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鈴宮に先導されて、雪柳は鮫島の邸宅の一室、和室の金屏風が大きく置かれている部屋に案内される。
そこは、来客用というだけあって、とても手入れがされていた。
玄関と思われる大きい扉を視界に入れることができる場所。
走ってあの扉に向かっても、どれぐらいの距離、逃げれるのだろう。
雪柳は、足元を見ながら歩く。
身体の熱さ、倦怠感の他に、異常に喉が渇く。
―ふと、いつもの習慣で、サプリを飲んでいないと、頭を過ぎったが、あれはもう飲むことはできない。

安定しない思考を閉じ込めるかのように雪柳は、辺りを見回す。
屋敷の人だろうか、どこの風俗かと思うような、品のない、テカリのあるピンクの布団を部屋の一角に敷いている。
まだ、花街で客と一夜を共にする三つ布団の方が、良さそうだ。
鈴宮は、雪柳を囲いを設けている場所に座らせる。
「襦袢になってください」
そう言って渡された襦袢。
男物。
「これ、男物ですが・・・」
鈴宮は、雪柳を見る。
「女性用の方がいいですか?」
―!!
その質問は、今の雪柳には、キツイ言葉だった。
女を意識して、確かに花街では女のように、女性用をきていた。
時に、男性用の物を着ていたが、自分の意識の中で、女性用を選ぶようにしていたのは、確かだ。

ただ、今は違う。
自分の知らないうちに、勝手に鮫島の意図で身体を変えられていた。
認めたくない・・・
でも、身体を見下ろすと、胸には、乳房ができ、腰には丸みを出すように脂肪がついている。
葛藤をしている雪柳の様子を見ている鈴宮が、
「今日は、女性用を着ておきましょう・・・」
そう言って、渡される。
頭の中が混乱しつつ、渡された襦袢を身にまとう。
化粧を施され、髪を結いあげていく。
鏡にうつる顔は、相変わらず、顔色が悪い。
―・・!!
胸に、鋭い痛みが走る。
「・・・んっ!」
痛みをやり過ごそうと胸を掴んで耐える。
口で息を整えようと
はっ はっ
と、息をする。
―この胸の痛みも、鮫島からもらったサプリを飲み続けておこり始めた。

この胸の苦しみも、己の愚かさをあざ笑っている鮫島の念に思えた。
顔を歪め、悲痛な顔をする。
俯き、緊張を少しでもほぐそうとする。

鮫島の選んだ着物は衣桁に掛けられている。
黒地に至る所にラメの入った、どこのギャルだと言ってしまいそうな着物である。
しかもよく見ると、掻取掛けではないか。
正直、確かにラメが入った物は着物の中にもある。
だが、着心地の悪そうなラメが肌の当たる内側にも入っている。
どこで、これを手に入れたのかと言いたい。

キラキラ、ギラギラした物が好きそうな鮫島の選びそうな物ではあるが、雪柳も呆れてしまう。
この趣味の悪い男の選んだ物を自分が着ることになるのか・・・
本当に嫌だ。
「掻取掛け・・・」
雪柳の言葉に、横で控えていた鈴宮が耳打ちをする。
「あなたを抱けると思っているのです。
 物を変えてきましたね。
 昨日の時点で白地に柳が描かれている引き着だったんです。
 これも、金糸が使われていて鮫島らしい物でした。

 ですが、掻取掛けとは・・・
 想いの深さを見せつけられるようですね。
 ・・・・・
 大丈夫です。
 本格的に着なくていいです。
 鮫島は、着物に詳しくありませんから、適当でいいですよ」
そう言われても、流石に、花街でも掻取掛けは、見ない。
どうしようかと悩んでいたら、部屋の準備が整ったようで、鮫島が入ってきた。

鈴宮が、鮫島の元にいき、金屏風のある場所へ誘う。
「鈴宮。
 お前、徹底してるな!

 ひひ。
 酒を飲みながら、着物を着るのを見るか。
 そうそう、ヤッてる時に、使うのに薬を用意したのだ。
 折角の、初物だ。
 わしがしっかりと味わうつもりでな・・・
 ドラッグってやつだ。
 雪柳にではなく、ワシが使う。
 まだ、衰えてはおらんからなっ!!ひひひ」
そう言って、鮫島は、一席を整えた金屏風の前に座り、用意されていた酒を飲み始めた。
囲いの陰から、雪柳は扉を見る。
慎重に、鮫島は、誰も入ってこないように鍵を内側から閉めた。
―・・・助けを求めようとしても、無駄か・・・
窮地に立たされ、雪柳は、身体をブルブルと震えさせる。
「雪柳様、どうぞ・・・」
見上げた場所には、鈴宮の姿。
ゆっくりと襦袢を纏っただけの雪柳が、衣桁の前に立つ。
正面で、様子を見ている鮫島が、酒を持って立ちあがり、盃を渡してくる。
「うひひ・・
 この酒はな。
 柳の名前が入った酒だ。
 お前も飲め!
 そして、ワシを楽しませるのだっ!」
震える手で盃を受け取り、酒を注がれる。
口に持っていくのも躊躇う。
鮫島の全てが嫌だ。
何が入れられているかわからない。
ただ、このままではどうすることもできない。

鈴宮の顔を見ると、小さく頷いている。
・・・何も入っていない?
一瞬、酒を見て、少しだけ口に運ぶ。
― コクリ
酒独特の、口に広がる熱い感覚。喉の奥が熱くゆっくりと流れていく。

ほうっと息を吐き、盃を鮫島に渡す。
その様子を見て、鮫島が一気に上気する。
「はよっ!
 はよ、たのしませよっ!」
鼻息を荒げ、鼻の下は伸ばし、履いているスラックスの前の方が、張り上がっている。

雪柳が、ゆっくりと身体を低くし、挨拶をする。
「鮫島様・・・
 雪柳でございます。
 今日は、よろしくお願いします」
指を付いて口上を述べる。
そして、立ちあがり、衣桁から掻取掛けをとる。
ずしりと重みのあるその着物は、まるで、雪柳の心のようである。
見られていることを意識し、視線を流すように着る。
機嫌を損ねて、もし、何かされても困る。
その想いだけで、震えそうな指先に力を入れ、着ていく。

気が付けば、座っていたはずの鮫島が立ちあがり、興奮した様子で近づいてくる。
気付かれないように、ゆっくりと後ろに下がる。
髪に飾りをつけようと、鏡を見る。
後ろに、じっとりと鮫島が密着してきた。
「この着物の間から見える、首筋。
 うへへ・・・
 たまらん!」
そう言って、雪柳の首筋をぬめりとした鮫島の舌が這い上がる。
―・・・!!
ぁぁ・・・
やはり・・・
これが、現実・・・
目を開いて、その行為を目で追いながら、想う。
もう・・・涙もでてこない・・・
首筋を舐めて、より興奮した鮫島が、着物の中に手を入れていく。
!!!
―???!!?
傍で見ている鈴宮を見ようと、雪柳が顔を動かす。
その瞬間、
「何を勝手に動いてる!!」
―パン!!
掌で思いっきり、頬を叩かれる。
口の中は、衝撃で傷つけたのか、血の味がする。
身体から恐怖が襲ってくる。
ガクガク震え、顔を起こす。
「お前は、ワシを見ておけばいいんだよっ!!」
そう言って、雪柳の唇に自分の舌を這わせる。
酒の匂いを纏い、ぬめり気のある不快の塊が、雪柳を狂わしていく。
「おえ・・・・」
思わず、吐き気を起こした態度を見て、鮫島が激高した。
「どうだっ!!
 このわしが、相手をしているんだ」
―・・・心が凍っていく
 ―・・・誰にも、触られないように・・・していたのに・・・
着物が汚れるのも構わずに、雪柳は、思いっきり、口元を拭くのだった。
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