑な思いだ。
翼は、じっと彰を見る。
この国に来てからも、翼は一切、拓人の事を知ろうとしなかった。
日本を背負う一族の事だ。
遠く離れた場所でも、簡単に知ることができる時代だ。
でも、それをしようとしなかった。
傍にいる鈴宮も、翼の姿を見て、気付いていた。
口を開くと、尋ねてしまいそうだ。
でも、それは、出来ない。
翼は、この国で多くの人と出会うことができた。
それは、花街という限られた場所とは違い、着飾ることもなく、人の機嫌を伺わず暮らしていく人を知ることができたともいえる。
この場所にいる人の幸せは、今、ここだ。
でも、それは、彼らの本当の願いではない。
自分の淡い恋は、同性だった。
その恋を大切にしてきた翼には、彼らの気持ちを捨て去ることはできなかった。
一度、自分と見つめなおすために国を出た。
もういいのかもしれない。
ここで学んだように、隠す必要もない。
どんなに哀れに思われても、それも自分だ。
そう思ったら、翼は心を決めることができた。
「わかりました。
日本に戻ります。
お店を開きたいので、場所を選んでもらっていいですか?
彰さんになら、任せてもいいと思っています。
私は、ここの引継ぎをしていきます」
まさか、こんなにあっさりと説得できると思わなかった彰は驚く。
「翼?
こんなに簡単に受けていいの?
今までの努力を全てゼロに戻すのよ?!」
彰の言葉に、翼は首を横に振る。
「彰さん、ゼロではないんですよ。
みんなが変わってきているんです。
だから、ゼロには戻らないんです」
その表情は、愛しい物をみるかのようだ。
彰は、後ろで静かに控えている鈴宮を見る。
「あなたは、何かあるかしら?」
尋ねられた鈴宮は、ただ静かに首を振るだけだった。
「話は成立ね。
では、期限は来月末」
そう決めて彰は、日本へと帰っていった。
「店を閉めるつもりはないですよ?」
たぶん、鈴宮はこれを心配していたのだ。
「ここには、私がいなくても素晴らしい人がたくさんいます。
それは、国を選びません。
ここを本店にしてもいいですね。
そうすれば、私の名前を残すことができる。
どうせ、知られるんだったら国を超えてみましょう」
今までにない、翼の前向きな言葉に、鈴宮は驚く。
それに気づいた翼も、少し困惑気味だ。
「日本に帰っても、たぶん、変わらないなって言われると思います。
砕けた言葉を使おうとしても、染み込んだ物はなかなか取れません。
…お爺様にたぶん、一番に言われるでしょうね」
クスクスと笑う姿も、どこか違って見える。
それは、たぶん、日本への想いが膨らみつつあるからだ。
あぁ、やはりこの人は、どこまでも一途だ。
自分がどんなに想いを寄せていたとしても、この人には、届くことはなかっただろう。
それは、日本を出る前にもうすでに決まっていたことだ。
目の前で拓人へ別れを告げたのも、何かあるのではと思っていた。
もちろん、その噂は、米倉の耳にも入っていたようで、顔をだしてくれた。
「今度、介護を担当している人のカットもしてくれたらいいんだけど…」
それは、出来ることはするつもりだ。
「…なんだか、あんた、変わったな」
整えていると、ふとそんなことを言ってきた。
「そうでしょうか。
接客しながらのカットは、慣れないですけどね…」
苦笑いをすると、
「自分のしたいことを見つけた奴は、輝いているんだ」
翼をじっと見つめる顔は、嬉しそうだ。
「…そうなんですか…ね‥」
仕事が順調になればなるほど、自分の事をさらけ出すことにもなり、翼自身、疲れていた。
「いっそ、大々的に知らせてみたら?
そしたら、わざわざあんたに聞くこともないだろう」
―!
そうか…
仕事の内容を見てもらうにはそれでいいのかもしれない。
今までは二人で行くことのなかった場所に、足を踏み出すのは、なかなか決断が必要だ。
それは、多くの人と関わる中で知ったことだ。
だから、完全に個室を2部屋作るようにしてみた。
スタッフの出入りがあるけれど、必要なこと以外は、会話をするつもりもない。
それも、好評だった。
そうして、自分で学んだ知識で多くの理解者を得ることができた翼は、ある人物に出会うこととなる。
「彰さん…」
久しぶりにあう彰は、相変わらず素敵な人だった。
「お爺様がね、そろそろ…」
―!!
鈴宮も驚きを隠せずにいる。
「あなたのお店の事は、ネットで話題になってるのよ。
話題になっていたのもあるけれど、新しいことを始めたことに、みんな驚いているわ。
…よく、がんばったわね」
抱きしめる彰は、自分の知らない苦労をしてきた翼を愛おしく思う。
「私の友人に、あなたのお店を作りたいっていう人がいるの。
日本に帰ってきて欲しいの」
―!!!!
その言葉は、願っても誰かに言われるとは思わなかった。
だが、自分が帰国するとなると、それなりに注目されるようになる。
翼は、それを心配していた。
彰は翼の手を握る。
「もう、大丈夫。
心配事は、全て片付いたわ」
―!!
それは、あまりにも、衝撃的なことだった。
「えっ…
母の兄と言う人の事は…」
翼の的確な反応に、彰も頷く。
「注意をしてみていたのだけれどね。
お酒を飲んだまま、車を運転して亡くなったの…
もう、何もしないわ」
息を思わず、止めてしまった。
だって、自分に害がないようにとは思っていたが、こんなことになるとは思っていなかった。
「そう、ですか…」
複雑な思いだ。
翼は、じっと彰を見る。
この国に来てからも、翼は一切、拓人の事を知ろうとしなかった。
日本を背負う一族の事だ。
遠く離れた場所でも、簡単に知ることができる時代だ。
でも、それをしようとしなかった。
傍にいる鈴宮も、翼の姿を見て、気付いていた。
口を開くと、尋ねてしまいそうだ。
でも、それは、出来ない。
翼は、この国で多くの人と出会うことができた。
それは、花街という限られた場所とは違い、着飾ることもなく、人の機嫌を伺わず暮らしていく人を知ることができたともいえる。
この場所にいる人の幸せは、今、ここだ。
でも、それは、彼らの本当の願いではない。
自分の淡い恋は、同性だった。
その恋を大切にしてきた翼には、彼らの気持ちを捨て去ることはできなかった。
一度、自分と見つめなおすために国を出た。
もういいのかもしれない。
ここで学んだように、隠す必要もない。
どんなに哀れに思われても、それも自分だ。
そう思ったら、翼は心を決めることができた。
「わかりました。
日本に戻ります。
お店を開きたいので、場所を選んでもらっていいですか?
彰さんになら、任せてもいいと思っています。
私は、ここの引継ぎをしていきます」
まさか、こんなにあっさりと説得できると思わなかった彰は驚く。
「翼?
こんなに簡単に受けていいの?
今までの努力を全てゼロに戻すのよ?!」
彰の言葉に、翼は首を横に振る。
「彰さん、ゼロではないんですよ。
みんなが変わってきているんです。
だから、ゼロには戻らないんです」
その表情は、愛しい物をみるかのようだ。
彰は、後ろで静かに控えている鈴宮を見る。
「あなたは、何かあるかしら?」
尋ねられた鈴宮は、ただ静かに首を振るだけだった。
「話は成立ね。
では、期限は来月末」
そう決めて彰は、日本へと帰っていった。
「店を閉めるつもりはないですよ?」
たぶん、鈴宮はこれを心配していたのだ。
「ここには、私がいなくても素晴らしい人がたくさんいます。
それは、国を選びません。
ここを本店にしてもいいですね。
そうすれば、私の名前を残すことができる。
どうせ、知られるんだったら国を超えてみましょう」
今までにない、翼の前向きな言葉に、鈴宮は驚く。
それに気づいた翼も、少し困惑気味だ。
「日本に帰っても、たぶん、変わらないなって言われると思います。
砕けた言葉を使おうとしても、染み込んだ物はなかなか取れません。
…お爺様にたぶん、一番に言われるでしょうね」
クスクスと笑う姿も、どこか違って見える。
それは、たぶん、日本への想いが膨らみつつあるからだ。
あぁ、やはりこの人は、どこまでも一途だ。
自分がどんなに想いを寄せていたとしても、この人には、届くことはなかっただろう。
それは、日本を出る前にもうすでに決まっていたことだ。
目の前で拓人へ別れを告げたのも、何かあるのではと思っていた。
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