初めてできた恋人は、最高で最悪、そして魔女と呼ばれていました。

香野ジャスミン

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34複雑な思いのまま

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「‥‥あれ?」
俺は、鈍痛を伴う頭痛で目が覚めた。
目を開けると、見覚えのあるミハルさんの寝室だ。
身体を起こそうとすると、体中、痛さが走り、声を出してしまった。
「いっ!!」
―痛い…っ!
自分の状況を、鈍い動きの頭を動かしながら思い出す。

―!!
―あれ?
いつの間に、家に?

身体を見ると、たくさんの湿布やら、包帯やらで、自分で見ても痛そうだ。
腰と肩はズキズキとしていた痛みが、じわりじわりと広がるように痛さを鈍く感じさせる。
枕に頭を置き、冷静になると、病院に連れて行かれたのが、分かった。
―あの後、怒るばっかりしていた…・あま‥‥天井さんは、どうなったんだろう。

―!!
鍵を、この家に入れる鍵を取られたんだ。
俺、ミハルさんに伝えたような気もするが、あまり覚えていない。
どうしよう、悪用されたら…
飲み物に薬を入れる人だ。
家の鍵を使って、どんなことをするか、想像したら恐ろしい。
俺は、自分でも心がギザギザになるぐらい恐怖を感じ、急いでベッドから降りようとした。
―!!!???
ズキン
と走った痛みで、足に力が入らない。
ドン!
と、尻もちをついてしまった。

バンっ!
「要君っ!?」
ドアが思いっきり開けられ、ミハルさんが慌てた様子で、入ってくる。

オフスタイルの彼は、眼鏡をかけている。
キッチンに立っていたのか、黒のエプロンをきている。
腕まくりをしているその腕が、なんだか色っぽくて、目で追いかけてしまった。
そんな俺の様子を伺うようにミハルさんは、近くに来てくれる。
「きっ気付いた?」
一瞬、地声になり、その後、言い直して声を作った。
―…・何?
見上げて彼を見るが、特に変化はない。
―気のせい‥‥?
違和感は消えないが、追及するほどではなく、どう尋ねていいのか…・

―!!
それより、鍵っ!
「ミハルさんっ!あの、鍵を…っ!!」
チャラン
と、目の前に、見覚えのあるキーホルダー。
「要君が、あの時取られた物は、偽物。
 …ごめん。黙ったままで。
 何も伝えずに、ごめん」
ミハルさんは、頭を下げて謝罪の言葉を言う。
― へ?
「え?
 あ、いや。…うーん。
 とりあえず、気にしないでください。
 俺は、役に立ちましたか?」
俺は、少しでも、彼の気持ちが晴れればと、こう返した。

でも、それは、彼を怒らせてしまったのだ。
「‥‥役に立つ?」
声の雰囲気が変わって、ミハルさんの異変に俺は気が付いた。
―どうしよう…怒ってる…
「…僕は、君を使う気なんて、なかった!」
―!!
「ミハルさん、そんなつもりで言ったんじゃないです!」
慌てて俺は、言葉を足していく。
「事情があって、それは言えなかったんですよね?
 いつもなら、ミハルさんは教えてくれます。
 高木さんも、後輩も、それをわかってしてるんですよ?
 俺なら、許せるって‥‥っ!うわっ!?」
ギュッと抱きしめられて、思わず、頬が赤くなってしまう。
だって、だって。
ミハルさん、余裕がなさそうな表情なんだもの。
彼が抱きしめてくれている。
そのことが、嬉しくなる。
「目の前で、大切にするって言った恋人が傷つけられてるんだよ?
 言葉もだけど、暴力で。
 ‥‥僕は、あの後、後輩と高木を怒ったよ。
 すごく怒った。
 今も怒っているよっ!当たり前だ」
顔の距離が近い…
痛む身体なので、抱きしめられると‥‥
「…ミハルさん…ごめん。
 その気持ち、身体が治ってから受け止めるから…
 離して…・痛い…」
だからと言って、バッと離されると、身体が反応できません…
錆びついた機械となった俺の身体は、ギシギシと音を立てるように動かさないといけない。

軽々と、元のベッドにミハルさんの手によって運ばれた俺は、彼の手をそっと握る。
「…怒ってくれて、ありがとうございます」
少し、照れながら言ってしまった俺は、それでも、伝えたかった。

その後、事情を説明され、天井の今後を聞かされ、怪我の事を尋ねられ、意向を聞いて彼らに任せることにした。
教えてもらって気づくことはあった。
至る所にある監視カメラ。
飲み物も一か所にまとめておかれていた。
食べ物を置く場所にもあって、とても気を付けているんだなと思っていた。
それなら、参加したみんなは料理などを味わえることなんかできなかっただろうな。

それに、俺みたいな素人の作った物だ。
天井さんに言われたように、人前に出すものではない物ばかり。

無駄…になったのか…
俺は、空振りの行動を冷静にとらえていた。
胸の奥に、押されるように感じるこのもやもやはなんだ?

…大丈夫。
久しぶりに、自分の中で唱える言葉が浮き上がる。
ミハルさんと暮らし始めて、自分に言い聞かせることが少なくなった自分を守る言葉。

…大丈夫。
俺は、このことをずっと心のどこかに、引っかかっていたのだろう。
気付けば、料理の腕を上げることに、興味を持つようになっていった。
―ミハルさんが、困らないように‥
俺の作った物を見て、残念な気持ちを持たれないように…・
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