39 / 81
39海外前夜の現実
しおりを挟む
―ハッと回想していて、顔は真っ赤だ。
そうだ、ミハルさんは、明日から海外だ。
一人でのんきにエロイことを考えているなんて…
なんだか…
「…要君、顔が真っ赤。
なに?
エッチなことでも考えてたの?」
「はい」って答えることを期待しているミハルさんの目。
―俺は、‥‥認めない。
…
「…ミハルさんのことを考えてたんです…」
―中途半端に答えてしまった。
だって、嘘もあまりつけないんだから…
とりあえず、バレずに済んだようだ。
「お土産を買ってこようかな?」
ミハルさんが嬉しそうに話すので、俺も顔が緩んでくる。
「…無事に、帰ってきてください」
チュッと唇にキスを落とす。
ミハルさんは、俺の顔を目に焼き付けるかのように、見つめる。
―カッコいいミハルさんに見つめられると、照れてしまう。
「…野菜の水は…今は、何も育ててないんだった」
クスリと笑ってしまう。
「水やりを任せてくださいって、言えませんね」
こんな何も楽しさの欠片も含まれていない会話でも俺は幸せを感じることができたんだ。
「…離れるの嫌だって思ったの、初めてだよ。
初めて、仕事に行きたくないって思った」
仕事人間のミハルさんにそんなことを言われると、俺は少しでも近くにいたいと思ってしまった。
勇気を出して、俺は、ミハルさんを押し倒す。
ドサッ
じっと見上げるミハルさん。
少し髪を長めにしているので、会った頃と雰囲気が変わってる。
でも、カッコイイ。
いつもは、俺がほとんど、見下ろされている。
「どうしたの?
僕、倒されたんだけど…」
嬉しそうなミハルさんが、俺の表情を見るかのように言ってくる。
俺は、顔が赤くなっているけれど、今日は頑張った。
「…少しでも、俺を忘れて欲しくなくって…」
全部言って、限界だった。
俺はミハルさんの腰の辺りに座ったまま、彼の肩に額を当てるように縮こまる。
「ふふふ、かぁわいっ!」
―女言葉のミハルさん…
顔を上げると、はにかんだ顔もなぜか、女の人のようになっている。
ズキッ
胸で痛みを感じた。
どうして?
どうして今?
こんな時に、誰かを演じれるだけの余裕がミハルさんにはあるってこと?
寂しいのは、俺だけ?
その瞬間、積もっていた物が零れていった。
「…やだっ!」
俺は、咄嗟にそう言っていた。
起き上がって、彼から離れる。
限界…だった。
込み上げてくる涙を止められなかった。
「どうして?
ミハルさん、俺をからかってるの?
俺、ずっとミハルさんの声を聴けてないっ!
もう、俺には聞かせれない?
良い声ばかりに反応する俺じゃ、やっぱりだめ?
めんどくさい?
誰かを演じれるのは知っているよ?
…でも、俺はミハルさんといるんだっ!」
― 言っちゃった…
たぶん、俺のことを思ってしてくれたんだろう。
いい声が好きだから、良い声だとミハルさんが思っているやつをしてくれているんだと思う。
でも、俺は声優の白鳥 三春と住んでいるんじゃない。
白鳥 ミハルと住んでいるんだ。
爆発してしまった感情を、落ち着かせるために、顔に自分の腕を当てる。
濡れるのも構わずに、堪えようとする。
―俺、こんなに泣き虫だったっけ…
小さく身体が震える。
人は、貪欲な時も、涙が出るんだと気づく。
わがままだと思う。
彼は俺を喜ばせようと声を作ってくれる。
でも、俺はそんなことを望んでいなくって…
人と恋愛などしたことがない俺はこれが、なんていう感情なのか、わからない。
でも、今、目の前のミハルさんは、俺が望んでも本当のミハルさんを見せてはくれない。
また、揶揄わるように違うミハルさんを演じるんだろう。
苦しい…
―やっぱり…
「汚らわしい」
母の声を思い出す。
!!!!!
ミハルさんが、起き上がり俺の様子を伺っている。
耳の辺りを俺は、手でふさぐ。
―そうか…俺…
息が浅くなる。
こんなにも、俺は弱くなってしまった。
「要くん?」
明日、ミハルさんは日本を離れるんだ。
こんなことをいうつもりじゃ、なかった。
俺、ミハルさんと繋がりたかった。
「要君!?」
俺を呼ぶ声がする。
どうすればいいのか、わからず…
俺は、急いで自分の財布とスマホを持ってマンションを飛び出してしまった。
「…要!」
閉じられたドアが開きそうなのを横目で確認して、俺は階段で降りた。
途中で、エレベーターのボタンを押して、妨害をする。
そうして、俺は、必死に駅の方に走って逃げたのだった。
慌てて出て、気付いた。
俺、行くところが‥ない。
でも、駅には探しにくるかもしれない。
俺は、電車にのり、会社の方に行った。
会社は、すぐに見つかる。
そう思いなおして、公園の近くを通っていた。
夜の公園は、以前、京助と寄ったときのように所々、灯りがついている。
ぼんやりと浮かぶ椅子には、人の影があった。
少し離れた場所に、空いている椅子があった。
俺は、少しでも頭の中を落ち着かせようと座って上を見る。
夜になると、寒さを感じ始めるこの時期。
時折吹く風が冷たく感じる。
家を出る時は、必死だったし、電車の中は寒さをあまり感じなかった。
でも、今は…
「…っさむっ!」
身体を擦って温かさを作ろうとするが、追い付かない。
行儀が悪いが、椅子の上に足を置き、抱きしめる。
PRRRRR
スマホが鳴り、画面に「ミハルさん」って出ている。
無視することはできない。
俺は躊躇いながら出る。
「…はい」
『今、どこ!』
ミハルさんの感情のままの素の声がする。
でも、会ったら…聞かせてくれないんだろうな…
『迎えにいくか「いりませんっ!」
それでも、電話を切ることができなかった。
『要君、家の鍵はある?』
落ち着かせるようなミハルさんの声…
「…はい」
『そう、よかった。
…風邪をひいちゃうよ?』
「…はい」
『……』
何も話さずに、ただお互いの存在だけを確かめるだけの通話。
―寂しい。
ただ、どうしたらいいのわからなかった。
俺は、一人、椅子の上で小さくなったまま、通話を続けながら‥‥
涙を流していた。
そうだ、ミハルさんは、明日から海外だ。
一人でのんきにエロイことを考えているなんて…
なんだか…
「…要君、顔が真っ赤。
なに?
エッチなことでも考えてたの?」
「はい」って答えることを期待しているミハルさんの目。
―俺は、‥‥認めない。
…
「…ミハルさんのことを考えてたんです…」
―中途半端に答えてしまった。
だって、嘘もあまりつけないんだから…
とりあえず、バレずに済んだようだ。
「お土産を買ってこようかな?」
ミハルさんが嬉しそうに話すので、俺も顔が緩んでくる。
「…無事に、帰ってきてください」
チュッと唇にキスを落とす。
ミハルさんは、俺の顔を目に焼き付けるかのように、見つめる。
―カッコいいミハルさんに見つめられると、照れてしまう。
「…野菜の水は…今は、何も育ててないんだった」
クスリと笑ってしまう。
「水やりを任せてくださいって、言えませんね」
こんな何も楽しさの欠片も含まれていない会話でも俺は幸せを感じることができたんだ。
「…離れるの嫌だって思ったの、初めてだよ。
初めて、仕事に行きたくないって思った」
仕事人間のミハルさんにそんなことを言われると、俺は少しでも近くにいたいと思ってしまった。
勇気を出して、俺は、ミハルさんを押し倒す。
ドサッ
じっと見上げるミハルさん。
少し髪を長めにしているので、会った頃と雰囲気が変わってる。
でも、カッコイイ。
いつもは、俺がほとんど、見下ろされている。
「どうしたの?
僕、倒されたんだけど…」
嬉しそうなミハルさんが、俺の表情を見るかのように言ってくる。
俺は、顔が赤くなっているけれど、今日は頑張った。
「…少しでも、俺を忘れて欲しくなくって…」
全部言って、限界だった。
俺はミハルさんの腰の辺りに座ったまま、彼の肩に額を当てるように縮こまる。
「ふふふ、かぁわいっ!」
―女言葉のミハルさん…
顔を上げると、はにかんだ顔もなぜか、女の人のようになっている。
ズキッ
胸で痛みを感じた。
どうして?
どうして今?
こんな時に、誰かを演じれるだけの余裕がミハルさんにはあるってこと?
寂しいのは、俺だけ?
その瞬間、積もっていた物が零れていった。
「…やだっ!」
俺は、咄嗟にそう言っていた。
起き上がって、彼から離れる。
限界…だった。
込み上げてくる涙を止められなかった。
「どうして?
ミハルさん、俺をからかってるの?
俺、ずっとミハルさんの声を聴けてないっ!
もう、俺には聞かせれない?
良い声ばかりに反応する俺じゃ、やっぱりだめ?
めんどくさい?
誰かを演じれるのは知っているよ?
…でも、俺はミハルさんといるんだっ!」
― 言っちゃった…
たぶん、俺のことを思ってしてくれたんだろう。
いい声が好きだから、良い声だとミハルさんが思っているやつをしてくれているんだと思う。
でも、俺は声優の白鳥 三春と住んでいるんじゃない。
白鳥 ミハルと住んでいるんだ。
爆発してしまった感情を、落ち着かせるために、顔に自分の腕を当てる。
濡れるのも構わずに、堪えようとする。
―俺、こんなに泣き虫だったっけ…
小さく身体が震える。
人は、貪欲な時も、涙が出るんだと気づく。
わがままだと思う。
彼は俺を喜ばせようと声を作ってくれる。
でも、俺はそんなことを望んでいなくって…
人と恋愛などしたことがない俺はこれが、なんていう感情なのか、わからない。
でも、今、目の前のミハルさんは、俺が望んでも本当のミハルさんを見せてはくれない。
また、揶揄わるように違うミハルさんを演じるんだろう。
苦しい…
―やっぱり…
「汚らわしい」
母の声を思い出す。
!!!!!
ミハルさんが、起き上がり俺の様子を伺っている。
耳の辺りを俺は、手でふさぐ。
―そうか…俺…
息が浅くなる。
こんなにも、俺は弱くなってしまった。
「要くん?」
明日、ミハルさんは日本を離れるんだ。
こんなことをいうつもりじゃ、なかった。
俺、ミハルさんと繋がりたかった。
「要君!?」
俺を呼ぶ声がする。
どうすればいいのか、わからず…
俺は、急いで自分の財布とスマホを持ってマンションを飛び出してしまった。
「…要!」
閉じられたドアが開きそうなのを横目で確認して、俺は階段で降りた。
途中で、エレベーターのボタンを押して、妨害をする。
そうして、俺は、必死に駅の方に走って逃げたのだった。
慌てて出て、気付いた。
俺、行くところが‥ない。
でも、駅には探しにくるかもしれない。
俺は、電車にのり、会社の方に行った。
会社は、すぐに見つかる。
そう思いなおして、公園の近くを通っていた。
夜の公園は、以前、京助と寄ったときのように所々、灯りがついている。
ぼんやりと浮かぶ椅子には、人の影があった。
少し離れた場所に、空いている椅子があった。
俺は、少しでも頭の中を落ち着かせようと座って上を見る。
夜になると、寒さを感じ始めるこの時期。
時折吹く風が冷たく感じる。
家を出る時は、必死だったし、電車の中は寒さをあまり感じなかった。
でも、今は…
「…っさむっ!」
身体を擦って温かさを作ろうとするが、追い付かない。
行儀が悪いが、椅子の上に足を置き、抱きしめる。
PRRRRR
スマホが鳴り、画面に「ミハルさん」って出ている。
無視することはできない。
俺は躊躇いながら出る。
「…はい」
『今、どこ!』
ミハルさんの感情のままの素の声がする。
でも、会ったら…聞かせてくれないんだろうな…
『迎えにいくか「いりませんっ!」
それでも、電話を切ることができなかった。
『要君、家の鍵はある?』
落ち着かせるようなミハルさんの声…
「…はい」
『そう、よかった。
…風邪をひいちゃうよ?』
「…はい」
『……』
何も話さずに、ただお互いの存在だけを確かめるだけの通話。
―寂しい。
ただ、どうしたらいいのわからなかった。
俺は、一人、椅子の上で小さくなったまま、通話を続けながら‥‥
涙を流していた。
0
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。

ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる