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花街にいるとき、多くの学んだことは、無駄ではなかったと思う。
今、こうして異国の地で過ごしているけれど、言葉には困らなかった。
一緒についてきてくれている鈴宮さんは、言葉を覚えるのに、大変そうだけど。

ここに住んでいる間は、兄ということで、鈴宮と同居をしている。
世界が徐々に同性婚を認める時代になっても、日本の中の考え方は上辺の物が多く、いつの間にか、孤立されている現状を悲観して同性婚の幸せを求めて、多くの日本人が海外に流出した。
その中でも、特に寛容な国だったのが、イギリスやカナダだ。

雪柳 翼が選んだ国はイギリスだった。
昔は、やはりこの国でもそれなりに異物のように見られていた同性愛者も、人数が増えると、色々な考え方があると気づいた人々は受け入れていった。
一方で、翼のように身体を変えて性別を求めた者の中には、幸せを掴めた者がいるものの、それはごく一部だった。
彼ら、彼女らが、安らぎの地を求めて母国を捨てる決断をした場所も、やはり同性愛を受け入れている国だった。
だから、翼は、この街で異物扱いなどされることはない。
日本で、注目となった翼を興味本位で見ていた者だけではないと知ったのは、この場所にやっと慣れた頃だ。
鈴宮と、ふらりと立ち寄ったカフェ。
そのカフェの客の中に、翼を知っている者がいた。
「もしかして、雪柳って、あんた?」
―!!
完璧に油断をしていた翼に対し、サッと守るように前に出て守ろうとする鈴宮。
手を広げて、敵意がないとアピールする相手を、鈴宮は睨んでいる。
「ごめん、驚かせたみたいだな…
 あんた、生きてるんだな…」
その言葉は心配していたように聞こえた。
翼は、どう答えていいか戸惑っていたら
「勝手なんだけど、色々とあの時の報道を知っているからさ…
 こんなことをされて、たぶんどこかで死んだりとかしているんじゃないかって心配をしてたんだ。

 オレも、まぁ、一応、アイドルをやってたからさっ…」
鈴宮はそこで、まじまじと目の前の相手を見る。
―!!
それは、多くの年代から支持を得ていたアイドル 米倉よねくら 宰つかさだった。
「あ、やっと気づいた?」
鈴宮の顔を見て、米倉は嬉しそうにしている。
「…どうして、ここに?」
騒ぎ立てる様な事はせず、落ち着いて対応する鈴宮に、翼は声をかけた。
「…知ってる人?」
―!!??
今度は、鈴宮と、米倉が驚いた表情をした。
「まさか、彼を知らないと…?」
―!?
翼は、その反応を見て、自分がかなり窮地に追い込まれていることに気付く。
「…はい…」
その弱弱しい反応に、米倉が笑う。
「ハハっ!面白いね…
 オレ、アイドルしてたんだけど、結構有名だったんだよ?
 でも、ちょっと酔っぱらってヘマしちゃって…やめちゃった。
 …俺ね、アイドルしてたけど、根っからの男好きなんだよ…」
ニコリと笑って、挑発的な顔をしている米倉。
―はぁ・・・
と、呆気にとらている翼。
「酔って口説いていたマネージャーを押し倒したところを、撮られちゃったっ!」
そういう彼は嬉しそうにしている。
「でもね、俺の事を大切にしてくれてたマネージャーだったから、俺は彼を傷つけたくなかったから、アイドルをやめたんだ。
 批判も全部受け止めた。
 だから、俺、一人でこっちに来て、仲間がいるだろう?
 嬉しかったんだ。
 手を繋ぐこともできるし、抱き着くこともできる。
 だって、おかしいよなっ!
 ノーマルだって、そんなことをあまりしないのに、同性だからって批判されるのはおかしい。

 本当に、今、俺は楽しいよ」
じっと翼は彼の話を聞いていた。
それは、とても笑って話の出来ることではないのに、彼の強さを見た瞬間だった。
「…あなたも、十分、強い人ですね」
翼が、そういうと、ポロポロっと涙をこぼした。
―!!
手を広げて、慌てる。
「ご、ごめん…
 オレ、あんたの事を知って、踏ん張れたんだ。
 今、こうして俺が笑えるのも、あんたのおかげ」
その言葉を出すことは、普通にはない。
でも、目の前の彼は、それを嬉しそうに翼に聞かせてくれる。
「そうだったんですね…
 ちょっと、心が穏やかになったように思います」
見た目は男の翼は、今、眼鏡をかけている。
でも、磨き続けた輝きというものは消えることなく持っている。
髪型を短くしても、やっと洋服になれたとしても、色気がにじみ出てくるのだ。
仕草一つ一つを、見ている方が、惹きつけれられてしまう。

「…報道では、あんたを狙っているっていうやつが必死に日本の中を探しているらしい。
 ここは平和だけど…用心をしていたらいいと思う。
 …この目の前の兄さんだって、どうせ、護衛だろ?」
―!
流石、守られてきた立場の人間にはわかるのだ。
「知ってるか?
 今、日本では、どんな性別でも幸せな老後を過ごせるような環境を整えている人がいるらしい。
 オレ、いつか、日本に戻りたい。

 で、どんな歌でもいいから、またみんなの前で歌を歌って喜んでもらいたいんだ」
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