初めてできた恋人は、最高で最悪、そして魔女と呼ばれていました。

香野ジャスミン

文字の大きさ
上 下
34 / 81

34複雑な思いのまま

しおりを挟む
「‥‥あれ?」
俺は、鈍痛を伴う頭痛で目が覚めた。
目を開けると、見覚えのあるミハルさんの寝室だ。
身体を起こそうとすると、体中、痛さが走り、声を出してしまった。
「いっ!!」
―痛い…っ!
自分の状況を、鈍い動きの頭を動かしながら思い出す。

―!!
―あれ?
いつの間に、家に?

身体を見ると、たくさんの湿布やら、包帯やらで、自分で見ても痛そうだ。
腰と肩はズキズキとしていた痛みが、じわりじわりと広がるように痛さを鈍く感じさせる。
枕に頭を置き、冷静になると、病院に連れて行かれたのが、分かった。
―あの後、怒るばっかりしていた…・あま‥‥天井さんは、どうなったんだろう。

―!!
鍵を、この家に入れる鍵を取られたんだ。
俺、ミハルさんに伝えたような気もするが、あまり覚えていない。
どうしよう、悪用されたら…
飲み物に薬を入れる人だ。
家の鍵を使って、どんなことをするか、想像したら恐ろしい。
俺は、自分でも心がギザギザになるぐらい恐怖を感じ、急いでベッドから降りようとした。
―!!!???
ズキン
と走った痛みで、足に力が入らない。
ドン!
と、尻もちをついてしまった。

バンっ!
「要君っ!?」
ドアが思いっきり開けられ、ミハルさんが慌てた様子で、入ってくる。

オフスタイルの彼は、眼鏡をかけている。
キッチンに立っていたのか、黒のエプロンをきている。
腕まくりをしているその腕が、なんだか色っぽくて、目で追いかけてしまった。
そんな俺の様子を伺うようにミハルさんは、近くに来てくれる。
「きっ気付いた?」
一瞬、地声になり、その後、言い直して声を作った。
―…・何?
見上げて彼を見るが、特に変化はない。
―気のせい‥‥?
違和感は消えないが、追及するほどではなく、どう尋ねていいのか…・

―!!
それより、鍵っ!
「ミハルさんっ!あの、鍵を…っ!!」
チャラン
と、目の前に、見覚えのあるキーホルダー。
「要君が、あの時取られた物は、偽物。
 …ごめん。黙ったままで。
 何も伝えずに、ごめん」
ミハルさんは、頭を下げて謝罪の言葉を言う。
― へ?
「え?
 あ、いや。…うーん。
 とりあえず、気にしないでください。
 俺は、役に立ちましたか?」
俺は、少しでも、彼の気持ちが晴れればと、こう返した。

でも、それは、彼を怒らせてしまったのだ。
「‥‥役に立つ?」
声の雰囲気が変わって、ミハルさんの異変に俺は気が付いた。
―どうしよう…怒ってる…
「…僕は、君を使う気なんて、なかった!」
―!!
「ミハルさん、そんなつもりで言ったんじゃないです!」
慌てて俺は、言葉を足していく。
「事情があって、それは言えなかったんですよね?
 いつもなら、ミハルさんは教えてくれます。
 高木さんも、後輩も、それをわかってしてるんですよ?
 俺なら、許せるって‥‥っ!うわっ!?」
ギュッと抱きしめられて、思わず、頬が赤くなってしまう。
だって、だって。
ミハルさん、余裕がなさそうな表情なんだもの。
彼が抱きしめてくれている。
そのことが、嬉しくなる。
「目の前で、大切にするって言った恋人が傷つけられてるんだよ?
 言葉もだけど、暴力で。
 ‥‥僕は、あの後、後輩と高木を怒ったよ。
 すごく怒った。
 今も怒っているよっ!当たり前だ」
顔の距離が近い…
痛む身体なので、抱きしめられると‥‥
「…ミハルさん…ごめん。
 その気持ち、身体が治ってから受け止めるから…
 離して…・痛い…」
だからと言って、バッと離されると、身体が反応できません…
錆びついた機械となった俺の身体は、ギシギシと音を立てるように動かさないといけない。

軽々と、元のベッドにミハルさんの手によって運ばれた俺は、彼の手をそっと握る。
「…怒ってくれて、ありがとうございます」
少し、照れながら言ってしまった俺は、それでも、伝えたかった。

その後、事情を説明され、天井の今後を聞かされ、怪我の事を尋ねられ、意向を聞いて彼らに任せることにした。
教えてもらって気づくことはあった。
至る所にある監視カメラ。
飲み物も一か所にまとめておかれていた。
食べ物を置く場所にもあって、とても気を付けているんだなと思っていた。
それなら、参加したみんなは料理などを味わえることなんかできなかっただろうな。

それに、俺みたいな素人の作った物だ。
天井さんに言われたように、人前に出すものではない物ばかり。

無駄…になったのか…
俺は、空振りの行動を冷静にとらえていた。
胸の奥に、押されるように感じるこのもやもやはなんだ?

…大丈夫。
久しぶりに、自分の中で唱える言葉が浮き上がる。
ミハルさんと暮らし始めて、自分に言い聞かせることが少なくなった自分を守る言葉。

…大丈夫。
俺は、このことをずっと心のどこかに、引っかかっていたのだろう。
気付けば、料理の腕を上げることに、興味を持つようになっていった。
―ミハルさんが、困らないように‥
俺の作った物を見て、残念な気持ちを持たれないように…・
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

ガラス玉のように

イケのタコ
BL
クール美形×平凡 成績共に運動神経も平凡と、そつなくのびのびと暮らしていたスズ。そんな中突然、親の転勤が決まる。 親と一緒に外国に行くのか、それとも知人宅にで生活するのかを、どっちかを選択する事になったスズ。 とりあえず、お試しで一週間だけ知人宅にお邪魔する事になった。 圧倒されるような日本家屋に驚きつつ、なぜか知人宅には学校一番イケメンとらいわれる有名な三船がいた。 スズは三船とは会話をしたことがなく、気まずいながらも挨拶をする。しかし三船の方は傲慢な態度を取り印象は最悪。 ここで暮らして行けるのか。悩んでいると母の友人であり知人の、義宗に「三船は不器用だから長めに見てやって」と気長に判断してほしいと言われる。 三船に嫌われていては判断するもないと思うがとスズは思う。それでも優しい義宗が言った通りに気長がに気楽にしようと心がける。 しかし、スズが待ち受けているのは日常ではなく波乱。 三船との衝突。そして、この家の秘密と真実に立ち向かうことになるスズだった。

処理中です...