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今年、高校を卒業をするはずだ、あの子は。
あの時、屋上で父に納得してもらって、ずっと、彼の様子をみていた。
雪柳 翼
父は、花街出身の人気クリエイター。
母は、大企業の令嬢。
花街で売れっ子として働いていた時に、2人は恋に落ち結婚。
結婚したことが親族に知られて勘当となった母。
人気クリエイターとして上り詰めた父を支え、慎ましく3人で生活をしていた。
事故にあい、父親は病床の身。
どういう理由で、出会ったか定かではないが、病院での資金の援助と称し、母親は援助先に住み込みで働く。
息子は安アパートでほぼ、一人暮らし。
援助先の都合で、転居し今に至る。
現在、都会の片隅でひっそりと高校に通っている。
高校を卒業と同時に、東京の大学に進学した一条寺 拓人。
一条寺と言えば、世界有数の大企業。
代々から、兄弟の中で切れ者のみが、その頂点に立つことができる一族。
奇抜、そして斬新な知識の元、時代を引っ張っているリーダー的存在。
その一条寺家の息子で現在、大学生の拓人。
拓人には、優秀な兄たちがいた。
まだ、現役の父親は、子どもたちに世間の流れを経験させるため多種多様な業種につかせている。
息子たちは、自分の環境に驕ることもなく、医者や弁護士などについている。
拓人も、その兄の姿を見て育っているため、父の仕事の手伝いをして社会のルールを直に学んでいる。
高校在学時に、初めて父親に頼みごとをした拓人。
その頼み事の一つに、雪柳 翼の行方を調査することであった。
定期的に報告を受けているのだが、ここ何か月か、報告する男の様子がおかしい。
どこか落ち着きがなく、微かな音にも敏感に反応する。
まるで、何かに怯えているように。
この日も、報告の書かれている書類に目を通す。
報告だけだと、裏の事情が見えてこない。
手に持っている書類を机に置き、ため息をつく。
「これには、一切、鮫島の名は無いが、どうしてだ」
眼孔の鋭さに恐怖を感じ始めた。
身体をガタガタ震わせている男の横で拓人は電話をかける。
「鮫島の工作が疑われる」
― このうらに鮫島が絡んでいる ―
それは、高校の同級生で友人だった 鮫島 義明の軽く放たれた言葉が大きく影響された。
あの時、確かに義明は、雪柳と名前をだした。
父親の姓を名乗っている雪柳のことを調べているのだから、必ず、鮫島の名前が出てくるはずである。
父に頼んで始めて報告を受けた時は、確かに鮫島の話を裏付けるように名前があった。
令嬢に執着する鮫島父の異常さ。
本当に雪柳の父親は、鮫島父によって事故にあったのかは、報告だけではわからない。
ただ、勘当された身のお嬢様が、先の見えない医療にかかる資金をすぐに用意できるとは、考えられない。
普通、娘の窮地を知った実家も大体は、手を出すのだ。
だが、実家は、鮫島のいい様に転がされていた。
母親の兄にあたる人物が今、継いでいるようだが、業績は低迷している。
鮫島の影響で、違法な行いもし始めているようだった。
男が土下座をしてきた。
「どうか!どうか!
明日まで何もしないでいただきたい。
妻と息子が・・・」
拓人の声に目の前の男が気まずそうに様子を伺っている。
また、目の前にいる男も鮫島の汚い手で何か弱みを握られている。
妨害してくる。
鮫島カンパニー。
拓人の高校時代の同級生、鮫島 義明の親が経営する会社。
良い噂は少なく、裏では悪事を行っている悪名高き会社。
人の弱みにつけこんで、自分の手を汚さない悪の悪。
大きな事件の裏には、鮫島が大体名を潜ませていた。
ただ、いつもあと一歩で捜査を逃れていた。
父親はどこかの令嬢を陰湿なほどに執着している。
それは、色事の話でいつも出てきていた。
年数がたっても、あの時、義明が話したことを思い出す度に、腹がたつ。
拓人はそれよりも、明日 を強調する男の様子が気になった。
手元のスマホが鳴る。
「何?!」
目の前の男に睨みつける。
頭をこすりつけている。
― 鮫島父の助言の元、翼は卒業後、進学を選んでいない ―
進学を選んでいないのなら、資金を捻出するため、何か仕事につくのが普通である。
ただ、どこを探しも、雪柳 翼 の名前は出てこなかった。
目の前の男に、拓人は近づく。
― 短期間でも、恋人と過ごした時間では、あの子の全てを知らなかった。
今、こうして離れて彼の事を知っても、まだ、自分には彼の事を想う気持ちがある ―
境遇を知れば知るほど、手を出してしまいそうになる。
PRRRRR
父からの電話をとる。
『花街に1人、新しい子が入るのだが、お前は知っているのか?』
一条寺家は、花街の出資者の1人。
その管理を任されていた拓人は、ここ数日、翼の報告がなかなか入らないことでその事務的な業務を滞らせていた。
「いえ、例の報告に足りない箇所があるのでそれを優先していました」
電話越しでため息をつかれる。
『自分で、確かめろ』
咎められる訳でもなく、それだけを言って、父は電話を切った。
― 何を知らせたいのか ―
拓人は、その行動の意味を知ろうと、書類を見た。
― 雪柳 翼 18―
高校卒業予定。
白菊 色子 希望。
報酬の一部は、父の病院代。
残りは、花街での生活に。
どうして?
あの子は、なぜ、花街に?
握りしめていた書類に、力がこもっていく。
それを知りたく、調べようとする。
あの時、屋上で父に納得してもらって、ずっと、彼の様子をみていた。
雪柳 翼
父は、花街出身の人気クリエイター。
母は、大企業の令嬢。
花街で売れっ子として働いていた時に、2人は恋に落ち結婚。
結婚したことが親族に知られて勘当となった母。
人気クリエイターとして上り詰めた父を支え、慎ましく3人で生活をしていた。
事故にあい、父親は病床の身。
どういう理由で、出会ったか定かではないが、病院での資金の援助と称し、母親は援助先に住み込みで働く。
息子は安アパートでほぼ、一人暮らし。
援助先の都合で、転居し今に至る。
現在、都会の片隅でひっそりと高校に通っている。
高校を卒業と同時に、東京の大学に進学した一条寺 拓人。
一条寺と言えば、世界有数の大企業。
代々から、兄弟の中で切れ者のみが、その頂点に立つことができる一族。
奇抜、そして斬新な知識の元、時代を引っ張っているリーダー的存在。
その一条寺家の息子で現在、大学生の拓人。
拓人には、優秀な兄たちがいた。
まだ、現役の父親は、子どもたちに世間の流れを経験させるため多種多様な業種につかせている。
息子たちは、自分の環境に驕ることもなく、医者や弁護士などについている。
拓人も、その兄の姿を見て育っているため、父の仕事の手伝いをして社会のルールを直に学んでいる。
高校在学時に、初めて父親に頼みごとをした拓人。
その頼み事の一つに、雪柳 翼の行方を調査することであった。
定期的に報告を受けているのだが、ここ何か月か、報告する男の様子がおかしい。
どこか落ち着きがなく、微かな音にも敏感に反応する。
まるで、何かに怯えているように。
この日も、報告の書かれている書類に目を通す。
報告だけだと、裏の事情が見えてこない。
手に持っている書類を机に置き、ため息をつく。
「これには、一切、鮫島の名は無いが、どうしてだ」
眼孔の鋭さに恐怖を感じ始めた。
身体をガタガタ震わせている男の横で拓人は電話をかける。
「鮫島の工作が疑われる」
― このうらに鮫島が絡んでいる ―
それは、高校の同級生で友人だった 鮫島 義明の軽く放たれた言葉が大きく影響された。
あの時、確かに義明は、雪柳と名前をだした。
父親の姓を名乗っている雪柳のことを調べているのだから、必ず、鮫島の名前が出てくるはずである。
父に頼んで始めて報告を受けた時は、確かに鮫島の話を裏付けるように名前があった。
令嬢に執着する鮫島父の異常さ。
本当に雪柳の父親は、鮫島父によって事故にあったのかは、報告だけではわからない。
ただ、勘当された身のお嬢様が、先の見えない医療にかかる資金をすぐに用意できるとは、考えられない。
普通、娘の窮地を知った実家も大体は、手を出すのだ。
だが、実家は、鮫島のいい様に転がされていた。
母親の兄にあたる人物が今、継いでいるようだが、業績は低迷している。
鮫島の影響で、違法な行いもし始めているようだった。
男が土下座をしてきた。
「どうか!どうか!
明日まで何もしないでいただきたい。
妻と息子が・・・」
拓人の声に目の前の男が気まずそうに様子を伺っている。
また、目の前にいる男も鮫島の汚い手で何か弱みを握られている。
妨害してくる。
鮫島カンパニー。
拓人の高校時代の同級生、鮫島 義明の親が経営する会社。
良い噂は少なく、裏では悪事を行っている悪名高き会社。
人の弱みにつけこんで、自分の手を汚さない悪の悪。
大きな事件の裏には、鮫島が大体名を潜ませていた。
ただ、いつもあと一歩で捜査を逃れていた。
父親はどこかの令嬢を陰湿なほどに執着している。
それは、色事の話でいつも出てきていた。
年数がたっても、あの時、義明が話したことを思い出す度に、腹がたつ。
拓人はそれよりも、明日 を強調する男の様子が気になった。
手元のスマホが鳴る。
「何?!」
目の前の男に睨みつける。
頭をこすりつけている。
― 鮫島父の助言の元、翼は卒業後、進学を選んでいない ―
進学を選んでいないのなら、資金を捻出するため、何か仕事につくのが普通である。
ただ、どこを探しも、雪柳 翼 の名前は出てこなかった。
目の前の男に、拓人は近づく。
― 短期間でも、恋人と過ごした時間では、あの子の全てを知らなかった。
今、こうして離れて彼の事を知っても、まだ、自分には彼の事を想う気持ちがある ―
境遇を知れば知るほど、手を出してしまいそうになる。
PRRRRR
父からの電話をとる。
『花街に1人、新しい子が入るのだが、お前は知っているのか?』
一条寺家は、花街の出資者の1人。
その管理を任されていた拓人は、ここ数日、翼の報告がなかなか入らないことでその事務的な業務を滞らせていた。
「いえ、例の報告に足りない箇所があるのでそれを優先していました」
電話越しでため息をつかれる。
『自分で、確かめろ』
咎められる訳でもなく、それだけを言って、父は電話を切った。
― 何を知らせたいのか ―
拓人は、その行動の意味を知ろうと、書類を見た。
― 雪柳 翼 18―
高校卒業予定。
白菊 色子 希望。
報酬の一部は、父の病院代。
残りは、花街での生活に。
どうして?
あの子は、なぜ、花街に?
握りしめていた書類に、力がこもっていく。
それを知りたく、調べようとする。
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