初めてできた恋人は、最高で最悪、そして魔女と呼ばれていました。

香野ジャスミン

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58ただいま

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俺は、久しぶりに、ミハルさんのマンションの前にいる。
彼は、家の鍵を渡すために、一度、開店前のカフェに顔をだしてくれた。

俺がミハルさんんと一緒に住んでいた時、仕事人間の彼は、夕方の時間は家にはいない。
そう思って、俺は渡された鍵を使い、何も考えずに部屋に入った。

「おかえり」
―!??
目の前に、洗濯物を抱えているミハルさん。

自分のことは自分でするタイプのミハルさんは家事も自分でする。
それにしても、抱えている量がすごい…

「た、だいま…」
緊張を抱いていた俺としては、その光景でどこかに飛んで行ってしまった。
俺は、自分の荷物を床に置き、リビングに入った。

―!!!??
なに、これ…

そこは、何も変わらない部屋。
でも、その惨状はすさまじかった。

酒、ジャンクフード、脱いだ服、積み重なった台本、他にも、携わった作品が持って帰った状態で置かれている。部屋の空気もなんだか澱んでる。

部屋の状態を見て、呆然としている俺の様子に気付いたミハルさんが、苦笑する。
「…ごめん、間に合わなかった…」

どういう意味?
ミハルさんは、白状した。
「海外から帰ってきて、要君がいなかったから‥
 寂しくて、ベッドで寝れなくて…
 でも、スケジュールは鬼のように詰まっているし、家にいても楽しくなかった。

 でも、家の至る所に、要君の事を思い出させて、苦しかった。
 …君に出会わなかった頃の僕だと、それでも普通の生活をしていたと思う。
 ご飯を食べても、美味しいと思えないし、お酒を飲んでも酔えなかった。

 僕は、要君がいないと、ダメになっちゃった…」
―どうしよう…
すごく嬉しい…

話をしながら部屋を歩いているミハルさんは、余裕がなさげだ。
―これも、本当のミハルさん…

白鳥ミハルは、俺が見てもカッコイイ大人の人だ。
いつも余裕のある姿で、なんでもこなせる人だと思っていた。

自分がいないだけで、こんなにダメになるなんて…

俺は、嬉しいけど、ミハルさんの気持ちを考えると、罪悪感で一杯だ。
ゆっくりとミハルさんの背中に抱き着く。
「もう、出て行かないよ?」

どこか緊張をしているのは、ミハルさんも一緒だったみたいだ。
抱き着いても、身構えたままだ。

俺は、ミハルさんの顔が見えるように向き合う形になる。
彼は、とても頼りなさげな様子だった。
「…信じてくれるまで、俺はミハルさんに言うよ?
 何回も言う。

 だって、臆病な俺を…ここまでしてくれたのは、ミハルさんだろう?
 出て行って、ごめん。
 相談しなかったことも、ごめんなさい。
 傷つけて、ごめん。

 あと、探してくれてありがとう…」
やっと俺をみてくれたミハルさんは、手を取って頬に当てている。
――!
涙・・・
彼の瞳に涙が纏っていた。

俺は、それを見たら…堪えることができなかった。
彼の目元に、躊躇いながら唇を近づける。
チュッと、音を立てれば、彼の身体がピクっと反応した。
―よかった…・
拒否されなかったことに、安心する。

額や、目尻に唇を落とし、彼の気持ちを宥めようとした。
唇の方に近付いたとき、俺は、ハッと気づく。
―うがい…していないっ!!
俺は、咄嗟に、ミハルさんの唇に指を置く。
もう、涙を見せていないミハルさんの目には、違うものが込められていた。
でも、俺が指で静止したため、物足りないように感じている。
「…うがい
 ミハルさんに、何かを移したくない…」
俺の言葉に、小さくため息をつき、身体を抱き上げられる。
俺は、彼にしがみつくことに必死になり、彼に身を任せたのだった。
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