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拓人の話を聞こうと、翼は、顔を上げる。
「実は…
 私の祖父。
 …花街の時の、客でしたよね」
翼は頷く。
あの時の御老人のお孫さんが、拓人だ。
紹介してもらい、話し相手と引き合わされたが、とても感謝をしている。
「憶えていますよ。
 拓人さんが、来られるようになってからは、お顔を見ていません。
 …寂しいです」
あの頃、客が思うように付かず、不安だった雪柳を支えてくれたのが、御老人。
「昔は、恐れられていた存在で、それを知っている人は今でも、あまり近寄ってこないんです。
 その祖父が、寂しさを紛らわすために、花街に通ったそうですよ。

 翼、祖父が、養子縁組をしたいと言っています」
―…えっ…
考えていなかったことを言われ、翼は、思わず口を開けたまま、拓人を見ている。
― 養子縁組…
話がまだ、理解できていない翼は、詳しく知りたいと拓人に尋ねる。
「あの…
 誰かの子どもになるってことですか?」
拓人は頷く。
― ありがたい…
 でも、できないな…
翼は、寂しそうにし、
「ありがとうございます。
 …ですが、お断りします」
!!
拓人は、まさか断ると思わなかった。
思わず、
「…なぜ?」
と、鋭く尋ねる。

翼は、涙を溜めながら、少し笑い、
「父と母のことをまだ、確かめれてないですから…」
その時、拓人は自分が焦りすぎたと知る。
だが、事情は自分の口から説明するには、順番を間違えてしまった。

コンコン
扉が開き、鈴宮が中に入る。
拓人は、そこで、気付く。
鈴宮が話をするのだと。
「すみません。
 そのことですが、お話があります。
 拓人さん、いいですか?」
悔しいが自分のミスである。
「頼む」

鈴宮が翼の手を握る。

―…!拓人は、思わず鈴宮を睨む。
「翼さん。
 鮫島が、あなたのご両親にしてきたことは、覚えていますか?
 我々は、事実確認をしました。
 …
 お父様は、事故後、すぐに。
 お母様は、自殺を装った他殺です。
 どちらも、酷い扱いでした。

 拓人さんのお爺様は、そのご両親の弔いもしたいと言っています」
じっと話を聞いていた翼が、思わず鈴宮と拓人の顔を見る。
「本当…なの?
 …何も。
 なんの、得もしないですよ?」
信じられない話だと、首を振り、否定する。
「そんな…」
拓人が、鈴宮の握っている方の手ではなく、もう片方の手を握る。
「まずは、翼が体調を戻すこと。
 それから、ご両親の弔いをしよう。

 その後、自分のことも少しは、考えれるようになってほしい」
翼は、2人を見て涙を流す。
「…ありがとう…
 お爺様に、お礼を伝えて欲しいです。
 あと、またオセロをしましょうって」
鈴宮は頷き、拓人は
「分かった」
と答える。

翼は、気付かない。
この2人の自分への感情が、どんどん大きくなっていくことを。
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