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「本当に、これでよかったのですか?」
背後にいる鈴宮の言葉に、翼は苦笑する。
「クスクス…もう、何度目ですか?」
翼が日本を離れることを決断して、それを知らせた時から鈴宮は同じ言葉を何度も問う。
「そこまでして、どうして拓人様…いや、拓人の傍にいようとしないのです?」
この言葉も、何度目だろう。
「お爺様もおっしゃってましたよ。
 もし、この先、出会うことがあるとするならば、それこそ、俺は先輩の傍にいるつもりです。
 …でも、今の俺は、何もない。
 外に出るために身につけたことも、女として生きるために選んだことです。
 今のままでは、できない。
 弱い俺のままでいること俺が許せないんです。

 ずっと、抑え付けられて生きてきたから、こんな考えを持てなかったのもあるのかな…
 お爺様が、俺の事を願っているなら、俺はそれを精一杯やり遂げてみたい。

 それは、先輩に出会ったのもあるけれど、鈴宮さんとも出会ったからそう思えたんです。
 でも、何も決めてはいないんですけれどね…」
翼の寂しそうな笑みを、鈴宮は複雑な思いで見つめていた。
つい、弱っている翼を自分の手元に閉じ込めてしまいたくなる欲望は、拓人からよくわかる。
でも、それと同じように、翼の傍にいた鈴宮も、胸の奥に抱いていた。

こんな出会い方をしていなければと思ったこともある。
だが、閉鎖的に育った環境の翼にとって、それは、いいとは言えなかった。

ぐっと握りしめていた拳に力を入れる。
自分は、この弱っている翼を守る覚悟をしたのだ。
鈴宮の胸の内がこんなにざわざわと波立っているとは、翼もきづいていないだろう。


今の日本は、産業の衰退が著しく、高齢化による人口の減少により、殺伐としている。
華やかな都心部とは違い、少し離れただけで、その実情はとても厳しい物がある。
綺麗な物より、人の欲にかき回された翼は、そんな暇を持て余した者のいい道化だ。

守り抜くには、何ができる。
また、日本の地を踏むにはどうすべきか。

それは、翼もまだ決めていない。
ただ、決めていないからと何もしないわけではない。

まずは、翼の身体と向き合い、そして自分で自分自身を守れるようにしておかなければならないと考えた。
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