昇華混じりの雪柳 淡い恋の白い肌

香野ジャスミン

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今日は、定休日。
「決まったかしら…」
見習い期間が終わって、独り立ちをするときがきた。
芸などの完成は、徐々に上達するのでいい。
先ずは、自分の客をとるスタイルを決める。

「雪柳は、男性をお相手します。
 服は、和装で」

前田をはじめ、白菊の色子の前で決めたことを話す。

「珍しいな。
 今時、だいたいは、女を相手にするか両方で金を稼ぐのに」
スーツ姿の眼鏡をかけた人が言う。

何も答えず、下を見る。
「…では、男だけを相手にする。
 今日から、白菊は、女性を相手にする2名。
 男性と女性を相手にする3名。
 男性だけを相手にする2名。
 7人でいく」
前田の言葉で、みんな、各々の動きをする。
「お前、男が好きなの?」
雪柳が顔を上げると、中性的な顔の人がいる。
確か…
「緑さん…」
片耳にピアスをつけて色黒の肌を隠すように体のラインが強調される服を着ている。
「えっと…
 男の人が好きとかは、ないですよ」
雪柳が回答に困っていると
「あのさ…
 男だけってのも、ありだぜ。
 女の化粧やら香水やらが男は少ないからな。
 体臭を消すのに使う人間もいるのは、いる。
 それは、我慢だ。

 俺、今、良いひとがいるんだぜっ。

 その人とうまくいけば、ここから出れる・・・」
そう言って、嬉しそうに話をしている。
いいなぁ・・・
羨ましい・・・
「いいですね・・・
 ここで、良い人は出来るかな・・・」
不安な表情の雪柳を見る。
緑は、この入ったばかりの雪柳が気がかりだった。
どこか、沈んだ様子でいつも修業をしていた。
何かを思い浮かべては、ため息をつく。
本人は、気付いていないかもしれないが、周りの人間も気にしている。

花街は、閉鎖的な環境だ。
気分は沈みがちになる。
今まで、情報が溢れていた環境から来た人間は大体、経験する。
自分も最初はそうだった。

だからこそ、気がかりだった。

休みと言っても、新人には多くの課題がある。
着物の着方をしっかり覚える。
髪型は、まだ入ったばかりもあり、短い。
ただ、雪柳は願いが叶うまで、髪を伸ばしてもいいかと思っている。
化粧は控えめに。

黒須の元で学んだことをしっかり活用する。

そうして、ぎこちない表情でも、母親譲りの顔のおかげで、口コミで客がつくようになってきた。
そうして、一年。
どうにか定期的に通う客が付くようになってきた。

花街に入れるのはそれなりに裕福でないと入れない。
そのため、引退し時間を持て余したご老人や興味本位で来たもの。
そして、欲を抱えた者がいた。

その閉鎖的な環境は、接待にも使われることがあった。

その日、馴染みの客となった人に連れられ、久しぶりに鮫島が現れた。
「いやぁ・・・・
 これは、これは、えらく綺麗になったもんだ・・・
 お母さんからあんた、良い物を受け継いだなぁ。

 ひひひ。
 こりゃ、楽しみだ」
下品な笑い声、決まりで触れてはこないが、視線がとても気持ち悪い。
ただ、貴重な客の一人。
この日は、馴染みの客と一緒に来たのでお代も2倍だ。
「お久しぶりでございます。

 鮫島さまも、ご贔屓に・・・」
上辺だけの言葉も、この男には喜ぶ材料となる。
「なんとっ!
 声まで似るんだな・・・
 こりゃ・・・、面白い。
 若いのだから・・・ひひひ」
虫唾が走りそうな独り言。

この日の再会が、雪柳を闇へと落としていくことになっていく。
それを知るのは、鮫島ただ一人だった。
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