昇華混じりの雪柳 淡い恋の白い肌

香野ジャスミン

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「一条寺先輩・・・
 ・・・別れてください」
夕暮れの公園のベンチ。
遊ぶ子どもの声で、会話の声が周りには聞こえない。

握りした拳に力を籠める。
―・・泣くなっ 泣くなっ!!
 ―・・勝手なことを言っているのは、僕なんだから・・・

「どうして?」
横に座る先輩の顔が見れない。
俯いたまま、耳だけを精一杯、聞き逃さないようにする。
・・・理由・・・
「・・・俺・・勘違いしていたんです。
 部活でカッコイイ先輩を見ていて、好きだって。
 ・・・ははっ
 先輩も、優しすぎるのも悪いんです。

 こうやって、調子に乗ったやつが、また近づくんです。
 ・・・ぉとこで・・
 ・・・男で・・・すみませんでしたっ!」
そう言って、その場の空気に耐えられず、走り出す。
公園から出て、全速力で走る。
―・・言えた・・・・

目元が熱くなるのが、わかる。
道を走る足音が大きく聞こえる。
ゆらゆらと、目の前がぼやける。
・・っあっ・・
そう、思った時には、目元から頬にかけて温度を失いつつ流れてくる涙。

それでも、足を止めれない。
俺が、バカだったんだ・・
・・・先輩に、想いを伝えたせいで・・・

その日から、俺は、部活に行かなくなった。
元々、成績は真ん中。誰も期待するでもなく、されるでもなく。
それでも、俺はあの時間が好きだった。

日が暮れる時の教室の色。
先輩が、集中して絵を描く姿。
その後ろ姿を、その横顔を後ろから見つめる。
その時間が、俺には、幸せな時間だったんだ。

勇気をだして、想いを伝えた。
一瞬、驚いた顔をする先輩。
「いいよ」
その一言だけで、俺は舞い上がっていた。
帰宅する時間を合わせて、一緒に帰る。
それだけで、とても嬉しかった。

だから、先輩に迷惑をかけていると知らなかったんだ。

借りた物を返しにいく、そのことだけで、胸の鼓動は高まる。
先輩の教室の前で、友人と話す先輩。
話が終わるまで、待って居よう・・・
そう思って陰に隠れていた。
すぐ、自分の教室に戻ればよかったのに・・・
「お前も、大変だなっ!
 いつもいつも、あいつと一緒に帰ってるだろう・・
 オレ、部活の終わる時間があれくらいだから、よく見かけるんだわ」
友人の一人が話をしている。
一緒に帰るって、俺のこと?
「それにしても、よく一緒に帰れるよなっ!
 女なら、待たれてもさっ
 一緒に、帰るてのに・・・

 男とかえっても、あんなに一緒は無理だわ。
 うざくね?」
胸がざわざわと騒ぐ・・・
「そうだね・・・女の人では、ないね・・・」
―・・・ぁぁ。
身体から力が抜けていくような感じがした。
返すものを胸に抱きしめ、教室に戻る。
・・・女じゃないから迷惑だったんだ・・・
唇を噛み、悔しい気持ちを耐える。
・・・どうすれば、いい・・・
俺は、男だ・・・・
その日は、部活にも顔を出せず、借りた物を先輩の靴箱に入れて帰った。
「おかえり。
 話が決まったわよ。
 来月から、向こうの学校に行くことになるから。
 ・・・・ごめんね。

 もし、あなたが女の子だったら・・・
 いや、何もないわ・・・

 伝えたい人には、伝えておきなさいね」
帰宅して、待っていた母が話をしてきた。

来月って・・・あと、一週間。

「わかった」
返事をして、自分の部屋で考える。
よかったじゃないか・・・・
ちょうど、離れるんだ。

―あなたが女の子だったら・・・

母の言葉を思い出す。

女・・・
もし、俺が女性だったら先輩は、あの時、否定してくれた?
でも、男でも俺の気持ちは受け止めてくれたのに・・・

「先輩っ!
 伝えさせてください。
 オレは、先輩が好きです。
 男でも、好きなんです!
 だから、傍にいさせてください」
あの時の「いいよ」の返事は、意味がなかったんだ・・・

緊張して、先輩の顔も見ることができず、ただ、頭を撫でられた。
見上げると、目元を緩ませて笑ってくれた。

恋人と思っていたのも、俺だけ。
勘違いだったんだ。
浮いていた心が、闇の中に落ちていくように感じる。
好きってなに?
俺の好きは届かなかった?
あぁ・・・
女じゃないからか・・・
こみ上げてくる笑いに、虚しさも憶える。

恋人だと思ったことも、俺が男に生まれてきたことも間違いだったのだ。
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