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32貪欲な野心2

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「ははっ、薬がすげー効いてんのに頑張るね。
 …でも、捕まえた」
―!!!
服の一部を後ろから掴まれ、容赦なく横に引っ張られる。
―!?
俺、完璧に横に飛ばされてるっ!?
視界に入った物は、横に景色が揺らぎ、床に打ち付けられるあと一瞬の、タイルと壁だった。
―ドスッ…ゴン!
と、おまけがついて頭を壁にぶつけてしまった。
「…ツぅぅ」
背中や尻、腰骨も打ったし、頭を打った時に肩も打った。
受け身ぐらい取れればかっこいいのだが、腕がプルプル、薬でふらふらには、無理だ。
起き上がることもできず、寝転んだ状態の俺。
激よわ。
でも、俺より、集まってくれている人たちがあの飲み物を飲んだらと、考えると動かなければならない。

足を踏ん張り、頭や腰が痛くてジンジンする。
気分は、戦っている勇者だ。
手には、何もないけれど、俺には、ミハルさんが大切にしているものをただ、守りたいと思う気持ちがあった。
「まだ、諦めてないのか…
 君が、悪いんだからね」
天井はそう言いながら、俺のズボンから鍵を取り出した。
チャリン
指でリングを通し、クルクルと回している。
「…俺が、もらってあげるよ」
そう言って、天井はパーティーの開かれているところに戻っていった。
―キーホルダーを取られた…
俺は、踏ん張った足から力を抜いてしまい床に座り込む。
―どうしよう…
俺の頭の中は、その言葉で一杯になってしまった。

「先輩っ!?
 !!!!
 どうしたんっすか?!」
後輩の声で、我に返った俺は、必死の形相で頼んだ。
「後輩、お願いだっ!
 会場の飲み物を全部、回収してくれっ!!
 薬が入れられているようだっ!」
事態の深刻さを察した後輩は、凄い勢いでガラガラと音を立てながらワゴンを押しながら走って会場に向かっていった。そして、客が手にしている飲み物もうまい理由をつけて全て回収することができたらしい。
「会場にあった飲み物を全部、捨てて欲しい」
俺の指示を聞いて動く後輩に気付き、女装モード高木が様子を見に来た。
流石に、異変を察したようである。
「…篠田君、どうしたの?」
俺の話をどこまで信用してもらえるかわからない。
でも、的確にわかってもらいたかった。
「…声優の業界で、飲み物を飲んだりしたら、眠気が強くなるって話を知りませんか?」
―!!??
後輩と、高木が心当たりがあるようで顔を見合わせる。
「…なんで、知ってるっすか?
 白鳥さんから聞いたんっすか?」
俺の口から、声優業界の話が出てくること自体、普通じゃない。
無関心に近い俺が、口にしているのだ。
俺は首を横に振り
「‥‥さっき、その入れたっという人が、色々と文句を言いながら俺のところにきました」
床から何とか、近くのソファにまで座ることができている俺を見下ろす形で、2人が立っている。
「…それは、誰だ」
高木さんの素の声がする。
俺は、天井の名前を出すか出さないか、迷った。
躊躇いながら、誤魔化すように
「…会場の中の人で、身体が怠そうとか、眠気が来てそうな人はいませんか?」
「‥‥様子を見てくるっ!」
高木の言葉に、俺は安心して、息を吐く。
肩がズキズキと痛む。
腰骨の辺りもたぶん、色が変わるんじゃないのか…

「…先輩っ?」
後輩の心配そうな声に気付き、彼を見る。
「…誰なんっすか?」
じっと、追及の目をする後輩。
―…耐える。
―…耐える。
「じゃ、白鳥さんを呼んでこよっと!」
―!?
後輩の切り札により、俺は思わず彼を睨みつける。
はぁ…
と、大きくため息をつかれて俺は、ビクッとしてしまった。
俺は、いつから後輩の前でもこんな風に?
先輩だろ?!
「…何を守りたいんっすか?」
話を聞いてやるぜって感じで後輩が、しゃがみこんで俺と視線を合わせて尋ねてきた。
俺はもちろん、迷うことなく
「白鳥さんの大切な物。
 今日って、仲間を集めてるんだよな?」
俺の問いに、頷き
「そうっすね。
 でも、一人、どうしても行きたいって言ってきた人がいたらしいっすよ」
俺は、その話を聞いて微かな予感をしてしまった。
「あぁ…でも、あんまりいい噂を聞かないんっすよね?
 一生懸命、マスコミが持ち上げてるみたいなんすけど」
間を置かれて
「天井 カスミ」
―!!
ギクッと身体を反応させてしまった。
俺ってバカバカっ!
ぎこちなく、視線を下に持っていく。
「…やっぱり…」
後輩がため息をつきながら、納得している部分もある。
「‥‥やはり、天井だそうです、白鳥さん!」
―!!!!!
白鳥さん?
ミハルさん?!
―っ!
思わず、顔を上げてミハルさんを探す。

怖い顔をしたミハルさんが、俺を見ている。
「‥‥まさか、要君が引っかかるとは思わなかった」
―?
俺は、後輩とミハルさんを見る。
いまいち、事情が分からない。
「‥‥最近、飲み物に薬を入れられてしまう出来事が声優業界で増えていたんです。
 それも、微妙な量。
 で、怪しい人物を今日は誘ってみたんですよ。
 ちなみに、飲み物は、先輩以外、飲んでいません。

 みんな、被害者なんですよ。
 同じ間違いは起こしたくないですからね。

 先輩の姿が見えなくなって焦りました」
「僕は、すぐに探し始めたんだよ?
 そしたら、天井がキッチンの方に行ったから…」
ミハルさんが、弁明のように言葉を足す。
「そしたら、先輩と天井の会話が聞こえたんっすよ」
―!!??
「話を聞いていたのか?」
‥‥まさか…
「僕は、天井が君のことをバカにしたような言い方をしていた時に、すぐに行こうとした。
 …でも、高木や後輩に止められて…」
―そんなに始めの方から聞いていたのか…
俺はじっと彼らの話を聞いていた。
役にはたったのかな…
肩の痛みも、腰の痛みも激しくなるばかり…
疲れやら、薬やら痛みやら…
料理のことは別として、災難だ…
「…ミハルさん、鍵を取られました…」
‥‥小さく呟くように話して、俺は、ミハルさんの声を聴いたことで、安心してしまった。
「ちょっとっ!要君っ?」
「先輩っ!?」
2人の慌てる声を遠くに聞きながら、俺は、意識を失うように寝てしまった。

‥‥ZZZZZzzz
「…寝てます」
「…証拠は撮れてんだよね?」
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