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「…緊張する…」
俺は、夕方から開く、この働いているカフェで会うことを指定した。
陰キャラ女子妹は、厨房でたぶん覗くんだろう。
気になると思うからな。

腐女子の目に触れる可能性が高いサイトを開くということは、それなりにリスクがあるということを考えていた。
まず、俺が男だということ。
だから、サイトを立ち上げる時に悩んだ。
性別を匂わす様なキーワードは避けたかった。

でも、思いつかなかった。

ふと、後輩が以前言っていた言葉を思い出した。
魔法使いが…魔女が…人間界が…

―…どういう意味か、あの時は分からなかった。

ネットでポチポチっと調べてみる。
『成人した人間が、30歳を迎えるまでに、性交渉をせずに、童貞または処女を貫いた者は、魔法使いになれる。……(都市伝説)』
―…あいつ、バカなのか?
なるわけないじゃんっ!

でも、これ、いいかもしれない。
ミハルさんが魔女なら俺は、魔法使い予備軍だ。

こうして、俺はサイトを運営する時の名前を決めた。
     『魔法使いの落第生』
―え?
センスがない?
そうですよ、ないですよ?
でも、これしか浮かばなかった。

俺、ある意味、落第生だよ。
前にもすすめてない。

いいじゃん、結構気に入ったかもしれない。

「あ、篠田くん、ちょっとこっちを見てくれる?」
厨房の方で、呼ばれ向かう。
「…はい」
彼女に手渡されたのは、一枚のCD

俺は、それをじっくりと見る。
―!!!!
『EMOTION』
―!!
目の前の彼女を見る。
「…これが、あなたのCDだそうよ」
???
―え?
どういう意味?
だって、俺の鞄にはずっとCDを入れている。
絶対に、なくしたりしていない。
だって、今日も鞄の中にあるのを確かめてきたんだ。

俺は、否定しようとした。
カランカラン…
来客を知らせるドアベルが鳴る。

彼女は、その方向に向かっていく。
俺は、渡されたCDを見る。
―どうしよう、これからサイトの話をするっていうのに…

まさか‥なんで?という言葉が頭の中を埋め尽くしていく。
―しっかりしろっ!

自分に言い聞かせるかのように頭を振る。
「篠田くん、あなたにお客様」
そう言いながら戻ってきた彼女は、どこか浮かれた顔だ。

疑問を抱きながら俺は、キッチンを離れた。

――――!!!!
「―っっつっ!!」
…えっ?
俺が向かった先には、ミハルさんがいた。

彼は、イベントなどに使うスーツではなく、ビジネス用のスーツを着ている。
―かっこいい…
‥っって、見とれたらだめだっ!!

俺は、足を止め、ミハルさんを見る。
心の中が、震えてくる。
―どうして、ここに?
…怒りに来たの?
なにをするために来たの?

浮かんでは消えていく言葉に、俺は何も言うことができなかった。

俺、今、どんな表情をしている?
静けさが、怖さを引き出した。
ガタガタと震える体。

俺は、出口に向かって店を出ようとした。
「…逃げれませんよ、先輩」
―!!
気付かない間に、店の外に繋がるドアの前に後輩がいた。

「…久しぶりって言ったらいいのかな?」
―!!!
ミハルさんの、ミハルさんの声が聞こえる。
演じてきた役ではない、素のミハルさんの声…

俺は、喜んで涙を流したかった。
それほど、俺は嬉しかった。
…でも、できなかった。

靴の音がして、彼が近づいてくるのが、わかる。
「ねぇ、今日は君に話があるんだ」
ミハルさんのその声はどこか、言葉に棘があった。

―もう、呼んでは‥くれないんだ‥‥

俺は、浮かれていた気持ちを一気に急降下させていった。
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